オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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―――――その時、物語は狂い始める。傍観者は語る、自らが傍観者では無いと。




















51話「おおー!流石ですタケ!」

閃光が煌めいた。轟音が轟いた。彼方にそびえる壁が吹き飛んだ。巨人は光に飲まれた。

 

「これが・・・・・英雄願望(アルゴノゥト)・・・・・か。『彼』は持っているのかな?スキルではなくその心に」

 

その一撃は黒い巨人を屠るのに十分な威力であった――――――――――――――本来ならば。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーー!!!」

 

否。本来であっても一撃では屠れなかったかもしれない。だが、それでも止めを刺す時間は稼げたが・・・・・今回は違う。これは本来の歴史ではない。これは結果は同じでもその過程は異なる物語。

 

否。結果は変わるだろう。異分子の異端者の、僅かな選択肢のズレが、何もかも変えてしまうのだろう。例えばベル・クラネルが死ぬ、などの本来ならば有り得ない現象を引き起こす。

 

しかし、まだ、大丈夫だ。まだ、藁のようなか細い希望ではあるが、結果は変わっていない。・・・・・何も変わっていない・・・・・!

 

「あぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

彼は溜息をついた。それはやっとの想いで繋いだ何か。求め続けている結末を見据える彼の想いの現れ。

裏切られ続け、求め続ける者の悲鳴。求め続けた末路。

けれど彼は信じ続ける。誰よりも怨みながら信じる。

希望を捨てず。望みを捨てず。決して心折れず―――――嗤う。

 

その視界に銀色の少女を映しながら。

 

「変えてくれるかい?君は、[運命]を・・・・・・・・・・。家族を救うその運命を・・・・・・・・・・。僕を・・・・・俺の願いを叶えておくれ・・・・・」

 

いと高き空、天界と呼ばれるそこ――――――よりも遥かに高いそこで彼は―――――駄神と呼ばれる彼は呟いた。

 

その目に光は無い。その目にはなに映っていない。ただ、過去の違う未来を見据えていた。

 

「そのうえで・・・・・・・・・・僕のために死んでくれ」

 

狂気。それが、彼を覆う全ての感情だった。怪しく暗く輝いた、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッソだろお前・・・・・。クロゴラさんは立ち上がった。立ち上がっちゃった。

 

どうすんだよこれ・・・・・・・・・・明らかに原作と大して変わらない威力だったよ?リーナの魔法で強化されたみたいだけどさ、凄い威力だったよ?

 

英雄ビームで死なないとかどうすりゃいいのさ。なに?完全な不死身なの?くっそ、魔力の無駄だな、楼観剣消そう。大蜂大刀でいいや。

 

大刀になった方がリーチが下がるというね、まぁそれはいいとして大刀でぶった斬る。掠らせるだけでも毒でだいぶ弱ってくれるからとても使いやすいなこの刀。名前が面白いが俺とて伊達に〈砂糖・黒糖〉の2本を使っていた訳では無い。

 

まぁつまりはキラキラネーム的な奴にはなれてる。てか慣れた。なので変とも思わない。そう、決して「どうせすぐ壊れんだから名前なんてどうでもいいよね」なんて考えている訳では無いのだ。

 

「はっ、ふっ、せぇい、とおっ、やぁ!」

 

1振りにつき1体。バッサバッサとモンスターを斬り捨てていく。リーナの結界も相まってもはや作業に近いが、それでも油断すると死ねる。耐久はそこまで高くないのだよ俺は。

 

油断はしてないが、【集中】のスキルは汎用性が異常に高いからな。倍化してなくても戦いながら考え事する余裕はできる、さて、現実逃避はやめてクロゴラさんの対策を考えなくてはならない。

 

するとドーン!と土煙が舞う。ファ?なんて思っていると土煙の中から人影が、そう、ムキムキマッチョマンの変態・・・・・略してオッタルだ。え?略してない?知らない。

 

「並々ならぬ事態と見た。俺も参戦しよう」

「遅いです」

 

おせえよ。って言ってしまった!まぁいいか。オッタルが来れば百人力だな!

 

「黒いゴライアスを任せてもよろしいですか?」

「あぁ、任せておけ・・・・・!」

 

襲いかかるモンスターをオッタルはワンパンチで塵にして黒いゴライアスに向かって跳躍した。まさかの一飛びだ。おい、ここから黒いゴライアスまで80mはあるぞ・・・・・。

 

そしてー、姿勢を整えー、パーンチ!おーっと黒ゴラさん吹っ飛んだー!!

 

・・・・・もうアイツだけでいいんじゃないかな。

 

 

「うおーーー!どけどけ!俺にも戦わせろ!ふっ!せいっ!」

 

・・・・・・・・・・はい?タケさん?何してんの?なして刀を持ち出してモンスターと戦ってんのかな?なんで平然と多次元屈折現象使いながら戦ってんの。なんで並の人間程度の身体能力でモンスターに囲まれて余裕で突破できんの?

 

なーんてツッコミを入れてみたがまぁ前からなので別に驚きはしない。レベル2の冒険者が束になっても勝てないしねタケには。タケミカヅチ・ファミリアでタケに勝てるの桜花と俺だけだし。あ、命何度か勝ってるか。

 

うわー、すげー、タケが沢山見える。キシュア・ゼルリッチ様様だな。

 

「おっ、妖夢いいところに!」

 

戦闘中であると言うのにタケがこっち見て手を振ってくる。ちなみにそんなタケの周りには剣を振るうタケが。・・・・・あるぇ?タケさんそんなにキシュア・ゼルリッチ上手くなってたの?俺抜かされてる・・・・・。ま、まま負けてたまるか!

 

「ぐぬぬ、久しぶりに燕返しウーマンになる時がしましたか・・・・・」

 

というわけで・・・・・ソイ!(燕返し)ソイソイソイソイソイ!!!

 

敵が多いい?刀増やせよ!敵が素早い?刀増やせよ!!敵が強い?刀増やせよ!

 

なんて完璧な理論なんだ。

 

と、思っていたら何処からか赤い光が空に打ち上がり・・・・・地上へと降り注ぐ。そして爆発の連続。ハルプが宝具を使って爆撃したようだ。まぁ意識の共有はしてるから知ってるけどさ。

 

にしても、まじで便利だよね。一気に敵倒せるし。もはや広域殲滅魔法と何ら変わりはしないよね。

まぁ唯一の不便があるとするならば消費魔力も二倍近く上がってる事か・・・・・。レッグポーチから精神を癒す、つまりは魔力回復の丸薬を3つ取り出しボリボリと噛み砕く。この丸薬も食べすぎると眠くなるから注意だ。

 

三つ食べたのでなかなかの速度で魔力が回復していく。残念な事に霊力の回復手段は持ってないのでしばらくは魔力で頑張るしかない。よしよし、これで魔力の数値も上がっていくな。

 

「じゃ俺行ってくるから!」

「はい!行ってらっしゃ・・・・・いやいやいや!待ってくださいタケぇ〜!」

 

 

 

 

 

 

『ちぃ、限りがないなぁ!』

 

でも、魔力とか使うのは憚られるし・・・・・うーん、1回ベルとかリーナの所戻るか。千草もいるしね!

 

干将・莫耶をトレースして振り回しながら進む。物理と魔法防御アップは心強い。怪異に対しても強いらしいけどそれはオリジナルの話だ。この剣は巫術とかに使えるらしいが・・・・・あれ?そういえばリーナって巫女もやってたような・・・・・聞いてみるか。

 

『そいや!っととと!おっす、元気かな?』

 

1度半霊化して崖を飛び上がり、空中でハルプモードになって着地。みんなに元気か確認するが・・・・・ベル君がぐったりしてる。

 

「おー、ハルプ君じゃないか、僕は元気だよ?」

『そうかそうか、良かった。ベル・クラネルは今の攻撃でぶっ倒れちまったか。』

「そうだねぇ、今のでも倒せないと見ると・・・・・」

 

リーナが袖で口元を隠しながらクロゴラさんを見る。

 

『ああそうだな、俺と妖夢のスキルで判明してる。アイツは死なないぞ。既に二十回は魔石斬ったし。』

「!!・・・・・うへぇ・・・・・もうリーナさん寝ていい?」

『ダメですー、ダリルも起き上がって戦ってるしみんなの援護お願いな』

「わかってるよー。でももう三年分は働いたと思うんだよね!何か美味しいものが食べたいなぁ・・・・・(チラッ」

 

そう言ってリーナはクルメの方を見る。するとクルメはビクッと肩を震わせたあとしわたわたと慌てだし、すっコケた。

 

「ぷっ・・・・・クルメ?もう少し落ち着いていいよー?僕も少し巫山戯ただけだから」

「ごごめんなさい・・・・・料理器具は全部ロキ・ファミリアの2台で・・・・・で、でも!器具が無くたって料理はできます!頑張ります!」

「おっ、いいねぇリーナさん期待しちゃう!」

 

転んだクルメをリーナが起こし、ほのぼのと会話が続き、クルメが何処かに消えたかと思えばモンスターの死骸を持ってきた。ミノタウロスだ。

 

『・・・・・』

「・・・・・」

「美味しいものいっぱい作りますね!」

『まぁ、ほら、あれだよ。・・・・・胃に入れば同じだろ?』

「はは、た、食べてみたかったんだよね、その、ミノタウロス。僕ウレシイ」

 

引くな。リーナ。負けるな。リーナ。俺は魂だからね食べなくていいんだ。

 

「すみませんリーナさん!火、起こしてくれませんか?」

「え、あーうん。火ぃでろぉ、火ぃでろぉ――――――――阿弥陀籤!」

「冷たいっ!?」

「あっごめんよ少年!」

 

リーナの魔力が減っていく・・・・・。やばい笑うな俺。てか俺がやった方が早いな・・・・・。そして水を引いた事により発生した回復の水がベルにぶちまかれる。ベル君起床。

 

『ほら、火炎切り』

「おー!ありがとうございます!」

「うぅ、僕の存在価値って・・・・・」

『あー・・・・・面白さ?』

「ひどいよぉ!!」

 

さて。ほのぼのしてる場合ではなかった。援護しなきゃ、モンスターを減らす。それが俺のミッションだからな。崖際まで歩き

 

『トレース・オン。』

 

弓を作り出し手に持つ。更に通常の矢を沢山作り出す。因みに弓そのものも宝具である。矢を3本ずつ番える。そして息を整え――――――――放った。

 

連射する。放った直後から手のひらより矢を取り出し番え、放つ。命中力なんて知るか、そもそも俺には千里眼なんてないのです。・・・・・の、割には命中してるけど・・・・・まぁモンスターなんて腐るほどいるし適当に打ってもあたるか。

 

当たると同時に矢が爆発する。宝具のランクにしてE、俺が投影したからE-。それでも壊れた幻想によってなかなかの威力になる。・・・・・お、魔力が・・・・・丸薬を本体が使ってくれたんだね。

 

「うは〜、ほんと妖夢ちゃん達は規格外だねぇ〜。」

『一般から見ればお前も規格外の1人だぞ』

「そんなことないよ〜僕の仕事は寝ることだからね!」

 

んなあほな。一時的ではあるけどモンスターの数が激減した。・・・・・まぁどんどん降ってくるけど。

 

『とりあえずここは任せるぞ。』

「・・・・・あの黒いゴライアスは、倒せないみたいだけど・・・・・何か方法はあるの?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ある、かも?』

「なら信じよーう。」

 

いや、かもっていったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

足を振り抜く。黒野郎の咆哮を吸収した蹴りで雑魚共を蹴散らす。

 

糞が、何体殺しても減りやしねぇ。

 

どうすりゃモンスターを止められる?未だに上から降ってきやがって。雑魚冒険者だったら落ちてきたモンスターにぶつかればその時点で死ぬじゃねぇか。

 

・・・・・中央付近に集中的に降ってきてるからまだましだがよ。

 

「■■■■■■■■■――――ッ!!」

「っ!ちぃ!!」

 

殴りかかってきた黒野郎の攻撃をギリギリで躱し、盛り上がった地面が爆発するように弾け飛ぶ。岩や土の塊に当たらねぇように黒野郎の腕を蹴って後方に飛ぶ、飛びながら着地地点のモンスターを蹴り殺し、着地。止まればまた攻撃が飛んでくる以上走ってなきゃ行けねぇわけだが・・・・・。

 

「オオオラァァア!」

 

全力で加速して、蹴りをぶち込む。足をへし折り地面に倒す。だがすぐに起きやがる。

 

・・・・・限りがねぇ。

 

チラリと後方の雑魚冒険者達を見る。殆どの奴らが息を荒くし、汗を滝みたいにかいてやがる。

 

不味い。

 

殺しても代わりの居るモンスター共と違ってこっちに人員はいねぇ。モンスター側は常に疲労のない状態での戦闘だが、人間側は常に敵と戦い続けている。

 

疲労に、人間は勝てない。

 

もう既に数人の奴らが崖上に運ばれていってる。疲れが集中力に綻びを生まれさせ隙を作らせちまう。ポーションは体の傷は直せても体力までは戻らねぇからな。

 

そこら辺はあの猿顔のおっさんがどうにでも出来そうだが・・・・・いや、流石にそれはやばい薬になっちまうか?

 

にしても・・・・・犠牲者が0の世界ではない、か。確かにこりゃあ俺達がいなけりゃ確実に死人が出てるな。

 

「助太刀しよう。」

 

あ?

 

「■―――――――――――――!!!!」

 

黒野郎が吹き飛んだ。つか空を飛んだ。ただ1発の殴りで。

 

「【猛者】・・・・・!!」

 

巨体が宙を舞い、轟音を立てて落ちる。どんな筋力してやがんだこいつ!

ドサッとすぐとなりに着地したオッタルに戦慄した自分が情ねぇ。

 

「ここは任せておけ【凶狼(ヴァナルガンド)】前線が崩壊する前に立て直してやってくれ。」

「チッ・・・・・1人で任せられるか?」

「フレイヤ様の名前に誓おう」

「そうかよ・・・・・アイズ!ティオナ!前線立て直すぞ!」

 

後方に下がりながらモンスターを薙ぎ払う。俺達の前にここらのモンスターは塵も同然だ、体力なんて使わずとも殺せる。風で吹き飛ぶ塵みてぇにモンスター達がボロボロと崩れ去る。

 

その時、誰かがモンスターを切り払って飛び出してきた。

 

「―――!タケミカヅチ!?」

「ふっ。今この時だけは1人の戦士だ。」

 

フッ。じゃねぇんだよ!神狙いだっつってんだろうがっ!?馬鹿なのか!?戦闘狂(妖夢達)の育ての親はやっぱり戦闘狂ってことかよ!糞が、行かせるわけには行かねぇ!ハルプとの約束を破る訳にはいかねぇんだ。

 

「バカかテメェは!!止まれ!」

 

俺の横を通り過ぎようとするタケミカヅチの肩を掴もうと、いや確かにつかんだ。が・・・・・

 

「無駄だ、男とは止まらぬものよ」

 

とか何とか言ってすり抜けやがった。訳が分からねぇ。

 

「あぁクソ!アイズ!雑魚どもは任せた!あのバカ止めてくる!!」

「頑張ってねーー!」「任せて」

 

あぁめんどくせぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

神は、そこに立った。凡そ人の中の最高峰、オッタルの隣に。

目の前に矗立する黒い巨人を睨むこともせず、自然体で眺める。

 

「・・・・・神タケミカヅチ。下がるべきでは?」

「ははは、俺を誰だと思ってる」

「魂魄妖夢の父であり、武神です」

「だろう?ならば下がれないな。」

 

いや、そこは娘の為にも安全な所に居た方が良いのでは、オッタルはそう考えたがタケミカヅチのその目をみて考えを改めた。

父としての威厳を示す、というのもあるのだろう、しかし、武神として、戦神として戦いを挑みたいのだろう。

そしてオッタル自身、それを止める理由はなかった。

 

(武神の武・・・・・この目で確かめねば。)

 

巨人は足元に居座る外敵を睥睨し、拳を後方に引き絞った。対するタケミカヅチは左足を僅かに後ろに下げ、構える。巨人と神との一騎打ちが今――――

 

「■■■■■■――!!」

 

始まった!

 

打ち出される渾身の一撃。巨体故にうち下ろす形となるそれが生み出す破壊力は想像をゆうに超えるだろう。階層を抜くかも知れない。そう思わせるほどのものだった。

 

そして、轟音が鳴り響く。土煙が舞い上がり視界を失わせ、岩が石ころの様に飛んでいく。

その様は必殺と呼ぶに相応しい、怪物の全力の攻撃は見ている者達の背筋を凍らせ、足から力を奪う。階層のほぼ全域(・・・・・・・)に地割れが広がった

 

どうなった?などと聞く必要すらない。意味すらない。あれが直撃したらオッタルとてその魂を身に留める事は出来ないであろう。

 

「た、タケっ!!」

 

悲痛な声がオッタルのすぐ近くから響く。オッタルがやや右下を見れば、胸元で両手を組み涙ぐんでいる妖夢が。・・・・・返事は無い。誰もが顔を手で覆った。

 

「そんな・・・・・そんな・・・・・」

 

首を横に振り、後ずさる。ここは危険だ、ここには居られない。そう理解していたから。これが出来レースだと理解していたからだ。ニヤニヤと妖夢が笑う。

 

ゴライアスがその顔をにやりと歪めた。そして目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力だけか・・・・・怪物に相応しいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抑えていた。たった1本の腕で、比べるまでも無く細いその腕で、あの一撃を。

オッタルは目を見張った。あの一撃を自分は防げ無いと思っていたからだ。

 

「だが、武神である俺にとって力ほど御しやすいものは無い」

 

その整った神々しい顔を、ほんの少し自慢げに、もっと詳しく言うのなら娘にカッコいいところを見せることができた微笑ましい喜びの顔で、驚きに顔を歪めるゴライアスの赤い双眸を睨んだ。タケミカヅチが行った事は簡単だ、【受け流した】唯それだけである。層を抜くほどの威力を秘めていた一撃の威力を階層全体に流す事で崩壊を防いだのだ。

 

「有難い授業だった。さて、授業料はおいくらかな?」

「■■■■■――――ッッッ!!」

 

タケミカヅチの挑発にゴライアスは再び拳を打ち込んだ。それは先と同じ一撃。怪物故に低い知能は最大の外敵を前に、最高火力以外の選択肢を取らない。故に。

 

「そうかそうか、値段は――――――――」

 

振り下ろされる巨腕。それに完璧なタイミングで手をピタリと押し当て――――

 

「腕1本だな?」

 

その破壊力をそのままゴライアスに返した。

自らの誇る最大の一撃が生み出したその破壊力はゴライアスの腕を吹き飛ばし、よろめかす。

 

「剣聖の斬撃も、英雄の光線も効かんとなればいよいよもって()の番かと思ったが・・・・・早とちりか。」

「■■■■■■■」

 

無駄だ、そう言わんばかりに唸り声を上げ身体が修復されていく。

 

タケミカヅチは顎に手を当てて考える。そして黒いゴライアスに背を向け歩き始めた。無視をするなと言っているかのように腕を薙ぎ払う。

 

「ふんっ・・・・・お下がりください。」

 

しかし、それは先程よりも威力が無く、オッタルに止められた。

 

「あぁ、倒す方法は一つだけ理解出来た。・・・・・妖夢、少し来てくれ。」

「もうっ、タケは何で我慢出来ないんですかっ!少し、いえ、結構心配したんですよ!!」

「ははは、まぁ倒す方法はわかったからな。それをこっそり教えてやろう!」

「おおー!流石ですタケ!」

「かっこいいか?」

「カッコいいですよ!」

 

賑やかに、しかしもどかしく感じたのか妖夢にお姫様抱っこされてタケミカヅチが森に消えていく。

 

そんな姿を見送ってオッタルは自分の足元を見た。・・・・・靴が地面を滑った後。ゴライアスの攻撃にオッタルは押された、力で負けた。

 

誰が聞いても、誰が見ても、彼を嘲る所か英雄として称えるであろうそれをオッタルは許せなかった。フレイヤ様の最高の戦士。それを自負し、そしてそうあろうとする彼はこの程度で下がるべきでは無いのだ。

 

「・・・・・ぅ、・・・・・うぉおおおおおおおおおお!!!!!」

 

自分を下がらせた巨人に賞賛と強い怒りを覚え、オッタルは襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、森の中まで来たけど・・・・・。

 

『ういっす、合流したよタケ』

「それで、どのような方法であれを倒すのですか?」

 

タケは若干ジト目でこちらを見ているが無視する。何故ならば勝手にゴライアスに突撃していったアホパパにカッコいい描写など許さないという硬い決意によるものだ。

 

「・・・・・魔法だ」

「魔法?」

 

霊力の消費を抑えるべくハルプを半霊に戻す。確か・・・・・駄神も魔法について軽く言っていた気がする。何だかんだ言ってヒントくれるんだからアイツもイイヤツだよな!

 

「そうだ・・・・・・・・・・【西行妖】を使えば倒せるだろう。」

「西行・・・・・妖・・・・・。」

 

未だ1回しか使ったことの無い俺の魔法。不安も多いが、それしかないらしい。たしかに、あれなら倒せるかもしれない。・・・・・成功した事はないけど、やってみるしかない。

 

「あれを唱えるには魔力も霊力も足りません。使うなら・・・・・」

 

俺の魔力全てと霊力全てをかけあわせても足りない。要求量が多すぎるんだ。・・・・・でも、手はある。

 

一刀修羅。それが詠唱を可能とするはずだ。身体能力も魔力も十倍近く引き上げるあの魔法なら。

 

「・・・・・一刀修羅か?」

「・・・・・はい。」

 

タケもわかっていたらしい。しかし、その顔は不安げで、俺を心配してくれてるのがよくわかる。・・・・・嬉しい。でもだ、さっきまさに無茶をしたタケの言うことなんて聞くもんか。

 

俺が殺らなきゃ、タケたちが死ぬ。

 

今はいい、今はまだ上手くいっている。でも、いつかは限界がくる。疲労やマインドダウン、集中力の低下が躊躇に現れ始めた時には、きっと前線は崩壊し、モンスターの波に飲まれ沢山の冒険者達が死ぬことになるだろう。それだけなら別に構わない、でも、その中には『家族』がいる、だからこそ、俺が殺らなきゃいけない。殺せるのが俺だけなら、俺しか殺せないなら、殺るんだ。殺って、皆で家に帰る。

 

事を起こしたのが自分なのだから、自分でけじめ付けたいしね。

 

「行きましょう――ッッッ!!??」

「□□□□□□□□□□―ッ!!」

「タケっ危ない!!!!」










次回、『詰み』

お楽しみに!


えー、ここで、全く関係ないけどアリッサさんの挿絵です。どのくらい関係ないかというと、そもそも装備が違ったりします。いずれ装備する装備的な何か。


【挿絵表示】


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