蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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蒼穹のファフナー EXODUS
第三十三話 「掴み取った平和」


「いらっしゃい。あっ亮介君今日も来てくれたのね」

 

第2次蒼穹作戦作戦から約2年が経った。竜宮島はあれから敵に襲われることなく平和な日々を謳歌していた。

 

「舞さんこんにちは、空いてます。」

 

「うん。こことっておいたわ」

 

「いつもすみません。すぐに揃うと思いますんで」

 

俺が席に座ってまもなくして、生まれたばかりの赤子を連れた女性が入店した。

 

「遅くなってごめんね。この子ぐずっちゃって」

 

「俺も今着いたところ」

 

「いらっしゃい恵ちゃん。きゃあー連れてきてくれたの」

 

「はい。この子一人には出来ないので」

 

「夫婦揃ってこればいいのに」

 

「それが、この時間はあの一団の…」

 

扉が空くとむさ苦しい集団が店に入ってきた。

 

「舞。席空いてる」

 

「佐喜ちゃん空いてるよどうぞ」(そういうことか)

 

(席なくなっちゃうんですよ、あの人達来ると)

 

「おっ。誰かと思えば育休男子霧島亮介くんとその奥さん恵さんではないですか」

 

「どうも陣内さん。やめてくださいよそのあだ名」

 

「そうよ貢くん。からかわないの」

 

「からかってないさ。むしろ誇らしいんだ」

 

「いやからかってるね絶対」

 

「うん。からかってる」

 

「佐喜に舞まで…信じてくれよ」

 

笑いに包まれる堂馬食堂。すると

 

「あっ。ごめんね、大きな声で怖かったね」

 

俺達の子が泣き出してしまった。皆で必死にあやすとスヤスヤと眠りについた。

 

「まさかこんなにも早く二人の子どもが出来るなんてね。なんか幼い頃から知ってる身としては感慨深いは」

 

「佐喜は早く見つけないとな」

 

「うっさい」

 

佐喜さんの肘打ちが陣内さんのお腹に直撃する。

 

「そういえば、二人とも最近はこっちが多くなったね」

 

「『楽園』は俺達の知らない若い子が増えて行きにくくなりましたね。『堂馬食堂』の方が顔馴染み多くて今はこっちの方が居心地がいいんですよ」

 

「二人も歳とったな」

 

「まだ20代前半なんですけどね。…そういえば溝口さんは」

 

「溝口隊長はまだ真矢ちゃんと訓練中よ」

 

「遠見とですか…」

 

「なんだ。嫉妬か」

 

「そんなんじゃないですよ」

 

 

それは1年前のある日だった。俺と溝口さんが打ち合わせをしていた時だった。

 

「溝口さん。お願いがあります」

 

遠見が真剣な眼差しで歩いてきた。

 

「どうしたお嬢ちゃん」

 

「私を弟子にしてください」

 

突然の申し出に俺達は戸惑った。

 

「お嬢ちゃん。そんなことしなくてもファフナーパイロットっていう大事な責務があるじゃねーか」

 

「でもいつかファフナーに乗れなくなります。乗れなくなった時に何も出来なくなるのが嫌なんです」

 

「そんなことはない。お嬢ちゃん程の実績なら後輩育成の教官やCDC勤務だってあるだろうに。あっ楽園の専属ウエイトレスでもいいんじゃないか」

 

「…」

 

「冗談だよ。冗談…なんでそこに拘るんだ。今は昔と違いだいぶ選択肢も増えた。平和な日常ってのを過ごせるんだ」

 

「ファフナーに乗れなくなった時の自分に何が出来るのか考えてたんです。私は咲良や近藤くんみたいに面倒見がいいとはいえないし。カノンみたいに手先が器用じゃないし。皆城くんみたいに頭良くないし。一騎くんみたいに料理上手じゃないし」

 

「お嬢ちゃん…」

 

「せめて私の経験を活かせることって力を持って大切な人達を護ることなんじゃないかなって」

 

「遠見そんなことはない。きっと遠見にしか出来ないことが…」

 

「わかった。丁度1人欠員が出たんだ最近」

 

「溝口さん」

 

「恵ちゃんが妊娠して色々大変なんだろ亮介。だからお前に暫く育児休暇をやろう。恵ちゃんの側にいてやりな。亮介が抜けた穴にお嬢ちゃんが入る、これで一件落着だ」

 

という経緯で俺は島の防衛部隊を一時的に離れ、自宅の花屋と恵のサポートをしていた。

 

「ごちそうさまでした。また来ます」

 

「はーい二人ともいつでもいらっしゃい」

 

帰り道

 

「気になるの、さっきから空ばかりみて」

 

「まぁ、少しな。いざというとき役に立てるか不安になる」

 

「大丈夫だよ。これまでの亮介の経験がブランクの穴を埋めてくれる。きっと」

 

「そうだね。今は折角もらった3人の時間を大事に過ごそう」

 

「うん」

 

ずっと抱っこをしていた恵に代わり高く持ち上げる。俺達の赤子はとても嬉しそうにはしゃいでいた。

 

家に帰宅した頃であった。暫く聞かなかったサイレンが鳴る。

 

「まさか…フェストゥムなのか」

 

「亮介…」

 

「大丈夫。戦場には出ないよ。ちょっと様子をみてくる。この子を頼んだ」

 

この時、竜宮島はとある人類軍の部隊を島に迎え入れた。そして島は再び混沌とした世界に誘われることとなった。

 


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