オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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遅れてすみません。アリアンロッドのGMやったり、アリアンロッドのシナリオ作ったり。アリアンロッドのシナリオをリプレイで纏めたり。友達がGMでダブルクロスやって、ヴラド三世をやってカズィクルベイでヒャッハーしたり。普通に忙しかったりで投稿が遅れました。

それと、今日友人から「お前明日誕生日だろ?」と言われてしばらく固まった後誕生日を思い出したり、誕生日を思い出すと同時に、今日が小説投稿し始めて1周年であることに気がついたりしましたwww。

これからも頑張っていきますので、よろしくお願いしますー!


58話【────────血染花・禍津桜木西行妖】

ガシャガシャと音が鳴る、皆の身につけた装備が音を立てている、俺はアリッサにおんぶされながら森を抜けていた。

 

時折こちらに飛んで来る咆哮を歯を食いしばりながら反射下界斬で威力を軽減し、一瞬遅くなった咆哮を避けてまた走る。ハルプを召喚してまた活動に当てさせて、()は朦朧とする意識に必死にしがみついていた。

 

「もうすぐリヴィラだ!」

 

アリッサの声が耳に届く。だが、やけに遠い・・・・・。目が開かない。

 

「起きろよ妖夢!着いたぞ!」

 

暫くしてダリルの声が聞こえ、必死に目を開ける。どうやら寝かされていたようだ。視界の端ハルプ()が皆に説明して、桜花達もそれに協力して説得をしている。

 

頑張って、私。もうすぐ、終われるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は団員達の整理整頓を行っていた。魔法職はリーナの近く、前衛職は桜花の近く。って感じでな。

 

『皆!準備はいいか?』

 

おうっ!と重なった声が俺の背を押す。その事に思わず頬がニヤける。なんだかゲームの最終局面でこういうのあるよな。なんて気楽に考える。・・・・・本体の方にも意識を半分割いている筈なのに、殆ど反応が帰ってこなかった。チラリと本体の方を見るが眠っている様に見える。

 

いや、俺にはわかる、眠っているんじゃなくて、瞼を開く力すら無いんだ。

 

『敵は黒白ゴライアス!だけど倒すのはあっちのモンスター達だ!魔石を砕け!灰にしろ!倒せば倒すだけ俺達の勝利は近付くぞ!・・・・・行くぞぉおお!』

「「「「おおおおおおお!」」」」

「前衛職総員!俺に続けぇえええええ!!!」

 

俺の左右を冒険者達が駆け抜けて行く。俺は刀を指し示し方向を指定する形だ。桜花を先頭に駆け抜けて行く冒険者達の背中を見送りながら、俺達は俺達でやる事があった。

 

『さて、魔法職の皆・・・・・・・・・・頑張ってくれよ!!』

「「「「「はい!」」」」」

「お任せを。・・・・・妖夢殿と休んでいてください。此処は私が率います」

 

俺は激励して、命にその場を任せる。もう、霊力が無くなってしまう、完全に尽きる前に空に向けて1発の霊力弾を放った。キラキラと輝き天井に向けてゆっくりと進んでいく。

 

ふぅ・・・・・・・・・・・・・・・後は任せたよ、皆。

 

俺の腕や足、お腹とかが、白い煙の様なものを出しながら消えて行く。

 

「・・・・・ご武運を。」『若奥様こそ。』

 

 

 

 

「そそそ、その名前はっ!!・・・・・・・・・・行ってしまいましたか。・・・・・では圧力が弱まると同時に縄を解除します。・・・・・3・・・・・2・・・・・1・・・・・今っ!」

 

私はバッと駆け出し、刀を振り回す。10人も居ない魔法詠唱者の腕を縛っていた縄を切り落とし、自分も魔法を放つ準備に素早く入る。

 

「詠唱────初めぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

「────弱まった!!全員!体勢を整えろ!正気を取り戻すぞ!!!」

 

殺しあっていたモンスター達が一斉に俺達の方を向く。だが、だからなんだと言うんだ。妖夢は振り絞っている。自分の生命力も、魔力も、霊力も、何もかもを。

 

俺が、負けるわけにはいかない。これでも団長なんだ、団長が気弱になる訳にはいかない。ここを突破されれば、魔法職の盾に成れるのはアリッサだけだ。だから此処を突破される訳にはいかない。

 

「───死んででも、此処を死守するぞ・・・・・!!」

「「「「おうっ!!!」」」」

 

誰もが低く吼えた。誰もが決意を眼に秘めた。生きてやる。殺して、生きてやる。今いる全員で生きて帰ってやる。その為に、死んででも此処を守り通すと。

 

「「グゥオオオオオオオ!!」」「ギャァァアギャギギャ!」「オオオオォォオオオオ!!!」

「総員!!己の全てを振り絞れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

私に、何が出来るだろう。虚空に問いかけても答えは返ってこない。

 

私は落ちこぼれだ、桜花も命ちゃんも妖夢ちゃんも。私よりも強くて、なんだって出来る。私が皆より上手いと言えるのは弓位。でも、それはスキルとか魔法の結果。きっとそれが無かったら負けてしまうと思う。

 

今。私は役立たずだ。弓ではあのゴライアス達にまともなダメージなんて与えられないんだから。

 

それでも、それなのに。

 

『千草、大丈夫。・・・・・居てくれるだけでも俺は心強いし、千草の弓は絶対に弱くなんか無い。・・・・・俺は行かなきゃ行けないからもう行くけど・・・・・思いつめないでくれよ?そうだなぁ、もうテキトーに全力で魔法使いまくってくれれば良いと思う。言い方は少し悪いけど信用も信頼もしてるし、頼りにしてるからな』

 

照れくさそうにそう言うハルプちゃん。私は、良いのだろうか?あんなに強い人に頼られて。私は────。

 

ううん、ダメだと思う。だから、此処で示すんだ。私は役立たずでもちゃんと出来る事はあるって。気を使われずに済むように、強くなるんだ。

 

「【穿つ、必中の一矢】」

 

引き絞り、魔力を込める。願いを込める。

 

そして、放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【掛けまくも畏(かしこ)き――】」

「【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。】」

「【誓いを此処に。】」

「【人よ強くあれ、何よりも儚き定命の人よ】」

「【深闇より暗き黒い剣、鮮血よりも紅き赫い剣。】」

「【響き渡る鎚の音、静寂を生む人々】」

 

殆ど同時に詠唱が始まり、魔法陣が展開される。水晶がいたる所から生える冒険者の街、リヴィラから。様々な色で構成された無数の魔法陣だ。

 

「【いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、】」

「【空に架かりて天に座せ。汝は彼方、我は此方。】」

「【我が魂に刻むは、呪い。】」

「【人よ輝け、何よりも強く刹那の輝きを。】」

「【深き大いなる龍脈を貫きし汝の銘において】」

「【高らかに宣言せよ。判決は下る───】」

 

リヴィラを覆う結界の中、魔法を学び、魔法を扱う彼ら彼女らは懸命に魔法を詠唱していた。西行妖の効力により、魔法の詠唱難度は上昇しているからだ。そして何よりも自分の命が掛かっている。失敗する訳にはいかない。

 

「■■■■■■■■!!」

「【穿つ、必中の一矢】弓神ノ一矢(ユミガミノイチ)!!」

 

時折放たれる咆哮、防御結界など張られていない此処にそんな物が打ち込まれれば壊滅は難くない。かん高い風切り音と共に飛来した魔法の矢がそれを相殺する。

 

「──────ふぅ。・・・・・此処は、殺らせない。」

 

静かにそう言い切った千草。その後ろ姿は決して気弱な少女とは思えない。確かな戦士がそこにはいた。

 

「【尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を。】」

「【汝は彼方、我は此方。虚(ゆめ)と現(うつつ)を別け隔てよう。】」

「【祖は誓約、破らぬ限り、力と為りし呪いなり。】」

「【人よ貫け、何にも負けぬその信念を掲げ。】」

「【我ココに戦に誓わん】」

「【汝罪深き咎人成り、悔い改め改心ならず、故その身無窮に等しき苦痛を与えん。】」

 

魔力の高まりが否応にも理解できる。汗が命の頬を滑り首を撫でて服に染み込む。謳うは武神の伝説、願うは勝利。心に確かな勝利を思い描き、妖夢を想った。

 

「(力をお貸しください・・・・・!!)【救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。】」

「【我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。】」

「【されど誓約破りし時、破滅の呪いが降り掛からん。】」

「【人よ叫べ、自らの存在を主張せよ。】」

「【我等が前に立ち塞ぐ全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、】」

「【此処に神判はなった。】」

 

やがて、力の高まりは最高と呼べるまでに達する。紡がれる無数の祈りは今───一つとなった。

 

「【今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい)】」

「【汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。

我が名はサギリ!】」

「【我が刻む誓いは『汝らの守護』なり。】」

「【人よ誓え、何にも屈せぬと。】」

「【等しく永劫の眠りを与えんことを。我が振るい、汝が奪え。生命の理を───】」

「【天より墜ちる怒槌が汝を打ち砕かん。】」

 

最後の一文が紡がれ、今正に魔法が放たれる。狙いは暴れる事で西行妖から逃れようと踠く2体のゴライアス。しかし彼らは逃げられない。

 

「『フツノミタマ!』」

「『霧之狭霧神!』」

「『誓約(ゲッシュ)』」

「『不屈栄光(ペルセヴェランテ)!』」

「『赫剣猟犬(フルンディング)!』」

「『神判の日(オーディール)!』」

 

天から光の柱がゴライアス達の足元に展開された巨大な魔法陣を貫く。超重力の結界が西行妖ごと階層を落としかねない程に押しつぶす。

霧がリヴィラを包み込んだ。

アリッサの鎧が一瞬神聖文字に覆われ、次の瞬間には妖しげな光を放つ。

術者を中心とした半径二十五メートル範囲に眩い波が走ったと思えば足腰は確りとし、力が漲った。

赫い巨大な猟犬が現れたと思えば空中で回転し、巨大な剣となる、そして杖の動きに従って、ゴライアスに向けて突撃していった。

フツノミタマの光柱に沿うように光が差し込めば、何処からか現れた隕石がゴライアス達に降り注いだ。

 

しかし、この程度で終わる筈もなし。

 

「【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】魔法陣停止。」

 

「【闇と光よ我が剣に集え。騎士はその剣を真紅の空へと掲げ、すべてを守らんと決意する。故に、我こそは】『唯一無二の盾』(デア・シールド)

 

妖しく輝く鎧、その隙間から光が漏れる。タダでさえ強化されたステイタスは2倍化される。

 

「これならば・・・・・防げるか。」

 

「【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】魔法陣同調。同時処理開始。─────『阿弥陀籤!!』」

 

魔法陣が2つ現れリーナが腕を大きく広げれば、彼女の頭上に光の玉が約・・・・・900個現れた。一つの紫の魔法陣が弾け、白い光の玉は紫色に変色した。

 

「────あんまり効果は無いかもだけど一応僕のとっておきさ・・・・・!毒+光の弾幕に飲み込まれろ・・・・・!!」

 

紫色の奔流が龍の如く唸り、尾を引きながら飛んでいく。命中した場所が弾け変色し紫色になる。毒の強さがありありと伺えた。

 

「「□■■■□□■□□■■□!!!」」

 

身動き一つ取れず悲しげな恨めしげな叫び声を上げ、ゴライアス達は更に痛めつけられて行く。

最早客観的に見るならば虐めや拷問と変わらないが、それを行ってなお倒れず、なお折れない殺意は此処で絶やす他ないのだ。

 

魔素が、花を咲かせていく。

 

ポッ、ポッ。と花が咲いていく。一つ一つは可愛げのある花弁でも、それがこの異様な戦いを生み出す結果となっている事に違いはない。

 

花が咲く。冒険者達はそれを見ながらいくつもの思いを心に秘めていた。

 

禍々しく、神々しく、可愛らしく咲く花は、魂を吸い咲いた妖しい花だ。けれど、魅入られる。

 

魂が、心が魅入られるのだ。受け入れ難き「死」を、危ないもの見たさで心が吸い寄せられる。

 

心を律しろ、自分を見失うな。隣に居る者にそう叫び、自分も叫び返される。でなければ見失う、生きる意味を見失う。それほどに甘美で妖艶な誘いだ。

 

「ウゥゥウアアアア!!!」

 

紅い光を残しながらクルメが駆け抜ける。モンスターが桜に魅入られている隙を突いて殺しまくる。喉を、魔石を、脳を、心臓を。刺して、斬って、砕いて、潰す。

 

「おおおおおお!!!」

 

雷を纏い、電光石火の如く速度で槍を振るう。桜花の乱舞がモンスターを打ち砕いた。槍を頭上で回し、地面に突き刺せば雷は周囲のモンスターに落ち、内部を破壊し尽くす。

 

 

 

「く、っそがぁぁぁあああ!」

 

ベートもまた、奮戦していた。蹴りつけたその瞬間、自身に流れ込んでくる悪意の塊。心がそれを拒絶し、身体が西行妖から離れようと動く。

 

しかし、それを意志の力でねじ伏せた。

 

「俺は、負けられねぇんだよ!破るわけには行かねぇんだよ!!テメェを此処で抑えなきゃならねぇんだ!!」

 

彼の身体を抑えたのは約束。家族を守ってくれと言う彼女らとの約束だ。自分が引けば魔法は放てない、魔法が放てなければ花は咲く速度を著しく落とし、自分が離れれば冒険者達は自殺を始めてしまう。

 

足から這い上がって来る絶望を、毛を逆立て鳥肌を立てて尻尾をピンと張りながら、けれど足は離さなかった。

 

「・・・・・テメェの全部、貰ってやる・・・・・!!」

 

震える声で吠えた。

 

「そして後で全部あのガキに返すっ!!」

 

足に力を込める。仰け反っていた身体を前に倒し、西行妖を睨みつけた。可視化出来るほどの禍々しい奔流が発生し、心を蝕もうと流れ込む。しかし、それすらブーツが吸収して行く。

 

「負けねぇ・・・・・俺は負けねぇぞ。」

 

強く、吠える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼんやりと見える冒険者達の後ろ姿を見ながら俺は自問自答を重ねる。心の奥底へと潜っていく。いや、沈んでいる。やがて意識を失って暗転した。

 

身体が動きません、どうしたらいいですか?

そんな物は分からない。

どうして動かないんでしょう?

一刀修羅を使ったから。

どうして使ったんでしたっけ?

使わないと魔法を使えなかったからだ。

 

いま、何が起きているんですか?

西行妖を咲かせようとみんなが頑張っている。

今は何をしているんです?。

皆が頑張る中何も出来ずに動けないでいる。

今、みんなは何を求めてるのですか?

わからない。

今出来る事は何ですか?

・・・・・立ち上がって最後の詠唱をする事。

なんでしないんですか?

動けないからだ。

 

───身体が動きません。どうしますか。

どうすることもできそうに無い。

本当に?

本当に。

ではここで諦めますか?

諦めたくない。

どうして?

皆が諦めていないから。約束も残っているから。

じゃあ、なんで皆諦めないと思うのですか?

・・・・・・・・・・わからない。

本当に?

本当に。

生きたいと思ってますか?。

思ってる。

本当に?

本当だよ、家族が悲しむだろう?

そうですね、悲しむと思います。自分はどうでした?

・・・・・覚えてない。忘れちゃったよ。

 

 

─────家族が危険です。けど、身体は動かない。どうすればいいのでしょう?

・・・・・どうにかするしかないだろ。

だからどうやってやるんですか。

気合いだよ気合い。古来から気合で出来ないものは無いって決まってんだよ。

気合じゃどうにもならない事も多いですよ?

おっと、心は硝子だぞ。

頑張れば動けますか?

頑張らないと動けないだろ。

踏ん張るんですか?

そうだよ。

実とか出ないです?

何言ってんのさ・・・・・。

真似をして笑わせてみようかと。

それで笑うのは小学生までだよ。

 

 

─────皆の声が聞こえますね。

いや、俺には聞こえないけど・・・・・

難聴ですか。

違いますけど。

皆立ち上がるのを待ってますよ。

俺の事を?

はい。

・・・・・。

眠気が覚めてきましたね、いつも見たいに笑ってください。

デュフフww

・・・・・。

正直すまんかった。

 

 

────もう目覚めそうですか?

わかるのかよ。

はいっ。同じですから、私達。

うーむ?今更だけど違和感が・・・・・。

もう動けそうですか?

・・・・・あぁ、動けそう。

なら動いてください、いつも見たいに私を導いて。

今頑張ってる。

そう、じゃあ頑張って下さい。私も頑張ります。

あぁ─────────────「ぅ・・・・・あ、ぁ。」

 

身体を動かしていく。指先、手の平、手首、腕、肩。順番に少しづつ。激痛でめまいがするけれど、立つことが出来た。まだ終わってない。

 

花は・・・・・もうほとんど咲いている、良かった、間に合った。咲かせた時何が起きるか分からない。だから、少しでも早く詠唱を行いたかった。

 

西行妖の前まで行こう。じゃないと駄目な気がするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私の後で物音がした。私が弓の構えを解いて振り向けば、妖夢ちゃんが刀を杖にして立ち上がっていた。目は虚で光なんて無くて、荒い小さな息がその苦しさを伝えていて・・・・・。

 

血が抜けて青ざめた顔で、でも諦めてなくて、1歩、また1歩と歩いて行く。転びそうになりながらも刀に寄りかかり耐える。

 

覚束無い足運びは見ている私の不安を煽った。何処からか鳴り響く鐘の音が私を焦らせる。

 

「ハァ──────ハァ──────」

 

必死に、西行妖を目指して歩いて行く。躓いて、ふらついて、転びそうになりながら。1歩、歩く度に呻き声を上げながら。鐘の音がなっていても、不思議と声は全部拾えた。

 

「諦め、たくないっ・・・・・私の、せいで、こうなったなら・・・・・諦めちゃ、ダメ、だからっ・・・・・!!」

 

自分を責めて、誰かの為に。その姿は痛々しくて、見てられなくて。なのに、見てしまう。私は思わず走り出した。

 

「─────千、草?・・・・・ありがとう、ございます。」

 

私は妖夢ちゃんに肩を貸す。こうした方いい、そんな気がしていても立ってもいられなかった。妖夢ちゃんが少し笑う。・・・・・でも、その笑顔が消えてしまいそうなものだったから私は涙が出そうになる。こんなになってまで戦おうとしているなんて、私じゃ絶対に無理だ。

 

「私も、手伝うからっ、頑張って妖夢ちゃんっ・・・・・」

 

喉を迫り上がる何かのせいで上手く声をかけられない。つっかえてしまう言葉を飲み込んで今は妖夢ちゃんを支える事に集中する。

 

「私も、手伝います千草殿、妖夢殿」

 

命ちゃんもやって来て私とは逆側の肩を支える。

 

「命、ありがとう、ございます」

 

苦しそうに一生懸命言葉を吐き出す妖夢ちゃんに命ちゃんは涙を流していた。でも話し方は変わっていない。

 

「えぇ、行きましょう妖夢殿。」

 

ゆっくりだけど、でも確かに1歩ずつ、西行妖に近づいていく。呆然と私達を見ていた皆も魔法をまた撃ち始めた。

 

「もう、すぐ、ですね・・・・・」

「はい・・・・・」「うん・・・・・」

 

妖夢ちゃんが首をゆっくりと上げて西行妖の頂上を見る。もうすぐ満開だ、妖夢ちゃんを支えていないと・・・・・。

 

「■■■■■■■■■■■■!!!」

 

黒いゴライアスが最後の抵抗とばかりに暴れだす。木を破壊し、自分の腕を引きちぎり、身体が壊れるのを無視してでも抜け出そうと試みる。そこには必死さが滲み出ていた。死にたくないんだ、ゴライアスも。さっきまでとは違うゴライアスの動きにそう思う。

 

「満開!満開でごザルよぉーーー!!!」

 

猿師さんがそう言って指を指す。

 

そこには幻想的な光景が広がっていた。

 

満開に花開いた桜は枝を広げ、階層を覆い尽くさんばかりに咲いていた。

上を見上げてみれば、何処を見ても桜が見える。

 

美しくも恐ろしい。そんな雰囲気。妖夢ちゃんの方を見れば、目を大きく開いてそんな光景を見ていた。

 

「千草・・・・・命・・・・・離れていて、下さい。」

「え?で、でも・・・・・」「妖夢殿!私達を頼って下さい!」

 

桜から目を離さずに、妖夢ちゃんが私と命ちゃんを弱々しく押しのけようとする。でも今離せば妖夢ちゃんは倒れてしまうかもしれない。離すわけにはいかない。命ちゃんも同じ考えだったみたいで説得しようとしている。

 

「嬉しい・・・・・です、けど、死なせたくない。」

 

妖夢ちゃんが眼に光を取り戻して私たちの目を正面から見つめた。そこにあったのは深い決意で、真剣な目。私はこの目に弱い。カッコイイと思うし、邪魔しちゃダメだと思っちゃうから。

 

「妖夢、殿・・・・・わかり、ました・・・・・。」

 

命ちゃんが震える手で妖夢ちゃんの服を握りしめていたけど、それを離して転ばないか心配そうにしながらも少しづつ後ろに下がる。転びそうなったら飛び出して止められるように、そう思ってるんだと思う。私も同じように離れていく。

 

「ありがとう、ございます。二人とも。」

 

そう言って妖夢ちゃんは私の方を振り向き笑った。そして西行妖に向き直り楼観剣を地面に突き刺して柄に両手を乗せる。

 

リーナさんの魔法で風が強く吹き始めた。妖夢ちゃんのスカートがはためき、髪が乱れる。鐘の音の感覚が早くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楼観剣を突き刺し柄に手を乗せる。妖夢は目を瞑ったまま暫し佇む。脳裏に浮かぶ記憶の数々。タケミカヅチ、桜花、命、千草・・・・・。

 

目を開いた。背後からは未だ魔法が放たれ続けている。

 

全ては妖夢にかかっていた。妖夢がどのような選択をするかで全ては変わる。ほんの少しして魔法の音は無くなった。誰もが、妖夢ただ1人に注目していた。

 

詠唱が始まった。

 

「──────【揺蕩うなかれ、流離うなかれと、乞い願う。】」

 

思えば、彼女の道筋は一直線では無かった。ブレて、外れかけて、けれど、戻ってくる。そして、願って来た。家族の為になりたいと。

 

肩に生えた桜の枝が急激に成長し、西行妖に向けて根を伸ばしていく。根は妖夢の身体を抉り足を突き抜け地面を進む。

 

「【我が腕に抱かれて、汝の罪は赦されましょう。】」

 

決して、赦されぬ罪を犯したとしても。彼は止まらない。止まることを許されない。記憶を失い、自己を消され、けれど、貫こうと足掻く。

 

謳う声は高く天使の様で、服を、髪を靡かせ歌う姿は女神の如き美しさ。桜の様に妖艶で、目が離せない。

 

「【例え死して骸と還ろうと、私の愛は色褪せず。】」

 

例え何時か死のうとも、決して恨まず共に逝こう。彼女はそう決意した。失われた記憶、感じることの出来るもう1人の自分。決して見捨てたりはしない。

 

まるで逃がさないと言わないばかりに妖夢の周りから桜が生え、優しく包み込んでいく。足、腹、首を優しく締めていく。「やめなさい」と母が優しく子に語りかけるように。

 

「【血の通わぬ死体の体であろうとも、傍に寄り添い共にあろう。】」

 

1度は死んだこの命。例え魂だけとなろうとも、手にした唯一の安らぎ(家族)は決して失う訳にはいかない。見つけた唯一の温もり()は決して色褪せさせはしない。彼は、願う。『大切な人の生存』を。

 

締められた妖夢が宙に浮く。持ち上げられた身体は一切の抵抗をせず、その顔はむしろ笑顔であった。

それを目撃した人々は思う、アレではまるで・・・・・生贄じゃないか、と。人々の目にはこう映る、自分達の為に犠牲になる事を何ら苦とは思わず、むしろ受け入れ笑っているのだと。

 

「【──────────血染花・禍津桜木西行妖】】」

 

紡がれた最後の詠唱。その瞬間妖夢の顔が恐怖と怒りと悲しみと、何より深い後悔に歪んでいた事を、同時に放たれた極光により誰も見る事は叶わなかった。

 

 

名前が告げられると共に木は脈打った。ベル・クラネルの放った極光が黒いゴライアスを消し飛ばし、砕かれた魔石は西行妖に吸収されてゆく。

 

極光が消えた頃、階層中に広がっていた根は暴れだし唯でさえひび割れていた地面は悲惨な有り様となり、最早無事なのはリヴィラだけだろう。いや、唯一妖夢の周りだけ根っこも木も生えていた。

 

「何とか戻ってこれたか!!はぁ・・・・・はぁ。」

 

ベートが脈打つ大地を蹴りながらリヴィラに帰還する。

 

やがて西行妖は黒いオーラの様なものを放ち始めた。極光に飲まれず生きている白いゴライアスが悲鳴を上げ続けている。自分に何が起きるのか、察したのであろう。

 

階層が崩壊しかねない、そんな揺れになったときだ。西行妖が一際大きな揺れを放ったと思えば停止する。

静まり返る階層に響くのは白いゴライアスの悲しげな鳴き声だけだ。

 

伏せていた頭を上げて、冒険者逹は西行妖の方を見る。そこで衝撃の光景を目の当たりにした。

 

 

 

 

少女だ。少女が西行妖に向けて歩いて行く。

 

ゆったりとした服を着た少女が西行妖に近付くにつれて、まるで西行妖が「恐れている」かの様に震え始めた。根が地面から顔を出し少女を殴りつけるが、まるで幻覚であるかのように突き抜ける。

 

ふと、少女が妖夢の方を向いて微笑む。

 

【────────────────────!!!!】

 

西行妖の声にならない悲鳴が鳴り響く。そして、その小さな手が西行妖の幹に触れた時─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────西行妖は消滅した。ゴライアスも、ダンジョンの一部すらも巻き込んで。

 

一帯全てを殺して消えた。ダンジョンすら殺して。もう、2度とあの場所が再生する事はないだろう。ダンジョンを人に例えるならばあの場所は壊死したのだから。

 

しかし、まだ、おわっていない。西行妖が消えたと言う事は階層中に広がっていた根も消えた事になる。階層を支えていた根が無くなるという事は即ち・・・・・崩壊だ。

 

だが、先にも言った通りリヴィラは一部を除いて安全である。・・・・・西行妖の根や枝に覆われていた妖夢の周辺を除いて。

 

「──────妖夢・・・・・!!!!」

 

タケミカヅチが誰よりも先に我に返り妖夢に手を伸ばした。

 

「・・・・・・・・・・タケ・・・・・私は・・・・・・・・・・」

 

地面が崩れる。妖夢の周りだけ、綺麗に。

 

「掴まれ!!!!」

「・・・・・ぁ・・・・・」

 

伸ばした手は届かない。落ちてゆく、そう思った時だ。

 

『受け、取れ・・・・・タケ・・・・・!!』

「ああ!!」

 

現れたハルプが妖夢の背を蹴りタケミカヅチへとパスする。・・・・・そして、ハルプは先の見えない暗闇へと落ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処までも、落ちて行く。

 

落ちて。

 

墜ちて。

 

堕ちて行く。

 

『俺は・・・・・・・・・・お、れは・・・・・妖夢じゃ・・・・・無かった・・・・・・・・・・ッ!!何もかもッ間違っていたッ!』

 

悲鳴は、届かない。

 





次回はほのぼの回()

投稿は・・・・・1週間後・・・・・に出来たらいいなぁ。

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