オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか? 作:シフシフ
これで夏休み最後です。
「ベル君!ベル君やっと起きてくれたんだね!」
「神様・・・・・はい、帰って来ました!」
聞きなれた高い声に僕はほっと胸を撫で下ろす。でも、と気持ちを切り替えて僕は神様の肩を掴んだ。
「ひょい!?ななな、ベル君・・・・・!そ、そうか!戦いは男を昂らせて・・・・・つ、遂に」
「神様!」
「わわわ!い、いいともっ!どんとこい!」
「ステイタス!更新しましょう!」
「・・・・・・・・・・へ?」
神様はポカンとしている。なんでだろう、確かに戦闘中だからステイタスの更新は大変だと思うけど今しか無いと思うんだけど・・・・・。
「・・・・・うーん・・・・・平気かな?まぁ大丈夫だろう、よし、上着を脱ぐんだ!」
周りに沢山人いるんですけど。だけど一大事なのでそこは目を瞑った。
「はい!」
「・・・・・」
「ど、どうしました?」
「うへぇ・・・・・」
神様がまるで家に出てきたゴキブリを見た時のような声を出した。いや、潰した時の声かな。な、何だろう僕は何か変なことしたかな・・・・・?
「ら、ランクアップおめでとうベル君」
「えぇ!?」
─────っ!戻ってきた?!あ、あれ?俺はてっきり死んだものと思ってたけど・・・・・?暖かい?・・・・・誰かに背負われてる?風が強い・・・・・速いな・・・・・タケでも無いし桜花でも無さそうだ。
「ベー・・・・・ト・・・・・?」
「!?起きたか!!ゴライアス共が砲台みたいになりやがって・・・・・!!」
ベートにおんぶされてる!?・・・・・ふむ、苦しゅうない・・・・・いや、くっそ痛いけど・・・・・やめて、肋骨ボッキボキだから、内蔵ブッチブチだから・・・・・。腕グッチャグチャだからぁ!苦しいからァ!
ってそんな事考えてる場合じゃねえ!
「ベー・・・ト、作、戦を・・・・・」
「なんだ!早く言え!!」
「あの、木を、ブーツで、蹴って・・・・・!魔法、だから・・・・・少し、吸い取れる、はずです・・・・・そうすれば効果が、一時的に弱まって・・・・・みんなで、魔法を撃って、花を咲、かせれば・・・・・勝てます・・・・・!!」
痛い痛い・・・・・ベートもっと優しく・・・・・なんて出来る状況ではないのは知ってますけどもね!!
「・・・・・わかった。だがな、お前に従うのは今回までだぞ・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・友達も・・・・・終わり、ですか?」
「降ろすぞ!」
ベートが俺の事をゴライアスが見える位置に降ろす。むー、友達に関してはノーコメントのようだ。泣くぞ?・・・・・なんていう資格は無いのだけど。
「おい!妖夢!お前は全員に知らせとけ!」
「・・・・・」
『俺が頑張るぜ。・・・・・霊力が無い・・・・・急がないとな』
「あぁ」
ベート・・・・・まぁ霊力が無いのはホントなんだ全力で走るぞ。
ベートが西行妖に向かって走っていく。
『ベート!準備が出来たら合図を送る!空を見て光弾が上がったら蹴ってくれ!』
「あぁ!!」
俺はリヴィラに走っていく。全力の全力だ。風のように走るのだ、サラマンダーより速いのだ。
約1分、誰にも邪魔されずに真っ直ぐ走るとここまで早く着けるのか・・・・・。まぁ殆どのモンスターが盆栽みたいになってるし、新しく生まれたモンスターもみんな殺し合ってるからね。
「ハルプさん!!」
おお?ベル君じゃん。ってなんで動けるんだ!?西行妖効かないのかよスゲーな主人公!
『おう!ベルも・・・・・いや、流石英雄ベル・クラネル。動けるんだな?』
「はい!ってええ!?」
『気にすんなよっ!さぁ!動けるならみんなに声かけてくれ!妖夢さんから合図が出たら魔法を撃ってくれってな。』
驚くベル君の背中をぺしペし叩きながら笑いかける。・・・・・少しでも緊張取らなきゃな。失敗は許されないから・・・・・。そこから少し走って、リヴィラに到着する。
「ぅぁあ!!また腕が勝手に動く!?ひぃい!また此処に戻ってきちまったのかよぉ!?死にたくないぃぃ!!」
『おーい、大丈夫か?』
「ひぎゃあああ!?【剣士殺し】!?」
『やめろ、その二つ名は俺に効く』
どうやら結構な数が生きてるらしい。・・・・・起き上がらない奴は・・・・・死んじまった様だ、さっきの世界にも居なかったし、直接魔法の西行妖に食われたんだろうな。・・・・・俺のせいでな。うー、ベートの馬鹿。ベートのせいだぞ、ベートが何も言わなけりゃ罪悪感なんてきっと無かったのに・・・・・。
『みなさん!よく聞いて下さい!西行妖の効果範囲内で気絶したりするとまたさっきの場所に誘われてしまいます!気絶はしないで下さい!縄か何か持っているなら俺に渡して下さい!手を拘束します!!』
「こ、此処に紐・・・・・が・・・・・!あ、あぶね!?やめ、ちょ、やめて!首、首危ない!?俺の手止まってぇ!!」
『ほいほい、大丈夫か?』
「お、おぉ。ありがとう妖夢さん!」
丁寧な口調にすると妖夢に間違われる不具合、まぁどっちでも実際同じだしな、むしろ本体が感謝された方が都合はいいけど・・・・・。と、暴れる冒険者を縛りながら考えていると同じく動いている小さな影が目に入る。
「おお!妖夢君じゃないか!ん!違うハルプ君だ!」
『ヘスティアか!これ渡すからみんなを縛ってくれ!あ、魔法を使える奴がいるならソイツだけ別にしといてな!』
「うん!ヘルメス達にも言っておくよ!」
『サンキュー!!』
1人、また1人と縛り上げていく。舌を噛みきらないように猿轡的な物も噛ませる。その間本体には丸薬を貪って貰って魔力と肉体を回復だ。・・・・・痛みとかのリンクはしないけど、何となく違和感は感じるんだ、今はジワジワと傷が治ってるからそのせいだな。
一方本体の俺はと言うと、激痛に苦しんでいた。忘れてた、今自分の身体が悲惨な事になっていることを・・・・・!
「ぐ・・・・・が・・・・・・・・・・ぃ、た、い・・・・・!!」
薬効きすぎぃ!!痛い痛い!ぽ、ポーションは・・・・・ぜ!全部割れてる!!これだから瓶はダメなんだよぉ・・・・・。ぐぐぐ、ハルプがみんなに知らせてくれてるからって気を抜いたら凄い痛くなってきたよ・・・・・。
「───────ハッ!!」
うわっ!?・・・・・・・・・・あ、アリッサがなんか起きた・・・・・。そう言えばアリッサ達の近くに降ろしてもらったんだった・・・・・。
「ぁ、アリッサ・・・・・お、おはよ、ござい、す。」
「よ、妖夢・・・・・貴女は何を巫山戯ているんだ・・・・・待っていろ今楽な体勢にする。」
「あ、ありがとうございます」
アリッサの手を借りて寝かされる。痛いのには変わりはないけど、それでもだいぶ変わる、これならそこそこ話せそうだ。・・・・・それにしたってあんな事したのに・・・・・優しいんだな。
「私は・・・・・貴女にあんな事、したのに・・・・・優しい、んですね・・・・・」
「優しい?フフッ違うな。私は強欲なんだ、一度守ると決めたなら最後まで守るさ。」
・・・・・この人、生まれてくる性別間違えてないかな・・・・・
「です、が・・・・・私は許されないことを、してしまった」
「・・・・・そうだな。そうだろう、だが私は仕方が無いとも思う。貴女があの魔法を唱えなければもっと・・・・・それこそ全滅も有り得た。」
アリッサは優しく俺に語りかける。少し形が変わったガントレットをはめた手で俺の頭をそっと撫でる。
「・・・・・私は、自分の力不足を実感したよ。いざ強敵と出会った時、私は何も出来ない。私は・・・・・貴女が少し羨ましいよ、妖夢。」
悔しそうに、口惜しそうにそう呟くアリッサ。
「私の、力は誰も守れません・・・・・。私は私の欲望しか守れなかった。いえ、まだ守れていません。戦いは、終わってないんですから」
「嘘だな。貴女の力は人を守れる、現に多くの人は貴女に救われている。力など使い方次第で傷つけもするし癒しもするんだ、あまり思いつめないでくれ。思いつめすぎて失敗すれば死んだ者達が報われない。」
互いに互いの目を見つめる。いや、アリッサは睨み付けている。真剣な目で、心の底から俺の為を思って言ってくれている。
「本当に、優しい人ですね・・・・・殺してしまわなくて良かった・・・・・」
「ふふ、死んだかと思ったがな。敵対など考えたくもない」
「ごめんなさい・・・・・焦りすぎてました」
「いや、いい。私にも生き急いだ時はあった。」
なんだよこの包容力。もう何言っても許してくれるんじゃないかなこの人・・・・・。男だったら絶対に惚れる人続出だろ・・・・・。
「それにしも、なんで、動けているんですか?」
「ん?私か?・・・・・恐らくは私の呪術による物だな。」
「呪術・・・・・ですか?も!もしかしてそれを使えば皆を」
「いや、無理だ。この呪術は私しか効果を及ぼさない。」
「・・・・・そうですか、いえ、ごめんなさい。」
そうか、呪術か・・・・・人のみに許された業、だったかな。デバフが多いイメージだけどデバフ無効もあるのか?
「ぅ、ちょ、た、す、け、て、っ!」
「「ん?」」
はっ!!リーナが貧弱な筋力ステイタスで自分の首を絞めている!!!凄い!迫力がない!!でも耐久も無いから本人は凄いピンチだ!!
「待っていろ!今助ける!奇絶させて「気絶指せるとまたさっきの場所に!」あ、危なかった。待っていろ今手を縛る」
〜騎士救出中〜
「ふぁ〜助かったよぉ。よぉし!結界張って効果を減衰させてやるぞぉ!」
「え?!リーナそんな事までッ!痛たた・・・・・」
「安静にしていろ・・・・・」
「は、はい。」
「回復させようか?」「止めを刺す事になりかねん、止めておけ」「酷い!?リーナさんのマジカル☆パワーを信じていないねッ!?」
「では結界を頼む。・・・・・後ろでダリルも苦しんでいるしな」
「な・・・・・助・・・・・お前・・・・・」
「わた、しも・・・・・助けて・・・・・」
「い、いかん!クルメ大丈夫かっ!」
「い・・・・・や、俺・・・・・ふざけん・・・・・な!!」
リーナが魔法を詠唱し、アリッサがリーナの裾の中に手を突っ込んで御札を取り出して展開、展開する対象をアリッサにして、アリッサを中心に結界が張られた。
「ハァ────ハァ────あ、アリッサ・・・・・激しい・・・・・」
「いや、何を言っているんだ貴様は」
何故か顔を赤らめているリーナ、おいダリル火の粉出てるぞ。なんでコイツらはこんなにギャグ時空にいるんだ?クルメを見習え、クルメはいっつもシリアス・・・・・ミノタウロスを料理してたわ・・・・・。
「・・・・・ぐぐぐ・・・・・きっついなぁ・・・・・結界の維持が凄い難しいよ・・・・・」
「だろうな、戦争遊戯の時だって俺の炎をかき消して吸い取りやがったからな。」
「なる、ほどね・・・・・!魔素を奪っていく訳か・・・・・!」
俺が説明しなくても勝手に理解してくれる有能さを急に見せ始めたぞ、有難い。正直な話し、巫山戯た思考してないと意識が飛びそうでヤバイ俺氏。
激痛が意識を保たせてくれるかと思ったら、激痛で意識が飛びそうになってるんだよね、やばいわこれは。
「ダリル、ポーションはないか?」
「ねぇ、全部割れてる」
「これだから瓶は・・・・・流石は猿師殿と言った所なのだろうなぁ。」
そういや、猿師大丈夫なのかな!?さっきの世界居なかったけど・・・・・。もしかして死んじゃった?
「猿師殿と呼ばれたら、現れてあげるが世の情・・・・・そのぉ、登ったはいいでごザルが降ろして欲しいでごザル」
「・・・・・さ、流石は猿師殿・・・・・」
えええええええええ。へいぜんと現れたー。木々の隙間からニュルっと出てきたー!マジかよ、西行妖の支配下に無かったのかな?・・・・・ん?両腕が?
「いや〜忍びとしての鍛錬がこんな所で役に立つとは・・・・・・・・・自分の肩を手を使わずに外す訓練とかいつ使うのなんて思ってたでごザルが・・・・・役に立つもんでごザルなぁ」
「流石は猿師殿・・・・・」
うん、アリッサが猿師を慕ってるのはよく分かった。まぁ世界規模で人救ってるからなぁ猿師、こう見えて・・・・・。
───────ノイズが、走る。
あぁ、意識が・・・・・遠のいていく・・・・・。唐突過ぎるだろ・・・・・ハルプモード切れたし・・・・・
また此処か、白玉楼なんだろ?分かってるって。で、どうせ幽々子やら妖忌やらが出てくるわけだ。今はそんなことしてる暇ないんだって、きっともうすぐ始まるってのに・・・・・
「妖夢〜?よーうーむ〜♪ねーえー、聞いてる~?」
おーい、妖夢さんやーい、幽々子様が呼んでるぞー出てこーい。・・・・・・・・・・ん"?な、なんで頬っぺを突かれているんですかね?
「あら〜こっち向いたわ〜!!可愛っ!」
おまかわ。じゃなくてだな・・・・・なるほど、今回は妖夢視点って事か。話せるか?・・・・・無理だな。話は出来そうにない。俺はあくまでも傍観者って事か。
「ゆうこさま?」
「違うわよ〜。ゆ、ゆ、こ!ゆゆちゃんでもいいわよ〜!!キャーー!」
「ゆ、ゆ、こ!」
「そうです、幽々子です!はっ!笑ったっ・・・・・もう死んでもいい・・・・・」
「死んでますよ幽々子様」
「もうっ妖忌は分かってないわねぇ、半分死んでる癖に!」
うーん、話してる間に辺りを見渡してみたけど・・・・・脱出口てきな物は無いね。駄神なら何とかしてくれるかな?おーい!だしーん!
───「幽々子様マジかわゆす、か( ゚д゚)わ( *゚д゚)ゆ(*´д`*)す」
・・・・・ダメだな。使い物にならねぇわ。意識から除外しとこ。
「ねぇねぇ、この娘が大きくなったらどうするのかしら?」
「剣を学ばせ、儂の後を継がせます。」
「あらあら~、それって私の剣術指南役って事かしら?」
「えぇ、庭師でもありますがな」
「嬉しいわ〜」
「ゆゆこ!ゆゆこ!」
「そうよ〜、幽々子よ〜!」
うっ、・・・・・視界が白く・・・・・時間が飛ぶのか・・・・・?
───「おや、なんだ少しは理解してきたかい?幽々子様可愛いよねぇ・・・・・おい、妖忌場所変われ!」
ふぅ、場所は変わってないけど・・・・・時間は変わったらしい。目の前には全く変わらない幽々子が居て、なんかよく分からないけど目元を赤くした妖忌、そして俺の隣には紫がいる、もうね、ダメな予感しかしないね。八雲紫が関わってる時点でね、うん。
「─────いいのね?」
良くないです。
「ええ、妖夢の為ですもの。」
「はい。」
「・・・・・はぁ、親バカって怖いわねぇ・・・・・頑張ってね妖夢ちゃん」
「は、はい・・・・・え、えと、わ、私はな、何をすれば?いいんですか・・・・・?」
テンパる妖夢。涙ぐむ親バカ2人、1人も親いないけど・・・・・そして呆れた様にため息つきながら妖夢の頭を撫でる紫。・・・・・一体何が始まるんです?
────「第三次老人大戦だ」
強そう。
───「おっ、反応してくれた。いやーこのぷぅわぁふぇくとな僕を無視するなんて・・・・・君もなかなかに罪な男だね☆」
うるさ、何この駄神。・・・・・てかさ、この映像ってもしかしてお前が見せてるの?ずっと気になってたんだけど。
────「・・・・・・・・・・・・・・・いいや?違うとも。君が見て、僕がそれを共有しているに過ぎない。・・・・・つまり、僕の覗き見だね☆!」
・・・・・なぁ、その僕って言い方止めない?リーナと被っててリーナが可哀想になってくるんだけど・・・・・神様なんだから儂とかなんかあるだろ?
────「嘘やん、付き合いの長い僕を差し置いて女を取るのかい・・・・・?儂、泣いちゃう!」
早速変えてんじゃねぇか!!・・・・・でもあれだな、儂って言うだけで凄いジジイなイメージ湧くね。でもその方が偉そうに見えるよ、やったね!
─────「え、あ、そ、そう?いやー、やっぱっそうかー。偉そうに見えちゃうかー。っかー!!でも仕方ないよね、儂、神様だからキラッ☆」
あ、うん。それで、どうすればここから出られるのかな?
─────「出るのか?・・・・・あ、出るのかい?今いい所なのに?このまま先を見れば、きっと君にとって」
あーもう面倒いから出してくれ!早くしないと大変な事になってるかも知れないだろうが!正直我慢の限界だよー!あれだ、あれ。トイレ我慢してていざ間に合ったわいいけどズボン降ろすのに手間取ってる時のあの焦りと似たぐらい焦ってる。
─────「それはピンチだ・・・・・。まぁ今の君にその覚悟がないなら仕方が無い。でもいいのかい?今を逃せばきっと嫌なタイミングで見ることになってしまうけど・・・・・」
それって俺だけに纏わることなんだろ?なら後回しだ。今は他の皆を優先する。まずは助けられるだけ助けてそして謝らなきゃいけないんだから。
─────「そうか・・・・・それもまた選択の一つだろう。よっし、じゃあお繰り返してあげよう。儂のパワーは凄いぞぉ!ちちんぷいぷいw目覚めろw目覚めろwハァぁぁぁあwww」
いや巫山戯過ぎだろぉおおおおおお!!!
「流石は猿師殿・・・・・」
私がそう思ったままの言葉を口にすると、後ろで寝息がスゥと聞こえた。各々が猿師の登場に反応を示す中、私は後ろを向く。
「────────────」
小さな、それこそなぜ聞き取れたのか分からないほどに小さな息。まるで死んだように眠っている妖夢に、私は鳥肌が立った。
「よ、妖夢・・・・・寝てしまったか?」
またあの薄気味悪い世界に連れ込まれたのだろうか?私がそう思った時、リーナの結界の中だから大丈夫と判断したのか肩をしっかりと嵌め込んだ猿師殿が私の隣にしゃがみこみ、妖夢の容態を確認する。
「・・・・・やはり、《一刀修羅》を使ったのでごザルね・・・・・」
「な、なんだその一刀修羅というのは?」
私が声を少し荒らげながら尋ねる。妖夢が死んでしまわないか気が気でないからだ。彼女は私にとって恩人なのだ、死んでもらうわけには行かない。
ダリルやリーナも真剣な顔で耳を傾ける。クルメも心配そうな表情で安否を気にしている。
「一刀修羅、それはその日1日の生命力をたった1分に凝縮し身体能力を格段に、それこそ10倍近く上昇させる秘技。」
ゴクリ、と唾を飲み込む。そのような事をすれば・・・・・何故動けていたのだ?普通なら動けるはずがない・・・・・。
「しかし、それを行うには何かが足りないようで、妖夢殿は本人の第三魔法を用いてそれを行ったのでごザル。第三魔法、それはデメリットを倍にする事で本来成し得ない事を成す魔法。」
「つ、つまり・・・・・」
「そう、2日分の生命力を注いで初めて本来の一刀修羅・・・・・1日分と同じ性能を発揮できるのでごザルよ」
「1日ぶんはドブに捨てちまうわけか・・・・・」
「体力の大幅な損失、大量の出血、魔力枯渇、精神疲弊、霊力枯渇、筋肉破損・・・・・。と、何故今さっきまで動いていたのかが分かりません。・・・ごザル」
それほどの重症で動いていたのか・・・・・?気力だけで?・・・・・そんな状態だというのに、他人の心配をして・・・・・?
「・・・・・妖夢・・・・・貴女と言う人は・・・・・」
そっと妖夢の頭を撫でる、あどけない、けれど血に濡れた顔。見れば肩の鎧も腰の装甲も殆どが破損し、無くなっている。洋服だって緑だった筈なのに今は赤が目立つ。左手は戦う意思の現れなのか未だに武器を手放していない。
・・・・・右腕は不自然な程膨れ上がり、時折蠢いている、肩から生えている桜の枝を見る限り、木が中で蠢いているのだろう。激痛のはずだ、耐えられるものでは無いはずだ。それなのに私に謝罪を述べ、反省し・・・・・他人を心配して、他人を預けられる信頼できる医者がやって来て初めて気絶した。
・・・・・やはり、羨ましいよ。私ではそんな事は出来ないだろう。貴女を守るなんて烏滸がましい事を言ったかもしれない。だが・・・・・このあどけない寝顔を歪める痛みから、守りたいと願っても構わないだろう?
「凄い奴だろ?妖夢は」
「・・・・・団長!無事でしたか」
突如頭の上から声を掛けられた。低めの男性の声、桜花団長の声だ。どうやら彼も西行妖の支配下には無いらしい。結界の外、木の上から話しかけらているから。
「妖夢から話は・・・・・聞いてないよな。モンスターを出来る限り倒すんだ、・・・・・俺も詳しくは聞いてないんだがモンスターを倒して魔石を砕けば西行妖の花が咲く、満開にすると何か出来るようになるらしい。・・・・・いや、お前達は妖夢をリヴィラに連れていけ。そして結界で皆の安全を確保してくれ、ハルプ達の仕事量を減らしてやらなきゃな。」
じゃあ任せるぞ!そう言って桜花団長は木から木へと飛び移り未だに同士打ちを続けているだろうモンスター達の元へと向かっていった。
「ええ、凄い人ですよ妖夢は・・・・・。私では遠く及ばない・・・・・。」
と言うか、団長は平気なのだろうか、明らかに怪我だらけだったのだが・・・・・いや、しかし、団長からの直々の命令だ、妖夢を連れてリヴィラに向かおう。たったの1キロ程度だからな。
「行くぞ。」
「おうよ」
「Zzzzzはっ!寝てないからね!」
「はいっ!」
「ごザル!!」
リーナ・・・・・寝るのはどうなんだ・・・・・この状況でまだ暴れられると大変なんだが・・・・・。
「う、うぅ、・・・・・アリッサ、鎧、痛いです・・・・・」
「もう目が覚めたのか?・・・・・もう少し寝ていろ、西行妖の支配下には無いから安心してくれ・・・・・」
「いいえ、いいんです。皆が、頑張ってる、のに私が寝てる、なんて・・・・・」
私の背中で楼観剣を左手で持ちながら、妖夢はそう言う。・・・・・本当にかなわないな・・・・・気絶してもすぐ様戻ってくるのだな、家族のために・・・・・か。私もこの戦いが終わったのならば1度家に戻ってみるのも良さそうだ。驚くだろうか、母は、父は。立派になったと言ってくれるかもしれないな・・・・・まだ外面だけのハリボテだが。
・・・・・・・・・・・・・・・私は成れるだろうか。自分の全てを使い尽くし、それでも尚、誰かの為に戦えるだろうか。
もし、成れるなら。全てを使い尽くしてでも誰かの為に戦える騎士になれたのならば。私は・・・・・私は胸を張って
「おい、アリッサ速く動け」
・・・・・ふっ、迷っている暇など無かったな。成るんだ、ここを超えて。
「あぁ、わかっている。」
なんだが久しぶりに勘違いっぽい擬きを書いた気がします。次回明かされますが、ずっと勘違いは続いているのです。
という訳で次回。ケッチャコ・・・・・決着です。
次回予告。
───彼女は立ち上がる、肉体はボロボロで精神は不安定。けれど、それでも立ち上がる。紡がれる最後の詠唱、戦いはここに終結する。しかし、それは始まりでもあったのだ。疑惑は確信へと変わり、彼は叫ぶ。
コメント待ってます。誤字脱字の方もよろしくお願いします。