オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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2話です。

文字数は今くらいでいいのかな?


2話「早速修行です!」

目の前の少女が顔を上げ、荒い呼吸をしながら振り絞るように声をだす。

 

「とう・・・賊が・・・ハァ・・・お婆ちゃんを・・・ウゥッ!助けて!お願いです・・・痛っ!」

 

腕と背中に斬られた様な傷がある、盗賊か・・・とタケミカズチは冷静に判断する。

 

「わかった。お前達はアマテラスの所に行って戦える者達を集めてくれ。命、この子の治療を頼む!・・・君、名前は?」

 

タケミカヅチは辺りの者達に指示を出し、傷だらけの少女に名前を聞く、名前とはそれだけで多くの情報をもたらすのだ。

 

「・・・魂魄・・・妖夢です」

 

「魂魄?」

 

聞いた事の無い名だ、不審に思うがしかしこの少女は嘘をついていない。つまり自分の知らない遠くの方から来たのだろう。

 

「治療道具を持ってきました!ええと「妖夢です」妖夢殿ですか!いま治療するので・・・」

 

命はテキパキと妖夢を治療するが、刀傷を見て顔を顰めている。こんな子供が傷を負うのを許せないのだろう。それはタケミカヅチも同じだった。

 

カチャカチャと使い込まれた装備を装備した男達4人が現れる、神ツクヨミの眷属達だ。上位の眷属は他の依頼のため出はからっている、だが盗賊が神の恩恵(ファルナ)を授かった戦士達に勝てる見込みはない。

 

「タケミカヅチ様!俺達も!」

 

子供たちのリーダー格である桜花が声を上げる、命や千草も頷いている。この子達はまだ神の恩恵を貰っていないが、盗賊相手なら十分に戦える。だがこの子達はまだ子供だ。一番年上の桜花でさえ昨年12歳になったばかりだ。

 

「ダメだ、お前達にはまだ早い、・・・いや、来たいなら来てもいいが足は引っ張らないでくれ」

 

真剣な声でそう指示すると桜花達は足早に駆けていった。

 

正義感の強い子達だ・・・きっとこの子が怪我をしているのを見ていてもたっても居られないんだろう。

 

「私も・・・行きたいです・・・っ!」

 

その声に驚いたのはタケミカヅチ本人だ、振り向いて確認すると妖夢はまるで刀剣のような瞳でタケミカズチを見つめている。治療したとはいえ激痛が体を襲っているはず、子供が耐えられる痛みではない。しかしその目には確かな覚悟が見えた、武神だからこそわかる刀の様に研ぎ澄まされた覚悟。

 

・・・この子は生まれながらの戦士なのか、止められないな、これは。

 

「・・・俺は別に構わない。だが・・・人の死を見ることになるぞ?」

 

だが子供に血なまぐさい現場を見せたくはない、それにきっと妖夢のお婆さんはもう死んでいるだろう。・・・いや、子供がこんな目をするならばそのお婆さんも・・・。

 

「っ!・・・でも、それでも行きます、一宿一飯の恩は返さなくては・・・!」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

ガシャガシャガシャガシャ。

 

鎧を着、刀や弓を持った集団が前を走っている。この人たちはアマテラスの眷属らしい、何故助けてくれるのかは分からないが今は少しでも戦力が欲しい。相手は確か十数人居たはずだ、それを半霊パンチで倒し切るとか無理だろ常識的に考えて。

 

こちらに来るまでに何が起こったかというと、お婆ちゃん(道中でお婆ちゃんと呼んでもいいと言われたため、呼び方を変更した。)とピクニック気分で山道を歩いていると、褌一丁で刃こぼれした刀を持ったHENTAI(盗賊団)に襲われたのだ、この体の戦闘手段なんて何もわかってない、しかしお婆ちゃんを置いていく事も出来ない。そんな理由で俺がとった攻撃が「半霊パンチ」だ。どんな技なのかは言うまでもないと思うが、半霊を操り相手にぶつけるだけだ。パンチなのかって?いいんだよ一応俺の体だし。第三の腕だよ第三の。

 

しかし、ポムポムしている半霊で倒せる筈もなく、俺達は囲まれてしまう。そこでお婆ちゃんがとった行動が、素早く動けない自分を囮に、俺に助けを呼んでもらうことだった。

 

俺が走り出すと同時にお婆ちゃんが小声でブツブツと何かを言い始めたが俺はそれに気を使っている暇はなく、俺を追い掛けてきたHENTAIに向かって半霊パンチを放ち、距離を詰められないように逃げていたのだがHENTAIは思った以上に足が早く背中と腕を斬られてしまった。

 

・・・と言った感じだ。傷に痛みは有るがそこまで深くはない、この体が特別痛みを感じにくいのかも知れないし、お婆ちゃんを助けようとアドレナリンが出てるのかもしれない。だが今はそんな事はどうでもいい・・・無事で居てくれよお婆ちゃん。

 

 

 

走り続ける事3分、正直こんなに短かったか?と言った感じだ、遠回りしていたのか追われていたため長く感じたのか。しかしそんな事はどうでもいいと思える光景が目の前に広がっていた。おいおい、なんだこれは。

 

「ここで・・・あっているのか?」

 

辺りの木々の至る所が焦げ、真っ黒けっけになってピクピクしているHENTAIが2人、いや2体。あのお婆ちゃんがやったのか?・・・まじかよ、あのお婆ちゃんファルナ持ってたの?あの時ブツブツ言っていたのは呪文か?

 

「はい・・・ですが・・・魔法を使ったのでしょうか?」

 

何となく隣のアマテラスの眷属の人に問いかける。

 

「その様でごザルな」

 

・・・濃い、キャラが濃い。すげぇ猿みたいな顔してるよこの人。

 

「お、お猿さん?」

 

やべぇぇぇ!声出たよ!出ちゃったよ!まじか!感情だけじゃなく心の声まで出ちまうのかっ!

 

「むむ!お猿さんではないでごザルよ!拙者は猿飛猿師(さるとびえんじ)でゴザる!」

 

なんだ猿か…びっくりさせんなよな。

 

「お猿さんでしたか、びっくりさせないでくださいよ。」

 

あ、また出た。

 

「・・・何故でごザルか?なぜなんでござろうか、なぜ・・・なぜ拙者はこんな顔に・・・子供なら許せる、しかし、何故大人まで普段から・・・」

 

地雷踏んじまった・・・ま、まぁいいよね。仕方ない、子供だから仕方ない、思った事が口から出てしまう事もあるさ。泣くなよ、生きていれば人生・・・いや猿生、いいことあるさ。元気だせよ。

 

「泣かないで下さいお猿さん、きっといいことありますよ」

 

「同情なんか要らないでござる・・・と言うかそれは最早止めを刺しているでごザル・・・。」

 

因みにこの間、盗賊達の足跡を発見し、追跡をしているのだからこの猿侮れない。

 

 

 

 

 

見つけた、やっと見つけた。良かった、まだ生きている。間に合ったんだ・・・いや、生きてるけどさ。

 

「ヒャッハー!汚物は消毒だー!逃げるんじゃないよ若造ども!そのねじれ腐った根性叩き直してやるよ!」

 

「アバー!」「グワー!」「アイエエエッ!ニンジャ!ニンジャナンデ!?」

 

そこにはHENTAI焼肉会場があった。お婆ちゃんの速さは俺じゃあ目線で追うことすら出来ない。

 

いや何でだあああぁぁぁあぁ!!何で勝ってんだよ!何で飛び跳ねてんだよ!あれ?俺いる?俺が助け呼ぶ必要あった?!お婆ちゃんの方が圧倒的に早いだろうがあぁぁぁぁ!

 

「な、何故母上が居るでごザルか?!」

 

お前の母親かよおおおおぉぉぉぉっ!似てねぇよ!お婆ちゃんどちらかと言うと大和撫子っぽい感じだよ!あれか!?お父さんが猿顔なのか?!いや猿だろ、ぜってぇ猿だろ!てかお前何歳だよ!猿顔で年齢わかりにくいんだよ!

 

「42でゴザる」

 

さらっと心を読むなあぁぁぁ!そして意外に歳行ってるうぅう!あれだよね!老け顔って年取ってから逆に若く見られるよねっ!何もんだよテメェ等ァ!

 

「ふぅ、久しく動いたもんだ、少しやられちまったねぇ。お?猿師じゃないかい、おお、妖怪のお嬢ちゃんも。どうしたんだい?アタシはタケミカズチ様のところに行けと言っただろうに。」

 

え?なに、そう言う意味だったのあれ?戦えないから味方よべとかじゃなくて「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」的な意味だったの?折ったの?フラグ折ったの?俺が斬られた意味とは・・・。

 

唖然とし、動けない俺を他所に会話は続く。

 

「久しいでごザルなぁ〜、母上元気にしていたでごザルか?ああ、これは丸薬でごザル。」

 

「あぁ元気だよ、こうして根性どころか男も曲がっちまってる阿呆共を燃やせる位にはねぇ」

 

な、何かいきいきしてるなぁー。こういうのってさ普通、こう、何ていうかあれじゃないの?お婆ちゃんがやられて「くっそおぉぉ!」とか何とかいって主人公覚醒するんじゃないの?現になりかけてたよね?そのフラグも微みょんに建ててきたよね?駄神か?あの駄神のせいなのか?どーせ今頃上で

「プギャプギャ━━━m9(^Д^≡^Д^)9m━━━━!!!!!!」とかなってんだよ、いつかぶっ飛ばしてやる。

 

という訳で無事に(?)俺はタケミカヅチの所に届けられた。いやさっき来たばっかだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いしますっ!私を強くして下さい!」

 

俺は今土下座している。なぜならそれは強くなりたいから、誰かが死んでそれで覚醒なんてテンプレをあの駄神は許してくれないらしい。ならば修行だ!という事で上のセリフに戻る。

 

「ああ、元より俺はそのつもりだったぞ」

 

タケミカヅチはいい笑顔で頷く。おお、さすが武神。いずれバイトする事になるとはつゆほども感じさせない神々しさだ・・・!

 

「有り難うございます!」

 

よし、明日から修行だ!頑張るぜ!っと、その前に皆に挨拶を―

 

「よし!そうと決まれば早速修行だ!」

 

・・・へ?

 

 

〜少女修行中〜

 

「あ、あの!こ、こうでいいんですか?あの?」

 

「隙だらけだぞ!」

 

「・・・へ?ゥッ!みょおおぉぉん!」

 

「刀の握り方が逆だ」

 

 

「くっ!こうなったら!破れかぶれです!」

 

「こい!」

 

「はぁああああ!」

 

「とうっ!」

 

「みょおおおおおぉぉぉぉ・・・・・・ぉおンッ!」

 

「力だけで振り回すな、円運動を意識しろ!」

 

 

 

ならば!回り込んで・・・っ!ここ!

 

「せいやぁっ!」

 

「甘い!」

 

「なんでぇー!ぐへっ!」

 

「相手の意表を突こうというその考えはいい、だが基礎もまだ出来ていないのにそんな事をしても殴られに行っている様なものだ。」

 

 

つ、つぎ、こそ、は・・・

 

「はあああああ!」

 

「重心を意識しろ、やり直し!」

 

「うみょん!!」

 

「・・・今日はもういいだろう、よく頑張ったな、妖夢。」

 

〜少女修行終了〜

 

 

タケミカヅチとの修行、もといサンドバック(おれ)が終わり、俺は傷だらけになってご飯を食べている。タケミカヅチさんマジぱねぇっす、容赦ねぇっす、仮にも女の子やで?子供やで?中身違うけど。てか強えよ、神威とか抑えてるくせに。体裁きだけで視界から消えるとか何者なの・・・。

 

因みに背中や腕を斬られていた筈の俺が何故その日のうちに修行何て出来たのか、と言うと、丸薬のおかげだ、「癒しの丸薬」はポーションのように体の傷を癒してくれるアイテムだ、違う所があるとすれば、ポーションは短時間で回復効果を表すが、丸薬はじわじわと回復する。丸薬の利点はたくさん持ち歩けることだ。瓶に入れなくてはいけない液体とその必要の無い丸薬では持てる数に差が出るのは当たり前だ。後は時間によって効果が下がったりしないって所か・・・カビるけど。

 

こんなの原作に無かったよな〜、と思っていたが、

どうやら猿が発現したスキルによって作られているらしい。因みに「癒しの丸薬」「力の丸薬」「護りの丸薬」の三種類がある。魔力を回復するやつはないのか聞いてみると「おおっ!それは盲点でござった!いや〜やはり子供は発想が違うでごザルなぁ〜」とか言われた。・・・うんまぁ生前もアンタの半分以下の歳だったけどさ。

 

因みに複数個同時に服用すれば効果は上がる、副作用として、「癒しの丸薬」は使えば使う程眠くなったりするらしい、体が傷を修復するのに集中し過ぎて眠ってしまうようだ。

 

ちなみに1つ使った位だと副作用はほとんど無く、夜にぐっすり眠れる位だと言っていた。

 

にしても色々とあったなぁ今日は、・・・お婆ちゃんレベル3とか、嘘だろおい。それが強烈すぎたわ。何あの三角飛び。腰を労われ!いやまぁ、あの動きのお婆ちゃんに1発当てた盗賊も凄いけどね、俺じゃ絶対当てる自信ないもん。

 

「「ご馳走様でした」」「ご!ごちそうさまでした!」

 

ご飯については一言でいいだろう。美味しかった。

 

「風呂なら沸いてるぞ、先に命達が入っていいぞ。」

 

そうだな、命達が入ってる間にタケミカヅチと話を

 

「はい!お風呂ですよ!お風呂!さぁ行きましょう千草殿、妖夢殿!」

 

・・・へ?

 

 

~少女入浴中~

 

な、何も覚えてねぇ、髪はサラサラになってるし、体から泥は落ちている・・・。入った筈だ、入ったはずなんだ。ずーーーーっと視界が真っ白だった。何故だ、何故なんだ。・・・まさか半霊・・・貴様か・・・?

 

〜少女入浴終了〜

 

 

 

「スゥー――スゥ――ん・・・―スゥ――」

 

で、だ。まぁ、なに?そうだよね、部屋とか一つまるごと貰えるわけないよね、知ってた。

 

今俺のいるところは女子部屋とでも言えばいいのだろうか、簡単に言うとここで保護されている女の子たちと同じ部屋になったのだ。

 

おかしいなー、猿?ぐっすり眠れるんじゃ無かったの?期待してたよ?命や千草と同じ部屋になったと聞いて眠れないかもと思ってた、でも猿の作った丸薬の説明を聞いて、丸薬のおかげで眠れると思った。・・・・・・・・・眠れねぇよ。眠れる訳ねぇだろ。

 

静まり返った中で寝息と寝返りの音だけが部屋に響く。

 

ああ、明日はキツイだろうなぁ。

 

 

 

 

 

―夢だ、夢を見ている。

 

 

 

―家族だ。父さんと母さんと妹が食卓を囲んでいる。とても楽しそうだ、幸せそうだ。見ているこっちまで幸せになってくる。

 

 

 

――写真立てだ。皆笑っている。俺も頬が緩む。だが・・・俺が居なくなっている。確かこの写真は家の近くの公園で撮ったものだ。大きな木をバックに、左から父さん、母さん、妹、俺の順番だったはずだ。・・・だが俺はいなかった。

 

 

 

―――食器棚だ。俺の箸がない。俺のお気に入りの茶碗がない。妹が学校で俺に作ってくれたマグカップもない。・・・俺が父さんと母さんにプレゼントしたお揃いのコップがない。

 

 

 

――――二階の俺の部屋だ。・・・いや、俺の部屋があったところだ。扉には『倉庫』と書かれている。中に入ると段ボールが積み上がっていた、この中にオレの物が入っているのだろうか?

 

 

 

―――――俺が居ない。俺は居ない。俺は・・・・・・「俺は」・・・・・・おれ・・・は?

 

 

 

 

「ッはぁっ!」

 

目が覚める。余りの悪夢に飛び起きてしまった、自分の生きた証が何も無い事が、誰の記憶にも残らない事が、こんなにも恐ろしいなんて考えたことも無かった。

 

外から入ってくる明かりはまだ弱い、月は沈んではおらず、太陽もまだ顔を出してはいない。この世界は日が落ちると殆ど同時に眠りにつく、寝たのは6時位だったか、今はきっと2時位だと思う。

 

俺は思わず半霊を呼び戻し抱き締める、心が落ち着く、ひんやりとした冷たさが心地よく、張りのある弾力の中に顔を埋める。

 

「少し・・・外の空気を吸いに行きましょう」

 

誰も起こさないように最新の注意を払いながら極力音を立てずに襖を開け外に出る。

 

雲の隙間から月が顔を覗かせ、世界を鈍く照らしている。夜風に吹かれ草木が葉を揺らす。銀色の髪もまた風に揺れていた。

 

「お父さん・・・お母さん・・・私の妹・・・。あれ?・・・名前・・・名前が?何?何だっけ?名前・・・私の家族の名前・・・。思い・・・出せない・・・。」

 

夜風が頬を撫でる、まるで慰めるように、嘲笑うように。そして気づく、俺の名前も思い出せない・・・。俺は魂魄妖夢の体に入った・・・誰なんだ?

 

「どうしたんだ?」

 

急に後ろから話しかけられる。さっきまでは誰も居なかった筈だし、起こさないように注意したんだけどな。振り向くとそこには桜花がいた。

 

「桜花?なぜこんなに時間に?」

 

「厠に行こうとしてたんだが、大丈夫か?」

 

かわや・・・?トイレの事だっけ?

 

「大丈夫です。直ぐに思い出せると思います。」

 

きっともう思い出せないだろうな、良くあるパターンだし。転生する代償に名前やら何やらを失うのは。

 

「・・・そうか。お休み、また明日もタケミカヅチ様が鍛えてくれるだろう。」

 

「はい、お休みなさい」

 

いい人だ、アニメとかだと活躍シーンが少ないけど。てか子供だけど。・・・もう十分だろう、俺も寝よう。

 

襖を開け、足音を立てないように布団に入る。

 

「どうかしたのですか?妖夢殿」

 

そう聞いてきたのは命だ、どうやら起こしてしまったらしい。

 

「えっと。両親の事を考えてまして・・・」

 

確か命は両親を失ってタケミカヅチに保護されたんだったか・・・見た目を幼いしまだここに来てからそう経ってないはず。じゃあこの話はしない方が・・・

 

「へぇー、妖夢殿の両親ですか。どんな方々何でしょう?」

 

命は至って明るい口調だ、そこに強がりは感じず本心から知りたがっているのだろう。だが申し訳ないが今はそんな事を話す気分じゃないんだ。

 

「・・・すみません、・・・名前が・・・思い出せないんです。いい人達・・・だった筈です。」

 

え、と小さな声が聞こえた。もうこの話はしたくなかった。命には悪いがもう寝かせてもらおう。

 

「ごめんなさい、お休みなさい。」

 

「す、すみません、辛いことを思い出させてしまって・・・親の居ない悲しみはわかっていたはずなのに・・・・・・お休みなさい。妖夢殿」

 

「いえ・・・お休みなさい命さん」

 

 

 

 

 

 

「止まるな走れ!」

 

朝起きると直ぐに修行だった、山道を駆け、縄で吊るされた丸太を木刀で叩き斬る。

 

「はい!」

 

返事を返す余裕があるのは桜花と俺だけだ。命と千草はハアハアと荒い息をしている。

 

「よし!素振り百回!」

 

「はい!」

 

き、きつい・・・。主に昨日山道を盗賊に追われながら走ったから足が筋肉痛だ。だがこの中で一番の年長者(精神面も)である俺がへこたれる訳には行かない!

 

 

 

「よし!朝の鍛錬は終了だ。」

 

やっと終わった、と俺達は荒い呼吸で空気を肺に入れる。

 

「妖夢、よく頑張ったな!偉いぞ!」

 

タケミカヅチが笑顔で俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。いきなりだったためバランスを崩しふらつく。

 

「お、おぉぅ、おっとと」

 

いきなり何するんだこの人、違うこの神。まさかロリコンなのか?

 

俺はジト目でジーっとタケミカヅチの顔を見るがタケミカヅチの頭の上には「?」とはてなが浮かんでいる。

 

・・・そうだった、この人天然ジゴロだった・・・。とりあえずお礼でも言ってささっと退散しよう。服も汗臭くなってるしさっさと着替えるとするか。

 

「ありがとうございます、では」

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢殿!お塩を取ってください!」

 

「は、はい!」

 

今現在、俺達は調理場にいる、どうやら料理当番が決まっているらしく、今日は命さん達のようだ。俺はその仕事を手伝ったりしながら料理を覚える。

 

「妖夢殿!これは砂糖です!」

 

「ふえ!?すみません!」

 

 

 

「「いただきます!」」「いただきます・・・。」

 

手伝いとは何だったのか、修行中もそうだったが、生前と肉体の大きさなどが相当違うせいで色々と不具合が発生している。簡単に言うとすごい不器用になった。よく転びそうになるし距離感が上手く掴めず手が空を切る。そのせいでだいぶ邪魔してしまった。

 

・・・まぁ、生前身長180超えてたしな・・・。今何cmだ?150無いだろこれ。

 

「気にしないでいいぞ、他の者達も初めはそうだったからな。むしろうまいほうだぞ妖夢は、桜花なんかそれはもう・・・」

 

「や、やめてくださいタケミカヅチ様!男は料理なんて作れなくても良いんです!」

 

「考えが古いぞ桜花、料理ができた方が夫婦で助け合えるだろう?」

 

「そ、それはそうですが・・・。」

 

「プフっ・・・。「何がおかしい!命!」いえ、桜花殿の砂糖おにぎりを思い出してしまって・・・プふふ」

 

「砂糖・・・おにぎり・・・?」

 

あれ、なんだろう身に覚えがあるぞそれ、俺作ったことあるぞそれ。とてもじゃないが美味しいとは言えなかったよ?。

 

「よ、妖夢お前!お前まで俺を馬鹿にするのか?!」

 

「い、いえ・・・そんなつもりはプフッなくてふふ!」

 

「絶対に馬鹿にしてるだろぉ!?」

 

違うんだ、思い出し笑いなんだ、砂糖おにぎりをお父さんが間違って食ったことを思い出しただけなんだ。

 

「タケミカヅチ様」

 

後ろがギャーギャーとうるさいが、今はそれが暖かく感じる。此処はいい所だ、冒険者になるならばこの神のファミリアにしよう。

 

「ん?どうした妖夢」

 

タケミカヅチの顔を身長差のせいで見上げる形になる俺に、微笑ましそうに笑う顔を向けるタケミカヅチ。

 

「いいところですね・・・。ここは。」

 

思ったことをそのまま伝える。と言うかこれ以外に何も出てこなかった。

 

「当たり前だ、・・・これからはここにいる俺達がお前の家族になる、お前はいい子だ、この中で一番年上だし常識をわきまえ周りに気を使える。だが我が儘だって言ってくれないと俺達は困ってしまうぞ?子どもは子供らしく気なんか使わず飛び込んでくればいい。」

 

やはりいい神だ、我が儘か・・・何がいいかな。呼び方とか変えてみるか?

 

「では一つ・・・、そうですね・・・タケミカヅチ、カヅチ、ミカ・・・違うな・・・タケ、うんタケにしましょう。ではタケと呼んでもいいですか?」

 

「ハッハッハ!いいぞ!そうだな俺はタケだ!」

 

「あはははっ!ではタケ!早速修行です!」

 

「「切り替え早!!」」

 

桜花たちがなんか言ってるが知ったものか、確かタケミカヅチことタケは何年かすればオラリオに移動するはずだ、それまでに強く成らなくては・・・っ!打倒タケミカヅチ!!

 

「よし来い!」

 

「うおおおおぉぉ!吹き飛べタケぇ!」

 

「な、なんか傷つくぞ!てい!」

 

「みょおおおおおおおん」




次で極東は最後です。

4話からオラリオの予定。

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