厨二なボーダー隊員   作:龍流

9 / 132
エイプリルフールネタに収まらないと確信したので、タイトル変えました。べ、べつに楽しくなってきたわけじゃないんだからね!

言い訳として、次回は本編を更新することを確約いたします。


もしもボーダー隊員がTSしたら その参

 目を開けると、頭の裏には柔らかい感触があった。

 

「お、気がついたか如月くん」

 

 まるで、昼寝させていた子供が起きたのを確認したような。そんな気安さで、頭上から声がかかる。龍神の顔を見下ろしていたのは、羽のようなクセっ毛と明るく快活な雰囲気の顔立ちが特徴的な女性だった。

 

 ――――もう、いい加減に慣れてきた。

 

「……嵐山さん?」

「よかった。私の顔が分かるということは、頭を打った心配はなさそうだな」

 

 にっこり、というよりは、にしゃり、と。破顔した嵐山は……というより嵐山も、どこからどう見ても女性だった。元がイケメンだったせいか、完璧な黒髪美人に変貌を遂げている。流石イケメンという他ないだろう。

 

「大丈夫かい? 起き上がれるかな」

「……まあ、はい」

 

 生返事を返しながら、龍神はゆっくりと体を起こした。佐鳥の美少女化というショッキングな事態に脳の処理が追いつかず、気を失っただけなので、特に体に支障はない。

 龍神が目を覚ましたことに気がついたのだろうか。気絶の原因を作った張本人が、慌ただしく部屋に入ってきた。 

 

「あ、如月せんぱーい! よかったです! 気がついたんですねー!」

「……佐鳥」

「いきなり目の前で倒れちゃったから、もうどうしようかと思いましたよー! なんともなさそうでよかったです。でも、どうしていきなりふらついちゃったんですか? 寝不足? ランク戦のし過ぎ? あ、もしかしてあたしの魅力にコロっとやられちゃったとかー!?」

 

 ――――コイツ、やっぱうぜぇ。

 

 龍神はくねくねと気持ち悪い動作で体を揺らしている佐鳥の顔面を殴り抜きたい気持ちを、ぐっと堪えた。いくらなんでも、いきなり女子の顔面にアッパーを直撃させるわけにはいかない。これが元の性別だったら、まず間違いなくぶん殴っていたはずなので、やはり女性は得だと龍神は思った。

 

「うるさいですよ佐鳥先輩」

 

 と、龍神の「佐鳥ぶん殴りてぇ」という切なる願いを汲み取ったかのようなタイミングで、サイドテールの頭に垂直チョップが炸裂する。

 

「おぶっ!?」

「如月先輩が困っているでしょう。馬鹿言ってないで、お水でも渡してあげてください」

 

 そう言いながら、水が入ったコップ片手に現れたのは、木虎藍。龍神の天敵といってもいい、生意気系意地っ張り後輩である。だが龍神は、木虎の顔を見て、今までとは違う意味で驚いた。

 

「……木虎?」

「なんで疑問形なんですか? 本当に大丈夫ですか如月先輩?」

 

 はい、お水です、と。差し出されたコップを呆然と受け取る。

 

「……よかった」

「はい?」

「お前は、お前だけはそのままでいてくれたんだな……」

「……はい?」

 

 そう。木虎の顔は、龍神の記憶そのままで、何も変わっていなかった。中学生にしては大人びているくっきりとした鼻筋も、優等生然としたショートヘアも、全ていつも通り。その事実に、龍神は何故か心から安堵し、胸が熱くなった。

 

「まさか、お前に心救われる日が来ようとはな……」

「さっきからなに言ってるんですか。頭大丈夫ですか?」

 

 もはや、きつく生意気な物言いすら愛おしい。

 龍神は木虎に微笑みかけながら、差し出されたコップを受け取り、

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 下げた視線の先、木虎の胸部を食い入るように凝視した。

 龍神の記憶が正しければ。木虎藍という少女は、中学生にしては結構『ある方』だったはずだ。少なくとも、龍神の部隊のオペレーターが「べ、べつにうらやましくないわ。全然、これっぽちも。ちょっと大きいからって、何がいいっていうの? どうして男はあんな脂肪の塊に魅力を感じるのか、本当に理解に苦しむわ。そもそも(以下略)」と、聞いてもいないのに長々と負け惜しみを述べる程度には『ある方』だった。

 それが、どうしたことだろう。上までファスナーをきっちりと閉めた赤いジャージの胸元。こんもりと双丘を形作っているはずのその場所が、

 

 

 

 

 

 ――――ぺったんこ、だと?

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に大丈夫ですか? 如月先輩」

 

 顔を覗き込むようにして、木虎は一言。

 

「ぼくの顔に何かついてますか?」

 

 ああ、このパターン二度目だなと思いつつ。

 

 龍神はその場から、脱兎の如く逃げ出した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「おかしい、おかしい、おかしい……」

 

 

 これは、ぜったいに、おかしい。

 片方だけなら、まだ分かる。いや、何も分からないが、とにかく男から女になっているだけなら、まだ心の持ち様もある。だが、逆パターンがあるなんて、龍神は聞いていない。全然聞いていない。

 まだ出会っていないが、木虎の例がそのまま他の人物にも当てはまるなら、主にオペレーター女子達がエラいことになっている可能性がある。ボーダーの花が、ラグビー部も真っ青のむさ苦しい何かに成り果てているかもしれないのだ。みんなで梃子の原理を使ってくるむさ苦しい集団になっているかもしれないのだ。ぶっちゃけ見たくない。

 龍神は廊下を駆け抜け、階段を使って下の階に降りる。足は自然と、開発室の方へ向かっていた。開発部が今回の騒動の原因であり元凶かもしれない……という疑念ももちろんあったが、なによりも龍神の心がこの状況に対応するために鬼怒田の存在を求めていた。

 

「鬼怒田さんなら……鬼怒田さんならきっとなんとかしてくれる」

 

 多分、鬼怒田もちびデブでヒョウ柄が似合いそうな近所のおばちゃん風になっているのだろうが、それはそれ。ある意味姿が予想できる分、対面した時のショックは少ないと言える。

 

「ねえ、ちょっと待ってよ!」

「うるせーな!」

 

 ふと聞こえてきた言い争いの声に、龍神は思わず足を止めた。廊下の角からちらりと奧を覗いてみると、通路のど真ん中でやりあっている男女が一組。

 

「いい加減にしなさいよ葉太! あんた、いっつもそうやっていやなことから逃げて! 一体いつになったら本気出すのよ!」

「はぁ……うっぜえな」

「なんですって!?」

「上級者の壁ってのがあるんだよ。マスタークラスに一度もなったことがないお前には分からないだろうけどな」

「っ……あなたはいつもそうやって……」

 

 ややSFチックなデザインの隊服を着用しているメガネ女子や、おかっぱ頭だが整った顔立ちの自己中系イケメン男子に、見覚えはない。しかし、この雰囲気と言い合いに、龍神は強烈な既視感を覚えた。

 

 ――――ていうか、葉太ってなんやねん?

 

 心の中だけ口調を生駒達人にして、龍神はツッコんだ。そんなノリでないと、心が折れそうだった。

 

「待ちなさいよ!」

「うるさい! チームのことなんてもう知るか!」

「葉太、見つけた」

「葉太くん! 探したよ!」

 

 追加で2人がやって来る。今度は、冴えない印象の女子が1人に、メガネに手袋をつけた神経質そうな男子が1人だ。男子が1人だ。男子が1人だ。大事なことなので3回言いました。

 

 ――――やっぱりオペレーターも入れ替わってるじゃん。

 

 龍神は心が折れそうになった。

 

「葉太、作戦室に戻ろう」

「そうだよ葉太くん!」

「花さん! でもコイツ……」

「ちょっと落ち着こう。ちゃんと話せば、葉太も分かるよ」

「ちっ……」

 

 怒りのボルテージがマックス近くまで上がっていたはずのメガネ女子はメガネ男子の一言で大人しくなり、冴えない印象だが実に尽くすタイプっぽい女子の方は葉太(仮称)に熱い視線を送っている。どうやら、いろいろな立場が逆転しても、関係性はそのままらしい。 

 相変わらずアイツら青春してるな……などと思いつつ、龍神は抜き足差し足でそっと後退した。そもそも、元から龍神は香取とは折り合いが悪い。故に、あんな修羅場に突っ込む気は毛頭ない。香取隊(と思わしき面々)から距離を取って、離脱するべく、

 

「覗き見とは、いい趣味じゃねーなー、如月」

 

 後退したら、肩が誰かにぶつかった。

 

「っ……!?」

「おいおい! そんなに身構えるなよ! アタシだよアタシ!」

 

 気配もなく龍神の背後をとっていたのは、1人の女だった。やや長めの黒髪に、おでこ丸出しの白のカチューシャ。一瞬、警戒態勢を取った龍神はその顔を見てすぐに緊張を解いた。これは分かりやすい。

 

「なんだ米屋か……」

「なんだとはなんだ! 失礼なヤツだなー」

 

 ニカっと笑いながら肩を組んでくる米屋の距離感は相変わらずであり、龍神は彼女(過去形で彼)がまるで変わっていないことを確認した。とはいえ、先ほどの木虎と違って、何故かそこそこ大きいモノを押し当てられて、女子っぽいフレグランスを近くでふり撒かれると、こう、男としてはくるものがあるわけで……龍神はさりげなく米屋の肩を外して問いかけた。

 

「任務上がりか?」

「おー、そうだよー。ついさっき終わった」

 

 米屋の服装は龍神の記憶にあるものと、ほぼ同じであった。隊長の生真面目な性格故か、実用性を重視した戦闘ジャケットは濃紺で飾り気がない。ただし彼女の場合、ジャケットを半袖にして缶バッジなどを胸元にあしらっているので、少しだけだが硬い印象が緩和されている。加えて、ボトムスがショートパンツに変化しているので、男だった時よりも活動的なイメージがアップしていた。野暮ったい服装でもアレンジ次第で華やかに映えるのは、女子の役得と言えるだろう。

 

「おっ……香取くん達が、またなんかやりあってるなー」

「…………香取くん、か」

「どした龍神? そんな加古さんの外れ炒飯をまとめて3杯かきこんだみたいな顔して。気分でも悪いのか? なんなら、アタシが看病してやろうか?」

 

 ふっふーん、と米屋が笑う。彼女が何気なく口にした『加古さん』というワードに龍神は寒気を覚えた。

 

「……いや、そんなことはない。ところで米屋、加古さんの話なんだが……」

「ん? 加古さんがどうかしたのか?」

「いや、その……なんて言えばいいのか……アレだな! 加古さんは美人だが、時々本当にエキセントリックな炒飯を出してくるのが玉にキズだな!」

「美人? イケメンの間違いじゃなくて?」

 

 

 ――――マジかよ。

 

 

 金髪の俺様系自信家イケメンが満面の笑みでフライパンを振っている姿を思い浮かべて、龍神は本当に気分が悪くなってきた。

 

「いやー、あの人、お料理男子なのはいいんだけど、食材で冒険するのやめてほしいわー。しかも、ヤバい炒飯引いて食べられずに固まってたら、やたらいい声と顔で「俺が作った炒飯が食べられないのか? しょーがねーな。口開けろよ」って言いながら、あーんって食べさせてくるし……加古さんにアレやられたら、女子は逆らえないなぁ」

 

 やだ、こわい。なんかべつの方向に進化してる。

 

 加古さんとは絶対に会わないようにしよう……と、龍神は頭の中の優先順位の第1位を『この謎の現象の解明』から、『加古さんとの接触の回避』に書き換えた。謎を解明する前に死んでしまっては、元も子もない。

 そんな決心を心の中で固めていると、背後から人の気配がもう1人分。近づいてきた。

 

 

「おい、『ようこ』。いつまで油を売っているつもりだ。はやくいくぞ」

 

 

 後ろからかかった声に、龍神は思わず香取隊の方を見る。見た後で、すぐにそれが間違いであることに気がついた。何故なら、龍神の知る香取隊の『葉子(ヨーコ)』は、今は『葉太(ヨータ)』であり『ようこ』ではないからだ。そもそも、声をかけるには彼らの距離は離れ過ぎている。

 つまり、今の発言は香取隊ではなく、龍神の隣にいる……

 

「……お前か。『ようこ』は」

「え? アタシの名前がどうかしたのか?」

「べつに。ややこしいと思っただけだ」

「いやなんで!? むしろ『陽子(ようこ)』って、すっごいよくある単純な名前でしょ!」

「……ふむ。米屋陽子か。意外と語感がいいな」

「ありがとう……じゃなくて! お前はさっきからアタシの名前を褒めたいのかけなしたいのかどっちだ!」

「強いて言うなら、両方だ」

「両方かい!」

 

 

「――――おい、いい加減にしろ、陽子」

 

 

 いつものノリでテンポのいいやりとりを米屋(陽子)と重ねていた龍神は、不意に後ろから肩を掴まれ、振り向かされた。

 そして、思わず息を飲む。

 やはり、龍神を振り向かせたのは少年ではなく、少女だった。米屋と同じ隊服を崩さず丁寧に着込んでいるために、肌の露出は一切ない。にも関わらず、いやだからこそと言うべきか。はっきり恵まれていると断言できる女性的な体のラインが、淑やかに美しさを主張している。艶のあるストレートロングヘアの黒髪は、戦闘に対応するためかポニーテールで括られており、全身が紺色の中で唯一鮮やかな色合いが目立つ、白のリボンでまとめられていた。鼻は高く、顎のラインは細く、眉尻は鋭く。かわいい、というよりも、綺麗という言葉がパズルのピースを当てはめたかのようにしっくりくる顔の造形は、間違いなく大人になりかけの少女のモノで。大粒の真珠を連想させる黒の瞳は、長めに整えられた前髪の間から、龍神を食い入るように見詰めていた。

 

 まるで、親の仇をみるような……激情の熱がこもった上目遣いで。

 

 

 

「こんなヤツと、関わるな」

 

 

 

 ――――勘弁してくれ。

 

 この夢、はやく覚めないかな、と。龍神は切に願った。




こんかいのとうじょうじんぶつ


『如月龍神』
なにがなんだかわからねぇ。


『あらしやま』
頼れるおねーさん。イケメンであったころの唯一の弱点であった『ブラコンにしてシスコン』という弱点を、おにーさんからおねーさんになることによって、萌えポイントに変換。見事克服した。嵐山さんに「よかったー無事だったかー!」と泣きながらほっぺすりすりされたい男子諸君は少ないと思うが、小南似の黒髪アホ毛おねーさんに「ほんとうによかった無事で!」と抱きしめられながらほっぺすりすりされたい男子はそうですわたしです。巨乳。

『さとり』
ワールドトリガービッ〇ぽい女子ランキングで栄光の一位を勝ち取れそうな逸材。べつにウザかわいいわけではなく、見る人によっては単純にウザい。アホサイドテール、バカツイン狙撃手、小悪魔になりきれない女、アイツ友達なら楽しいけど付き合うのはちょっと……など、数々の異名を持つ。普乳。

『木虎』
ざーさんは少年役もいけるからきっと大丈夫だよ。もちろん、ない。

『香取葉太』
上記の木虎の「この子読者に嫌われるタイプやから巨乳にしたろ」という判断が本当に英断だったと思い知る存在。多分、みんなヨーコちゃんは好きになってもコイツは好きにならない。もぎゃあああとも言わない。意外と胸板は厚そう。

『その他、香取隊の面々』
とくに変化なし

『よねやようこ』
親友枠ヒロイン。近接担当としてある程度の実力を持ちつつ、決め台詞の「と、思うじゃん?」も当然完備。バトルジャンキーな女キャラの人気が出やすい傾向に加えて、カチューシャの脱着による髪型変化までもっている。と、思ったがコイツ、エブリデイカチューシャだから意味なかった。くさってもジャンプヒロインなので、「と、思うじゃん?」からの「腕一本もーらった」のコンボを決めれば、かなり強そう。誰かメガネ持ってこい。巨乳より普乳。

『みわ』
どうしてこうなった枠。
さて、それでは冷静に三輪秀次の特徴を思い出してみよう。

・姉(兄)を敵に殺された。
・復讐を誓っている。
・原作主人公勢と最初に戦闘。
・自分の鉛弾をくらって、くっころ状態から離脱。
・ハンドガンに日本刀という、刀剣、銃持ちヒロイン欲張りセット。
・整った容姿に無骨な戦闘ジャケット。
・黒髪。
・普段着にマフラー。
・思い悩んで、目元にクマとか作っちゃう。
・冴えないメガネの腹に、容赦なくキックをかませる。
・ボスキャラとタイマンで戦闘。
・かませ犬にならず、ボスキャラを圧倒。
・口元を釣り上げて、悪い笑みを浮かべながら「馬鹿が!」とか言っちゃう。
・風刃、起動!
・敵の位置を教えろ!


上述の要素に、ロングヘアを。加えて、普段はストレート、戦闘時はポニーテールのエッセンスを加えてみましょう。なんということでしょう。TSという匠の技により、完璧なメインヒロインが完成しました。びふぉーあふたー。隠れ巨乳。




こういう女キャラヒロインで一本書きたい……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。