蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第四十五話「相手を知ること」

「全部隊第5キャンプへの到着を確認しました」

 

「ふぅ、今回は襲撃は無さそうだな。どうだ皆の様子は」

 

「各々が大分精神的にダメージを喰らっていますね。特に深刻なのは暉です。目の前で助けられなかったことが、尾を引いているようです」

 

「まぁ…そうなるよな」

 

「新たなアザゼル型…非常に厄介な敵です」

 

「人間の精神的な脆さを徹底的に突いてくるからな、なんとかして対策を練らねーとペルセウス中隊や避難民だけじゃなく。俺達のメンバーからもリタイアするヤツが出てきちまう」

 

「えぇ、なんとかしないといけません。そういえば少し前から霧島先輩の姿を見ませんが」

 

「あぁ、亮介なら…」

 

 

「すまない。キリシマ見張り役をかって出てくれてありがとう」

 

俺はフェストゥムの襲撃が起きてから自ら志願し派遣部隊の隊列を離れ、後方の避難民の警護部隊に加わっていた。

 

「えっと、ミツヒロだったか。気にするなゆっくり休んどけ。次の移動は4時間後だったか」

 

「そうだ、それまでには戻る」

 

「あまり無理するなよ」

 

「ありがとう。ビリーお前も休め」

 

ファフナーパイロットの負担を少しでも減らす…それが今の俺に出来る精一杯のことだと自分に言い聞かせた。

 

「なあ軍人さん。移動するのに時間がかかるなら一時的にバスの外に出てはダメか」

 

避難民の要望にダメだとは言えなかった。長時間の乗り物移動で何十時間も拘束され避難民達の乗るバスには尋常ではない重苦しい空気が蔓延していた。

 

「それはダメだ」

 

話を聞いていた人類軍の兵士が語尾をキツく制止しようとする。

 

「たまには外の空気を吸わせてくれ」

 

「いつ敵が来てもすぐに避難出来るように万全の態勢にする必要がある。すまないが安全が確保されたエリアに到着するまで我慢してくれ」

 

「どんだけこの狭い箱に居ればいいんだよ」

 

避難民の人々の鬱憤は暴発寸前であった。

 

「なああんた、5分だけでも外に出してあげられないか」

 

「そんなことをしてもし避難民に何かあったらお前責任取れるのか」

 

「それは…」

 

「余所者が口出しするんじゃない」

 

「余所者って今は同じ苦難の道を乗り越える仲間だろ」

 

「自分達だけ浮かれ遊び呆けてた連中が仲間だ、ふざけるなお前達がお気楽してた間俺達がどれだけ苦しんだことか」

 

…思わず感情が高まってしまった。その兵士の胸ぐらを掴む

 

「言いたい放題言ってくれやがって、お前人類軍が俺達が苦しんでる時に何をした。お前達の一方的な理由で俺達の親は故郷を失った。ノートゥング・モデルを奪うために俺達の島を占領して荒らし、フェストゥムと和解をしようとしたら一方的に核攻撃までしたんだぞ」

 

「…」

 

「挙げ句の果てに俺達が築いた平和をお前達の信じる希望の可能性の為に壊されてるんだ。それをわかってて言ってるんだよな」

 

相手の兵士は萎縮していた。

 

「落ち着けキリシマ」

 

異変に気づいたミツヒロ達が仲裁に入る。

 

「…ごめん」

 

お陰で冷静さを取り戻す、皆の視線が痛かった。

 

「10分間、避難民の人々の外出許可が将軍より出た。各隊員は避難民のバスの半径5㎞を円形に陣を敷き防衛せよとのことだ」

 

喜びを爆発させ避難民の人々がバスから出てきた。

 

「ごめんなミツヒロ」

 

「キリシマ。疲れが溜まってたんだなきっと休んでくれ」

 

「でもお前達のほうが…」

 

「大丈夫だ。さあ」

 

情けない。彼等の助けをしに来たはずなのに、結局彼等に負担をかけてしまった。

 

「あと、人類軍にも色々な思想がある。さっきのヤツは我々がDアイランドにしてきた所業を知らなかったんだ。許してやってくれ」

 

「俺も感情的になって言い過ぎたごめん」

 

軽く会釈して、ミツヒロはその場を去った。

 

俺はバスの座席で休んでいると見覚えのある少年を見つけた。

 

「外でリフレッシュしないのか、アトム」

 

窓の外を眺めながら黄昏る少年に声をかけた。

 

「人が居なくなって逆に居心地が良くなったからいい」

 

「そうか」

 

「あんた達も色々苦労してんだな」

 

「まあな、でも初めて外の世界を見て俺達の島が恵まれていることを身に染みて体感した」

 

「なあ、あんたはフェストゥムが憎いか」

 

「…わからない。フェストゥムが原因で沢山の大切なモノを失くしているはずだが、憎いとは思わない」

 

「人類軍は、さっきすごい不満が出てたけど」

 

「許せないとは思う。けど憎いとまでは思わない…かな」

 

「なんで、そんなに冷静でいられるんだ」

 

「…なんでだろうな、アトムにとっては憎いかフェストゥムも人類軍も」

 

「俺も…よくわからないんだ、フェストゥムがいなければ父さんも母さんも死ぬことは無かったと思うけど、別にフェストゥムに対して憎いとは思わない。人類軍も信じられなくなったけど、ここの人達みたいに俺が憧れた人類軍を体現した人達もいる。だからよくわからないんだ」

 

「俺も手伝ってやるよ、一緒に探そう。この複雑な感情の答えを」

 

自分の成すべきことを探す青年と自分がどうしたいのか見えなくなった少年は互いの答えを導くために手を取り合った。

 

 


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