生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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#38

 怪物進呈(パス・パレード)

 冒険者がパーティの全滅、もしくは自身の命を守る為に他のパーティもとい冒険者へモンスターを押し付ける行為を指す。

 それは勿論推奨される行為ではなく、あくまで緊急時(例えば重傷を負っているか、仲間がそれと同じ状態であるかなど)にのみ暗黙の了解で行われる。

 やられた側からしてみれば無論たまったものではなく自身の命を危険に晒すものではあるが、それはダンジョンに於いては皆等しく命賭けであり、思うことは同じく死にたくないという感情のみがあった。

 当然、押し付けた側は恨まれることを覚悟しなければならず、殺されたとしても全くおかしくない。

 しかし、そういう案件は意外にも少ない。

 理由としてはそれによって(・・・・・・)命を落とす割合の方が多いからである。

 生きて帰れず、ダンジョンで屍と化す冒険者。

 ゴースト系モンスターはその成れの果てとも言われているが、正しいことは分かっていない。

 只、怨念は残留思念となって留まっていそうではあるが。

 結局のところ、人道的に許されている行為ではないが、生命維持の為には許されている行為、それが怪物進呈なのである。

 

 

 

 

 

「この辺りの階層って、川とか流れてないよね......」

 べっとりと頭に着いた血を手で拭うと、真っ赤になった手のひらを見るベル。

 ベタつきと臭いによる不快感からか、眉間にシワを寄せていた。

「あ、これどうぞ。飲み水でしたが、まだ開けてないので」

 リリルカが懐から水筒を取り出すと、それをベルへサッと取り出した。

 その早さはさながら主へ仕える忠実な従者のようであった。

 ベルは(こうべ)を垂れるようにすると、リリルカがそこに水筒の水をかけ、洗い流す。

「ひーふーみーよー......はははは、すげーな。さっき俺らで倒した数より多いじゃねぇか」

 ヴェルフが指で数えるのを途中で止めた先には、山のようなアルミラージやヘルハウンドの死骸が無惨に転がっていた。

 全て、ベルが殺したモンスター達である。

「......ふぅ。リリルカ、もう大丈夫」

「はい。あ、ベル様。タオルです」

 直ぐ様タオルを取り出し、ベルはそれを受け取ると雑把に髪を拭く。

 そんなリリルカの甲斐甲斐しく世話をする姿を見て、ヴェルフは"流石(さす)ベル"という妙な評価を下していた。

 最近のヴェルフは流行りのようにベルのやること成すこと、"流石ベル"と内心で呟いている。

 主に女性関係や、それに付随することに関してであるが。

「タオルありがとね、リリルカ」

「いえいえ。あ、タオル預かりますね......」

 そう言って、ベルの使用済みタオルを受け取ると、大事そうに(・・・・・)懐にしまうリリルカ。

 その際、彼女の口角が少し上がっていたのをヴェルフは見逃さなかった。

 流石ベル、今度は思わず口に出てしまっていた。

「あ、そうだ。さっき通り過ぎていった冒険者達は? 一人大怪我してたみたいだけど」

「......気付いてたのか。意外だな。てっきりモンスターを殺すのに夢中で気付いてないのかと思ってたぜ」

「むっ......それは失礼ですよ、ヴェルフ様。ベル様はどんな状況下でも冷静に周囲を見られているのです。ヴェルフ様みたいな適当な方と一緒にしないでください」

 リリルカは不機嫌そうな表情を浮かべ、ヴェルフに対し苦言を呈す。

 ヴェルフのその言葉はベルを崇拝するリリルカにとっては、不敬なものであり、許せることではないからであった。

 故にヴェルフは、ベルの苦笑している顔を見てからやれやれと両手を上げた。

「......へいへい、分かったよ。リリ助......ったく、これだから変に色気付いた女は」

 流石に悪態を吐き出すヴェルフ。

 ここまで露骨であれば誰でも同じ反応をしてしまうのは当然であろう。

 面倒くさい。

 そんな評価を彼は彼女に下さるを得なかった。

「だから、リリ助言うなって、何度言ったら_______」

「まあ、それは良いからさ。......あの冒険者達はどうしたのって、僕は聞いてるんだけど」

「あっ、はい......あの冒険者達はベル様にモンスターを押し付けるとともに、リリ達が来た道とは別の経路を渡って逃走した模様です。数は六人で、男女半々のパーティでした」

 少し機嫌の悪くなったベルをリリルカは察知して、すぐに状況の説明をしだした。

 何故かビクビクとしているリリルカは、まるで小動物のようであった。

 それを見ていたヴェルフは、リリルカに対し微妙な表情を浮かべる。

「難儀だよな、本当......」

 惚れてはいるが、畏怖の対象でもあるなど、面倒にも程がある。

 相当な被虐体質でももっているのだろうか。

 まあ、ベルはドSっぽいしと、ヴェルフは的外れな見解を脳内で思考していた。

「......そっか。結構な怪我だったから心配だったんだよね。まだ回復薬も全然余っているから、渡しても良かったんだけど、それなら仕方無いか......」

「......心配、ねぇ。......なあ、旦那。普通、怪物進呈(パス・パレード)なんてされたらキレるもんだと俺は思ってる。さっきのだって、俺はほんの少しだけど怒ってるんだぜ」

 いくら取るに足らない雑魚を押し付けられたとは言え、その行為は余りにも危険な行為だ。

 上層レベルならまだしも中層レベルとなれば、一部を除いて大半の冒険者達にとっては驚異となりうる。

 もし、ベル達でなければ全滅していたことは必至であっただろう。

「うん? ああ、別に怒ってないよ」

 しかし、ベルは呆気なくそう返した。

「......どうしてだ?」

「だって弱いことは悪いことじゃないからね。強くあろうとしていても、強くなれないものだってそれはたくさんいる。それなら仕方の無いことじゃないかな」

 弱い、それは生物的に言えば致命的な欠陥である。

 弱肉強食という言葉が存在しているが、それは正しくその通りであり、強きものが弱きものを喰らうというのは()が決めた自然の摂理なのだ。

 それを責めるというのは御門違いなのだとベルは言った。

「......ベル様」

 弱いこと、その言葉を聞いて胸が締め付けられるような気持ちになるリリルカは不安そうな表情で、ベルの顔を見上げた。

 リリルカは、ベルの言う典型的な弱者であり、どれほど強くあろうとも強くなれない、そんな自分を理解していた。

 それが彼女の人生を形作った根本的な原因にもなっている。

「弱者を挫くのが強者。なら、それらを助けるのも強者だよ。それなら僕が(・・)彼らを守るのは当然のことだと思うんだよね」

 ベルは当然のようにそう言い放つと、ダンジョンの奥へと歩き始めた。

「まあ、それも。僕が助けられる範囲の中だけの話だけどね」

 力とは万能ではない。

 それは神とて同じであり、それが実現可能ならこの世界は何もない(・・・・)はずである。

 それが起きるということは万能という概念が存在しないことを証明していた。

 ベル・クラネルは万能ではない(・・・・・・)

「へぇ、そうかい......」

 今のベルに合う言葉、それは_______考え出して、ヴェルフは止めた。

 彼を裁定出来るほどの器をヴェルフは持っていないからだ。

「......ほら、何ボーッとしてたんだ。さっさと行くぞ。旦那の足は()えぞ」

「......はい。そんなの言われなくとも分かってますよ......」

 消沈しているリリルカを、ヴェルフは不思議に思っていた。

 リリルカはそれに対し、複雑そうな表情を浮かべつつも振り払うようにして歩き出した。

 そして、半日後。

 

 

 

 一行は《嘆きの大壁》へと辿り着いた。

 

 

 

「な、何ですか、これは......?」

 

 

「ああ、(ひで)えな......」

 

 

 

 三人の前にあったのは、頭部を潰され、倒れ伏す巨人(ゴライアス)の死骸であった。

 その場所に足を踏み入れた瞬間に、三人の足下にはおびただしい量の血痕があった。

 鉄臭い血の臭いと、死骸から放たれる特有の悪臭が混ざり合い、鼻を曲げる。

「見た感じ、本当に今さっきみたいだね。これは......」

 ベルは平然とゴライアスの死骸に歩み寄ると、しゃがみこんで検知を始めた。

 悪臭が先の比にならない程になる。

「......直接の死因は間違いなく頭部粉砕による出血死だろうね。でも、身体を見てみれば抉られたような無数の傷がある」

 ゴライアスの身体にはまるで巨大な爪で切り裂かれ抉られたような傷が多数あった。

 それは到底人間______冒険者が付けられるような傷ではなかった。

「モンスター同士で争ったってことですかね......」

「いや、それはねえよ。《迷宮の孤王》がいるエリアには《迷宮の孤王》以外のモンスターはいねえ。それに普通のモンスターは《迷宮の孤王》に対しては絶対に寄り付かねえんだよ」

 あるとしたら、更に下層の(・・・)モンスターが攻め行るくらいしか考えられない、そう続けるヴェルフ。

 基本的に階層をモンスターが移動することは滅多に無い。

 更に言えば、下層のモンスターが上層へ上がってくるくらいで、上層のモンスターが下層へ降りてくることは無いという。

 ふうんと、ベルはその言葉を軽く流すとおもむろに立ち上がった。

「面倒ごとを回避出来たんだ。誰だか分からないけど、こいつを倒してくれたその誰かには感謝しないとね」

「......まあ、そうだな。ゴライアスがいくら雑魚だろうと面倒なことには変わらない。それに、こっちには非戦闘員もいるわけだしな」

「......申し訳ありません」

「何でリリルカが謝るのさ。十分、僕達の力になってるよ」

 だから謝るのは止めてねと、ベルはリリルカの頭を撫でた。

 リリルカは何も言わずに頷いて、返答をした。

「ヴェルフもリリルカを虐めないでよね。女の子はデリケートな生き物なんだから」

「......いやぁ、女の扱いを旦那に言われちゃあ、俺はもうお仕舞いだよなぁ」

 額に手を当てて笑うヴェルフに、ベルは半目を向けた。

 一体どういう意味なのかと。

「......悪い悪い。旦那は旦那だなって思ってさ」

 いや、だからどういう意味なのかと、ベルは問い質したかったが、ヴェルフはそれに答えることはなかった。

 恐らくそれはベルには一生分からない類いの話であろう。

「......まあ、いいや。......この死骸って放っておいても問題は無い?」

「それに関しては問題無いかと。モンスターの死骸は放っておくと、ダンジョンがすぐに吸収してしまうみたいなので」

「モンスターを生み出し、その死骸を養分として再吸収し、新たなモンスターを作り出す。まあ、循環って奴だよ」

 つまりは雨と同じである。

 降った雨は地表に吸収されると、時間経過で蒸発し、また雨となって降り注ぎ、地上に恵みをもたらす。

 ダンジョンもそれと同じのようで、循環がモンスターを作り出し続けているのだ。

「それなら良いんだけど......」

 ベルはそう呟くと、既にゴライアスへと目を向けることはなかった。

 《迷宮の楽園》は目と鼻の先。

 既に意識はそちらに向かっているからだった。

「......でも、嫌な感じがするな」

 しかし、楽しみという感情とは裏腹に、ベルの直感は何か良くないものを感じさせていた。

 今までの比にならない程の脅威を感じて。

 

 

 

「......誰か死ぬかもしれないね」

 

 

 

 ベルのその呟きは、誰にも聞かれることはなく消え去った。




期間が空いてしまい申し訳ありません。

色々忙しかったのです!
鬼退治したり、キャメロットを救ってきたり(三倍太陽が強すぎた)、無人島を開拓したり、金時ライダーをレベル宝具フォウMAXと千里疾走とかスキルレベルMAXを目指したり、ガチャでヴラド三世とダヴィンチちゃん二人、茨木童子三人、静謐ちゃん四人迎えたりと色々あったのです。

うん、今年作者は死にます(確信)

あーそれなら静謐ちゃんにprprして殺されたいですね......(自殺願望)


取り合えず、次話投稿までは生きていたいと思います。



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