蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第十四話「追想」

「もうじき、盆祭りの時期だね」

 

家の手伝いをしていると、母が呟いた。竜宮島で夏の時期に行われる「お盆」の習慣を引き継いだお祭りだ。

 

「亮介君今年はどうするかね。」

 

「なんで」

 

「ほら、去年まではお父さんはまだしも、お母さんは行方不明だったから流してなかったろ灯籠」

 

このお祭りでは、亡くなった人達の名前を書いた灯籠を海に流し成仏する。

 

亮介は行方不明だった亮介のお母さんの灯籠を造るのを頑なに拒み、これまで灯籠を造らなかった。

 

でも今年はAlvisでお母さんのこれまで知らなかった事実を知ってしまった。

 

「どうするかな、亮介」

 

「ほら、ボーッとしてないでこの花を束にしといてくれ」

 

「母さんや、この花束は誰宛だった」

 

「それは、羽佐間さん家だ」

 

この時期は私の家も毎日が忙しい。漁師をしている父が本業を漁師仲間に引き継いで休み、家を手伝うくらいだ

 

「あっ時間だ、行ってくるね」

 

「気をつけるんだよ」

 

最近はよく、学校に顔を出している。在校生にお願いされ灯籠造りや盆祭りの出し物についての助言を求められている。

 

今日は、剣司くん・衛くん・咲良さん・カノンがいた

 

「あー、椎名先輩やっときた」

 

「ごめん、ごめんどう、順調」

 

「そうですね、あと30個灯籠造れば今日の目標は終わります」

 

「えー、姉御まだやるの。早く帰ってゴーバインが読みたいよ」

 

「あんた授業中も読んでるでしょうが」

 

「俺も早く帰りたい」

 

「あんた達ねー、カノンを見習いなさい」

 

ふと視線を向けると初めて灯籠を造るはずのカノンが物凄い手際の良さで次々に灯籠を完成させていた。

 

「咲良これでいいのか」

 

「バッチリよカノン、ほらあんた達もやんな」

 

渋々作業を再開させる二人、私も手伝いに入った

 

「終わったーさぁ帰ろうぜ」

 

手伝い出して1時間後作業が終わった。

 

「椎名先輩、今日はありがとうございました」

 

「どいたしまして」

 

「私達は帰るけど、カノンはどうする」

 

「容子に頼まれた用事があるから、恵と帰る」

 

「わかった。また明日ね」

 

三人は教室を出た。

 

「私に関係があるの」

 

カノンは頷き

 

「恵の家に翔子に供える花を頼んでいるから、帰りに寄って買ってきてくれと頼まれている」

 

「あっ、そういえば羽佐間さんの家から花束を頼まれてたね。一緒に帰ろうかカノン」

 

 

 

「どう、この島での暮らしは慣れた」

 

帰り道カノンを質問攻めにする。私の家に花を見にきて以来だったのでなんだか嬉しかった。

 

「この島の暮らしには驚くことばかりだ、だが皆が優しく家族のように私を迎えてくれる。だから嫌じゃない」

 

「そっか、なら良かった」

 

「今回のお祭りは死者を弔う祭りだと咲良達に聞いた。恵は灯籠を流すのか」

 

「私は幸い誰も亡くしてないから流さないよ。ただ亮介は…」

 

「亮介…霧島か、アイツは流すのか」

 

「わからない。でもこれまで生きていると信じてた人が亡くなっているって最近知ったの」

 

「そうなのか…」

 

「カノンは流すの」

 

「翔子の分をな、会ったことは無いし写真でしか知らないが。容子にとって凄く大切な人だったというのは伝わってくるから」

 

「優しいねカノンは」

 

「なっ、そんなことは…ない」

 

照れて俯くカノンが可愛らしかった。

 

家に着くとちょうど亮介も帰ったところだった。

 

「恵とカノンか」

 

「亮介も今帰り」

 

「あぁ、カノンはどうしたんだ」

 

「容子から恵の家に花束をお願いしているから買ってきてくれと頼まれているから、ここに来た」

 

「そっか、今おばさん呼んでくるからちょっと待ってな」

 

「霧島は…灯籠を流すのか」

 

「えっ」

 

カノンからの不意の問いに戸惑う亮介

 

「…わからない。…呼んでくるな」

 

細りと言い残し中に行ってしまった。

 

「私はマズイことを聞いてしまったか」

 

「驚いただけだと思うよ多分」

 

「そうか…すまない」

 

深々と頭を下げられ今度は私が戸惑った。

 

「大丈夫だよ全然。カノンって本当に真っ直ぐな子だね」

 

「いけなかったか」

 

「誉めてるんだよ」

 

「そうか…ありがとう。」

 

その後、亮介から花束を受け取りカノンはまた深々と頭を下げ帰って行った。

 

「もう、そんな時期なんだな」

 

亮介はそう呟いて足早に部屋に戻った。

 

 

 

 

盆祭り当日

町は屋台が建ち並び活気に溢れていた。

 

「じゃあ恵、母さん達は花を届けに回るからお祭り楽しんでらっしゃい」

 

母さん達は家を出掛けた。亮介はまだ自分の部屋から出て来ない

 

「亮介、お祭り行かないの」

 

返事が返ってこない

 

(早く一緒に行きたいのに…)

 

すると

 

「ダメだー」

 

昼過ぎて聞いた今日の亮介の第一声

 

「どうしたの」

 

急いで亮介の部屋の扉を開ける。部屋の中では亮介が何かを造っていた。

 

「もしかして、灯籠」

 

「あぁ…」

 

私は安堵した。あの日以来ちゃんと亮介と話せていなかったからカノンに話した事を怒っているのだと思っていた。

 

「カノンに言われて気づいて急いで造ってみようとしたけど全然ダメだ…恵なんで泣いてるんだ」

 

「だって…。カノンから質問されてから口数減るし、凄く機嫌悪そうだったから、カノンにお母さんのこと話して私怒らせちゃったかなって」

 

涙ぐむ私の頭に亮介はそっと手を乗せる

 

「ごめん。灯籠とか造ってこなかったからいざ準備しようとすると全然出来なくて焦ってた。むしろありがとうな恵。思い出させてくれて」

 

「えっ」

 

「むしろカノンに言われるまで、今日のこと忘れてたし、母さんのこと。バタバタしてたことを理由にちゃんと向き合ってこなかった。母さんがいないことと向き合うことを避けてきた。」

 

「亮介…」

 

「もう、母さんはいないんだよな」

 

私は言葉を返せなかった。

 

「恵がこのことと向き合うキッカケをくれた。だからありがとう」

 

「灯籠…今年いっぱい造ったから私造れる」

 

「恵」

 

「一緒に造ろ」

 

「あぁ」

 

束の間二人の時間。気がついたら夕方になっていた。

 

「なんとか、灯籠流しに間に合ったね」

 

「ありがとう恵…」

 

「どうしたの」

 

「浴衣似合ってるじゃん」

 

「今さら…でもありがとう」

 

「行くか祭り」

 

太鼓の音、提灯の灯り、静かに流れる風、島の盛り上がりは続いていた。

 

「霧島先輩、椎名先輩」

 

三人組とカノンがいた。

 

「その灯籠…」

 

「俺の母さんのやつ、最近亡くなって知ってさ。カノンありがとうな」

 

「私はなにも。むしろお前の気持ちも考えず、すまなかった」

 

「お前と恵のおかげで俺は前に進めた。だからありがとう」

 

「そうか、なら良かった」

 

「カノンーさっきの続きするよ」

 

「わかった」

 

「続き。」

 

「衛のやつ、盆踊りの躍り方としてアイツ自分の好きなマンガのヒーローの必殺技教えてるんですよ、カノンそれは違うから止めなー」

 

「衛もいい加減止めろー」

 

私達の苦笑いを他所に四人は去っていった。

 

「亮介と恵だ、こんばんは」

 

振り向くと乙姫ちゃんと立上芹ちゃんが仲良く歩いていた。

 

「向き合ったんだ、現実と」

 

「あぁ、恵のおかげでな」

 

「乙姫ちゃんなんの話」

 

「ある人がある出来事とどう向き合っていくか決めたお話だよ芹ちゃん。行こ芹ちゃん。二人も楽しんでね」

 

「ありがとう乙姫ちゃん」

 

少し歩くと

 

「おっ、亮介と恵ちゃんどうだ遊んでいくか」

 

亮介の上司溝口さんが射的屋をやっていた。

 

「特賞がライフル銃ですか」

 

「おうよ、一人当てたぜ」

 

驚く二人、誰が当てたか尋ねると

 

「お嬢ちゃんだ、まぁハズれのリンゴ飴に変えちゃったけどな」

 

「溝口さんやらせてください」

 

亮介が何回も挑んだが、結局沢山リンゴ飴を貰うことになった。

 

「ごめんな恵こんなにリンゴ飴いらないだろ」

 

私は思わず笑ってしまった。

 

「なんで笑う」

 

「だってあんな真剣な亮介久しぶりなんだもん」

 

「そうか」

 

そして灯籠流しての時、お母さん達も仕事を終えなんとか合流出来た。

 

「亮介それ…」

 

「今年からは流そうかなと」

 

「そうか。叶さんも喜ぶぞ」

 

静かに岸から灯籠を流す、島の人達も次々に各々の想いを乗せて灯籠を流している。

 

弔いの花火が上がり始める。

 

「恵。ありがとうな」

 

亮介は私の手を力強く握りしめた。私も彼の手を握り返し、花火を二人で見続けた。

 


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