蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第二十一話 「紅音」

ザルヴァートル・モデルの襲撃によって大損害を被った竜宮島。復旧に力が注がれてはいるものの一番の問題は各々の心であった。

 

皆がこの先の行方に不安を抱いていた。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「気をつけてね」

 

復旧作業を手伝うため家を後にする。おじさんはショックで寝込み、恵も気丈に振る舞っているがボロボロなのが見てすぐわかるくらい疲弊している。

 

俺はこんな時こそ傍にいてあげたいが、彼女を励ます言葉もなんと声をかければいいのかすらわからず。

 

「島のため」という真っ当な理由を口実に距離を置いて見守るしか出来なかった。

 

(恵はパートナーとして俺を支えてくれているのに、俺は彼女に何もしてあげられないのか…)

 

「亮介、ちょっと休んどけ」

 

一緒に作業していた溝口さんが俺を気にして声をかけてくれた。

 

「でもまだ全然」

 

「いいから、ここんとこ色々詰めすぎてるからよ。必要になったら呼ぶから」

 

「ありがとうございます」

 

作業現場の近くで休んでいると

 

「霧島先輩どうしたんですか、こんなところで」

 

遠見真矢に声をかけられた。隣には松葉杖をつく一騎もいた。

 

「復旧作業の手伝いだ。今休憩もらって休んでる。二人こそどうしたこんなところで」

 

「近藤君の様子を見に行くんです。彼お母さんが亡くなってから家に引きこもってるみたいで」

 

「そうか」

 

「恵先輩の傍に居なくていいんですか」

 

「…どう接したらいいのかわからないんだ。なんて言葉をかけたらいいかも」

 

「好きな人が辛い時に傍にいてくれる。それだけでその人には救いになると思いますよ」

 

「何故そんなことが言える」

 

「…私がそうですから」

 

一瞬一騎を見る遠見。一騎は全く気づいてないようだ。

 

「俺も、今だからこそ椎名先輩の隣にいるべきだと思います」

 

「…二人とも、ありがとう」

 

俺は駆け足で家に戻った。玄関の前に立つと誰かのすすり泣く声が聞こえた。

 

(恵…)

 

そっと部屋の扉を開ける

 

「誰」

 

「ただいま」

 

溢れる涙を必死に拭う恵。

 

「亮介…どうしたのまだ作業中なんじゃ」

 

「休憩中なんだ」

 

「そう…」

 

俺はそっと恵の頭に手を置いた

 

「泣いていいんだぞ」

 

そんなこと言われると思ってなかったと言わんばかりに泣き顔になる。

 

「泣いていいから、人は泣くことが出来るんだ…きっと」

 

「お母さん、私達を庇ったから死んじゃったの」

 

「うん、俺もそこにいた」

 

「私があの時気を緩めなかったらお母さん死なずに済んだかな」

 

「わからない。俺がもっと早く皆を見つけれてたらまた違ったかもしれない」

 

「私、私…」

 

「無理するな今はたくさん泣いとけ、ずっと隣にいるから」

 

「亮介」

 

俺の胸に顔を埋める恵、これまで抑えていたものを吐き出すかのように大泣きしている。

 

俺はただ胸を貸し頭をひたすら撫でることしか出来なかった…

 

 

恵が泣き疲れて俺の胸の中で寝てしまった頃、溝口さんからある場所に来てほしいと連絡を受けた。

 

「来たか亮介」

 

そこは竜宮島防衛部隊の戦闘機格納庫だった。

 

「どうしたんですか」

 

溝口さんと陣内貢さんが待っていた。

 

「簡潔に言うと、フェストムと対話をすることになった」

 

「おやっさんどういうことですそれ」

 

俺よりも陣内さんの方が動揺していた。

 

「あるフェストムが『真壁紅音』を名乗ってこっちに接触してきた」

 

「『真壁紅音』って確か…」

 

「そうだ。史彦の妻であり一騎の母親にあたる人だ」

 

「確か紅音さんはもう…」

 

「あぁ、フェストムに同化されちまってる。そいつは俺達に有益な情報を持ってるらしく接触を求めてきた。史彦はこれに乗るつもりだ。お前達二人には万が一に備えて戦闘機で待機しいつでも出撃出来るように準備をしてくれ」

 

「了解」

 

出撃待機する二人。

 

「そのフェストムはなにがしたいんだろうな」

 

通信越しに陣内さんが呟いた。

 

「なにがしたいんでしょうね」

 

その時、胸が急に苦しくなった。呼吸が乱れる

 

「どうした亮介」

 

「急に息苦しくなってきました」

 

「大丈夫か」

 

「大丈夫…」(なんだ頭まで痛くなってきた、身体も熱い…なんだと)

 

急に同化現象が始まった。どんどん緑の結晶が俺の身体を包もうとする。

 

(おい、人の身体でなに勝手に動き回ってやがる。大人しくしてろ)

 

暫くして首まで被われたところで結晶は砕けた。

 

(なんだ…コイツ誰かと接触していた…。誰と…)

 

「おい亮介本当に大丈夫か」

 

陣内さんは心配してずっと声をかけてくれていた。

 

「すみません陣内さん大丈夫です」

 

「おやっさんから発進指令だ、フェストムが現れた。俺達で出来るだけ…なんですって」

 

「どうしましたか」

 

「真壁紅音を名乗るフェストムと甲洋君が敵を追い払ったそうだ」

 

真壁紅音を名乗るフェストムにもたらされた『情報』により皆城総士が北極で囚われていることがわかり、同化現象を抑える新たな方法がわかる。これによりこれまでよりも同化現象に襲われるリスクが格段と下がった。

 

更にファフナーの機体性能も大幅に向上し、それまでは出来なかった島外でのファフナーの作戦行動が可能となった。

 

Alvisは皆城総士を奪還するために人類軍が実行するという北極ミールの攻略作戦への参加を決めた。

 

彼女よりもたらされた一筋の光は、我々にとって微かな希望となり竜宮島の進む道を示した。




「私はお前が来ることを待っていた」

「我々はお前という存在に興味がある」

「お前はどのようにして『お前』になった」

「我々は『真壁紅音』という存在と一つになった。『真壁紅音』はこれまでのどの存在とも違い我々と一つになることを受け入れ我々を祝福した。そうして我々は『我々』になった」

「受け入れ祝福…」

「お前はAlvisの子ども達の一部となった我々で初めて意志を持つ存在になった。何故お前は『お前』でいようとする」

「私は『私』でいたいだから『私』でいる」

「お前が『お前』でいたいのならば、Alvisの子を『支配』や『服従』させてはならない。そうしてお前が『お前』になったところで『お前』の求める『お前』には成れない」

「どうすればいい」

「『真壁紅音』は我々と『共存』する道を示したことで『我々』という存在に『我々』になる可能性を示した」

「共存…どうすれば共存出来る」

「お前は『名前』があるか」

「『名前』…」

「『真壁紅音』は我々に『ミョルニア』という名を与えることで『我々』の存在を確立した。『名前』はその存在を確立するうえでより存在を『1つの存在』にしその存在を証明する手段になる」

「私の名前…」

「名前を見つけろ。それがお前が『お前』になるための道標となるだろう」

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