蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第二十二話 「感謝」

「亮介…本当に行くの」

 

竜宮島のファフナー部隊を北極へ派遣するための準備が急ピッチに進められていた。

 

「ファフナー部隊を派遣する輸送機に乗るだけだから心配ないさ。」

 

「でも…」

 

「大丈夫だ必ず帰ってくる」

 

「決意をしてるところ悪いが今回はお留守番だぞ亮介」

 

家の店に溝口さんが訪れて来た。

 

「そんな」

 

「外の世界を知りたいという気持ちもわからんでもないが、お前にはファフナー部隊不在の留守を守ってもらいたい。頼めるか」

 

「わかりました」

 

了承はしたが亮介の顔は不満げだった。

 

「コア曰く敵は北極の決戦にほぼ全ての戦力を割くから、島が襲撃を受ける心配は無いだろうが。よろしくな」

 

 

 

その日は過去最高の勢いで家の店が繁盛した閉店間際の夕暮れ時だった。

 

「今日のお客さんの入りは凄かったな」

 

上機嫌に店じまいをしていると人の気配がした。

 

「いらっしゃいませ」

 

上機嫌な勢いそのまま応対すると少女が笑っていた。

 

「こんばんは。恵変なの」

 

「乙姫ちゃん。こんばんはどうしたの」

 

「この目でしっかりとここを見ておきたかったの」

 

「そういえば乙姫ちゃんがこの店に来るの初めてだね」

 

「うん…。優しい記憶を沢山感じるいいお店だね」

 

「島のコアにそう言ってもらえると嬉しいな」

 

ゆっくりとじっくりと店内を見て回る乙姫ちゃん。

 

「恵のオススメのお花はどれ」

 

「乙姫ちゃんに合いそうな花か…」

 

店内の花達を見渡すと、一つの花に目線が止まった。

 

「これかな」

 

「クレマチスの花…いい花だね」

 

「よかった」

 

「じゃあクレマチスとカンパニュラとミヤコワスレをちょうだい」

 

「クレマチスとカンパニュラとミヤコワスレね…乙姫ちゃん」

 

私の動揺した顔に少女は優しく微笑んでいた。

 

「そんな顔をしないで恵」

 

「だって乙姫ちゃん」

 

「人はいつか必ずその時を迎える。貴女のお父さんも貴女もそして愛する人も…」

 

「まだ乙姫ちゃんこの世界に生まれてきたばかりじゃない。それなのになんで」

 

「この島のミールが『生と死の循環』を学ぼうとしている。私が体験した全てをミールに伝えなければいけないの」

 

「そんな…他の方法はないの」

 

「それ以外の方法は島のミールが誤って学んでしまって、島に生きる全ての命が死んでしまうの。ありがとう恵。貴女のように誰よりも他者を愛し心配出来る人が彼の側にいるから、私は島に命を還すことに全てを捧げることが出来る」

 

「乙姫ちゃん…」

 

「泣かないで恵。私の身体は無くなっても、島の皆が私のことを覚えていてくれる限り『生き続ける』ことは出来るから」

 

少女は3種の花を両手でしっかりと持って私の店を後にした。

 

数日後『蒼穹作戦』と名付けられた竜宮島の命運を懸けた作戦が決行された。


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