蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第三十五話 「家族会議」

「なに考えてんだ亮介。恵とこの子を誰が面倒見るっていうんだよ」

 

佐喜さんの怒号が響く堂馬食堂。俺が派遣部隊に参加したい意思を表明したところ、俺達家族を堂馬食堂に呼び出し急遽堂馬食堂を貸し切って家族会議が行われていた。

 

「佐喜ちゃんもう少し静かに、赤ちゃんが驚いたちゃう」

 

「舞はこの子を裏であやしててくれよ」

 

「亮介。わざわざ君が行く必要はない。君の今の役目は恵ちゃんと君達の子どもを護ることだ」

 

陣内さんも自分の感情を抑えながら淡々とした口調で俺を制止した。

 

「身勝手なのはわかってます。子どもにとって親がいない寂しさもここにいる人達の中では一番理解しているつもりです」

 

「だったら…」

 

「ただ、子どもが成長し大きくなって色々なことに興味を持った時に、興味があることを教えて挙げられないのは嫌なんです。俺達夫婦は外の世界のことお話しを聞いただけで実際に見たり感じたりしたことはないですから。それに教える世界の現状が絶望的なのも嫌なんです。子どもには多くの夢や希望も持って欲しい」

 

「今の世界は少し前に比べたら随分マシになったんだ」

 

「それもわかってます。俺が教えて挙げたいのは竜宮島だけではなくて世界が平和になった姿なんですよお二人とも」

 

「…」

 

「その可能性が今示されて手伝えるというのなら、俺は力になりたいそう思っています」

 

俺が力説していると店の扉が開いた。

 

「じゃまするぞ」

 

「おやっさんどうしたんですか」

 

「客を連れてきた」

 

後から二人の男女が入ってきた。

 

「私はナレイン・ワイズマン・ボース。人類軍南アジア艦隊所属ペルセウス中隊大将だ。先の君達の働きには大変感謝している。ありがとう、この子の護衛を兼ねてお邪魔させてもらった」

 

「エメリー・アーモンドです。霧島亮介という方はどなたですか」

 

「自分ですが、なにか」

 

「…」

 

エメリーと名乗った少女はじっとこちらを見続けた。

 

「貴方達のコアからの伝言です。貴方が信じる道を進みなさいと」

 

「島のコアが目覚めたんですかおやっさん」

 

「いや、まだ眠ってるよ」

 

「エメリーはエスペラントで、先程この島のコアと接触していてね。その時に伝言を預かったそうだ」

 

「つまり、お前の道はお前が決めろというのが島のお告げだ亮介」

 

「俺は…俺は派遣部隊に志願したい。この世界を一度自分の目で見て肌で感じたい」

 

「亮介あんた…恵も言いたいことはないの」

 

「私は正直、亮介が側にいて欲しい」

 

「だってさ亮介」

 

「でも、これまで色々とやりたいことをやれなかった亮介には。やりたいことをやって欲しい」

 

「恵…」

 

「2年前に島が襲われた時、相手の都合でやりたいことを出来なかった。適正はあるのに今だに原因不明のイレギュラーで乗れないファフナー。この世界の現状もあの日が来るまで知ることが出来なかった。同級生の親友達が島の為に命懸けで戦った『L計画』ですら、私達は知らずしばらく過ごしてきた」

 

「…」

 

「そんな自分の置かれた環境の理不尽な理由でこれまで何度もやりたいことを諦めてきた亮介に、そんなチャンスがあるのなら。私は背中を押したい」

 

「恵…ありがとう」

 

「うん。だから亮介必ず帰って来て。帰ってきてあの子に見せてあげて。貴方が携わったことで来るであろう世界の未来を」

 

「わかった。約束だ」

 

「このお気楽夫婦が現実はそう甘くはないんだよ」

 

俺達の眼差しに佐喜さんは溜め息をついた。

 

「しょうがない亮介。恵とお前達の子どもは私が責任持って面倒見るから行ってこい」

 

「佐喜さん…」

 

「俺も見るぞ」

 

「陣内さん…」

 

「決まりだな」

 

「はい」

 

こうして俺は派遣部隊に志願した。まだ見ぬ世界に希望があると信じて俺は自分の信じた道を進んだ。

 


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