厨二なボーダー隊員   作:龍流

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『神は賽子(サイコロ)を振らない』

 迅悠一は、未来を視る。

 その希望を掴み取るために、あらゆる未来を探り出す。

 

 三雲修が、倒れていた。ブレザーの腹の部分は血で染まり、揺さぶられても反応はない。必死に止血の処置を施す米屋の表情は蒼白に染まっていて、それだけでこの未来はダメだと確信できた。

 

 次だ。

 大量に連れ去られた隊員の中には、C級だけでなくB級も含まれていた。涙を流している笹森や、顔を伏せている嵐山の姿が見えた。それらの隊員のリストを見詰める忍田の口元は、悔しさで真一文字に嚙み締められていて、青ざめた根付は頭を抱えてうずくまっていた。

 

 次だ。

 街の被害は甚大で、トリオン兵の侵攻を許した地区は壊滅状態になっていた。静かに涙を流している烏丸は、潰れた家の前で呆然と膝をついていて、その背中に小南がそっと手を添えていた。

 

 次だ。

 敵の急襲を受けたのであろうボーダー本部は、もはや壊滅状態だった。重傷を負ったオペレーター達が担架に寝かされていて、その中には迅も見知った顔がいくつもあった。声を張り上げる鬼怒田の表情は、張り裂けそうだった。

 

 次。次。次。次。次。次。次。

 数え切れない絶望の可能性を、一つずつ。その結末を、迅は丁寧に確認していく。

 未来視は、決して万能の力ではない。

 目の前の人間の少し先の未来を視たところで、どうしても変わらない結果というものは存在する。だから、どこまでも慎重に、最善を選ぶ。

 

 自分の趣味は暗躍だ、と。割り切ってそう言えるようになるまでに、随分と時間がかかった。

 暗い未来に、必死でライトの光を当てて。少しでも上等な結末が迎えられるように、ただ飄々と笑って踊る。

 まるで道化だと、自分でも思う。

 

 それでいい。

 

 それで救われる命があるのなら、自分はいくらでも道化を演じてみせよう。

 

 迅悠一は、地獄を視る。

 その絶望を潰すためなら、未来を摘み取ることも厭わない。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 個人ランク戦ブースがざわついていた。

 

「む……なんか騒がしいな?」

 

 今日も今日とて研鑽に勤しむため、本部まで来た空閑遊真は、きょろきょろと周囲を見回した。

 

「だねえ。あんま個人戦しない人がやってんのかな? 風間さんとか?」

 

 遊真の隣を歩く緑川も、遊真に倣って周囲を見回す。とはいえ、緑川も遊真と背丈はそう変わらないので、やはりざわついているC級隊員が見えるばかりで、あまり意味はない。人波の間を縫って、二人はモニターが見えそうな位置まで移動した。

 やはりというべきか、モニターの前まで行くと見知った正隊員の姿があった。

 

「荒船さん!」

「お、緑川と……玉狛の白チビか」

「どうもどうも。空閑遊真です」

 

 初対面に近い荒船にぺこりと頭を下げつつ、遊真は隣に立つもう一人に笑いかけた。

 

「むらかみセンパイも。お待たせしたかな?」

「いや、今来たところだ」

 

 荒船の隣に立つ村上鋼は、その挨拶に軽く頷いた。以前、ROUND3で龍神を含めた三つ巴の戦闘を繰り広げて以来、個人戦の約束を取り付けたり、遊真は村上との付き合いが増えた。今日も、夜の部のランク戦が始まる前に、緑川を交えて個人戦をする約束をしていたのだ。

 

「荒船さん、なんかみんな騒いでるけど誰かめずらしい人が戦ってんの?」

「いや、べつに珍しくはない。ただ……」

「ただ?」

「説明するよりも、見た方が早いと思うぞ」

 

 荒船に勧められるまま、モニターを見上げる遊真と緑川。画面の中で戦っているのは、2人もよく知っている隊員だった。

 如月龍神と太刀川慶だった。

 

「なんだよ~、たつみん先輩と太刀川さんじゃん。あの二人、いつも個人戦してるようなもんだし、こんなのめずらしくもなんともないよ」

「たつみ先輩は、いつも太刀川さんと個人戦してるのか?」

 

 ボーダーに入ってまだ日が浅い遊真は、そのあたりの事情に明るくない。質問をすると、緑川は呆れたように肩を竦めた。

 

「そりゃあね。たつみん先輩も太刀川さんも、よねやん先輩みたいに、暇な時は大体個人戦してるようなバトル大好き人間だし。それにあの二人がやると、いつも太刀川さんが全勝するから見ててつまんないだよね」

「全勝? たつみ先輩がいつも負けてるってことか?」

 

 緑川の説明に、遊真は思わず首を傾げた。いくら太刀川がボーダー本部で最も実力のある攻撃手だとしても、あの龍神が一本も取れずにいつも負けているとは考えにくい。

 

「うん。オレもたつみん先輩が弱いとは少しも思ってないけど……なんていうか、太刀川さんとは相性悪いんじゃない? 手ぇ抜いてるのかな~って考えたこともあったけど、そんなことする理由もないし。荒船さん、これ十本勝負だよね? 今何本目?」

「五本目」

「どっちが何本とってるの?」

「今のところ、太刀川さんが全勝だ」

「やっぱそうかー」

 

 二宮さんとか、そういうレアキャラが見れると思ったのになー、と。愚痴る緑川は、さっさと踵を返した。

 

「遊真先輩、オレらもはやく個人戦しに行こうよ。多分これ、観戦しててもそんなにおもしろくないよ」

「いや、観てくよ」

「え?」

 

 モニターの中の龍神を……正確に言えば、モニターの中の龍神の表情をじっと見つめたまま、遊真は動かない。頭の上にクエスチョンマークを浮かべている緑川の首を、荒船もここぞとばかりにヘッドロックした。

 

「白チビの言う通りだぞ、緑川。最後まで観ていけ」

「いだだ……えー、なんで?」

「よく考えろ。龍神の野郎がいつも通りなら、こんなにギャラリーが集まって、騒ぎになってるはずがねーだろ」

「それは……」

 

 緑川の声は、どよめきで遮られた。

 見上げた先の光景を見て、緑川もようやく、遊真や荒船の言わんとしていたことを理解する。

 弧月がぶつかって、火花を散らす。

 スコーピオンが、閃き砕ける。

 画面の中で再開された攻防の、その異常な密度に、緑川は言葉を失った。

 

「……なにあれ?」

 

 斬って、斬って、斬り返してはまた斬る。

 攻撃手というポジションの中で、太刀川慶は紛れもなく最強だ。ワンセット斬り合えば、大抵の相手は斬られて落ちる。緑川も、一矢報いるようなことはあっても、ほとんどはそのように切り捨てられてきた。

 そんな、№1攻撃手を相手に。

 龍神は障害物も何もないステージで、真正面から食らいつき、拮抗し、あろうことかその首に刃を突き立てようとしていた。

 モニターを見上げる隊員達が目を離せない理由は、単純だ。

 

 もしかしたら、勝てるんじゃないか? 

 

 これ以上なくシンプルな、如月龍神への期待。

 

「今日の如月は、いつになく気合いがのってるな」

 

 村上が言う。

 

「ああ。太刀川さんも、あのバカのテンションに釣られてんだろな。トップギアでぶつかってやがる」

 

 荒船が頷く。

 

「すっげぇ……これ、もしかしてたつみん先輩が勝てるとこ、見れるんじゃ!?」

 

 緑川が瞳を輝かせる。

 誰もが期待に胸を躍らせる中。同じようにモニターを見上げる遊真だけは、二人の戦いの中に、違うものを見ていた。

 

「……」

 

 龍神も、太刀川も、喜びに近い感情を発露させながら、剣を振るっている。とても楽し気に、刃を交えている。

 しかし、決してそれだけではない。

 空閑遊真は、あの表情をよく知っている。その表情を、ずっと戦場で見てきた。

 戦いの興奮に身を委ねながら、負けられない……負けたくない、と。死に物狂いで勝利を掴もうとする、人間の強欲。研ぎ澄まされた刃を向ける、その対象はきっと二つしかない。

 

 誇りと命。

 

 あの二人は今、そういうものを賭けて戦っている。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ひりつくような闘志が、はじける剣戟の光彩に、火を灯す。

 十本勝負の、五本目。四連敗を喫した龍神に、本来なら後はない。十本の中で、たった一勝。その条件は、やはり太刀川からしてみれば圧倒的に不利で、龍神にとっては非常に有利なものだった。

 自分はあと、六回負けることができる。その六回の中で、勝てるタイミングを、チャンスを模索していけばいい。派手好きでありながら論理的な戦いの組立てを好む普段の龍神なら、そう考えていただろう。あるいは、意図的にペース配分して太刀川の集中力を削り、隙ができたところを狙おう、と。自分が負けることすら織り込んで、最終的な勝ちを拾いに行ったはずだ。

 だが、今は違う。

 今の龍神は、自分が太刀川に勝てる、と。自分自身を信じて疑わない。

 

 故に。繰り出す斬撃の全ては、必殺でなければならない。

 

 意識を、する。

 剣の握り方を、指先に至るまで。

 イメージを、する。

 刃の振り方を、腕の細部に至るまで。

 意識され、イメージされた斬撃は、今。

 

 明確な『進化』を遂げた。

 

「っ」

 

 叫びはない。技ではない。

 それはつまるところ、両腕で振り下ろされた、ただの弧月の一閃に過ぎなかった。

 しかし、その何の変哲もない一撃が、

 

(最高だ)

 

 まるで沸騰するように、太刀川慶の精神を一瞬で泡立てたことは、紛れもなく如月龍神の進化の証明であった。

 

(一撃が、重くなった!)

 

 続けて、龍神が横薙ぎに振るった弧月を、太刀川は受け止める。受け止めて、実感する。

 動きの質が先程までと比べて、劇的に向上している。

 押し込まれる。

 一撃を受け止める度にブレードが軋むような錯覚を覚えながら、それでもなお太刀川の胸に満ち満ちるのは、これ以上ないほどに色濃い歓喜の念だけだった。

 

「いいぞ」

 

 短く評して、反撃の一閃。しかし、繰り出した斬撃は龍神の髪を掠める程度で、完全に読まれていた。

 

(見切りの精度も上がっている!)

 

 両手で弧月の柄をしっかりと握り、龍神は太刀川を押し込みにかかった。龍神は一刀。太刀川は二刀。手数では太刀川が有利だが、膂力では龍神に軍配が上がる。

 

(両手で弧月を握るなら、スコーピオンはない……)

 

 と、思わせるのが狙いだったのだろう。

 ぐっと体を沈み込ませた龍神が、弧月を構えるのと同時。太刀川は跳躍して地面から両の足を離した。瞬間、太刀川が踏み込んでいた地面から、鋭い光刃が顔を出す。

 

「見え見えだぜ」

 

 もぐら爪と呼ばれる、スコーピオン使い特有のその小癪なテクニックを、太刀川は完璧に看破していた。上空への回避と同時。自由落下の勢いを活かして、両手の弧月を真上から叩きつける。

 サイドエフェクトの影響で動きのキレが向上したとしても、技の冴えはそれでもなお太刀川が上。

 サイドエフェクトの影響で思考が滑らかになったとしても、読み合いはそれでもなお太刀川が上。

 だが、如月龍神のイメージは、既に太刀川慶に勝利する自分自身を思い描いている。

 龍神の手のひらの中で、弧月の刃が裏返る。太刀川の弧月を受け止めるために使われるはずだったそれを、龍神は自分自身に向けた。

 

「っ……!?」

 

 そして、斬る。

 太刀川を、ではない。自分自身の右足を、だ。

 

(うそだろ、おい)

 

 もぐら爪を地面から伸ばした場合、たしかにそれは致命的な隙になる。事実、太刀川もその隙を突いた。だが、普通の人間は自分の足を、自分で切り離そうとは思わない。

 龍神の体が、ぐるりと回転する。

 もぐら爪で地面に縫いつけられた足を、自ら切り離し。グラスホッパーを背中に当て、強引に空中でロール。

 常識から外れた、有り得ない動き。それはまるで、最初から太刀川が『もぐら爪を看破していること』を、織り込んでいるかのような反撃だった。

 

「危ねぇな」

 

 かといって。

 それは決して、太刀川慶を倒せることとイコールで繋がらない。

 白のコートが、再び地面に倒れ伏す。

 簡単な話。龍神のブレードが届く前に、太刀川の弧月が先に届いた。本当に、ただそれだけのこと。

 

「どうした? 曲芸を絡めれば、俺に勝てると思ったか?」

 

 挑発の言葉を受けながら、しかし龍神はすぐに立ち上がる。

 興奮で喉が震えているわけでもない。

 視線でプレッシャーをかけてくるわけでもない。

 もはや、その口からは勝ち気な決め台詞は飛び出してこなかった。

 

「あと五本で倒す」

 

 限りなくフラットな宣誓だけが、太刀川の心を熱く震わせる。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 隊長が善戦する姿を見ても、江渡上紗矢の主張は覆らなかった。

 

「今すぐ、模擬戦を中止してください。こんな形で、如月くんのボーダー隊員としての進退を決めるのは、絶対に間違っています」

「それは、きみが決めることではない」

「城戸司令がお一人で決めることでもないはずです」

 

 城戸を相手にしても、紗矢は一歩も退かない。絶対に、退くわけにはいかなかった。

 自分達の隊長が、理不尽な理由で組織からはじき出されようとしている。それでも、懸命に、歯を食い縛って戦っている。認めたくはないけれど、個人戦でオペレーターができることは少ない。むしろ、今の龍神に紗矢のオペレートはノイズにしかならないかもしれない。

 だからせめて、ここで戦わなければ。自分達は、今までの龍神のがんばりに、報いることすらできない。少なくとも紗矢は、そう思っていた。

 

「……彼が除隊処分になった後、如月隊のチームランクに関しては、こちらで一定の配慮をするつもりだ。今シーズンに関しては、残りの試合を棄権することも視野に入れて構わない」

「わたしがいつ、そんな話をしましたか? 論点をすり替えないでください」

 

 その提案を甘い話だと思って、されているのだとしたら。

 本当に、随分舐められたものだと、紗矢は歯を噛み締めた。

 

「わたし達は勝ちます。ランク戦で勝ち抜いて、全員でAに上がります。その気持ちが揺らぐことは、絶対に有り得ません」

「ねえ、紗矢ちゃん」

「なんですか、迅さん。わたしは今、城戸司令に……」

「紗矢ちゃんは、龍神のことが好き?」

 

 それは不意打ちだった。

 怒りで紅くなっていた頬が、また違う意味で赤くなることを、紗矢は自覚する。けれども、はっきりと返答した。

 

「当たり前です」

 

 からかいの言葉を差し込まれる前に、続けて言葉を紡ぎ出す。

 

「彼がいなければ……わたしは今、ここにはいません」

 

 背後に立つ甲田達が深く頷いたのが、振り向かなくてもわかった。

 もしも龍神がボーダーにいなければ、自分はこんなにも早くチームを組んでオペレーターを務めることにはならなかっただろう。紗矢だけではない。甲田も、早乙女も、丙も、もっと長い時間、訓練生として燻っていたかもしれない。

 

 あの変人で、厨二で、すぐに良いところを見せようとする隊長がいたから。

 

 だから、紗矢達は『如月隊』になったのだ。

 

「……そっか」

 

 いつもの迅なら、紗矢が顔を赤らめたことを、すかさずからかってくるはずだった。ぼんち揚を片手にいつもヘラヘラと笑っていて、時々してくるセクハラは本当に許せなかったけれど……それでも、静かに後ろから自分達を見守ってくれていたのが、目の前に立つ実力派エリートだった。

 龍神は迅を深く信頼していた。

 隊長が信頼する迅を、紗矢も信頼していた。

 

「龍神は本当に、いいチームを作れたんだな」

 

 だから……江渡上紗矢は、信じられない。

 龍神に対して、迅がこんなことをするのが、信じられない。

 

「……迅さん。事情があるなら、話してください。こんな強引なやり方、あなたらしくありません」

 

 紗夜の声のトーンが、一段落ちる。

 いつの間にか、声音に含まれていた棘は抜けて、自然と案ずるような口調に変わっていた。

 

「おれらしくない、ね」

 

 迅は笑う。いやな笑い方だった。しかしそれは、決して紗矢を馬鹿にするような笑みではなかった。

 むしろ、逆。

 

 

「ひとつだけ、教えておくよ。未来には『絶対に有り得ない』なんてことは、ありえないんだ」

 

 

 迅が嘲笑っているのは、自分自身だ。

 

「おれは、ずっと龍神を利用していたよ。龍神やメガネくんを利用して、最良の未来を掴み取った。掴み取ったつもりだったんだ」

 

 三雲修と如月龍神がボーダーに加入することが条件だった、最も被害者が少ない……大規模侵攻の結果。

 それを、迅が求めたことは理解できる。結果的に、龍神や修を利用してしまったことも。

 だとしても、それらの事実と今回の龍神への処分は、紗矢の中でどうしてもうまく結びつかない。

 サイドエフェクトに暴走の危険があるのなら、きちんとした訓練を受けさせるべきだ。強引に除隊処分にするにしても、太刀川を通して、こんな力試しのような試合で条件をつける必要はない。

 

 もしも、理由があるとすれば。

 

 

 

「おれが視た、一番先の未来の、龍神の話をしようか」

 

 

 

 そこまで考えて、迅の顔を今までで最も注意深く見詰めて。

 紗矢は、その表情から色が失われていることに、ようやく気がついた。

 

「メガネくんが、見たこともないような顔で叫んでいたんだ」

 

 なぜ、龍神の話に修が出てくるのか、

 

「歯を食いしばって、今にも飛び出しそうな遊真を、風間さんが抑えてた」

 

 なぜ、当たり前のように他の人物を中心に語るのか。

 

「雨が降っていて……紗矢ちゃんも泣いていたよ」

 

 まるで視てきたかのように、迅は語る。

 否。実際に視てきたその光景を、ありのままに語る。

 

「……」

 

 迅は、言った。

 一番先の未来、と。

 まるで、その先には走るためのレールがないとでも言うように。

 

「…………うそ」

「うん。嘘にしようと思ったんだ。でも、ごめん。おれの力だけじゃ、どうしても嘘にできなかった」

 

 ボーダーにとってサイドエフェクトを持つ彼の存在が、明確なマイナスになると判断した。あの城戸の発言は、方便に過ぎない。

 そもそも最初から、迅と城戸の目的は明確に述べられていた。

 

 ──これは、彼とボーダーのためだ

 

 未来視のサイドエフェクトは、その未来が実現する可能性が高ければ高いほど、先の未来を鮮明に映し出す。

 大規模侵攻で龍神が『超過自己暗示』の扉を再び開いてしまったことで、その未来は確定した。

 

 B級ランク戦。

 アフトクラトル属国の侵攻。

 遠征選抜試験。

 

 数多の可能性の先に行き着いたその結末は、あるいは多くを望み過ぎた代償だったのかもしれない。

 

 神は賽子(サイコロ)を振らない

 この世に、運命なんてものは存在しない。

 積み重ねた結果は全て必然。人の意思と行動が現在(いま)となって、未来を形作る。

 

 

「このままボーダーにいたら、龍神は死ぬ」

 

 

 けれど未来(あした)は、どこまでも続いていくとは限らない。




次回『世界の引き金(ワールドトリガー)

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