以前、イラストを書いてくださった方にお礼として書き下ろさせてもらった短編を、修整したものになります。厨ニの出番はナッシング……熊谷友子と、モテかわだまされガールのお話
ある日。玉狛支部にて。
地下の訓練ルームでは、2人の女子高生が戦闘訓練に興じており……一段落がついたので、小休止を取っていた。
「そういえば、くまちゃんって龍神のことどう思ってるの?」
「ぶほっ!?」
いきなり投げられた予想外の質問に、熊谷友子は口に含んでいたスポーツドリンクを噴き出した。
「ぐほっゴホッ……」
「ちょ、大丈夫!? むせた?」
思わず、乙女にあるまじき咳き込み方をしてしまう。ゲホゴホと呼吸困難に陥る熊谷の背中を、小南桐絵はあわててさすってくれた。数秒間背中を丸めながらさらにゴホゴホして、ようやく息が整ってくる。一度ゆっくりと深呼吸して、それから熊谷は顔をあげた。
「はぁ……あー、うん。大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしただけから」
「びっくりしたって……あたしなんか変なこと言った?」
「変なことっていうか、クリティカルヒットっていうか……」
まさか桐絵ちゃんからそんな質問が飛んでくるなんてね、と。呟きかけた本音は胸の内にしまって、熊谷はきょとんとしている小南の顔を盗み見た。数分前まで活動的なショートヘアだった髪型は、今は綺麗な長髪に変化しており、彼女が首を傾げる動作に合わせて左右に揺れている。
ボーダーでの所属も、そもそも通う学校すら違う小南と熊谷。そんな2人が知り合ったのは、まず第一に熊谷が所属する部隊の隊長……那須玲のおかげだ。小南と那須が通っているのは、三門市でも有名なお嬢様学校の星倫女学院。同じクラス、同じ組織で活動している2人は、元々それなりに親しい間柄だった。その関係の延長で熊谷は那須から小南を紹介して貰い、本部の廊下ですれ違った時には軽くおしゃべりをするくらいの友達になったのである。まあ、玉狛支部所属の小南が本部に来ることはめったになかったので、実際はそんな風におしゃべりを楽しむ機会は本当にたまにしかなかったのだが。
それがどうして、今日、今現在のように、わざわざ熊谷の方から玉狛支部を訪ねて模擬戦をする間柄になったのかと言えば……原因は、まさしく小南が名前を口にした男にある。
――如月龍神。
ボーダー随一の変人にして、ボーダーNo.1厨二病にして、ボーダーの中でも実はかなりの実力を誇る攻撃手(アタッカー)。龍神の特徴を語るなら、大体これで充分だ。しかしそこにひとつ付け加えるとすれば、龍神はその変人っぷりに反して――いや、変人だからこそなのか――無駄に顔が広い。常日頃から『最強』を目指し、「太刀川慶はこの俺が倒す!」と公言して憚らない彼は己の力を磨くための練習相手として、玉狛支部所属の小南とも頻繁に模擬戦を重ねていた。一時期は「もうお前本部所属じゃなくて玉狛支部所属なんじゃねぇの?」(byとある槍使い)という頻度で玉狛支部を訪問していたくらいである。その原因は小南との模擬戦だけでなく、木崎レイジが作るおいしいご飯のせいでもあることを熊谷は最近知ったわけだが、今は関係ないのでとりあえず置いておく。龍神が玉狛に入り浸っていた時期の緑川駿がちょっと荒れて、龍神にケンカをふっかけためんどくさい事件も、とりあえず置いておく。
重要なのは、小南と那須が友達であったように、小南と龍神は互いを認めあうライバルであったということ。そして龍神が熊谷に、模擬戦の練習相手として小南を紹介した……ということだ。
――あたしが桐絵ちゃんと!? 無理無理! 実力差ありすぎでしょ!?
小南桐絵が、迅悠一(セクハラエリート)より前からボーダーに所属していた最古参のメンバーであることは熊谷も知っていたし、しかも彼女はランク戦に参加していない現在でも、No.3攻撃手の肩書きを有している。自分とは格が違いすぎると、熊谷は思っていた。
だが。
――俺はそうは思わない。
龍神はあっさりと言い切った。
――くま。お前は自分の能力を過小評価し過ぎる嫌いがある。お前の防御……特に切り返しや崩しの『巧さ』は、攻撃手の中でも一目置かれているんだ。謙遜する必要はない。
龍神は熊谷の長所を客観的に、けれど力強く語った。
その上で。
――しかし、今のスタイルのままでは限界があるのも事実だ。
龍神の指摘は、まさしく図星だった。
那須の動きをフォローするための防御寄りのスタイル。それを確立させたのは他ならぬ熊谷自身だったが、最近は「このままでいいのか」と思うことも増えていた。間違ってはいない。けれど、正しくもない。心の奥に何かがつっかえたような、そんな違和感。
――どうだ? やってみないか?
結局のところ。
いつも強引な彼の提案を断ることができず、熊谷は格上攻撃手との模擬戦に精を出すことになり……今日に至るというわけだ。
「どうしたの? なんかボーっとして」
「ああ……ううん。そういう質問ってさ……普通、恋バナとかはじめる時の常套句じゃない? だから、ちょっとびっくりしちゃった」
「え、そうなの!?」
騙された時によく出てくる口癖を条件反射で叫びながら、顔を赤くする小南。星倫女学院は女子高なので、もしかしたら彼女はこの手のトークに慣れていないのかもしれない。第一印象はプライドが高くて気が強そう、みたいな表現がぴったり当てはまる小南だが、少し話して仲良くなってくると、不器用に優しく、どこまでも素直で人を疑うことを知らない純粋な面が見え隠れしてくる。見も蓋もない言い方をすれば、人が好すぎるのだ。あまりにも簡単に人の言うことを信じすぎて、ハラハラするくらいである。
にも拘わらず、周りに悪い男が寄ってこないのは、ボーダーの男子が基本的に大人びていることと、女子高という彼女が通う学校の特性。ついでに言えば普段から「弱いやつに興味はない」と公言し続け、なおかつ小南本人より強い人間がボーダーには数えるほどしかいないことが原因だろう。こういうところを見れば、彼女に対して抱く『気が強そう』という印象が決して間違っていないことを再認識できる。
が、それでも外見的にかわいく、性格的にもかわいい面がたくさんあるのは事実なわけで。
(こんな表情とか反応見せられたら、ほとんどの男はコロッといくんだろうなぁ……)
「ちょっとくまちゃん! 黙ってないでなんか言ってよ!」
「あー、はいはい。ごめんねー」
「なによそのテキトーな返事は!」
両手を振ってバシバシと体を叩いてくる小南を、熊谷は軽く受け流す。熊谷にとって、このモテかわだまされガールと仲良くなれたのは非常に楽しく嬉しいことなのだが、距離感が縮まってくると無性にからかいたくなるのが、小南がモテかわガールではなくモテかわだまされガールな所以である。要するに、からかい甲斐があるのだ、この少女は。
(あたしも烏丸くんや如月のこと言えないかも……)
感覚的には、茜をいじる時に近いものがある。
「もーっ! 絶対あたしのことバカにしてるでしょ!」
「してないしてない」
「絶対してるわよ!」
ふんす!と頬を膨らませた小南は「……話を戻すけど」と、会話の流れを軌道修正して、
「で、結局龍神のことはどう思ってるの?」
再びその問いをぶつけてきた。
(あちゃあ……そっちに戻るのかぁ)
小南にバレないように、熊谷は内心で溜め息を吐く。できれば、うやむやにしておきたかったのだが。
「……逆に聞くけど、桐絵ちゃんは龍神のことどう思ってるの?」
「え、あたし?」
そんな風に質問を切り返されるとは思っていなかったのだろう。小南は腕を組み、形のいい唇を尖らせて十数秒沈黙し、そうしてやっと答えを捻り出した。
「……『バカ』ね」
「……それだけ悩んで出てくる答えが二文字ってどうなの?」
「だって『バカ』でしょ? アイツ」
「いやまぁ、そうだけど……」
さばさばしているというかなんというか。如何にも小南らしい、それでいて彼の人間性を簡潔に表現した解答に、熊谷は苦笑いを浮かべた。
「だって龍神のヤツ、ウチに来て迅がいる度に『風刃を起動できるか試させてくれ』とか言うのよ? いい加減諦めろって言わない迅も迅だけど、何回弾かれても諦めないし! それどころか変なセリフ考えて意気揚々と再挑戦しに来るし! これをバカと言わずになんて言うの?」
「あはは……そうだね」
「で、くまちゃんは!? くまちゃん的にはどうなのあのバカは!?」
目を輝かせながら迫ってくる小南。熊谷はそんな彼女から顔をそらして、時計に目を向けた。
「……桐絵ちゃん」
「ん?」
「もう結構遅い時間じゃない?」
「そうね」
「だからさ」
「うん」
「次の……今日最後の勝負であたしに『全勝』したら、さっきの質問に答えてあげてもいいよ?」
◇◆◇◆
身体能力が大幅に強化される『トリオン体』への換装は、ある意味では『変身』と呼べる代物である。が、肉体の操作感などに違和感を生じさせないために、一部の例外を除いて身長や顔などの容姿はほとんど変化しない場合が多い。
小南桐絵は、その数少ない例外の1人だった。
「くっ……」
「どうしたの? さっきから動きが遅いんじゃない!?」
まるで羽のような特徴的なクセっ毛はそのままに。ロングヘアからショートヘアに変化した髪が、風を受けて細かく揺れる。
そして、それに合わせるかのように、小南の両手の手斧がリズミカルに舞う。右、左左、右右、正面、左左左……多方向から振りかかる斬撃を、熊谷は弧月でなんとかいなしていた。
10本全部取られたら、さっきの質問にきちんと答える。
我ながら情けない条件だとは思うが――
「足元甘いわ!」
「ッ……!」
――今の熊谷と小南の力量差は、実際これでちょうどいいくらいだった。
がくん、と体を沈み込ませた小南が、熊谷の足を払う。体勢が崩され、視界が揺らぐ。熊谷はそのまま体を転がし、なんとか立て直そうとしたが、そこに追撃の一発が入った。
右腕が両断され、だめ押しとばかりに胸を袈裟斬りにされる。
『トリオン供給器官破損。熊谷ダウン』
「これで、あと1本ね!」
機嫌よさげに小南が言う。模擬戦を開始して、あっという間に9本が終わった。
現在のスコアは、9対0。
「さっすがくまちゃん。だいぶ粘るようになったわね」
「……粘っても勝てなきゃ意味ないんだけど」
「そりゃあ、あたし強いから!」
傲岸不遜にそう言い切る小南だが、嫌みには感じない。発言に実力が伴っている上に、裏表のない笑顔までついてくるのだ。これでは、その強さに嫉妬する気にすらなれない。
「じゃ、ラスト1本いきましょうか!」
「……ええ」
破壊されたトリオン体の修復が終了する。熊谷は立ち上がった。気持ちを落ち着けるために、深呼吸をひとつ。
自分には、小南桐絵と真正面から戦って勝てるだけの実力はまだない。攻撃を防ぐだけならなんとかなるが、それでは結局ジリ貧だ。だから、考えなければならない。小南の攻撃をどう凌ぐか、ではなく。小南にどう勝つか、を。
「……」
10本目の最終戦。熊谷友子は、初手から打って出た。
「――メテオラ!」
熊谷が現在進行形で小南から教わっている、射撃用の『トリガー』。それを、師匠に向けてお見舞いする。
アスファルトの破片が弾け飛び、爆発と噴煙が小南の視界を奪った。だが、所詮はそれだけ。
「こんなもんでやられるわけないでしょ!」
勢いよく煙の中から飛び出してくる小南。もちろん熊谷も、この程度の攻撃で彼女を倒せるとは思っていなかった。かすり傷を与えられれば御の字のレベル。それくらいにしか考えていない。
だから、すぐさま次の行動に移る。
「えっ……はぁ!?」
小南の驚きの声が、背中に響いた。熊谷はそれを無視して、一番近い距離にあるビルに向かって全力疾走する。
見る人によっては……というか、誰がどう見ても熊谷の行動は、敵に背を向けて『逃げている』ようにしか見えないだろう。
「このっ……逃がすか!」
悪態を吐く小南は熊谷と同じ『炸裂弾(メテオラ)』を展開し、一気に撃ち放った。それらの弾丸と、着弾に伴う爆発をギリギリでかわして、熊谷はビルのドアに頭から転がり込む。
自分の考えた作戦を実行するには、まずこの場所までたどり着くのが最低条件。
(よっし……ここまでは予定通り)
と、心の中で一息吐いた瞬間。
「『接続器(コネクター)』オン!」
熊谷の目の前の壁が、まるでバターか何かのように切り落とされた。
ドアも窓も一切を無視して、自分自身が破断した入り口から、小南桐絵はビルの中に足を踏み入れる。
「悪いけど、逃がさないわよ」
手斧から身の丈を超える大きさに変化した得物を、『ボーダーNo.3攻撃手』は自慢気に構えていた。
双月と接続器。A級番外という特別な立場にいる玉狛第二にのみ許された、本部規格を超えたトリガー。
「……いっつも思うんだけど、そういう専用武器って反則じゃない?」
「そうね。専用トリガーなんてあったら、それこそ龍神あたりは目を輝かせて食いつくだろうし」
「え? あたし、如月から『斧はかませ』って聞いたんだけど?」
プッツン、と。小南の中で何かが切れた音を、熊谷は確かに聞いた。
あまりにもわざとらしい挑発。けれど、効果はてきめんだったらしい。
「あのバカっ……くまちゃんにまでそんな馬鹿な知識を吹き込んで……」
「え? 事実じゃないの?」
「……むっがぁあああ!」
怒りのボルテージがマックスに達した小南は、かませ扱いされた己の専用トリガーを勢い良く振り上げようとして、
「……あ?」
それを振り下ろす"空間"すらないことに、ようやく気がついた。
『接続器(コネクター)』で連結した『双月』の攻撃力は、確かにボーダー最高レベルだ。両手のトリガー出力を集中した刃に切れないものなど、ほとんど存在しない。だが、どんなに鋭い刃物であろうと、振るえなければ意味はない。
「しまっ……」
「建物の中で使うには――」
ほんの一瞬、生じた隙を、
「――デカすぎるでしょ、その得物」
熊谷友子は逃さなかった。
先ほどまでの逃げ腰が嘘だったかのように――実際嘘なのだが――自分から一気に距離を詰めて、弧月を一閃。
結果として、緑の隊服に包まれた小南の右腕が宙を舞う。
(ヤッバイ……)
ようやく通った一撃。しかし熊谷は、悔しげに唇を噛んだ。
(仕留めきれなかった……ッ)
挑発を重ねることで、連結状態の双月を持ったままの小南をこちらに誘導。身動きが取れなくなっているところを、一撃でやる。熊谷が考えていた作戦は、概ねそんな形だった。そしてその作戦は、ほぼ考え通りにうまくいった。
「あっぶな……!?」
ただ、小南桐絵の動物的な反射と素の実力が、その場限りの策略を超えてきた。それだけの話である。
身をよじって熊谷の斬撃をかわした小南は、使い物にならなくなった右腕の代わりに、右脚で熊谷の顎を蹴り上げた。
「ぐっ……」
「『接続器』オフ!」
同時に、まだ繋がっている左腕で連結状態の『双月』を掴み、形態変化(モードチェンジ)。取り回しに優れる手斧に戻った双月を、小南は無造作に振るう。腹部を真一文字に割かれ、熊谷はたまらず後退した。
(まっずい……トリオンの残りが)
熊谷のトリオン量はボーダー基準の数値に照らし合わせると『5』。飛び抜けて低いわけではないが、高くもない。平均よりやや下、という表現が一番しっくりくる数字だ。
これ以上攻撃を受ければ、戦闘体の維持に関わる。熊谷はすぐに踵を返して走り出した。
「あっ! また逃げる気!?」
「逃げるが勝ちって言うでしょ!?」
戦闘体の強化された脚力で文字通り階段を"駆け上がり"、屋上に出る。扉を閉めて、周囲を確認。
近くのビルに飛び移れそうな高さなものはない。出てきた扉の近くには、はしごと給水塔。バッグワームを着てこの裏に隠れる……いや、それも論外だろう。
やはり、ここで勝負をつけるしかない。熊谷は覚悟を決めた。
「逃げるのはおしまい?」
閉めた扉はきちんと開かれず、蹴り破られて吹き飛んだ。ゆっくりと、しかし確実に、小南は熊谷の方へ歩み寄ってくる。片腕だけで『双月』を持つ彼女の顔には、焦燥の色は微塵もない。たとえ片腕だけであろうとも、自分は勝てる。そんな自信が透けて見えた。
生唾を飲み込んで、熊谷は屋上の縁のギリギリまで後退した。
「じゃ、そろそろいただくわ!」
前傾姿勢から、一瞬で小南が踏み込んでくる。刃が、振り上げられる。
1回、2回、3回。手斧と斬り結んだ熊谷は、受け太刀から鍔迫り合いに持ち込み、可能な限りの力で小南を押し込んだ。
「くっ……」
小南の攻撃がいくら素早く、鋭かろうと、刃を噛み合わせた状態で押しあえば、熊谷の方に分がある。
「こんのッ……」
(仕掛けるなら……ここか!)
ムキになって押し返してくる小南。熊谷はそれに対して張り合うようなことはせず……むしろ逆に、力を抜いて身を引いた。
「……ぇ!?」
小南の体勢が、大きく崩れる。つんのめるように、前に倒れる。それと同時に熊谷は大きく前に体を転がして、小南との距離を取った。
「メテオラぁ!!」
これが、最後のチャンスだと思った。
間髪入れずに射撃トリガーを展開、全力掃射。目標は小南……ではない。屋上の縁、彼女が立つ足場の方だ。
「しまっ……!?」
小南はやはり動物的反射でシールドを張り、メテオラの爆風から身を守っていた。しかし1人分のシールドで、自身が立つ足場までカバーすることはできない。
崩れる足場。落下する体。バランスを崩された状態からそんなシチュエーションに持ち込まれては、もはや小南はビルの屋上から自由落下するしかない。
そして、落下する彼女を追って、熊谷も跳ぶ。
「旋空――」
小南桐絵は『グラスホッパー』を使わない。
だから、
「――弧月!」
空中で、熊谷が繰り出すその斬撃を回避する術はなかった。
◇◆◇◆
最終スコア、1対9。
小南桐絵の勝利である。
「ぬぁああああああ! 負けたぁああああああ!」
「いや、総合したら圧倒的にそっちが勝ってるからね?」
対戦後。
ソファーに突っ伏して盛大に悔しがる小南を見、熊谷は呆れた声で呟いた。
「だってだってだって! あとちょっとでくまちゃんの気持ち聞き出せたのに! 玲ちゃんも気になるって言ってたし!」
「……玲のヤツ」
今日の小南は妙にしつこいと思っていたが、そういうことなら合点がいく。熊谷達の隊長は育ちが良くおしとやかなように見えて、あれで案外いたずら好きなところもあるのだ。
それ以上のため息は飲み込んで、熊谷は再び口を開いた。
「ていうかそもそも……べつにあたし、如月のことなんとも思ってないわよ」
「え? そうなの!?」
「そりゃあ、桐絵ちゃんの言う通り強いことは強いし、それなりに世話にもなってるけど……そういうのって、恋愛感情とかとは別問題でしょ?」
「んー、そういうもんかしら……」
「逆に聞くけど、桐絵ちゃん。今好きな人いる?」
「……特にいないわね。女子高だし」
「ね? 意外とそういうもんなのよ。大体、こんなバリバリ戦ってる女子に男共は寄り付かないでしょ?」
「あー、うん。たしかに……?」
なるほどねー、まぁ、くまちゃんはモテるタイプだし……と素直に頷く小南桐絵は、やっぱり"騙されやすい"。
熊谷は心の中で手を合わせて、目の前のモテかわだまされガールに深く深く謝罪した。とはいえ、全負けしたら喋る、というルールで戦っていたのだから、別に約束をやぶっているわけではない。
それに、正直に言えば嘘をついているわけでもないのだ。
あの馬鹿のアホ面を、こっそりと思い浮かべる。
胸の中に抱いた、この気持ちの正体が何なのか。
まだ少し……よくわからない。