オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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いやぁー、アリッサさんを使いやすくして良かった。

友達とのラインの一幕。

シフシフ「アリッサさん使い易すぎて笑える」

友人H「ほう?」
友人M「アリッサ?」
友人M「女?」

シフシフ「女だよ」
友人M「使い易い女か・・・」

と言うのがありました。友人Mはアリッサさんきダークパワーで潰されるがよろし。



48話「――始まりましたか。」

頑強で堅牢な鎧に身を包み、屈強な体と不屈の心を持つ。

 

それが騎士。それがヒーロー。

 

弱気を助け、悪しきを挫く。

 

それが騎士。それがヒーロー。

 

それこそが私の目指す物。私の到達点。

 

故に。

 

「他者を陥れ、自らの醜い虚栄心を満たそうなどと・・・・・!恥を知れ!!」

 

私は憤りを覚えた。何度も何度も、目の前に群がるこのアホどもを守ってきた。この鎧で、この盾で、この体で。

 

何故、私の願いは届かないのか。

 

弱気を助け、悪しきを挫く。それだけの理想を何故叶えられない。何故裏目に出る。何故私はいつも守れない・・・・・!

 

理想(キュクロ)騎士(ヒーロー)ではなかった。少女を虐げ処理した盲目の下郎・・・・・。私は少女達を知ることも無く、守る事もできなかった。そして、その間この様な輩を守ってきたのか・・・・・!!

 

「てめぇは・・・・・アリッサか!オメェら!武器をとれ!コイツは止められねぇぞ!」

「「おう!」」

 

あぁ、なんという無様か。私程騎士という言葉の似合わない女も居ないだろう。だが、だとしても。私は理想を追う。

 

「私に命が、意志がある内は!貴様らにこれ以上の悪行はさせん!!」

 

私は誓ったのだ。守る、と。一度は守った者達を一度の間違いから斬り捨てるなど。それは騎士では無い。許し、道を正し、前に立ち導くのもまた騎士。

 

「その腐った性根、私手づから叩き直してくれる!!」

 

来るがいい、騎士はそう易々と倒せる者では無いのだとこの身をもって教えてやろう!

 

「ぉぉおら!!」

 

降りかかる二対の凶刃。片方を盾で防ぎ、片方を斧で弾き、柄で鼻面を殴りつけ壁まで吹き飛ばす。狭い室内であれば私の方が有利だ、味方がいない以上スキルの大半が発動しないが、それでもこの程度ならば必要ない!

 

「ダァァァアクッ!パワァァアア!」

 

闇属性を腕に付与し、振り下ろされたメイスを手で弾き、斧で槍を逸らす。盾で複数の攻撃を受け止め、押し返す。バランスを崩した相手に拳を打ち込めば、殴られた相手はバランスを失った様にふらつき倒れる。

 

「ちぃっ!!知っちゃあいたがコイツはやりずれぇな!!」

「そこぉぉ!」

 

盾を構えた突進。数人を吹き飛ばし机を薙ぎ倒す。横薙ぎに振るわれた斧槍を斧を手放した素手で受け止め。強引に奪い取ったあと面の部分で殴りつける。

 

「ぐぼぁ!!」

 

吹き飛んだ男が周りの男も巻き込みカウンターを破壊する。さすがの私も無傷では無い。たったこれだけの戦闘でも既に3箇所鎧に傷がついた。

 

「どうした・・・・・この程度か?この程度の実力で、この程度の想いで貴様らはあの少年を痛ぶろうと考えていたのか?」

 

距離を置き機を伺う彼らに話しかける。

・・・・・・・・・・彼らの一撃には確かな「誇り」があったからだ。重みの無い誇りの無い一撃を放ってくるようであれば言葉など無く容赦なく叩きのめしている。

 

「わかるだろ?アリッサ。アイツらは異常だ。俺達は何年かかった?此処(Lv2)に至るまでにどれだけ時間をつぎ込んだ!?・・・・・許せねぇ、どんなインチキ使ってやがるんだ・・・・・?教えてくれよ?知ってんだろ?なぁ!」

 

・・・・・そうか、そうだったのか。恥ずかしい事に私は少しばかり彼らを見誤っていたらしい。彼らは確かに外道に近い事をしようと企んでいた。だが、彼らにもまた「正義」があったのだ。人が長い時間をかけてたどり着く昇華(ランクアップ)と言う進化にことなげもなく辿り着く彼女らに対し、疑問、疑惑を抱いた。そしてそれを見定めようとしたのだろう。

 

だが。

 

だとしても。

 

それが私の仲間を傷付けていい理由にはならない。

 

「私は5年かけた。お前はもっとかかったな。」

「あぁ!そうだ!わかるだろ?奴らの異常さが!?」

「あぁ、知っている。彼女は異常なほど強いからな。」

「なら!」

「だからなんだ。」

「なっ・・・・・!」

 

「私は誓ったのだ。彼女らを守ると。道を外したのならば手を差し伸べ、道を違えたならば強引にでも連れ戻すと。この心に、この身体に確かに誓った!」

 

それはお前達にも誓ったことだ。

 

この者達は悪ではなかった。それは素直に嬉しい。命を危険に晒してまで、身体に消えない傷を幾つも負ってまで守り抜いたのが悪人だった、では笑えない。今きっと私は笑っているのだろう。

 

「これで終わりにしてやろう・・・・・!」

「糞が・・・・・!やってやんよ・・・・・!」

「「行くぞ!!」」

 

両者同時に地面を蹴り、互いの距離は瞬く間に0となり・・・・・「ストーップ!!」待ったが掛かった。

 

 

 

 

 

 

やれやれ、と肩を上げて首を横に振る。ヘルメスは目の前で起きている喧騒に「まいったなぁ」と声を上げた。

 

「なんでここに来たんだろうか、うーん、俺達もバレてるよねこれ」

「おそらくは。」

 

うわー、とめんどくさそうに椅子に凭れ掛かる。自分のすぐ隣のテーブルを砕いて冒険者が吹っ飛んでいく。りヴィラの冒険者の攻撃の悉くが盾に防がれ斧で弾かれ、そして殴られる。

 

「・・・・・可笑しいよな、たった1週間位タケミカヅチの所で学んだだけでああなるんだろ?本人の飲み込みが早いのも有るだろうけど、やっぱり武神だよなぁアイツも。」

「あの神ほど武神が似合う方も早々いないと思いますが・・・・・」

 

荒削りではあるが、確かにアリッサの「武」はタケミカヅチの技術が垣間見得る。なるほど、確かに単純な防御力ならタケミカヅチ・ファミリアトップと言うのも頷けた。

 

「困ったなぁ。どうするアスフィ?」

「どうするもこうするも、私ははじめから反対していましたが」

「でもなぁ、彼には一度人の悪意を知ってもらいたいんだよ」

 

吹っ飛んできた冒険者にアスフィが蹴りを放ちほかの方向に吹き飛ばし、また座る。アスフィは「はぁ」とため息をつきながらヘルメスど同様に机に突っ伏した。

 

「もうテキトーでいいのでは?」

「それじゃあ何も起こらないでしょー、絶対に。」

 

戦いは熾烈を極め、いよいよ最後の一撃、という所まで来てしまっている。そして、両者の距離が0となり・・・・・なる前にヘルメスが待ったをかけた。

 

「ストーップ!!はいやめ!ダメだダメ!」

「なっ・・・・・神ヘルメス、それは私達に対する愚弄か!この者達も私も、自らの矜持を持って戦って」

「はいはい、見てご覧よこの店を!」

 

抗議するアリッサにヘルメスは芝居のような大袈裟な動きでアリッサの視線を店内に移させる。そこには壊れたテーブルが幾つもあり、カウンターはひしゃげ、沢山の酒があった棚は落ち、酒は大半が割れていた。

 

「こ、これは・・・・・・・・・・」

「全く、これは酷いな。喧嘩は外でやるのが酒場のルールって物じゃないのかな?」

 

壁に寄りかかる様にして立ち、帽子を片手で弄びながらニヤリと笑うヘルメス。アリッサは自らの齎した破壊に少しばかり戸惑っているようだ。

 

「熱くなるのは構わないよ、俺もそう言うのは好きだからね。カッコイイと思うし、見てて楽しい。でもっ」

 

と壁から離れアリッサの元まで歩く。そして肩を叩いて

 

「他人に迷惑かけるのは騎士じゃ無いだろう?」

 

と帽子をかぶって外に出ていった。そして、アリッサを除いた冒険者達は理解する。

 

(((((なんかソレっぽい事言いながら逃げたぞ!)))))

 

一方アリッサは自らの至らなさを恥、冒険者達一人一人に謝った後、店主に必ず弁償すると伝え、店をあとにした。そして最後に

 

「もう変な事は企むなよ、あ、あと皆の方からも店主には謝っておけ。弁償は私がする・・・・・」

 

と少し気まずそうに言って帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「糞がっ!」

 

バン!とモルドが壊れたテーブルを蹴り飛ばす。

 

「良い子ぶりやがって!」

 

まぁまぁ、落ち着けよモルド。冒険者達がモルドを宥めようとするがモルドは落ち着きを取り戻さない。

 

「あの女・・・・・!俺の名前を呼ばなかった・・・・・!糞が、忘れたなんて言わせねぇぞ!」

 

憎々しげにモルドが唸る。その姿に誰かが「うわー、始まったよ」と降参のポーズをとる。

 

「糞が・・・・・昔は一緒につるんでた癖によぉ・・・・・!」

 

アリッサは此処リヴィラを拠点に活動していた。そして、編成に不安のあるパーティーや、新米達に付き添い守る事を己の使命とし、行動していた。

そして、モルドは時折アリッサと共にダンジョンを巡った事があった。アリッサが防ぎ、モルドが討つ。即興のコンビネーションは何時しか確りとした連携になり、ミノタウロスですら無傷で倒せる様になった程に。

 

――モルド、良い一撃だった!代われ!――

――おうよ、任せた!――

 

(あの時、確かに感じたんだ。戦う事に対する喜びをダンジョンに潜る喜びを。)

 

一般的に、ダンジョンとは死窟だ。潜れば最期、恩恵無しの人では戻ってこれないとされる。勿論士気など本来であれば上がるはずなど無い。いつ死ぬかわからない、何処から敵が出てくるかわからない。いつ崩落するか、何が起こるのか、何もわからないこの迷宮で士気を保つには・・・・・願いが、野望が必要だった。

 

ダンジョンとは、(いのち)を捨てる場所だ。何よりも大切な生命を削り捨て、代わりに金や名誉や女を得る。強さもまた得られる物の一つだろう。故に人は死窟に潜る。

 

しかし、目標を見失った時、立ち止まってしまい停滞した時。士気は失われる。惰性で潜れるほどダンジョンは甘く無い。野心が、野望が欲望が。それらがあって初めてダンジョンに挑む理由となるのだ。

 

そして、彼もまた停滞した者の1人である。伸び悩むステイタス、上がらないレベル。どれだけ潜っても、どれだけモンスターを屠っても。経験が周囲のモンスターを難なく倒せるようにしたとしても。足りないステイタスがより深みを目指すことを妨げる。なまじ利口であったがために冒険(無謀)を犯せない。

 

そして、冒険(無謀)を犯さない者を神は認めはしない。ランクアップには冒険と言う行為(神が認める偉業)が必要なのだ。

 

故に、停滞する。命を放り捨てられない臆病者達は(眼識を持つ者)どうしてもそこでつまづき諦める。例外は存在するが、多くはこれに当てはまった。

 

ランクアップをすると言うことは『神に近づく』という事だ。つまりは人を辞めていくこと。だからこそ形はなんであれ強い意志が必要なのだ。

 

(俺よぉ、楽しかったんだよ。数人のパーティーだったが20階層まで楽々と進出出来たじゃねぇか・・・・・)

 

――くっ、この武器ではリーチが足りんか!――

――代われアリッサ、俺なら届く・・・・・おらぁっ!!――

 

この男にとって、最近まで出来ていた生きがいとでも言うべき物、それは仲間。ファミリアと言う壁を越え、ダンジョンを征するために協力する仲間。素顔も知らず、素性も知らず、けれど背中を預け命を預ける事を良しとする仲間。

 

――ふっ、まだまだ・・・・・だな、お互いにっ・・・・・!――

――・・・・・ぐ、あぁ、そう、だな。・・・・・くく、負けねぇぞ?――

――ふふふ、抜かせモルド――

 

それはなんと美しい物だろうか。モンスターに挑み襤褸切れの様になりながらも互いを支え共に歩む仲間は、彼にとって、モルドにとって命を捨て去る価値のあるものだった。

 

(なんで、なんで名前を呼びやがらねぇ!忘れちまったのか?この俺を?)

 

だからこそ、なのだろうか。モルドから見たベル・クラネルは【剣姫】に取り入り、ロキ・ファミリアに媚を売り諂い、おこぼれに預かる乞食にしか見えなかったのだ。

 

(お前は・・・・・産婆にでも成りやがったのか?あんなガキ共を守るために強くなったってのかよ)

 

許せない。彼の矜持が、彼の理想が、彼の想いが。努力も無しに強くなっていくベル・クラネルを許せない。

 

「あぁ?」

 

そんな時、ヘルメスが座っていた席に1枚の紙切れを見つけた。

 

「何だ・・・・・?」

 

開いてみるとそこには

 

“計画はそのまま実行してくれ。君の宿泊している宿にハデスヘッドは届けておくよ。君達の味方ヘルメスより”

 

と書かれていた。急いで書いたのか少し汚いが問題なく読める程度だ。

 

モルドは紙切れを強く握りつぶした。その目に確かな光を湛えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティアがいない。ベルもいない。その声が耳に入り、俺は立ち上がる。

 

「――始まりましたか。乖離は・・・・・無さそうですね」

 

今は、まだ。そう内心で付け加え、隣に腰掛けていたべートを見る。

 

「わかってるっつの、見逃せばいいんだろ?ダンジョンからの撤退に手間取ってましたってな。」

 

肩を竦めおちゃめな事言ってるべートの頭を撫で・・・・・ようとしたら手で弾かれたので少しムスッとしながら俺は桜花達の元に向かう。・・・・・桜花達は事態に焦っているようだ。

 

「!!みょんきち!ヘスティア様とベルが居ないんだ」

 

ヴェルフが俺の肩を掴んで揺する。やめて欲しい。酔うぞこら。

 

「えぇ、話しは聞いてましたから・・・・・私も見ていません。」

 

事務的に答える。けど怪しまれないように顎を片手で抑えながら考えるふりをする。

 

「みんな!これを見て!」

 

千草が少し離れた場所から走って来る。そしてその手にはヘスティアの香水やポーションなどのアイテムがあった。・・・・・原作通りだ。

 

「・・・・・・・・・・誘拐、って事か。」

「神様に手を出すなんて、恐れ知らずだね。敵さん。僕ならやらないよ、こんなこと」

「ベル様・・・・・。いえ、まずは作戦を立てましょう!」

 

うーむ、俺はどうにか話の内容から逸れたいなぁ。つっても、不自然になるのもダメだろう?仕方ない、普通に桜花達について行くか。

 

「作戦はこうです。リリが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――僕のせいだ僕のせいだ!)

 

森の中を疾走する白い影。紙に書かれた場所に、焦燥にかられ走る。

 

(僕が目を離したから!神様は・・・・・!妖夢さんは忠告してくれたじゃないか!どうして見てなかったんだ!)

 

――なんで、僕はこんなに弱いんだ。

 

焦りと自分に対する怒り、忠告をくれた妖夢への申し訳ないという気持ちを綯い交ぜにして走る。

 

僕は坂を駆け上り、巨大水晶が生える広場へと飛び出した。

 

「なっ――」

 

僕の視界に広がるのは・・・・・モンスターでも美しい光景でもなく・・・・・ニヤニヤと悪どい笑みを浮かべた冒険者達の集団・・・・・約50人。

 

「来たかリトル・ルーキー・・・・・一人で来たんだろうな?」

 

広場の中心に立ち、腕を組む男にに僕はと小さく頷く。

 

(何が起きるかわからない・・・・・けど、妖夢さんの言うことを信じるなら・・・・・)

 

――決して、人とは善人だけではないのです――

 

なら。きっとそうなんだ。うまく理解出来ていないがそれでも淡い想像は出来た。・・・・・いや、きっと希望を持った。悪くてもこの程度と、勝手に僕のものさしで計った。

 

「早速本題から入るがよぉ、俺はとある人物に見世物(ショー)を頼まれていてよ。お前は神様が救いたい、俺は観客を盛り上げたい・・・・・どうだ?双方の利害は一致してるだろぉぅ?」

「見世物って・・・・・一体?神様は何処に」

 

見世物、それは結局見れなかった怪物祭の様な物だろうか・・・・・と現実逃避をしかけ、しかし振り払う。

わかってる。彼らの言う見世物は僕なんだ。

 

「なぁに、こういう事だよ糞ガキがぁ!!」

「なっ」

 

大剣が轟音と共に地面に叩きつけられる。風が吹きすさび、土煙が視界を完全に封じた。

 

相手が何処にいるのか見渡してもわからない。・・・・・不味い。僕は冷や汗をかいた。

 

「おらァ!」

 

土煙を割って飛び込んでくる()、僕は余りの不意打ちに対処出来ず顔を思い切り殴られ吹き飛んだ。

 

「がハッ!」

 

態勢を起こし素早く立ち上がる。僕を殴りつけた冒険者の男は拳を摩りながらニヤリと笑う。

 

「透明化?ハデスヘッド?・・・・・くだらねぇ。そんな物に頼ってコイツを打ちのめした所で満足できるかよ」

 

そう言ってやけに真剣な顔で、拳を構え直す。

 

「来いよ新入り、冒険者ってもんを教えてやる・・・・・。」

 

口の端に流れた血を拭い、僕も拳を構えた。すると向こうは怪訝な表情を浮かべた。

 

「おいガキ、なんで武器を構えない」

「貴方が、武器を持っていないからです。」

「・・・・・そうか、嘗めてる見てぇだな冒険者をよぉ。」

 

ダンッ、と地面を蹴り前進する冒険者。僕は真横に飛び跳ね回避し、拳を振り切った相手に蹴りをうちこむ。

 

「――へぇ。やるじゃねぇかよ」

 

しかし、僕の蹴りを素手で掴み防がれた。

 

「目の前に立ちはだかるもんはよぉ!全部モンスターだと思って戦いやがれ糞ガキがぁあ!」

 

力のステイタスに大きな差があるみたいで、僕は片手で持ち上げられ地面に叩きつけられる。そして、巨大水晶の方に放り投げられる。

 

「ぐはっ!・・・・・くっ」

 

肺の空気が全部抜ける。呼吸ができない。それでも立ち上がり、拳を構えた。相手は大柄だ、懐に入り込めば・・・・・

 

そう考えた僕は態勢を限界まで低くして突貫する。

 

「!?速ぇ!」

 

殴り込み、しかし押しつぶそうと前進して来る冒険者に回し蹴りを打ち込み、その反動で後ろに跳んで距離をとる。

 

(気になることがある・・・・・神様は何処なんだ。見世物なのに神様が居ないならここではないどこかに?目の前の人を倒せば教えてくれるのか?本当に?)

 

「考え事をしてる余裕があるとはなぁ!」

 

鈍い音と共に蹴りが僕の腹にめり込む。そして上空に吹き飛ばされた。周りの見学者達がざわめく。

 

「はっ、ガキが。これで終いだ・・・・・!」

 

このままでは負けてしまう。それは僕にもよくわかった。でも、魔法をあの人に撃つことがはばかられる。妖夢さんやアイズさんには回避されるとわかってるから撃てる、けど、目の前の人は多分躱せない。まともな呼吸も出来ないままにそう思う。

 

でも、神様が。・・・・・神様を助ける方法はまだわからないけど、でも、僕は彼を倒す事でしかきっと情報を得られない!なら、使うしかない!

 

決断は早かった。

 

空中で首をひねり、角度を変える。手を自分の真下にいる冒険者に向けて―――叫んだ。

 

「【ファイアボルト】ぉおおお!」

 

放たれる赤い雷炎、その数3。冒険者は目を見開き・・・・・直撃した。

 

「ぐぉおおあ!」

 

激しい炎に襲われながら炎の中から飛び出してくる。鎧の毛皮が使われている部分がちりぢりになりながらも大きなダメージは無いらしい。着地したあと冒険者を見ればその手には1振りの大剣が。・・・・・防がれた。そう理解して驚く。対人戦に滅法強い筈の魔法が防がれるなんて・・・・・。

 

「・・・・・アイツなら、無傷で防ぐんだろうな。」

 

そうつぶやく冒険者。その顔は何故か嬉しそうだ。僕は思い出す、相手を信用する、と言うのも対人戦の駆け引きにおいて大事だと妖夢さんに勧められた本で読んだ。

彼ならこの程度防いでみせるはず、と言うように自分の最善、最高の一手が常に防がれると考えた上で行動するようにする、相手を常に自分よりも高く見てそのうえで戦術を考える。そうする事で自身の慢心を無くし、冷静に戦える・・・・・らしい。

 

なら、僕は目の前の冒険者を信用してみることにする。周りの喧騒の声も、剣戟の金属音も、僕の耳には入らない。

目の前の彼を倒さないと・・・・・!それしか考えてなかった、恐らく彼もそう考えている筈だ。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

魔法を連射して、炎が消えない内に走り出す。向こうが大剣を抜いたならこっちも、とヘスティアナイフと牛若丸をその手に持って突撃する。

 

「ぉおおら!!」

 

ファイアボルトを大剣で縦に切り裂いた冒険者。僕は切り裂かれた炎に飛び込み、裏に回り込む。炎で僕は見えてない。けど、きっと彼にはバレてる筈だ。ならまだ斬りかからない。

 

「【ファイアボルト】ぉお!!」

 

真後ろからの至近距離魔法速射。それは冒険者の背中に吸い込まれていき着弾。炎が広がり視界が埋め尽くされる。でも。彼ならまだ終わらない筈。

 

駆け出して炎に飛び込む。炎を振り払おうとした大剣の横振りをヘスティアナイフで受け流し、ガラ空きの脇腹を牛若丸で切り裂き、そのままの勢いで転がるように離脱する。でも。まだ彼ならきっと。

 

体を翻し背中から地面を滑るようにしながら魔法を連射する。

 

「【ファイアボルト】ぉお!!」

 

脇腹を抑え火傷と出血の痛みに顔を歪めている冒険者に僕は止めと言わんばかりに魔法を打ち込んだ。

 

「【ファイアボ――ルト】!?「そこまでだベル君!!」」

 

探そうとしていた声が耳に入り、思わず魔法を中断しかけ適当な方向に放つ。僕の目線の先に神様がたっていた。

 

「神・・・・・様?」

 

 





さてさて、色々と動き出しましたが・・・・・。

ベル君もだいぶ強くなってしまっていますね!まぁアイズと妖夢に扱かれてますから仕方ない。

そして意外に思った方も多いと思いますがモルドさん。

これは単に作者の趣味です。若い男女がなんかすごい力とか使って強敵を倒すよりも、オッサンが地に足踏ん張って泥臭く頑張る方がカッコイイと思ってます。

あ、ちなみにこの後モルドさんは気絶してしまうので次話には出てこないです。

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