蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第四十七話「訪れたそのとき」

「このままでは、部隊との距離が離されて予定日がずれてしまう」

 

その日、俺のいた後方部隊は悪天候が影響し予定ポイントから大幅に遅れた地点で足止めをくらっていた。

 

「通信もこの天気のせいで繋がらない。下手したら将軍達の部隊が俺達の位置を見失っている可能性もあるぞ」

 

「どうする追いつくため動くか」

 

「こんな暗闇の中では危険だ、将軍からも日が暮れた場合はその地点から無理に動かないようにと指示があったろ」

 

「でもよ、離されたらそれこそ追いつくのが難しくなるぜ」

 

兵士達はこの状況に決めあぐねていた。

 

「Mr.キリシマ。どう思う」

 

「俺は下手に動かないほうがいいと思うぞ、天候が回復して通信が出来るようになるまで待機でいいんじゃないか。それにここは暗闇の中動くのは危なそうだ」

 

「なるほどな…Mr.キリシマ何処へ」

 

「避難民の皆の様子を見てくるよ」

 

俺はその部隊の中心キャンプから避難民のキャンプへ移動した。

 

「…軍人がこんなところでサボっていいのか」

 

様子を見て回っているとアトムに話しかけられた。

 

「避難民のメンタルケアも大事な任務さ」

 

「あっそ」

 

心なしか最近のアトムは徐々に明るくなっている気がした。数日前には同じ年頃の子達と打ち解けようと輪に入ろうとする姿を見た。

 

「なあこの天気おかしくないか」

 

「ただの雨雲ではなさそうだよな」

 

「来るのかフェストゥム」

 

「わからないが可能性はありそうだ」

 

「動かないのか」

 

「この山岳地でこの暗闇では下手に動いた方が危ない」

 

「そうか…なんだそれ」

 

不安そうな表情のアトムに俺はあるネックレスを渡した。

 

「あー、そのー御守りだ。島のごく一部の人しか知らない」

 

「…本当にか」

 

「本当さ」(ある意味ごく一部しか知らないし)

 

 

それはアトムとバスで話したその夜だった。

 

(心配で眠れませんか)

 

(あの少年の心の闇は深そうだからな)

 

(なぜ、あの少年にそこまで気をかけるのですか)

 

(親のいない寂しさを少しわかって挙げられるからかな)

 

(…)

 

(まあ、恵やおじさんとおばさんが居た分俺はマシなほうだけど、なんか放っとけないんだよな)

 

(力を貸しましょう)

 

(それはどうゆう…痛い)

 

俺の手の中に緑の結晶が出来ていた。

 

(これは私の一部、あの少年に持たせなさい。身体を共有する貴方が私の一部を通して少年の危機を感じ取れるようになるでしょう)

 

(いいのか…。ありがとう)

 

(今日は色々ありました。身体を休めなさい)

 

(そうだな…)

 

 

「これを首に掛けとけアトム。きっとこの御守りが護ってくれる。俺もきっと駆けつける」

 

「そうか…ありがとう」

 

「来ないに越したことはないけどな」

 

「…信じてる」

 

「なにか言ったか」

 

「別に、こんな所で油売ってないで仕事しろよ」

 

「ったく、相変わらず可愛いくない口のききかただな」

 

しかし、敵はやはりこの状況を好機と捉えていた。

 

 

あなたはそこにいますか

 

 

「ファフナー部隊スクランブルだ、その他は避難民をバスへ誘導し揃い次第前に進め」

 

「前ってどこにだ」

 

「事前に共有した地図を頼りに次のキャンプ地を目指せ」

 

銃撃の飛び交う空、燃え上がる木々、捲れる大地、各々不安を抱き無事を祈りながら前だけを見て進んだ。

 

俺の無線にはやられていく兵士の声が絶え間なく聞こえてきた。

 

(どうやら親玉は例のミールと等しい存在のようです)

 

(アザゼル型か)

 

(前に襲撃してきた存在よりも遥かに強い力を持っています)

 

すると、少し離れたところで命の鼓動を感じた。

 

(なんだ今の感じ…まさか)

 

アトムの乗ったバスは横転し今にもフェストゥムに襲撃されそうであった。

 

(助けて。Dアイランドの兄ちゃん)

 

一瞬、周囲のフェストゥムの動きが止まった。

 

「全員、バスを降りろ急げ」

 

俺は力を振り絞り、避難誘導を試みる。

 

「無事かアトム」

 

「なんで、あんた違うバスの担当だろ」

 

「…俺の担当したバスは動けなくなった、生き残った人達が全力で走って逃げてる。お前も行くぞ…危ない」

 

フェストゥムの攻撃でアトムの乗っていたバスは炎上した。

 

アトムと共にひたすら走る、だが近くでの戦闘で発生したワームスフィアの衝撃波で俺達の身体は宙に舞い地面に叩きつけられた。

 

「ぐはぁ、…アトム大丈夫か」

 

返事が無い。俺はアトムを背に抱え満身創痍の身体に鞭を打つ。

 

「このままじゃ死ぬ…そんなのはダメだ。恵とあの子が俺の帰りを待っている。俺は島に…竜宮島に帰るんだ」

 

再び戦闘の衝撃波で身体が飛ばされる。俺はアトムが地面に叩きつけられないよう抱き抱えた。

 

(…ここまでなのか)

 

霞む視界。よく見るとファフナーが倒れていた。

 

(人類軍のファフナー…ハッ)

 

 

(ファフナーに乗れるようになるわ)

 

 

再び思い出すかつて言われた言葉…迷っている場合では無かった。

 

(人類軍のファフナーなら、もしかしたら)

 

ボロボロの身体を奮い起たせファフナーに近づく。

 

(コックピットの中に結晶…パイロットは同化されたのか、外部の損傷は見たところ酷くは無かった。もしかしたら)

 

椅子に腰かけ、アトムの身体を抱える

 

「頼む。起動してくれ」

 

ファフナーのモニターが起動する。

 

(よし、ここまでは起動試験の時も出来たんだ。問題はここからだ…マズイ)

 

フェストゥムの一体がこちらの異変に気づいたのか接近してくる。

 

 

「生きて帰るんだ。俺は…俺達はーーー」

 

 




(えっ、あのキャンプに霧島先輩がいるんですか)

(あぁ、そこに気にかけてる少年がいてその子の傍にいたいからってここを離れてたんだ、頼むお嬢ちゃん捜索隊に加わって亮介を探して来てくれ。…最悪あいつの一部でもいいからよ)

(溝口さん。そんな不謹慎なこと言わないでください)

(もしもの時だ。俺だって亮介の生存を信じてる。ただ万が一最悪の事態になった時、何もあいつに関わる物が無かったら、恵ちゃんに会わせる顔が無いんだ…)

「真矢、聞こえてる真矢。これより捜索にはいるわよ」

「アイ。ごめんね、考え事してた。マークジーベン了解」

見渡す限り焼け原…生き物の気配すらしなかった。

(霧島先輩…恵さんとお子さんが竜宮島で待ってるんですよ。ダメですよこんなところで…霧島先輩…)

「あのファフナーからバイタル反応があるわ」

アイの無線で真矢の思考は現実の戻された。

真矢とアイはファフナーを降り、バイタル反応があった大破したファフナーに近づく。

恐る恐るコックピットを開ける。

「えっ…」

「ウソ…彼はファフナーに乗れないんじゃなかったの」

そこには運命に抗い続ける戦士とその戦士が守ると誓った少年が横たわっていた。

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