蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第十六話 「祈り」

「集中治療室準備急いで」

 

千鶴さんの声が響く、医療スタッフが血相を変えて動き回る。

 

担架には、呼吸器をつけられた亮介が寝ている。

 

「亮介、しっかりして亮介」

 

私の声は彼に届かない。叫ぶことしか出来ない私。自分の無力さを呪った。

 

「恵、亮介くんはどうなの」

 

連絡を受けて慌ててAlvisにやってきた両親

 

「呼吸してないの…」

 

「そんな…」

 

母は泣き崩れ、陽気な父もこの時ばかりは神妙な面持ちになっていた。

 

「俺がついていながら、すみません」

 

亮介が上司として慕う溝口さんが、両親に頭を下げていた。

 

「あいつも覚悟はしていたはずだ、今は遠見さんの治療を信じて待とう」

 

「そうですね。わかりました」

 

私に近づき頭を下げる溝口さん

 

「君が恵ちゃんだよな、亮介から話しは聞いてる。すまない。俺がついていながらこのようなことになってしまって」

 

「大丈夫ですよね亮介、元気になって戻って来ますよね」

 

「…わからん。だが俺は亮介がこんなことでくたばるヤツではないと信じている」

 

変に誤魔化さず正直に言われ私の心はまたえぐられる思いだったが同時に同情して優しい言葉をかけない溝口さんをこの短いやりとりで信用出来る人だと瞬間思った。

 

少しして、佐喜さんもやってきた。

 

「亮介は無事なんですか。溝口さん」

 

「わからん。遠見先生の治療待ちだ」

 

それぞれの思いを抱き治療が終わるのを待つ5人

 

「お待たせしました。」

 

千鶴さんが集中治療室から出てきた。

 

「先生、亮介は大丈夫ですか」

 

「怪我はしているけど、命に関わる大きな怪我はないです。心拍も正常に戻りつつあります。ただ…」

 

「どうしたんですか」

 

「彼の精神的な問題なのか徐々に弱っていて、いつ事態が悪化するか検討がつかない状態です」

 

「そんな…」

 

メディカルルームに移動した亮介を乗せた担架

 

両親と溝口さん達はAlvisをあとにし、私一人になっていた。どれだけ強く手を握りしめても、彼の反応は返ってこない。

 

(亮介…死んじゃいやだよ。約束したよね。必ず生きて帰るんだって、私信じてるよ)

 

「心配」

 

振り向くといつの間にか皆城兄妹がいた。

 

「総士君に乙姫ちゃん、…うん凄く心配」

 

「霧島先輩の容態は」

 

「命に関わる怪我はないみたいだけど、生きようとする力が弱ってるって千鶴先生が言ってたわ」

 

「そうですか」

 

「それは違うよ恵。亮介は今自分自身と闘っているの、彼は生きることを強く望んでいる」

 

「自分自身と闘う…」

 

「どういうことだ乙姫」

 

「亮介は今初めて亮介の持つ力と向き合う時が訪れた。その結果によっては我々は滅んでしまうかもしれない」

 

「なんだと」

 

「だから恵」

 

乙姫ちゃんの無垢な瞳が私をじっと見つめる

 

「貴女が亮介の帰る場所でいてあげて。これは貴女にしか出来ないこと」

 

「…うん。わかった」

 

私は亮介の手をひたすら祈り握り続けた。


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