蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第三十六話 「船出のとき」

「いよいよだね」

 

正式に派遣部隊の一員として登録され出発の準備をする亮介の背中を見ながら、私は語りかけた。

 

「あぁ。君とこの子が明るく幸せに過ごせる世界を必ず掴みとってくる」

 

「すみません誰かいませんか」

 

「お客さんか」

 

「そうみたいね」

 

店に戻ると赤髪の少女がやって来ていた。

 

「カノンじゃない。いらっしゃい」

 

「どうも、こんにちわ」

 

カノンが挨拶すると背負っていた我が子は嬉しそうにはしゃいだ

 

「どうしたのお墓参りの日だっけ」

 

「いや、霧島亮介と話しがしたくて」

 

「ちょっと待ってて、亮介ー」

 

「おう。カノンかどうしたんだ珍しい」

 

「派遣部隊に参加するんだってな」

 

「あぁ、止めに来たのか」

 

「当たり前だ、お前には恵と産まれたばかりのこの子がいるじゃないか…って言ってももう遅いか」

 

「カノン…」

 

「ならば必ず生きて帰ってこい。皆と一緒に」

 

「変わったな、お前」

 

「なっなんだ突然」

 

「島に来た時はぶっきらぼうで表情固くて一匹狼みたいな感じだったのに」

 

「なっバカにしているのか」

 

「いや、凄いなって。人間ってここまで変われるんだなって思った」

 

褒められて頬を赤くするところは相変わらずのようだった。

 

「私が今の私になれたのはこの島のおかげだ。この島には凄く感謝している」

 

「一騎にもな」

 

「何故そこに一騎が出てくる」

 

「お前の自殺を止めたの一騎なんだろ」

 

「それは、そうだが…」

 

からかわれているカノンをみて思わず笑ってしまった。

 

「恵、お前まで私を」

 

「ごめんごめん。なんか可愛くって、ねー」

 

我が子を抱くカノン

 

「赤子を使うなんて、反則だ」

 

「でもカノンの印象が大きく変わったのはあの頃の貴女を知る人達は皆同じことを思ってる。きっと」

 

「…そうか、言いたいことはそれだけだじゃあな」

 

店を出ようとするカノンがラベンダーの花を見て止まる。

 

「店に来て何も買わずに出るのも失礼だな。これを貰いたい」

 

「カノン…ありがとう。そういうところは変わらないね」

 

「!?。またな」

 

頬赤くし立ち去る彼女を二人で見送った。

 

「ラベンダーか…」

 

「どうした」

 

「人ってね、その時の感情や気持ちによって魅力を感じる花が変わるってお母さんが言ってたの。思い出して」

 

「そうなのか。確かラベンダーの花言葉は不実…」

 

「多分もう一つの意味だと思うなー」

 

「もう一つ…」

 

「期待」

 

「期待か…」

 

「本音を花に託す不器用さがカノンらしいなって。カノンの想いを裏切らないようにしっかりと勤めあげないとね」

 

「そうだな」

 

沈む夕陽を背に口づけを交わす二人。翌日亮介は派遣部隊と共に妻子に見送られながらまだ見ぬ世界へ旅立った。


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