蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~ 作:naomi
「どう里奈ちゃん調子は」
「恵先輩。立場が反対になっちゃいましたね」
私は先の上陸作戦で意識を失った里奈ちゃんのお見舞いに来ていた。
「暉のヤツ…いっちゃいました」
「うん。聞いた」
「…こういう気持ちだったんですね恵先輩」
「多分そうだと思う」
「あのバカ…私を置いてかないでよ…」
腕で顔を隠す里奈ちゃん。私はそっと席を外した。
メディカルルームを出ると三人にばったりと会った。
「お帰りなさい。総士くん、真矢ちゃん、一騎くん」
「ただいま、戻りました」
「恵先輩。ただいま」
「ただいま。恵先輩」
「どこへ行くの」
「立上とある約束をしていたので、その報告へ向かいます」
「そっか、無事に皆…」
重い表情の三人。私はそれ以上触れなかった。
「ごめんね。邪魔して」
「邪魔なんてそんな」
「じゃ、私用事あるからまたね。真矢ちゃんまた落ち着ついたらあの子抱いて挙げてね」
「…はい」
その時の真矢ちゃんはいつもの笑顔もなくひたすら思い悩んでいるように見えた。
私はある人を探した。
(いた溝口さん…また後にしておこう)
自室に戻り少し経った時
「恵ちゃん。ちょっといいか」
わざわざ溝口さんが来てくれた。
「溝口さんすみません。わざわざ」
「ありがとうな恵ちゃん。気を利かせてくれて」
「私がお会いしに行ったの気づいてくれてたんですね」
「ちらっと顔が見えたからな、俺に用事か」
「そうですね…」
「俺のことなら気にしなくていい。気持ちの整理はついたみたいだな」
「まだ全てを受け止めれた訳ではありませんけどね」
「広登のところよりは、落ち着いて話せそうだな」
「…教えてください溝口さん。あの人の…亮介の歩みを」
溝口さんは丁寧に言葉を選びながら、この壮大な旅での亮介を語ってくれた。
「そんな少年と」
「あぁ、やたら気にかけていてな、なにか思うところがあったみたいだったな。結局はその子は守りきれなかった」
「そうなんですね…」
「その少年との出会いがきっかけで再び亮介がファフナーに乗る挑戦を決意したんだ」
「そしてようやく、乗れたんですね。ファフナーに」
「人類軍の余りモノだったがな…凄く嬉しそうだったよ」
「ですよね、私もようやく彼がファフナーに乗れたという事実が自分のことのように嬉しい」
「…その少年の死が一時亮介を苦しめたが、それまでファフナーでの実戦経験無い中で総討伐数は他のファフナーパイロットとそんなに差はないからな。凄い活躍だったよ、生存した避難民も亮介の活躍に感謝してたよ」
「そして最後まで生き残った」
「あぁ、だが最後の最後に俺達を庇って…クソ、俺はまた亮介に助けられちまった」
そう語る溝口さんの目は潤んでいた。
「…あれすみません。おかしいな…」
「おかしくなんてないさ、あいつは本当に幸せ者だな。こんなに自分のことを想ってくれるパートナーに巡り逢えて」
「溝口さん…」
「亮介に生かして貰ったこの命。必ず君ら親子を守る為に全力を捧げるよ」
「溝口さんは…いなくならないでくださいね」
「伊達に、日本自衛軍時代から生き延びてるからな、心配ないさ。でもありがとうな恵ちゃん」
そう言って部屋を出る溝口さんの背中は逞しかった。