蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第三十二話 「共に歩む」

「お父さん…」

 

第2次蒼穹作戦が無事成功で幕を下ろして1ヶ月。私はAlvisの病室にいた。

 

「恵。おじさんはどうだ」

 

訓練を終えた亮介が駆けつけた。

 

「…今も目覚めないまま」

 

「そうか…」

 

千鶴さんから聞いた世界と戦った時の後遺症。成長期を乗り越えたコアのお陰で症状に苦しんだ人達は日常生活に支障なく戻っていた。父以外は…

 

「失礼してもいいかしら」

 

千鶴さんが病室を訪ねてきた。

 

「二人に話しておかないといけないことがあるの」

 

「もう…長くはないんですね」

 

亮介はある程度覚悟していたかのような口調だった。

 

「持ってあと1週間です」

 

千鶴さんは悔しさを滲ませながら静かに呟いた。

 

「千鶴先生どうにかならないですか」

 

「落ち着け恵。おじさんが他の人達より重症だとは聞いてたし。先生達も最善を尽くしてくれた。」

 

言葉ではそう言って励ましてくれる亮介だが、表情には悔しさが滲み出ていた。

 

「お父様を助けて挙げられずごめんなさい」

 

千鶴さんは深々と頭を下げた。亮介がとっさに千鶴さんの顔をあげさせる。なにも出来ない歯痒さが病室を包み込んだ。

 

そんなことがあった日の夜。夕食を終えた静かな居間

 

「恵ちょっといいか」

 

お茶を飲みくつろいでいた亮介から声をかけられる。

 

「どうしたの」

 

「俺達のことしっかりとしておこうと思って」

 

「えっ」

 

いつの間にか後ろにいた亮介が抱きついてきた。

 

「ちょっとお皿割れちゃうよ」

 

「俺とずっと一緒にいてくれないか」

 

「ちょっと、えっ」

 

「俺と結婚してください」

 

「ちょっとストップ」

 

皿を置き思わず突き飛ばす。

 

「…もう少し言うタイミング無かったの」

 

「ごめん」

 

「もう。亮介ったら…もちろんよ。一緒にこれからも支えあって生きていこう」

 

「ありがとう」

 

 

 

翌日。病室に報告にに言った。まだ目覚めない父にせめて伝わって欲しいという想いを込めて。

 

「お父さん。お嬢さんと結婚させてください」

 

静まりかえる病室。私達はそれでも真剣に話を進めた。

 

言いたいことを伝えきり病室を出ようと立ち上がった時

 

「言いたいことだけいいやがって、返答待たずに去るのか」

 

1ヶ月ぶりに目覚めた父。私達の目からは自然と涙が溢れた。

 

「恵苦しい」

 

「だって。お父さん」

 

「ははは、そんなに泣くな。亮介腹を括ったのか」

 

「はい」

 

「娘を…よろしく頼むぞ」

 

「ありがとう…ございます」

 

島の皆のご厚意で急ピッチで結婚式の用意をして頂き、父の余命宣告を受けた日の前日に鈴村神社で式を挙げた。島の多くの人達が祝福に来てくれた。

 

父も真壁司令に車椅子を引いて頂き私達の門出を祝ってくれた。そして式の成功を無事見届けて安心したかのように翌日。

 

私達に見守られながら息を引き取った。

 

「まるで眠ってるように逝ったな。おじさん」

 

「そうだね。亮介」

 

「どうした」

 

「亮介は勝手にいなくならないでね」

 

「あぁ…約束だ」

 

 

晴れて夫婦になった私達。まだ見ぬ明日へ希望を抱きながら互いの手を取り合った。

 


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