蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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彼等との生存をかけた戦いも遠い過去の話しとなった。

多くの犠牲を払いながらも我々は、今この時を一度は離れざる負えなかった故郷で穏やかに過ごしている。

これは今も語り継がれる二人の英雄・・・・・かつて我々を導こうと懸命に生きた我々のコアの言葉を借りれば

存在と無の力による祝福であることに反論する者はいないであろう。

存在の力は永遠の戦士として世界の痛みを調和し、無の力は彼等に「痛み」と「恐怖」を教えることで、我々を理解できるよう促した。

しかし、忘れてはならない。我々には語り継ぐべき英雄がもう一人いることを。

これは、私の知る一人の英雄について記した記録である。


椎名 恵


蒼穹のファフナー
第一話 「始まり」


「亮介、亮介ってば。」

 

紅の太陽が沈みかけるなか、いつもの声が俺の耳に響き渡る。

 

「・・・・・なんだ恵か。」

 

「なんだじゃないわよ。またこんなところで居眠りしちゃって、風邪ひいても知らないからね。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・今日はどうだった。」

 

「相変わらずだ。滅多に船は通らねえし、通ってもよく見る漁師のおじさん顔だ。」

 

「そっか。あれから1年になるんだね・・・・・。」

 

1年前から、俺の母は出かけてくると言ったきり帰ってきていない。風の噂では母は行方不明だと聞かされた。

 

静かな風とさざ波が恵の声を遮る。

 

「戻ろ。お母さんが亮介のこと心配してたよ。」

 

「この夕日が沈むまで待ってくれないか。」

 

恵は俺の隣で座り込み、黙って夕日を眺め続けた。

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

辺りが真っ暗ななか俺達は当たり前のように家に帰る。

 

「『ただいま』じゃないわよ、あんたたち今何時だと思ってるのよ。」

 

「ごめんお母さん。」

 

「いつものアレなのかい。」

 

「そうだよ・・・・・。」

 

「そうかい・・・・・。ほどほどにね。」

 

おばさんの気遣いが逆に辛かった。

 

「お~二人ともお帰り。今日はどおだった。」

 

「ちょっとアンタ。」

 

「今日も相変わらずおじさんの漁船しか見ませんでした。今日の漁はどうでしたか。」

 

「うんぁ、今日もダメだったよ。最近全然いなくてよ。」

 

「そうなのかい。なんかいやな感じだね。」

 

「まあそうゆうこともあら~がな。そんなことより飯にしようぜ。腹減ったよ。」

 

「もお、お父さんったら。」

 

椎名家のこの何気ないやりとりは、身寄りのない俺にとってとても支えになり、恵の幼馴染とはいえ、娘と同い年の年頃の男をなんのためらいもなく家に迎えてくれた恵の両親の懐の大きさには、ただ感謝しかなく、助けられた。そんな和やかな日々がいつまでも続くと思っていた。そして

 

 

その日は突然やってきた。

 

 

その日、俺は学校にいた。

 

「ねえ、亮介」

 

休み時間後ろから恵がつついてきた。

 

「僚くんと裕未さん今どうしてるか知ってる。」

 

「最近会ってないな。」

 

「ちょうどあの二人と会わなくなったのって1年前なんだよね・・・・・。関係あるのかな」

 

将陵僚と生駒裕未。俺と恵のクラスメイトで生徒会で活動していた優等生。

 

僚は生まれつき身体が弱くほとんど学校で見たことはなかったが、町中で会っては、たわいのない話しで朝から晩まで一緒にいるような仲だった。

 

裕未はthe優等生といわんばかりの美貌と教養で学校のマドンナ的存在・・・と俺は認識していた。

 

「偶然じゃねえか。」

 

ふと恵を見ると申し訳なさそうな顔をしていた。アノ話しに関連づけたことに少し罪悪感があるようだった。

 

「そんな顔すんな。別に気にしてないから。」

 

「ほんと、ゴメン。」

 

「だから、気にして・・・・・。」

 

ウーン~

 

突然町中にサイレンが鳴り響く。ざわつく教室

 

「静かにしなさい。」

 

教室内に狩谷先生の声が響き渡る。教室が静まり返る。

 

「皆、私についてきなさい。」

 

先生に言われるがまま付いて行く俺達。

 

「先生、なにがあったんですか。」

 

恐る恐る先生に尋ねる恵に「貴方たちは知らなくてもいいこと」と誤魔化されてしまった。

 

先生に付いて行くと、そこは巨大なシェルターだった。島にこんなものがあるのかと途方に暮れていると

 

「・・・島、霧島。」

 

「はっ、はい。」

 

先生に呼ばれていた。気がつけば、シェルターの入り口で突っ立っていた。

 

「もお、さっさと進んでよね、後ろつかえてるんだから」

 

恵に言われなかに入ると、町中の人々がすでにシェルターになかにいた。

 

「恵、亮介君、無事だったのね。」

 

おじさんとおばさんもすでにシェルター内にいた。

 

「お父さんお母さん何が起きてるの。」

 

恵が不安げな顔でおばさんに抱きつく。

 

「大丈夫だよ、すぐに終わるから。」

 

優しい声をかけるおばさんの表情は明らかに何かに怯えていた。

 

周りを見渡すと大人達の表情は優れなかった。すると

 

「嫌だあの子も一緒じゃなきゃ嫌」

 

女の子の泣きじゃくる声が響く。すぐに見張りの人が近づく。

 

「どうしました。」

 

「すみません。気にしないでください。お気に入りの人形を家に置いて来ただけなので」

 

女の子の母親は必至に女の子をなだめるが落ち着く様子はない。

 

「よければ、代わりに僕が取りに行きましょうか。」

 

「亮介?」

 

外の様子が気になってしょうがなかった俺は、ちょうどいい口実だと思い話しに入っていった。

 

「ダメだ、外に出ることは許さん。」

 

厳しい口調と表情で見張りの人がこちらを見る。

 

「女の子はそれがないとダメみたいですし取りに行きます。」

 

「ダメだ。」

 

「行きます。」

 

急に見張りの人が黙り込んだので俺はその隙にシェルターの外へ出た「待ちなさい」と聞こえた気もしたが無視して走って行った。

 

「亮介。」

 

恵が追いかけてきていた。

 

「お前、ついてくるなよ」

 

「連れ戻しにきたのよ。早く戻って・・・・・。」

 

すると突然爆発が起こり、俺達の身体は吹き飛ばされた。

 

咄嗟に恵を守るように抱きつく。彼女は無事だった。

 

「イッター何なの。」

 

爆発した方向を見ると、さっきまであった壁が綺麗に無くなっていた。

 

動揺する二人、光が差し込んでいて空を見上げると見たことのない金色の物体が宙を浮いていた。

 

あまりの美しさに目を奪われているとどこからか声が聞こえてきた。

 

「あなたはそこにいますか」と。


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