蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第五十一話「運命の地」

「霧島先輩凄いですね、初陣以来大活躍じゃないですか」

 

「まあな」

 

「霧島先輩と戦うフェストゥムって急に動き鈍くなるときあるんですよね」

 

「そうか」

 

「第12キャンプまで到着してフェストゥム討伐数205体。出撃して平均30体は倒してますよ。これまでファフナーでの戦闘未経験でこのペースは凄いですよ」

 

「なにかコツとかありますか」

 

「ないよ、そんなもの」

 

「二人とも静かに座れ、それ以上に多くの人達が犠牲になっていることを忘れるな」

 

「すみません。総士先輩」

 

「最近あまりフェストゥムの襲撃なく順調だからな、浮かれるのも無理はない」

 

「美羽ちゃんやエスペラントのおかげです。彼女達の『対話』の力があるからこそです。その力が通じない敵がきたときに備えて、僕達は常に一定の緊張感を…」

 

賑やかな機内の中で俺達は次のキャンプ候補地へ向かっていた。

 

第13キャンプはフェストゥムも同化された生物もいない『フェストゥムが来る前の世界』が再現されたような、自然に囲まれた美しい場所だった。

 

この頃になると、俺達にペルセウス中隊と派遣部隊という隔たりは薄れ、『一つの部隊』としての意識が皆に芽生え始めていた。

 

「カズキさん味見お願いします」「あぁ、これは…もう少しこの調味料を…」

 

「マヤ、見てみてこれキレイでしょ」「綺麗だね。そうだ写真撮って挙げるよ」

 

「アキラ遊ぼ」「よし、何して遊ぼうか」

 

「ミナシロ、今後の展開について相談が」「いいだろう。あっちで聞こう」

 

「へぇーヒロトの住むお家お店なんだ」「そうだぜ、この旅が終わったら皆を招待してやるよ」

 

「ありがとうございます。Mr.ミゾグチ」「いいってことよ、他にも治して欲しいものあるやついるか」

 

「君も一緒に遊ぼミワ」「エメリーどうしよ」「折角だし遊んできなよ美羽」「うん」

 

(皆楽しそうだ。この一瞬が本当に過酷な旅の途中だってことを忘れているかのような笑顔だ。アトムも…よかった子ども達と遊んでいるな)

 

この微笑ましい光景をぼんやりと眺めていると、それに気がついたアトムに声をかけられた。

 

「なんか気持ち悪いぞあんた」

 

「ほっとけ」

 

「なんか…フェストゥムに追われているのが嘘みたいだな」

 

「そうだな」

 

「Dアイランドはいつもこんな感じなのか」

 

「フェストゥムが来ない時はいつもこんな感じで過ごしていたな」

 

「凄いな、こんな時代にこんな温かい暮らしが出来るDアイランドって」

 

「そうだな、竜宮島の外は例えフェストゥムがそこにいなくても、常に緊張感を持ってないといついなくなるかわからないもんな。そんな状況下で生き残るアトム達の方がもっと凄いと思うぞ」

 

「そうかな…」

 

「興味があるのか島に」

 

「いや、別に…」

 

「前々から考えていたんだが、アトム。君がよければ俺達の養子にならないか」

 

「養子…」

 

「血の繋がりはないが家族になるってことだ」

 

「なんだ突然」

 

「まぁ、俺の奥さん説得したり島の人達に掛け合ったりとやることは多いがな」

 

「あんた…結婚してるのか」

 

「そうだ。もうすぐ子どもも生まれる。だから養子になったらアトムはお兄ちゃんだ」

 

「家族…兄弟…」

 

「どうだ」

 

「…考えておく」

 

「そうか。…アトム呼ばれてるぞ」

 

「…ありがとう」

 

「なにか言ったか」

 

「なんも言ってねぇよ」

 

アトムはそう言いって遊び場に戻っていった。

 

 

その後も犠牲を出しながらも予定どうりのペースで進んでいき、あの日がやってきた。

 

「第19キャンプか敵が最後に襲って来る可能性がある地点についたな」

 

俺は一騎と総士と共に最後尾の部隊に周り、襲撃してくる可能性のあるアザゼル型に備えた。

 

「そうです。予定では先行隊は第23キャンプに着きダッカ基地に援軍を呼んでいるはずです」

 

「本当の敵が来るのか」

 

「襲うとしたらこのタイミングが一番高いでしょう」

 

「だから二人ともここにいるんだもんな」

 

「…敵フィールドの発生を確認。総員戦闘態勢」

 

分厚い黒雲に空が覆われている。雷の音が響く、不気味な光が地上に刺しヤツが現れた。

 

(あいつは、俺達が初めてファフナーに乗ったときの親玉か)

 

(そのようですね)

 

「霧島先輩は他のファフナー部隊と共に周囲の敵をお願いします。あのアザゼル型は僕と一騎がやります」

 

「わかった。気をつけてな」

 

空へ羽ばたく3機のファフナー。その内の2機は遥か上空へ向かう

 

(さぁこい、お前達の相手は俺達だ)

 

俺はひたすら空の敵を撃ち落とし続けた。

 

(これまでの敵より攻撃性の高い群だな)

 

(あちらも、それだけ本気ということでしょうね)

 

「キリシマ流石だな、君に近付くフェストゥムは一瞬怯むから隙を狙いやすい」

 

「ウォルターさん。どうですか地上部隊は」

 

「こちらは今のところ大丈夫だ、そのまま空の敵を引き付けてくれ」

 

「了解」(少年を探して下さい)

 

あいつの焦った声が引っかかる、そのあと少し痛みが走った。

 

(なんだ今の痛み。機体はどこもやられてないはずだが)

 

「おい、前方部隊がいるエリア、炎が激しく燃えてないか」

 

あるパイロットの通信に反応し目を向けると、先に進軍した仲間がいるはずの地点が燃えていた。

 

「ナレイン将軍からの緊急指令…ダッカ基地が『交戦規定a』を発令した可能性大、全軍直ちにキャンプ地を引き返せ…だと」

 

「『交戦規定a』って俺達は敵扱いを受けているってことですか」

 

「どうやらそうらしい…俺達は撤退してくる友軍の支援をするぞ」

 

(まさか…避難キャンプが燃えてる。アトム)

 

「おいキリシマ、何処へ行く」

 

俺は、ウォルターさんの呼びかけを無視して、燃え上がる場所へ向かった、

 

(なんてことを…このキャンプはアトムのキャンプじゃない…あれは)

 

人類軍の爆撃機の部隊と思われる戦闘機群が移動していた。

 

目指した先は…『そこ』だった。

 

機体の出力を最大にして『そこ』へ向かう。

 

「よせ。止めろーーー」

 

機体の腕を伸ばす。無情にも炎の雨が『そこ』へ降り注いだ。

 

次の瞬間。俺は激しい『痛み』と共に気を失い。墜落した…

 

「キリシマ。おい、しっかりしろキリシマ」

 

誰かの声に反応し目が覚めた。

 

「ウォルターさん。俺は…」

 

「突然墜落したんだ何があった」

 

「人類軍の爆撃機を目撃して追いかけて、そしたら急に痛みが…避難民キャンプが」

 

急ぎ走り目と鼻の先にある『そこ』へ向かう。

 

「よせ。キリシマ行くんじゃない」

 

…目の前には焼け野原となったキャンプ跡が残っていた。

 

俺は必死に『彼』を探す。

 

(おい、お前はわかってるんだろ。アトムはアトムはどこだ)

 

(…)

 

「答えろよ」

 

(彼は…そこにいます)

 

アイツが示した場所には何も残っていない。ゆっくりと歩く

 

ジャリ…

 

という音と共に少し痛みが走った。

 

視線を下に向ける…そこには緑の結晶がバラバラになって落ちていた。

 

すぐそばには小さな紐が落ちている…

 

「あっ…あぁぁ、ウワァー」

 

俺の叫びが夜空にこだました。

 

 

 


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