蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第四十九話「渇望」

「…ここは」

 

目が覚めると見覚えのある天上がそこにはあった。

 

「目が覚めましたか」

 

「オルガさん。ここは」

 

「派兵用超大型輸送機『凰』の中です。気を失ってるところを捜索隊の人達が見つけました」

 

「生き残れた…他の人達は」

 

「…残念ながら1人の少年を除いて全滅です」

 

「少年とは」

 

「霧島さんが連れ添っていた少年です。」

 

「よかった」

 

「皆さんに知らせてきますね」

 

オルガさんが席を立って俺は何かの糸が途切れたかもように眠りについた…

 

「おい、いつまで寝てるんだよ」

 

小生意気な声が聴こえる。目が覚めるとアトムがいた。

 

「無事でよかった」

 

「お陰様でな…ありがとう」

 

「おー亮介、目が覚めたか」

 

溝口さん達が様子を見に来た。

 

「溝口さん。ご心配おかけしました」

 

「本当だぜまったくよ、頼むからこれっきりにしてくれよ」

 

「はい」

 

「自分に課した最低限の任務は果たしたようだな」

 

「この子が無事でよかったです」

 

「僕悪い、このお兄ちゃんと大事な話があるんだあとで時間作るからさ席を外してくれないかい」

 

「そうか…わかった。また見舞いに来てやるよ」

 

「あぁ、待ってる」

 

「アトムくんだっけ、こっちにおいで」

 

オルガさんに引率され席を外すアトム。

 

「オルガさんから聞いたよ遠見ありがとう。見つけてくれて」

 

「いえ、霧島先輩ファフナーに乗れたんですか」

 

「…そうらしい」

 

その場に驚いた空気が流れる。

 

「本当か亮介」

 

「霧島先輩とアトムくん人類軍のファフナーの中で見つかったんです」

 

「そうか…よかったな」

 

「溝口さん…」

 

事情を知る溝口さんはまるで親のようにその事実を喜んでくれた。

 

「霧島先輩って適正が無かったんじゃないんですか」

 

「暉、その認識は間違っている。むしろ適正でいえばあの当時一騎の次にパイロットとして選ばれる可能性があったくらいだ」

 

「じゃあなんでパイロットにならなかったんですか」

 

「『ならなかった』じゃない『なれなかった』んだ」

 

「ファフナーの起動試験でその当時あったファフナー全てで起動試験をしたが、原因不明の強制起動プログラム解除で全ての機体に乗れなかったんだ」

 

「どういうことですか」

 

「『ファフナーが搭乗者を拒否』する反応をみせたんだ」

 

「搭乗者の拒否ってそんなことあるんですか」

 

「未だ原因不明だ、君達がパイロットになるまで定期的に霧島先輩は起動試験を実施したが、結果は変わらなかった。そして君達がパイロットに選抜された頃にパイロットになることを諦めたんだ」

 

「それが、今ファフナーに乗れたのはなんでですかね」

 

「それはわからない、ただ人類軍のファフナーは僕ら竜宮島のファフナーと違い万人向けに開発されていると聞く。一人一人に合わせる竜宮島のファフナーに乗れなくても、人類軍のファフナーのように適正さえあれば乗れるタイプのファフナーなら。竜宮島の子ども達は全員乗れる可能性はある」

 

「その発言は心外だなミナシロ」

 

気がつくとミツヒロ・バートランドが来ていた。

 

「おい、今はこちらの作戦会議中だ」

 

「キリシマが目が覚めたと聞いたからお見舞いに来たが、出直します」

 

「心外とはどういう意味だ」

 

「確かに人類軍のファフナーは貴方達のファフナーに比べたら、搭乗対象者は多くなる。しかしキリシマの乗った『ドミニオンズ・モデル』は人類軍の限られたパイロットに与えられる高性能機だ」

 

「そうなのか、そこまでの情報は得ていなかった。安易な発言をしてすまない」

 

「わかっていただければいいです。失礼しました」

 

ミツヒロは足早に立ち去った。

 

「さて話を戻すか、亮介なんでお前ファフナーの中で見つかったんだ」

 

「あのキャンプでフェストゥムの襲撃を受けて、移動手段であるバスを全て壊されました。俺は打開策を考えていた時にたまたま目の前に人類軍のファフナーがありました。それでかつて狩谷先生に言われたことを思い出しました」

 

「狩谷って…あの狩谷か」

 

「はい、『島の外ならファフナーに乗れるわ』とちょうど溝口さんに竜宮島防衛部隊に誘って頂いた時です」

 

「そうか、そんなこと言われてたのか」

 

「それであの少年を連れていたこともあり一か八かで乗りましたそれで…」

 

 

 

「生きて帰るんだ、俺は…俺達はーーー」

 

迫るフェストゥムに銃撃を向けた。機体は右へ回避行動を取りながら集中砲火をする。

 

(ファフナーが動いた…ようやく動かせた。やれる…やれるぞ)

 

敵が消滅し初めてファフナーでフェストゥムを討伐した。陸戦型のその機体で縦横無尽に戦場を駆ける。

 

(ついに、ついにファフナーに乗れたぞ恵)

 

地上に降り立つ敵を追い払った後、俺はソイツと対面した。

 

(こいつが例のアザゼル型…シミュレーションとたった数分の今の初実戦の経験だけで、やれるのか…)

 

銃口を向けた途端…

 

「全身同化現象にあっただ」

 

「はい…。気がついたらここにいました」

 

「でも同化されずに生き残った…謎ですね」

 

「俺の記憶はそこまでしたないんです」

 

「そうか、いろいろ腑に落ちない点はあるが大体わかった。今日はそこで休んでろ」

 

「ありがとうございます」

 

「あとあの少年だが、将軍にお願いして俺達のいる地点から一番近い避難民キャンプに移してもらった。だからお前はここに戻すぞ、いいな」

 

「わかりました。配慮してくださりありがとうございます。溝口さん」

 

「おう、じゃゆっくり休め」

 

皆席を外した。

 

(…お前がやったのか)

 

(…そうです。あのまま戦えば貴方が死ぬと思いあえて『我々の同化』で同化されたように偽装しました。案の定攻撃されること無く一命を取り留めました)

 

(ありがとう。…なぁなんでファフナーに乗れたと思う)

 

(わかりませんが少くともこれまで乗ったファフナーと違いあのファフナーから『抵抗』を感じませんでした。)

 

(抵抗…)

 

(今まで乗ろうとしたファフナーは我々と一つになることに『抵抗』してきました。しかしあの時のファフナーは『抵抗』がさほど激しくなくあのファフナーが『我々』として存在することを『肯定』したと感じました)

 

(初めてファフナーと一体化したと)

 

(そう感じます)

 

(そうか…今回は助かった。ありがとうな)

 

(はい…)

 

もう一度乗れる日は来るのだろうかと考えていた。その日は意外に早く訪れた。

 

それは初めてファフナーに乗った日から5日経ったときだ

 

「応援要請だ」

 

「はい。フェストゥムの襲来が予想より激しくこのままでは、防衛ラインを突破されてしまうと」

 

「こっちの主力がそこにいるだろう。」

 

「でもここが突破されてはこちらに一直線です」

 

「俺が行く」

 

「ダメだ一騎、前回の戦闘で随分無茶をした。休息に勤めろ」

 

「このままじゃ皆全滅だ」

 

「僕が行きましょう。状況を一変させるならザインよりニヒトの方が早く済むでしょう」

 

「そうするしかないな」

 

「溝口さん。ナレイン将軍にファフナーを一機借りれませんか」

 

「…まさか亮介お前」

 

「俺が行きます。行かせて下さい」

 

「そりゃ、二人を温存出来るに越したことはないが」

 

「いいのですか霧島先輩」

 

「なんだ総士」

 

「お気持ちはありがたいですが、僕らの年齢でファフナーに乗り始めることは寿命を一気に減らす自殺行為に等しい行いです。ここまで乗らずにこれたのですから、このまま家族3人でこれからも長く生き続けるという選択肢もあります」

 

「確かにな。でもここで全滅したらその未来は永遠に来なくなる」

 

「…」

 

「やれることがあるのにやらずに終わるのは嫌なんだ」

 

「霧島先輩…」

 

「行かせてくれ総士。ようやく『パイロット』として皆の…島の役に立てるんだ」

 

「わかりました。では霧島先輩よろしくお願いします」

 

「あぁ、任せろ」

 

「亮介。無理はするなよ」

 

「溝口さん。わかりました」

 

「霧島先輩」

 

「一騎。本当に必要なときまで無闇に出撃しようとするな、俺達他のパイロットに任せろ」

 

「遠見達をお願いします」

 

「亮介、将軍から許可が出た。ポイントF-8地点で引き渡すそうだ。行ってこい」

 

「はい。行ってきます」

 

移動する車の中、大下先輩が運転手をかって出てくれた。

 

「良かったな、ファフナー乗れて」

 

「ようやく叶いました。長年の想いが」

 

「…頼んだぞ」

 

「はい」

 

ポイントの地点で人類軍のファフナー『ドミニオンズ・モデル【ガブリエル】』を引き取り俺は急ぎ前線へ向かった。

 

 

「数が多い、マズイです遠見先輩このままじゃ防衛戦が突破されます」

 

(地上部隊は持ちこたえているけど、空戦部隊が圧倒的に数で圧されている。あと一手あれば…)

 

「なんか、すごいスピードで一機人類軍のファフナーが接近して来てますよ、敵を薙ぎ払いながら」

 

「あの動き本当に人類軍のパイロットか、なんかファフナーと一体化してる感じが竜宮島のファフナーと似てるんだけど」

 

「あっ、あの機体マークジーベンに近づいて」

 

(有線通信…)

 

「誰…ですか」

 

「遠見。こちら霧島状況は」

 

「霧島先輩…どうしてまたファフナーに」

 

「俺にもやれる選択肢が増えた。なら俺は一番皆の助けになることがしたいそう思うから。また乗ったしこれからも乗り続ける」

 

「…わかました。状況は…」

 

「了解した。遠見は空戦部隊を立て直してくれ、その時間稼ぎは俺がやる」

 

空を切り裂くように飛ぶ亮介のガブリエル。

 

「遠見先輩誰だったんですか」

 

「霧島先輩だった」

 

「霧島先輩って実戦これが2回目ですよね。すげー歴戦の猛者みたいな戦い方じゃん」

 

「なんか嬉しそうですね機体の動きが」

 

「嬉しいんだと思うよ。皆に先越されて、色々な理不尽な目にあってきてたし、ファフナーにようやく乗れた時の気持ち。私もわかるな…私も皆より遅かったから」

 

「遠見先輩…」

 

(恐らく皆城君も…)

 

 

 

(凄いな、お前の力を引き出しても全然苦しくない)

 

(そうですか。それは良かった)

 

(お前の力で敵の動きを鈍らせて倒していくぞ。力を貸してくれ)

 

(わかりました)

 

亮介の乗るガブリエルが空の敵を混乱に陥れ、その隙に敵の親玉と思われるフェストゥムを別のファフナーが撃ち取った。

 

混乱したフェストゥムの群れがエスペラントの対話に答え撤退し窮地を脱したペルセウス中隊と派遣部隊。

 

フェストゥム25体討伐にフェストゥム撤退の要因となる働き。

 

亮介のファフナーでの初陣は、その場にいた多くの人々の記憶に残った。

 


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