生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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増えていくお気に入り数を見て、書くのが怖くなってきました。
あと、眼鏡のお節介やきなハーフお姉さん可愛いです。


#5

 ベル・クラネルはアルバイターである。

 何故と言えば、生きるためにはお金を稼がなくてはいけないからだ。

 当たり前のことである。

 オラリオに来て、ベルは最初に住居を探したのだが、地理が全くわからない状況での探索は大変だった。

 一日中歩き回り、漸く見つけ、どうにか契約をつけれた。

 まあ、すぐには住むことは出来なかったので、たまたま出会ったシルやリューにお世話になることになったのだが、それはまた別の話だ。

 そして、次に問題になったのが、仕事であった。

 ベルはすぐに仕事に就こうと、求人広告を見に行ったり、ハローワークに行ったが、中々決まらなかった。

 ベル、14歳にして社会の荒波を味わうことになった。

 しかし、苦労すること漸く、仕事が決まったのだ。

 アルバイトではあったが、この際職に就ければ何でもいいと半ばヤケクソ気味にそこにしたのである。

 その仕事とというのは...

 

 

「あと一件、と...」

 

 

 ベルは片手に荷物を抱えながら、もう片方の手で配送先を確認する。

「って、ギルドじゃないか」

 持っていた紙に書いていた宛先には、見覚えのある住所があった。

 ベル・クラネルは郵便屋である。

 運び屋、トランスポーター等、様々な呼称はあるが、そういう仕事をしていた。

 広いオラリオの配達をするのは、かなり大変である。

 自身の担当する箇所は一部ではあるが、それでも十二分に広い。

 配達を終えるだけで、その日に必要な運動量を補えてしまうほどに。

 その分、給料もそれなりに高いのではあるが。

 ちなみにベルはこれを半日でこなしているため、同僚と比べると一番早く仕事が終わっているのであった。

「しかし、どうしよう...」

 ベルは今日最後の配送というのと、場所もかなり近いのもあって、歩くことにした。

 そして、そのまま考えに耽り始める。

「どうするかな...」

 昨夜の豊穣の女主人での一件で、ロキ・ファミリアの面子に自身のレベルは1と面倒な嘘を吐いてしまった。

 この嘘はどう考えても後々に面倒なことになりかねなかった。

 何故なら、彼は冒険者でもなければ、恩恵すら受けてないのだから。

「...これは本格的に、どこかのファミリアに入って恩恵を受けないといけないのかな」

 ロキ・ファミリアの面子は明らかに渋々納得していた感があった。

 ロキが嘘を吐いていないと判断すれば、他のメンバーはそれに従い、納得しなくてはいけない。

 しかし、少しでもこの嘘が瓦解すれば、間違いなく目を付けられる。

 いや、この嘘だってかなり適当なものでもあるし、もう目を付けられているかもしれないが。

 とにかく、ベル・クラネルの日常は変わりつつあった。

「お疲れ様でーす! 郵便でーす!」

「お、ご苦労さん。いつも助かってるよ」

 到着し、ギルドの裏口から入ると、 いつも会う男性職員に挨拶をして、荷物を渡した。

「ここにサインお願いします」

「はいはいっと。あ、そうだ。またなんだけどいいかな?」

 男性職員はサインすると、はははと気まずそうに笑いながら、そう言った。

「はい、大丈夫ですよ」

 ありがとう、そう言って職員はベルを倉庫に案内する。

「これですね」

 案内された倉庫で、ベルが指差したのは鍵の付いた大きな古い箱だ。

 恐らく過去の書類などが入っているのだろう。

 見るからに重そうであった。

「ここも、最近整理してて、鍵も新しいのにしてるんだけど、これが開かなくてさ」

 困ったように言う男性職員。

 確かに鍵穴は完全に錆びていてボロボロで、これなら鍵が入らなくてもおかしくない。

「これ、壊れても大丈夫ですよね」

「あぁ、どうせ取り替えて捨てるから、全然構わないよ」

「了解です」

 破壊許可を無事に貰ったベルは、そう言って鍵に触れた。

「あ、針金とかありますかね」

「針金かい? ちょっと待っててくれよ」

 男性職員はあったかなーと言いながら倉庫を出ていった。

「...よし」

 ベルは出ていったことを確認すると、鍵穴の部分を指でなぞるように縦に切った(・・・)

 カチャリと鍵が開いた音が響く。

「おーい、針金持ってきたよ。でもこんなんで開くのかい?」

 少し小走りで来た男性職員が、倉庫に入ってくる。

 額には少し汗が見えたので、相当急いでくれたのだろう。

少し悪いことをしたなとベルは思った。

「すいません、鍵開いちゃったんで大丈夫でした」

 ベルはあははと笑って、そう言った。

「あ、何だ、開いたのか。いや、全然良いっていうか、寧ろありがとうだからさ」

 助かったと男性職員はお礼を言ってきた。

「いえいえ、これくらい。困ったらいつでも呼んでください」

 それは助かるよ、そう言って男性職員は嬉しそうにする。

「あ、そうだ。エイナちゃんに会っていくといいよ。もうすぐ休憩入るところだと思うし」

 さあて仕事仕事と、男性職員は腕をグルグル回してから、その箱を持ち上げどこかに持っていった。

「折角だから挨拶してくるか」

 ベルは倉庫を出ると、裏口から一旦でて、表から入り直した。

 受付を見ると、ちょうど資料を纏めているであろうエイナがいた。

「こんにちは、エイナさん」

「あ、ベルくん!? こんにちは。もしかして、配達?」

 エイナは少し驚いたようにそう言った。

「はい。今日はもう終わりだったんですけれど、ついでにエイナさんに挨拶していこうかと思いまして」

「それなら、私今からお昼休憩だから、一緒にご飯食べに行こう?」

 エイナの思わぬお誘いに、ベルは驚いたものの、すぐに嬉しそうな表情になった。

「喜んでお受けしますよ。どこに行きます?」

「あ、これだけ片付けるから外で待っててくれる?」

 分かりました、そうベルは返事をすると、受付を後にして、外の広場に出た。

 外に出ると、冒険者や、それの補佐をするサポーターがたくさん居た。

 ベルからしてみれば、ダンジョンへ潜るのに複数人数で行く利点はあまり感じられなかった。

 しかし、常識的に(・・・)考えるとそちらの方が正しいかとすぐに考えを改めることになったが。

「っと...すいません、大丈夫ですか?」

 考え事をしていると、誰かと軽くぶつかったらしい。

 ベルはすぐにぶつかった方向を向いて謝罪した。

「いえいえ、気にしないで下さい」

 そう言ったのは、フードで顔を隠し、身の丈以上の巨大なリュックを背負った小柄な少女であった。

 推測するに小人族(パルゥム)の少女のようであった。

「...もしかして、お兄さんは冒険者の方ですか?」

 すると、少女はそんな質問をベルにしてきた。

「いや、違いますよ。僕は只の(・・)アルバイターです」

 ベルは即答した。

 そう、自分はアルバイターであり、冒険者ではない。

 ダンジョンなどたまに潜る程度でいいのだ。

「...おかしいですね。リリの勘は結構当たるんですけどね」

 何かぶつぶつと呟く少女。

 その声はベルの耳に言葉として届くことはなく、意味のない言葉の羅列にしか聞こえなかった。

「もし、冒険者になったのなら、このリリルカ・アーデを御贔屓にしてくださいね」

 笑顔で少女、リリルカ・アーデはそう言うと、ダンジョンの入り口へと、走っていた。

「サポーターか...」

 つまり、さっきのはキャッチだったのかと、変に感心するベルであった。

「...ふーん」

 背後から、ふと気配を感じ、振り向いた。

「え、エイナさん...」

 そこには、少し頬を膨らませたエイナが立っていた。

 私、不機嫌ですよと言わんばかりの顔である。

「ベルくんって、すぐ女の子と仲良くなるよね~」

「そんなことはないですよ」

 現に一人に滅茶苦茶嫌われてしまっているのでそれは当てはまらないと、ベルは言おうと思ったが、それも言ったら言ったで問題だったので口を閉じた。

「...別にいいんだけどね~。私には関係ないし~」

 エイナはそう言うとプイッと顔を背けて、歩き始めた。

「ちょっと待ってくださいよ。どこ行くんですか?」

「知らない!」

 エイナはベルに顔を背けて向けずにそう言い放った。

 この質問に対して、その答えはどうなのかと思ってしまったが、祖父曰く"女はどんな難しいパズルや問題よりも難解である"と言っていたことを思い出し、納得していた。

 なるほど、確かに難しいと。

 ぷりぷりと怒るエイナをすぐに追い掛け、横に並ぼうとするも、足を早めて置いていこうとするため、ベルはひたすら謝り続けることになったのだった。

 

 

 

 

 入ったのは近くにある、喫茶店であった。

 内装、外装共に"木"の素材をベースにしているためか、木目調の暖かい雰囲気を醸し出している。

 外にはカフェテラスがあり、仕事の合間を縫ってのアイドルタイムを過ごしている人や、夫婦や恋人同士など様々な客が連ねていた。

「私はAセットにするね。ベル君は?」

「えーっと、じゃあBセットで」

 すいません、そう店員に声をかけてオーダーするエイナ。

 ここには初めて来たので、完全に任せているベルであった。

 先程の不機嫌ですよという表情は消え、いつものエイナに戻っている。

 ベルはどうにか機嫌を取ることに成功し、今はこうして普通に会話出来るようになっていた。

 今度から言動には少し気を付けようと、ベルは思っていた。

「お洒落なお店ですね」

「何? 私にはこういうお店は似合わないって言いたいの?」

「逆ですよ、逆。寧ろ似合ってますしね」

 カフェテラスで読書しながら紅茶とか飲んでたら様になって綺麗ですよね、そうベルは言った。

「...一応、ありがとうって言っておくね」

 頬を赤くして目をそらすエイナ。

 こういうのをギャップ萌えというのか、とても可愛く思えたベルであった。

「...本当質が悪いよね。もしかしてわざとやってる?」

「どういう意味です?」

 要領を得ないエイナの言葉に、ベルは疑問を感じていた。

「...女の子に対して基本的に優しいところとか、そうやって褒めたりするところとか」

「別に女性に優しくするっていうのは、じいちゃんからの教えなので、染み付いちゃったんでしょうね。あと、褒めるって言っても僕は本当のことしか言いませんよ」

 ベルは酷く真面目にそう言った。

 それに対し、本当質が悪い、そう小声で呟くエイナであった。

「ベルくんってさ、女の子に告白とかされたことない?」

「え、いきなり何ですか?」

 突然、エイナの口からそんな問いを投げ掛けられ、ベルは戸惑った。

「いいから答えなさい」

「...うーん、そうですね。故郷にいた子にならありますね」

「...ちなみに何人くらい?」

「えっと、5人...いや6人かな...うーん...」

 ベルは思い出しながら、指を一本一本折り曲げていくが、途中でそれを繰り返し、結局止めてそう言った。

「自覚あるのか、無いのか分からないよ...」

 頭に手を当てて、深く溜め息をついたエイナであった。

「あ、もしかして、そういう話ですか?」

 ベルは漸く気付いたのか、そう言葉にした。

 エイナは内心で、鈍すぎでしょと毒づいたが、ベルにはそれは通じなかった。

「確かに告白されたとき、優しいからとかそういう理由でしたけど。でも、僕からしたら別にいつも通りにしてるだけなんですけどね」

 つまり、彼は全ての行動を無意識に行っているということなのかと戦慄するエイナ。

 彼の故郷のことは分からないが、この毒牙にかかってしまった被害者(女の子)は何人いるのだろうか。

 恐らく、彼の預かり知らないところでも被害者はいることを考えると、その人数は計り知れないかもしれない。

 寧ろ、その告白した女の子は凄いなと思ってしまうエイナであった。

 ナチュラルキラー(・・・・・・・・)とでも言うべきか。

 エイナはベルに、本人にとっては不名誉極まりない称号を勝手に付けていた。

 そんな風に会話をしていると、店員がランチセット二つを運んで来た。

 エイナの元に置かれたのは、海鮮パスタとサラダのセットで、メニューを見ると日によってパスタの内容が変わるらしい。

 ベルの元に置かれたのはハンバーグのセットであった。

「美味しそうですね」

「ううん、違うよ。美味しいんだよ」

 そう訂正してくるエイナに、そうですねと笑って、ベルは返した。

「確かに美味しいですね」

「だよね」

 そんなまったりとした時間を過ごしていくベルとエイナ。

 時間の経過がゆっくりに感じるのも、この喫茶店の特色なのだろうか。

「エイナさん、一つ聞いていいですか?」

「うん? どうしたの?」

 途中、二人は食べさせ合いっこをしていたのだが、その途中でベルがふと、そう投げ掛けた。

「仮に冒険者になる場合は、どうすればいいですかね?」

 ベルがそう口にした瞬間、あーんしようとしていたエイナのフォークがテーブルクロスに落下し、そのまま床へと落ちた。

 お客様!と、とそれを見たのであろう店員が代わりのフォークを持ってきて、交換する。

「すいません、ありがとうございます。...エイナさん、どうしたんですか? いきなり固まって」

 ベルは微動だにしないエイナの代わりに店員へ礼を言うと、心配そうに声をかけた。

「べ、ベルくん!? それ、どういうことかな!?」

 突如、覚醒したエイナは声をあげて、立ち上がりテーブルをバンッと叩く。

「ちょっ、エイナさん。周り周り!」

 こんなことを静かな喫茶店の中でしてしまえば、考えなくとも、注目を浴びてしまう。

 現に、ひそひそと「痴話喧嘩...?」などという会話が聞こえてきた。

「...あっ...すいません...」

 周りの様子に気付いたのか、顔を羞恥で真っ赤にして、ペコペコと謝りながら席に着いた。

「エイナさん、いきなりどうしたんですか? らしくもない」

「ベル君のせいでしょ...! って、さっきの一体どういうことなの...!?」

 エイナは小声で声を張るという器用なことをしていた。

 先程のが恥ずかしかったのか、まだ顔は赤かった。

「いや、だから。仮に冒険者になる場合はどうしたらいいんですかって...」

「ベル君、冒険者になるつもりなの...!?」

 少し話を聞いてないエイナに少し溜め息をつくベル。

 何をそこまで彼女は慌てているのだろうか。

「仮にですよ、仮に。その場合って、ファミリアに入ったり、手続きしたりって色々あるじゃないですか」

 ギルドで働いているエイナさんなら詳しいと思って、そうベルは付け足した。

「何だ、びっくりした...てっきり、冒険者になりたいとか言うのかと思った」

 エイナは何故か安堵の表情を浮かべていた。

 しかし、びっくりしたのはこっちだとは、ベルは言えなかったが。

「そう、だね。まずファミリアに入って神様から恩恵を貰って、そこからギルドで冒険者登録をして、漸く冒険者だね」

 恩恵については聞く?と、エイナに言われたが、その辺りはある程度知っているので大丈夫と断った。

「そういうのって、神様に普通に話し掛けるんですかね」

「うーん、そうだね。話し掛けて、ファミリアに入れてくださいっていうのも手だし、もしくはそのファミリアの冒険者から紹介してもらうとか、直接ファミリアを訪れるとか、そんな感じだね」

 なるほど、そうベルは頷くと何かを考え始めた。

「どうしたの?」

「いや、何でもないです...」

 実際問題、大規模ファミリアにもなると、人数が多いだろうから、更にそこに冒険者を新しく迎えるとなると、かなり大変だろう。

 恐らく、入団テストのようなものもやっているのであろうか。

 そんなことをベルは考えていた。

「ねぇ、ベル君...」

「はい、何でしょうか」

 ベルは返事をして、エイナの顔を見ると、心配そうな表情をしていることに気付いた。

「私は、ベル君が冒険者になるのは反対だよ」

 そうはっきりと、エイナは告げた。

 おふざけなど一切無い真面目な表情だ。

「...どうしてですか?」

「だって、ベル君みたいな子がダンジョンに潜ったらすぐに死んじゃいそうだし」

 酷いなと、ベルは苦笑いしたが、エイナは止まらない。

「それに、ベル君はお人好しだから、他の冒険者に騙されたり、アイテムを買うときにぼったくられそうだし...」

 それからそれからと、エイナは次々とベルが冒険者になるべきでない理由を告げていく。

 そこまで、僕は冒険者に向いていないのかと、少し落ち込んでしまうベルであった。

「...だから、ベル君は地上に居るべきなんだよ。頼りなくていいんだよ。危険な目に遇わなくても十分生活出来てるよね。私が出来ることなら面倒も見るし、もし、ちゃんとした仕事に就きたいなら私が探してあげるし、ベル君が良いのなら私が養って_______」

「ちょっと、待ってください。だんだん話が変な方向に行ってますよ」

 話の雲行きが不安になってきたベルはエイナにストップをかけた。

「だって、ベル君。たまに別の何かを見ている(・・・・・・・・・)時があるし、それにどこか遠くへも行きそうな気がして...」

 エイナは声を萎ませて言った。

「確かに、もし冒険者になったら遠く、というかダンジョンの奥には行きますね」

「そういうこと言ってるんじゃなくて...!」

「分かってますよ。別に冒険者になったところで、何処にも行きませんし。それに、今の状況ってかなり居心地良いんですよ」

 だから、何処にも行かない、ベルはエイナにそうはっきりと言った。

 真っ直ぐにエイナの瞳を見つめて。

「それに僕は今、エイナさんを見ているじゃないですか。それじゃ駄目ですか?」

「っ...!?」

 途端に顔を赤くしてそっぽを向くエイナ。

 流石に気障すぎて引かれたかと、後悔するベル。

「...ベル君って、本当、質悪いよね」

「また、それですか...?」

 そう言うと、ベルとエイナはプッと吹き出し笑った。

「...ベルくん。もし、冒険者になるのなら、絶対私がアドバイザーとして担当に付くから、覚悟しておいてね」

「なるとはまだ言ってないですけど...でも、それは良いですね。前向きに検討しますよ」

 絶対だからね、そうエイナが念押しし、ベルが曖昧に、しかし楽しそうに答える。

「でも、あの台詞は無いと思うよ? 似合わないし」

「ですよねー。自分で言ってて凄い後悔してますもん」

 ベルは恥ずかしさを隠すようにテーブルへ突っ伏した。

 所謂、黒歴史というやつだろうか。

 当分ネタにされそうだと、億劫になっていた。

「...だから、言うのは私だけにしてね」

「...まあ、そうしておいた方が黒歴史分散しないで済みますもんね」

 エイナはそれを聞くと、また吹き出して、そうだねと頷いた。

 今日は踏んだり蹴ったりだなとベルは最近の不幸にぼやいた。

(まあ、でも...)

 目の前の女性が笑ってくれるのなら、それもまた良いかと、ベルはその不幸に納得していた。

 

 

 

 

 

「本当、最低ですね」

「いきなり酷いですね...」

 喫茶店を出て、エイナをギルドに見送り、振り返るとそこにはこちらに軽蔑した視線を送っている、眼鏡をかけた女性がいた。

「あなたは毎度毎度そうやって、女性をたらしこんでいるんですか?」

 感心しますねと、絶対零度の声色で言った。

「別にそんなつもりはないですよ」

「あなたにそのつもりは無くとも、女性の方は勘違いしてしまうんです」

 はぁ、と深く溜め息を吐く女性。

 最近、溜め息を吐かれることが多いなと思ってしまうベル。

 また何かやらかしてしまったのだろうか。

「まあ、そんなことはどうでもいいんです。これを渡しに来たんです」

 そう言って、女性はどこからか出したのか、四角いケースを差し出してくる。

「あ、本当に作ってくれたんですか」

「っ...! あなたが必要だからと言ったから作ったのに...! 態々、材料を集めるのがどれだけ大変だったと思ってるんですか...!」

 キッと睨み付けてくる女性。

 その目には少し涙が浮かんでいた。

「ハハハッ、冗談ですよ冗談。ありがとうございます」

「あなたって人は...!」

 ベルの態度に怒りを露にする女性。

 少しからかい過ぎたなとベルは思ったが、まあ可愛いからいいかと完結した。

「...これは」

 ベルは取り合えず、渡された箱を開けてみる。

 すると、中には銀縁の眼鏡が入っていた。

「...それは、あなたのその力(・・・)を抑えるためのものです」

 女性のその言葉を聞いて、ベルは少し安堵した。

 実際、ベルにとって、もう慣れているとは言え、普段からあれ(・・)は少し辛いものではあったのだ。

「...この眼鏡って、名前とかあるんですかね?」

 ベルがふとそんな質問をした。

 それに対し、女性はそうですねと、一瞬考えてから口を開いた。

 

 

 

「_______"魔眼殺し"、と呼ぶべきでしょうね」

 


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