生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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式(アサシン)ゲットだぜ!
セイバー? それは知らないですね......


第三章 魔眷隷属 Blood Sword Relations.
#26 プロローグ


 オラリオ市街、そこの南東のメインストリートを行くと、そこには『歓楽街』が続いている。

 世界中の珍しい様式の建物が密集しており、どこか妖しげな雰囲気を醸し出している。

「ねぇ、そこの貴方。随分と可愛い顔してるわね。私と良いこと(・・・・)していかない? 貴方なら安くしてあげてもいいわよ?」

 かなり露出度の高い服を来たアマゾネスは、目の前を通り掛かった自身より少し背の低い少年に、そう声をかけていた。

「あはは、ごめんなさい。知人と約束してるものですから......」

 声をかけられた少年は愛想笑いを浮かべながら、その申し出を断った。

 彼女は世間一般的に言うと、所謂娼婦と呼ばれる存在だ。

 そう、ここは娼館が建ち並ぶ、所謂"風俗街"と呼ばれるところであった。

 娼婦は、その職に就いているだけで、周りからの評判はかなり微妙になところになってしまうのだろうが、彼女達は生きる為に自身の身体を対価に金を貰っているのだ。

 少年______ベルにとってそれを否定することは出来ないし、する権利もない。

「あら、残念......それなら今度、遊びましょう? そうだ ......貴方だけの特別よ? ここに来たらそこの店の人に渡して。そうしたら、すぐ相手してあげるから......お金は要らないから」

 女性はベルの耳許に囁くようにして、そういうと何かを手渡した。

 渡されたのは、一枚の木製の札で、そこには店の名前のロゴマークと彼女の名前であろう文字が刻まれていた。

「あははは、機会があったら是非......」

 ベルは少し苦笑してそう応えた。

 すると、女性は特別サービスと言って、ベルにだけ見せるように胸元をはだけさせ、膨満な双丘とその頂上の桃色の花を見せてきた。

「......綺麗ですね」

「ふふ、そうでしょう? どう? 今からでも楽しんでいかない? 私、純粋に貴方と気持ちいいことしてみたいの」

 駄目かしらと、ベルに急接近するとその手を掴み、その双丘に触れさせると、上から握るようにして丹念に触らせた。

 桃色の花に指が触れると、ほんの微かに息を荒げたのが分かった。

「......そうですね。でも、やっぱり今日は止めておきますよ。知り合いが待ってますので」

 そう言うと、ベルは女性の"花"をピンと軽く弾いた。

 んっと、艶やかな声を出すと女性はベルを包み込むようにして、体勢を崩す。

「......誘うのなら僕みたいな人じゃなくて、もっとお金を持ってそうな人にしてくださいね?」

 女性の耳許にそう囁くと、ベルは服の乱れを直し、しっかりと立たせた。

「じゃあ、また。縁がありましたら」

 そう言って手を振ると、そのまま歩いていくベル。

 女性もそれに対し、楽しそうな笑みを浮かべながら熱い投げキッスでそれに返した。

 その姿は限りなく扇情的で、近くを歩いていた男性冒険者は、何故か股間を抑え俯いていた。

「これで、十一枚目っと......」

 ベルは手持ちの特別優待券を見ながらそう呟いた。

 この通りを歩いていると、やたら娼婦に絡まれたのだ。

 しかも皆かなりの美人で、恐らくその店の一番人気と言える女性ばかりであった。

 本来、道行く男性に声を掛けるのは、所謂その店の中でも人気が下位の者達で、上位の者達は声を掛けずとも客は入ってくる。

 更に、来た客にはとんでもない金額を請求するのだ。

 そんな彼女達が自分から声を掛け、更にはタダでいいというのは、それほどまでにベルを気に入ってしまっているということになる。

 今まで声を掛けられた娼婦達は皆同じ言葉をベルへ囁いていたのだ。

 故にベルはこれが商売の世界なのかと、偉く感心してしまっていた。

 もし、この特別優待券を他の客に見せたら、とてつもなく羨ましがられることだろう。

 何たって、それは彼女達がお気に入りの客、もしくは気に入った客にしか渡さないものであるのだから。

「あ、いたいた」

 歓楽街を歩いて更に数分。

 5人程にまた声を掛けられ、流石に鬱陶しいなと思い始めてきた頃、目的の人物を発見した。

 その人物は全身をブラウンカラーのコートに身を包み、フードを深く被っており、見ただけでは男か女かも判断することは出来ない。

 しかし、その人物はベルに気付いたのか、小走りで近付いてくる。

「_______ごめんなさい。すっかり待たせちゃいましたね」

「......本当です。この場所にいるのがどれ程辛いか分かってるんですか......!」

 フードの中を覗くと、そこには理知的な美貌を持つ、銀縁の眼鏡と綺麗な水色の髪が特徴的な女性の顔が確認出来た。

 彼女は、少し頬を赤らめ、涙目になりながら、ベルを睨み付けていた。

「確かに女性は場違いですよね。下手したら間違われる(・・・・・)かもしれないですしね」

「だから、これを着て来たんです! ......まあ、見るからに怪しい人物ですけど」

 彼女は拗ねたように、目を反らしてそう言った。

 そんな彼女にベルは少し笑うことで応えた。

「でもここって、そういう人も少なくはないので、大丈夫だと思いますよ」

 ほらと、どこかの店の前へ指を差してそう言った。

 彼女と同じように全身コートの人物ではあったが、十中八九男性であることはわかってしまう。

 何故なら、その体躯と周りをキョロキョロと見渡しながら入り口の男性に話し掛け、娼館に入っていったからだ。

「此処に来るのに、顔を隠さないと来れないような人達は結構いると思うんですよね。だから、他の人達も特に反応してないんじゃないですか」

 少なくとも、後ろめたい理由(・・・・・・・)があるものはそうだろう。

 妻や恋人に内緒で来たりとか、その逆で恋人や夫に黙ってここで働いているもの達などだ。

 それがパートナーにバレた時のことを考えるだけでも、心は重くなってくるのだが。

「......まあ、取り敢えず行きましょう。案内しますね」

 ベルは女性の手を掴むと導くようにして、歩き始める。

「......いきなり、手を握らないで下さい」

 相変わらず女性はムッとはしているが、別に手は離そうとしなかった。

「手、握りますね。これでいいですか?」

 笑顔でそう告げるベルに女性は何も言えなかった。

 事後承諾にも程があったが、女性からしてみればいつもベルは大体こんな感じであったのだ。

「......もぅ」

 消え入りそうな声でそう呻く女性の顔は、赤らんでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 《ラ・スクゥレ》という名前のバーに二人は入った。

 店内は最低限の明かりしかなく、ちらほらといる客も我関せずと言わんばかりに自身だけの世界にいる、そんな内閉的な空間が広がっている。

 ベルは入ってすぐに、マスターらしき初老の人物に声を掛け、二三会話すると奥の個室に案内された。

「ごゆっくり」

 マスターは深く一礼すると、二人の前から音を立てずにその場を去った。

「もう、そのコート脱いでも大丈夫ですよ。アスフィ」

 アスフィと呼ばれた女性______アスフィ・アル・アンドロメダ_______は、ベルに言われた通り、そのコートを脱ぎ、隣に畳んで置いた。

 隠れていた綺麗な水色の髪が現れ、アスフィはフードを被っていたことにより少し乱れたその髪を手串で直していく。

「......ここって、VIP席じゃないですか? というか、いつも来ているみたいな感じでしたけど」

「いや、そういうわけじゃないですよ。バイト先の社長が前に連れてきてくれたんですよ。僕の奢りだーって。それで少し顔見知りになったのと、その社長のツテのおかげですよ」

 にこやかに笑うベルに、内心、あの駄神めと、ある人物に怨嗟の念を送るアスフィ。

 ベルが、そっち方面(・・・・・)の知識をどんどん蓄えていくのを危惧していたアスフィであったが、既に手遅れなのかもしれないと溜め息を吐いた。

「はい、メニューです。ちなみにおすすめは白身魚のカルパッチョです」

 ベルは完全に慣れている手つきで、メニューを取り出し、ページを開いて、アスフィに差し出す。

 ありがとうございますと礼を言うと、アスフィはメニューに目を通し始めた。

 その後、気に入った料理と酒を注文し、それが運ばれてくると、二人はそれを食べながら今日の本題に移ることにした。

「______で、そろそろ聞かせて貰っていいですか? こんなところに呼んだ理由を」

 酒が入り、少しだけ頬が上気しているアスフィは、魚介のフライに手をつけようとしているベルへそう言った。

「えっとですね______うん、美味しい______えっと、ソーマ・ファミリアの冒険者を3人程殺したんですよ」

「......は?」

 その一言を聞いて、アスフィは完全に固まってしまっていた。

 当たり前だろう、殺人を犯したとカミングアウトされれば。

「だから、ソーマ・ファミリアの冒険者を3人程殺したんですよ」

 この肉も美味しいなと、幸せそうな顔をするベル。

「......はぁ、また(・・)ですか。というか......勿論、バレてないですよね?」

「ええ、そこは大丈夫ですよ。死体も残さず処理しましたし、目撃者も一人だけで、その一人も僕の味方になってくれましたしね」

「死体処理はともかく、味方って......信頼に足る人物なんですか? その人は」

 ベルの今までの前科(・・)を知っているアスフィからしてみれば、この質問の意味は至極単純で簡単だ。

 殺人において、それを目撃者に見られるというのは必然的に不味い。

 そして、見られた場合に殺人者がやることは______

「何を言ってるんですか。そうじゃなかったら既に僕が殺してます(・・・・・・・)って」

 当たり前のことを聞かないで下さいよと、ベルはそう言った。

 そんなベルにアスフィは只一言。

「ですよね......」

 簡潔に只、そう返しただけであった。

「まあ、話したいことはそれだけです。一応、アスフィには報告しておこうと思いまして」

 食事をしながら、こんな話ですいませんと、ベルは少し笑いながら謝った。

 まあ、いつものことであるので、アスフィはそこは全く気にしていなかった。

 それよりも、気になっていたことがあったのだ。

「......ベル。その味方になってくれた人は女ですよね?」

「はい、そうですけど?」

 やはり女かと、アスフィは心の中で舌打ちをする。

 いや、直感的に既に嫌な予感はしていたのだ。

 女の勘というのは恐ろしいものである。

「......一体どうしたんですか? まさか口説いたとか、言うんですか? それとも無理矢理、て、手込めにしたとか......」

 後半、アスフィは顔を赤くしながらそう言った。

「口説くわけないじゃないですか。それに手込めだなんて、僕を何だと思ってるんですか?」

 無自覚天然タラシの鬼畜ドS野郎と、思い切り罵ってやりたいアスフィではあったが、それを言ってもこの男には通用しないのは分かっていたので、何も言わなかった。

「......じゃあ、どうやって味方にしたんですか。貴方の本質を知ってそれでも味方になってくれるなんて......」

「その子色々抱えてたみたいで、慰めてあげたんですよ。それで、僕のサポーターにならないって言ったらって感じですね」

「それ、絶対に肝心なところすっ飛ばしてますよね? それだけ聞いたらやっぱり口説いたとしか思えないんですけど......」

 適当に言うベルに、アスフィは少し苦言を述べた。

 嘘では無いのだろうが、余りにも言葉足らずであった。

「......なんか、ナァーザさんには洗脳してるとか言われましたけど、酷いですよねぇ」

 ベルは酒を煽りながらそう言うと、出汁巻玉子を一口かじる。

「......ナァーザも知ってるんですか。私、あの女嫌いなんですよね」

 なんと言うか、本能的に相容れないのだ。

 前、話した際も少し(・・)大変なことになったのは記憶に新しい。

「ナァーザさんも、それと全く同じこと言ってましたよ」

 ベルは苦笑しながらアスフィに対し、普通にそう言ってきた。

「......もう、知ってますよ。というか、本人から直接言われましたから。まあ、言い返してやったんですけど」

「もう少し仲良く出来たら、僕も嬉しいんですけどね......」

「それはベルの頼みでも聞けません。あの女だけは絶対に無理です。いや、そもそもの原因は......」

 そう言うと、アスフィはベルを見て黙り込んでしまった。

 どうしたんですかと、ベルは聞くが、アスフィは何でもないと答えるだけであった。

 どうやら、ベルの預かり知らないところでアスフィとナァーザにの間に色々あったみたいだ。

 ベルはそれ以上聞かないことにした。

「......まあ、ベルがどんな女と仲良くなろうが、どうでもいいんですけど。......ちなみにどんな人なんですか?」

「えっ。あぁ、えぇとですね。小人族(パルゥム)の子で、凄くちっちゃいんですよ。歳は一つ上で、性格も頑張り屋で。あ、あと見た目も可愛くて僕好みの良い子なんですよ」

「......ふぅん、そうなんですか。まあ、どうでもいいんですけど......合法ロリというやつですね。これは要チェック、と」

 何やらメモをしながら呟いているアスフィ。

 何か閃いたのだろうか。

 やはり、研究者は真面目だなと、ベルは感心していた。

 アスフィは冒険者ではあるが、それよりも研究者としての方が色が強い。

 更に言えば、彼女のスキル(・・・・・・)にもそれは関係してきており、それにベルはお世話になっているのだった。

「......あ、そうだ。アスフィ。この後どうします(・・・・・・・)?」

「え、どうしますって......まさか!? だ、だ駄目です......! 今日は不味い(・・・・・・)です!」

 アスフィは顔を真っ赤にしてそう言った。

 勿論、酒によるものではない。

「そんな今更、過剰に反応することでも無いでしょうに」

 初心だなぁと、ベルは笑っていた。

「......っ! 何で貴方はいつもそんなに余裕なんですか......! ホームに帰らなくて大丈夫なんですか!? というか、やっぱりじゃないですか!!」

 やはり、無自覚天然タラシの鬼畜ドSエロ野郎じゃないですか、と心の中で思ったが、口には出せなかった。

 そして、当然のように何がやっぱりなんですかと、ベルは苦笑いしていたが。

「そうですね。嫌がってるのを無理矢理っていうのは、あんまりですしね。まあ、ホームには一日くらい戻らなくても大丈夫でしょう。......ついでに明日は済ませておきたいこと(・・・・・・・・・・)もありますし」

 大して残念そうにも見えない表情で言うベルに対し、それはそれで納得のいかないアスフィ。

 複雑過ぎる心情であった。

「......そろそろ出ますか」

 ベルはそう言ってアスフィを促した。

「......お代、半分払います」

「払うから良いですよ。ここに連れてきたのは僕ですし。それに、拗ねてるお姫様(・・・)にそんなことをさせたら、じいちゃんに怒られますしね」

 態とらしく言うベルに更にムッとするアスフィ。

 いつもそう言って、からかってくるのだ。

 言えば、アスフィが不機嫌になるのを分かっていて。

 本当に嫌な人と、アスフィは呟いた。

「じゃあ、出ますか」

 そう言って、席からベルは立ち上がると、ポケットからゴトッと、何かが落ちた。

「うん? それは......」

 音から察するに硬い木製の板かと、推測するが、それだけでは何かは分からない。

 アスフィは思わず覗いてしまった。

「《ネイキッド・アモーレ》......?」

 その板には、何かの店の名前と女性らしき名前が刻まれていた。

 間違いなくそれは、そういう店(・・・・・)そういうもの(・・・・・・)であった。

「ベル、これは......?」

「あぁ、それですか。此処に来るまでに色んな女性に声を掛けられてですね、遊ばないか(・・・・・)って。特別優待券らしいんですけど......」

 只、行く機会がですねと、ベルは少し困った表情をしている。

 無論、誰かに譲るというのは出来なかった。

 例え、譲ったとしても本人でなければ意味がなく、娼婦が断ってしまえばそれまでなのだ。

 互いの見解があって、初めて効力を発揮するのである。

 更に言えば、無理矢理しようとすると、返り討ちにされたり、店の者に排斥される可能性がある。

 戦闘娼婦と呼ばれる、娼婦兼冒険者の存在。

 大概にはアマゾネスに多く、店には戦闘娼婦が常に在中しており、そんなことをしようと思えばかなり酷い目に遭うだろう。

 故に誰かに渡すということは出来なかったのだ。

「......やっぱり、今夜大丈夫です」

「え?」

 突然の言葉にベルは固まってしまった。

「だから、大丈夫って言ったんです! ほら、早く行きますよ!」

 顔を尋常でない位に真っ赤にしているアスフィ。

 初心な彼女なら、当たり前だろう。

 これから、そういうこと(・・・・・・)をしに行くのだから。

「いきなり、どうしたんですか? さっきまで乗り気じゃなかったのに......」

「良いんです! ......どこぞの女とされてもムカつきますし」

 後半ゴニョゴニョと、何を言ってるのか分からなかったが、アスフィが良いというならば良いのだろう。

 お言葉に甘えさせてもらうことにした。

 まあ、甘える(・・・)のは逆になってしまうのだろうが。

「じゃあ、行きましょうか。アスフィ」

「は、はぃ......」

 にこやかに笑顔を浮かべるベルに、アスフィは顔を真っ赤に染めて、そう返すことしか出来なかった。

 

 

 その後、ベルとアスフィは近くにあった宿で熱い一晩を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

「ベル君が......帰ってこな~い! うわぁぁぁん! お腹減ったよ~!!」

 その頃、オラリオ市内の某ホームでは、ロリ巨乳女神の声が響き渡っていたが、無害なので恐らく大丈夫だろう。




お気に入り数7000突破、誠にありがとうございます。
これからも、この拙い作品をどうかよろしくお願いいたします。












ベルのステイタスはまた今度になりそうですね......

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