蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~ 作:naomi
「お父さんしっかりして、お父さん」
私の声に父は反応しないままAlvisの集中治療室に運ばれた。
集中治療室の扉が閉まり。赤い看板が点灯する。
「恵…ごめん。恵に頼まれたのに気づくのが遅れた」
「亮介…家を出てもよくなったの」
「今回は特例で許してもらった」
「帰って」
「恵…」
「帰って、一人にさせて」
動揺から心が荒れていた私は亮介にキツく当たっていた。亮介は「ごめん」と小さく呟きその場を離れた。
数時間後、治療が終わり千鶴先生が出てきた。
「千鶴先生。父はどうですか」
「一命は取り留めたけど、予断を許さない状態ね」
「そんな…」
「お父様のことでお話しがあるのだけど時間もらってもいいかしら」
「大丈夫です。そんなに深刻なのですか」
「そうね…。今この島にいる大人で体調を崩している人達と大いに関係あるわ」
場所を変えAlvisの診察室へ移動した。
「まず、今島の大人が急激に体調を崩し出したことは知ってる」
「はい。確か相手のフェストゥムが私達のコアを取り込むための戦略として様々な方法で弱らせているんですよね」
「そう。その影響で島の環境が制御出来なくなっているのそしてそれは、ある人達に非常に深刻な影響を与えているの」
「ある人達とは」
「昔、日本を世界から守るために戦った人達よ」
「どういうことですか」
「瀬戸内海ミール…つまり私達のミールがかつての私達の故郷『日本』で発見されて。私達から受胎能力を奪ってしまった。その時世界は日本ごと核攻撃で滅ぼすことを決断したの。抵抗はしたものの日本は滅び、生き残った日本人が『Alvis』を組織して今の私達がある」
「…」
「生き残った日本人の中には当然軍人だった人達もいるの。真壁司令や溝口さんあと直接ではないけど澄美さんや容子さんも軍の関係者として働いていたわ」
「父はその人達と関係があるのですか」
「椎名十蔵。日本自衛軍自衛海軍一佐…貴女のお父様のかつての階級よ」
父はずっと漁師だと思っていた私にとってそれは受け入れがたい衝撃だった。
「今、体調を崩してる人は軍の関係者で世界と戦い核攻撃を経験した人達がほとんどなの。お父様もおそらくその時の後遺症が原因で、島のミールによる加護で症状が出なかったけれど。今の不安定な環境で症状が発現したと考えています」
「そんな…父は治りますか」
「…お父様は重症で島の環境が元に戻ってもおそらく」
突如判明した受け入れがたい数々の事実に私は頭を抱えうずくまった。
「お父様が目覚めたそうよ。面会も出来そうだけど」
「…お願いします」
急ぎ病室に向かうとすでに誰かが父と会っていた。
「おじさんじゃあお大事に」
その男は視線を反らすと横を通り過ぎた。
「まったく亮介のやついらぬ世話を焼きおって」
「お父さんどう調子は」
「千鶴さん達のおかげで楽になったが。先はそう長くないな」
「冗談でもそんな事言わないで」
「自分の身体のことは自分が良くわかっとる」
「そんな…」
「亮介が気づいて迅速に応急措置してくれたおかげでこうして恵と話せるわけだが。なんかあったのか二人とも」
「なんで」
「あいつ元気ないしやたらワシに謝るし、今お前達会った時に微妙な空気を感じたからな」
「それは…」
「なにを揉めとるかわ知らんが。自分の気持ちには常に正直になれよ」
「父さん…どうして軍人だったこと隠してたの」
「隠すもなにも、聞かれたことが無かったから答えなかっただけだぞ」
「お母さんは知ってた」
「知ってたもなにもその頃からすでに夫婦だ」
「…そう」
「なんじゃ、そんなしんきくさい顔するなら帰れ。治る病気も治らんわ」
そういうと父は布団を被った。
私が「また明日来るから」と言い病室を離れようとすると父は布団から手だけ振り眠りについた。
私はその日Alvisに泊まった。