厨二なボーダー隊員   作:龍流

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7/23 甘口ポン酢様よりいただいた挿絵追加


月と蠍☆

 集団戦は、個人対個人の戦いのように単純ではない。

 攻撃のタイミング、それによって生じる隙のカバー、敵にプレッシャーをかける立ち回り。個々の戦闘力や特性、陣形や地形、数の優劣。無数の要素が絡み合って、部隊単位の戦闘は進行していく。様々な視点から客観的に考察しても、戦闘の序盤を有利に進められるのは、遠征部隊と三輪隊の合同チームのはずだった。

 そう。はずだったのだ。

 

「おいおいマジかよ。この地形、全然射線が通らねーじゃん」

 

 冬島隊の狙撃手(スナイパー)、当真勇は『イーグレット』のライフルスコープを覗き込みながら、そうぼやいた。この中に敵の頭が映り込めば、一発でズドン、なのだが……あいにく見えるのは味気ない民家の屋根や電柱のみである。

 当真達のチームが迅達に比べて優れているのは、まず単純に人数で勝っていることだ。敵が6人に対して、味方の人数は11人。ほぼ倍に近い。

 

「あーあー、これじゃあおれらは仕事になんねーよ。なあ、奈良坂?」

『ぼやいている暇があったらさっさと狙撃ポイントを確保してくれ、当真さん。完全にこちらが後手に回っているぞ』

 

 へいへい、と当真はやる気のない返事を返した。奈良坂の言葉通り、嵐山隊の狙撃手(スナイパー)の佐鳥はもうとっくに狙撃位置についているだろう。もっとも、あちらもこの乱戦、この障害物の多さでは、まともな援護狙撃はできまい。攻撃手(アタッカー)組が白兵戦を演じているのは、住宅街の真ん中もど真ん中。しかも周囲は一軒家ばかりで、狙撃に必要な高さと角度が確保しにくい。

 当真、奈良坂、古寺の3人が狙撃ポイントを確保するまで、3人分の数の有利が殺されるのだから、これに関しては完全にあちら側の作戦勝ちだ。

 

(ま、迅さんはそれ込みで『勝てる』って踏んでるんだろーが……)

 

 そううまく、"事"を運ばせる気はない。心中でぼやきながらも、当真はやや距離が離れたマンションに向けて走り出した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 オプショントリガー『旋空』によって拡張された『弧月』のブレードが、周囲の民家の塀を薙ぎ払った。迅と龍神、嵐山隊は、飛び退いてそれをかわす。

 大振りで、スピードもキレも無い攻撃。ただの牽制のつもりで放った一撃だろう、と龍神は思った。

 

「俺と迅さんで前衛をやる。援護は任せていいか、嵐山さん?」

「ああ、もちろんだ。いいな、充、木虎?」

「了解です、嵐山さん」

「迅さんは援護します。この人は知りません」

 

 三者三様の答えが返ってきたが、最後の1人は聞かなかったことにして、龍神は太刀川に向かって突進する。

 

「さあ、いくぞ! 太刀川っ!」

「うわ、こっち来んなよ、バカ」

 

 突っ込んでくる龍神に対して、太刀川は再び『旋空弧月』を振るった。さっきと変わらず、ぬるい一撃だ。龍神の足が止まったのは一瞬だったが――彼らにとってはそれで充分だったらしい。

 闇の中で、ブレードの光が瞬く。自分に向かって振りかぶられた鋭い一閃を、龍神は『弧月』でなんとか受け止めた。切り結んだのは、刀身の中央が空洞になるように形成された、ナイフ型の『スコーピオン』。

 

「眼中にあるのは太刀川だけか? 随分と余裕だな、如月」

「……これは失礼、風間さん」

「ボク達は相手にする必要もないっていうアピール? なんかウザいんだけど?」

 

 

 

 正面で風間と鍔迫り合いをしている状態で、右からは菊地原が。左からは無言で歌川が迫っていた。2人の手には、風間と同様に『スコーピオン』が握られている。

 

 ――挟まれたか。

 

 両手で握っている『弧月』に力を込め、龍神は風間を斬り払った。体格差と、なにより『スコーピオン』が受け太刀に弱いこともあって、風間は龍神の挙動に合わせるように体を後ろへと流す。風間の攻めは押しが弱いようにも思えるが、もし俯瞰的にこの状況を見ることができたなら、彼が退いたのがいかに完璧なタイミングだったかが分かるだろう。

 龍神は、『弧月』を完全に振りきっている。そこへ菊地原が、遠慮も躊躇もなく、『スコーピオン』を『トリオン体』の急所である頭部目掛けて突き出した。

 

「ちっ!?」

 

 龍神は上体を地面に平行になるほど倒して、紙一重で刃をかわす。仰け反るというよりは、倒れ込んだような、そんな体勢だった。

 ここから立て直すのは、不可能だ。

 

「はい、終わりだよ。かっこつけさん」

 

 菊地原が呟き、絶妙にタイミングをずらした歌川が、両手に『スコーピオン』を携え、体勢を崩している龍神に飛び掛かった。

 確かに、攻撃手(アタッカー)の手本のような連携だ。

 しかし、この瞬間。相変わらず苛立ちを募らせる菊地原の言葉を耳にして、龍神は危機感や焦燥とはまったく別の感情を抱いていた。

 

 ――菊地原うぜぇ。

 

「"天舞"」

 

 呟きとともに、龍神は『テレポーター』でも『シールド』でもなく、『グラスホッパー』を起動した。足元と背中に設置した2枚の『グラスホッパー』は右足と右肩に触れて反発する。

 背中は地面に平行のまま、体が浮き上がった。あえてバランスを片寄らせた反発で、体は勢いよくロールする。

 既に左手だけで保持している『弧月』は、歌川への迎撃に。菊地原には――

 

「……え?」

 

 顔面に向かって、ロールの勢いをフルに活かした握り拳を叩き込んだ。

 仕留めた思ったその瞬間に、菊地原士郎の視界は激しくぶれて、道路の上を二転三転し、転がりながらもなんとか体を起こし、膝をついた。

 

「ぐっ……」

「……思ったより吹っ飛ばんな。レイジさんのようにはいかないか」

「……ほんとむかつくなぁ」

 

 頬を拭う菊地原がもう一度攻撃を仕掛けようとした瞬間、龍神の背後からマズルフラッシュが連続して瞬いた。

 

「油断するなよ、菊地原」

 

 『シールド』、と菊地原が手を前に突き出す前に、いつの間にか彼の背後に立っていた風間が自分の『シールド』で銃弾を受け止めた。立ち上がり、走り出して再び敵との距離を取りながら、風間は会話を『トリオン体』の無線通話に切り替えた。

 

「(嵐山達の援護もある。突出した如月を食おうとして深追いすれば、逆にこちらが食われるぞ)」

「(すいません、風間さん。仕留め切れませんでした)」

 

 歌川の右腕は浅いとはいえ斬りつけられ、漏れだした『トリオン』が尾を引いていた。

 

「(気にするな、歌川。それよりも動けるか?)」

「(大丈夫です。戦闘の続行に支障はありません)」

「(今の連携で殺し切れないとか……ウザいなぁ)」

 

 風間がそれに答える前に、龍神が右拳を開きながら口を開く。

 

「菊地原があまりにもぶうぶうと五月蝿いからな。一発殴らせてもらったぞ」

「『グラスホッパー』で体勢を強引に引き上げ、空中でロール……腕を上げたな、如月」

「風間さんに誉められるとは、光栄だな!」

 

 ガキィン!

 独特な衝突音と共に、再び刃を合わせる龍神と風間。今度こそ、と菊地原と歌川が彼らを取り囲みにかかるが、

 

「『メテオラ』」

 

 嵐山が放った『炸裂弾(メテオラ)』が道路の中央で爆発し、攻撃手達の視界を遮った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「さて、ここからが問題だな。どうする、迅? 龍神くんやお前と、俺達は固まって戦った方がいいか?」

 

 一旦、太刀川達との距離を取り、迅達5人は民家の屋根の上で今後の戦略を練っていた。

 

「いや、どうせあっちはこっちを分断しにくるだろ。風間さんとかがそっち行ってくれるとありがたいけど……まあ、絶対こっちに来るだろうな」

「ウチの隊には三輪先輩達が当たってきそうですね。『鉛弾(レッドバレット)』がありますから、最悪ぼく達の足を鈍らせて、玉狛へ向かうという手もあります」

 

 時枝の分析に、嵐山も賛成した。

 

「そうだな。なら、ウチの隊で三輪達を引き受けることになるが……」

「私もそれがいいと思います。狙撃手(スナイパー)の頭数で負けている以上、まだ位置が知られていない佐鳥先輩と連携した方が有利でしょうし」

『おお!? 木虎ってばオレを頼りにしちゃってる!? いいぜ、いいぜ! オレのツイ』

「それに、この人は止めても迅さんと一緒に太刀川さんのところに行くでしょうし」

『せめて最後まで言わせて!』

 

 佐鳥から入った通信は一切無視し、木虎は龍神をじろりと睨んだ。

 

「ふっ……よく分かってるじゃないか、木虎。お前の言う通り、俺の狙いはただ1人、太刀川慶だけだ!」

「流石だな、如月。熱い闘志に火が点いている!」

「嵐山先輩、この人をおだてないでください。すぐ調子にのります」

「人を素直に尊敬できない人間に言われても、微塵も響かんな」

「あなたはその口を閉じて仕事だけしてください。そうすれば、まだマシに……」

「はいはい、口喧嘩はそこまで。嵐山さん、迅さん。レーダーに感知ありです」

 

 フォローの達人である時枝が、木虎と龍神の間に割って入りながら報告する。よし、と迅が手を叩いた。

 

「了解。それじゃ、龍神は借りてくよ、嵐山」

「ああ、やられるなよ、迅」

 

 それを合図に、5人全員が立ち上がった。結局、龍神、迅のペアと嵐山隊という組み合わせになったが、急拵えのチームに分かれるよりはこちらの方が良いだろう。

 と、龍神はあることを思い出して、明らかに不機嫌な背中に声を投げた。

 

「ああ、木虎」

「なんですか? まだ何か?」

「危うく言い忘れるところだった。実は、お前に頼みがある」

「嫌です」

 

 即答だった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「風間さん、いました! 迅さんと如月先輩です!」

 

 2人の姿を視認した歌川が、声を張り上げる。それを聞いて、太刀川は顔を綻ばせた。

 

「よしよし、きたきた! 風間さん、手筈通りに!」

「分かっている。お前が迅を止めている間に、俺達で如月を先にやる。狙撃手(スナイパー)組は出来る限り射線を確保しろ。狙えるなら、迅でも如月でもどちらでも構わん。当てられる方に当てていけ」

『奈良坂了解』

『古寺、了解』

 

 風間の指示が終わるのと、馬鹿が再び突っ込んできたのは同時だった。

 

「待たせたな! 太刀川!」

「うっわ。こんなイタイ人の相手とかほんとに嫌なんだけど」

「なら、そこをどけ、菊地原!」

「風間さんの命令だし。しょうがないから、あんたはぼくが落とすよ」

 

 『弧月』と『スコーピオン』が交差し、剣戟が闇の中で火花を散らす。龍神としてはすぐにでも太刀川を斬りに行きたいところだが、風間隊の壁を突破するのは容易ではない。

 

「はしゃぐのはいいけど、あんまり突っ込み過ぎんなよ、龍神。まだやられてもらっちゃ困るからなー」

「ははっ! 他人の心配とは、余裕だな、迅!」

「太刀川さんも遠征帰りなのにテンション高いね。疲れとか溜まってないの?」

「お前とやり合えるんだ! そんなものは置いてきたさ!」

「できれば持ってきてほしかったな、それ!」

 

 龍神が風間隊に囲まれている間に迅と太刀川も交戦を再開し、『風刃』と『弧月』をぶつけ合っていた。龍神の目的は太刀川だというのに、当の太刀川は迅しか眼中にないらしい。

 

「やはり、先にこちらか……旋空伍式――野薊!」

 

 このままでは拉致が明かない。接近してくる風間隊の3人に向けて、龍神は牽制代わりの『旋空弧月』を打ち込んだ。

 

「うわ、技名とかだっさ」

 

 当然、ただの『旋空弧月』で風間隊の面々を倒せるはずもなく、全員が『シールド』すら使わずに飛来した斬撃を回避する。

 

「無駄口を叩くな、菊地原」

 

 後方へ飛び、駐車場の屋根に着地した風間は、『スコーピオン』を構えつつ龍神を見下ろした。

 会話の内容を龍神に聞かれない為に、通信音声に切り換える。

 

「(ヤツの技は確かに下らんように見えるが『姫萩』と『赤花』だけは厄介だ。如月に"突き"の構えはとらせるな。『テレポーター』にも注意しろ。お前達なら1対1でやられることはないだろうが、とにかく何をするか分からんヤツだ。連携で確実に削っていくぞ)」

「(了解です、風間さん)」

「(えー。『テレポーター』からの斬撃なんて、ただの初見殺しですよ。三輪先輩はやられたみたいですけど、ぼくは経験済みだからもう引っ掛かりませんよ)」

「(……それ、結局お前も1回やられてるってことだよな? だから如月先輩に対して当たりが強かったのか?)」

「(……もう、うるさいなぁ。ぼくからいきますよ)」

 

 歌川からの突っ込みは無視して、まずは菊地原が龍神に対して仕掛けた。

 2本の『スコーピオン』を『弧月』で捌きながら、龍神が菊地原に問う。

 

「俺を殺し切る算段はついたか?」

「その『弧月』、刀身黒いとかなにかっこつけてんの? 見えにくいんだけど?」

「それはなによりだなっ!」

 

 皮肉には皮肉で返し、『弧月』を斜め上から振り下ろす。『弧月』使いと『スコーピオン』使いが斬り合う場合、『スコーピオン』を使う側は防御には回れない。受け太刀に弱い『スコーピオン』では、守りにはいった時点で防ぎきれないからだ。故に『スコーピオン』使いは『弧月』使いとの接近戦では手数で勝負する必要がある。

 が、菊地原は口のわりには攻勢には出ず、見にくいと言った『弧月』をあっさり避けて後ろへ下がる。入れ代わりに、風間と歌川が飛び出してきた。

 

 

(やけにプレッシャーが薄いな? 風間隊の連携はこんなものではないし、『カメレオン』を使う様子もない。こちらも、もう少し下がるか……?)

 

 そう考えた瞬間、

 

「龍神っ!」

 

 耳に入ってきたのは、滅多に聞かない迅の叫び声。顔をあげ、右斜め前方の彼方で、一瞬何かが光ったのを龍神は見た。そして、飛び上がる。

 

 ――狙撃。

 

 かすった足から『トリオン』が漏出する。迅が叫ぶのが少しでも遅れていれば、自分はこの一発でリタイアしていただろう。

 肝が冷えた。

 

(だが、奈良坂や当真さんなら片足は確実にもっていかれていたハズ……古寺か?)

 

 狙撃手の正体に当たりをつけながら、射線に建物が被るように走る。が、そんな行動を風間隊が許すわけがなかった。

 龍神を追いかける菊地原が、また口を開く。

 

「迅さんと違って、あんたは狙撃を避けられない。このままじゃジリ貧だよ、かっこつけさん?」

「ふっ……煽るなよ。お前から斬りたくなるだろうが」

「やればいいじゃん」

 

 菊地原の挑発は非常に腹ただしいが、事実であることは否定できない。迅は予知の『サイドエフェクト』で狙撃を回避できるが、龍神にはそんな便利な能力はない。

 というか、未来予知とかめちゃくちゃ欲しい、と龍神は思うのだが……

 

「……まあ、無い物ねだりをしても、仕方ないか。旋空――」

 

 立ち止まり、両足を広げ、『弧月』を左手の片手持ちに変える。龍神のその動作だけで、風間は次の行動を看破した。

 

「(『姫萩』だ。仕掛けろ!)」

「やらせるか!」

 

 歌川と風間が『旋空』による刃の延長線上外――即ち、龍神の懐まで一気に飛び込む。

 龍神は堪らず、

 

 

「――――死式」

 

 

 口元を糸で引いたように、吊り上げた。

 

「っ!?」

「菊地原!」

 

 やられた、と。

 歌川はその瞬間の攻撃からは外れていた仲間に向けて、声を張り上げた。

 『旋空弧月』を撃つ、と見せかけた『テレポーター』

 『姫萩』に見せかけた『赤花』

 風間と歌川の前から消え、龍神が狙う目標は1人しかいない。

 

「……だから、分かってるって」

 

 しかし、菊地原は冷静だった。むしろ歌川からの警告は、彼にとっては無用な雑音でしかなかった。

 

 菊地原士郎の『サイドエフェクト』は『強化聴覚』

 

 『テレポーター』を利用した瞬間移動斬撃という技の性質を理解しており、敵の姿を目で捉える必要のない菊地原にとって、龍神の攻撃はタネがわれたマジックも同然だった。

 そして、菊地原の『耳』は、右方向からコンクリートを踏み締める力強い音を確かに捉えた。

 

「よっと」

 

 馬鹿みたいに、鋭い斬撃。一撃で自分を仕留めようとしていたことがありありと分かる、見え透いた攻撃だった。もちろん、菊地原がそれを食らうはずもない。

 『弧月』の一閃は、むなしく宙を切る。

 

 

「…………えっ?」

 

 

 だが、菊地原の視界は、またもや揺らいだ。

 拳を受けた時とは違う。見える景色が、まるで宙返りしたように逆さまになっていた。

 そのまま景色はゆっくりと回って――自分の胴体が逆さまに見えたことで、菊地原は自分が首を斬り飛ばされたのだということに、ようやく気がついた。

 

『戦闘体、活動限界』

 

 最後に見えたのは、いけ好かない笑みを浮かべている先輩の顔と、彼の『右手』で輝く刃だった。

 

 

『緊急脱出(ベイルアウト)』

 

 

 一筋の光が、夜空に向けて舞い上がった。

 

「き……菊地原!?」

「余所見をするな! よけろ、歌川!」

 

 集団戦において、味方がやられた瞬間は、どうしても注意がそちらに向く。

 敵にとっては、最大のチャンスだ。

 

「ほいっと!」

 

 その一瞬に、迅悠一は微塵も躊躇わず、『風刃』の最初の一撃を叩き込んだ。

 しまった、と思った時には、歌川遼の視界は真っ二つに割れていた。それが地面からのびた『斬撃』によるものだと、体の中心を切られたのだと、思い至る暇すらなく、

 

『緊急脱出(ベイルアウト)』

 

 彼の体を構成する『戦闘体』が、限界を迎えた。

 一気に、2人。それも自分の部隊の部下を落とされて、風間は唇を噛み締めた。

 

「……やられたな」

「わりぃ、風間さん。迅を抑え切れなかった」

「いや、こちらのミスだ」

 

 太刀川の謝罪をやんわりと流して、風間は龍神と迅の2人を見据えた。

 歌川を仕留めたのは、迅の黒(ブラック)トリガー『風刃』による遠隔斬撃。その攻撃の強力さは風間も理解していたし、太刀川が彼を抑えているという判断が早計だったとはいえ、『風刃』に1人"食われる"のは、まだ想定内だ。

 

「おいおい、龍神。なにいきなり菊地原の首とばしてんだ? お蔭でこっちもプラン変更せざるを得なくなったじゃないか」

「このままではやられる、と思ったのでな。迅さんも歌川に『風刃』を使っただろう? 悪いがプランは『アイン』から『ズィーベン』に変更だ」

「ごめん。おれのプランは『A』と『B』しかないんだけど……? てゆうか、それ何語?」

「ドイツ語だ」

 

 問題は迅ではなく、もう1人の馬鹿の方だ。

 風間は問い掛けた。

 

「……はじめて見たな。今まで隠していたのか?」

「とっておきの切り札は、最後までとっておくものだろう?」

 

 『弧月』の一撃を避け、勝利を確信した菊地原を風間は責めることができない。龍神が『それ』を使うのを見るのは、風間もはじめてだったからだ。

 

「月並みな台詞で申し訳ないが……ここからは、俺も本気でやらせてもらう」

 

 左手に『弧月』。

 右手に『スコーピオン』。

 太刀川慶と同じ『二刀流』の構えを取り、如月龍神は残る2人へその刃を向けた。

 

 

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