生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
「退いて、下さい!」
リリルカの持つボウガンから放たれた矢が、迫り来るゴブリンの頭を正確に撃ち抜き粉砕する。
現在、第8階層。
リリルカは順調にダンジョンを登っていっていた。
ベルを第10階層に置いていき、更には数十体のオークを誘き寄せた。
いくらあの強さのベルでも、あの数は無理だろう。
何たって、あの薬品の効果によって、モンスターは更に増え続けるのだから。
もしかしたら、下の階層のモンスターも誘き寄せてしまうかもしれない。
調合の際に、本来よりも遥かに多い量の薬品をリリルカは投与していたのだ。
確実にベル・クラネルは死ぬだろう。
彼女にとって、冒険者とは塵のような存在だ。
他の冒険者がリリルカを見るのと同じように、リリルカも冒険者へ対して常にそう思っていたのだ。
「次はこっちですね」
そう呟いて、走っていた道を右折し、突き進んでいく。
リリルカの頭の中には、第1階層から第10階層までのルートが全て叩き込まれていた。
これも彼女の生きる術である。
彼女には冒険者としての力はない。
故に、他の冒険者に寄生していかなければその日の食事にありつけるかも怪しい。
しかし、冒険者は残酷な生き物で、そんなリリルカに満足に報酬を与えることはなかった。
更に言えば、身内も友人もいないひとりぼっちのリリルカには頼れる人物もいなかった。
そこでリリルカは、貰えないのなら、奪えば良いという考えに辿り着いた。
冒険者の装備やアイテムを奪取し、逃走する。
これは意趣返しでもあり、復讐でもあった。
冒険者がそういう風に自分を搾取するのなら、此方も搾取してやると。
リリルカに罪悪感はなかった。
当然の報い、権利だと思っていた。
《シンダー・エラ》。
それが彼女の使う魔法だ。
効果は、他者から見た自分の姿形を思いのままに変えることが出来る。
全くの別人への変身や、種族間を超えた変身も可能で、これによりリリルカは、今まで悪事を行ってきたのだ。
しかし、同じファミリアである、ヒューマンの冒険者にはバレてしまっていた。
変身を解除するところをうっかり見られてしまったのだ。
そこから弱味を握って、他の冒険者達と手を組み、金を搾取し続けてきたのだった。
運が良かったのか、そのヒューマンの冒険者はそれを周りには言っていないらしい。
恐らく、それを言ってしまえばリリルカに金を稼ぐことが難しくなってしまうからであろう。
兎に角、リリルカは縛られ続けているのだ。
塵のような冒険者達に。
そして、ソーマ・ファミリアという糞のような組織に。
「でも、それも今日で終わりなんです......!」
そう、今日で終わる。
この最底辺の人生に終止符を打つのだ。
リリルカは走り続けた。
『ギギャアアアアア!!』
「邪魔っ、です!」
ボウガンを再度、ゴブリンへ向けて発射する。
放たれた鉄の矢はゴブリンの眼球を貫いた。
残弾数は残り十二発。
リリルカは、弱い。
素手であればゴブリン一体すら倒すのも難しい。
それも武器やアイテムなどを駆使すればその差をどうにか埋めることは出来るが、費用が割りに合わない。
ゴブリン数体を倒したところで、消費した矢やアイテムを補充する分の魔石やドロップアイテムを回収出来ないのだ。
「......なんで、リリには冒険者としての才能がなかったんでしょう」
冒険者はモンスター達と戦わなくてはいけない。
リリルカは冒険者ではなくサポーターだ。
何度その無力さを嘆き、冒険者に嫉妬しただろうか。
しかし、今ここでそれを嘆いても意味はない。
リリルカは早く
「7階層......! ここさえ抜ければ......!」
8階層を抜け、7階層。
モンスターの強さが変わるのがこの7階層。
つまり、ここを抜ければ遥かに楽になるということだ。
「よくやった。糞
通路からルームへ出た瞬間、横から何者かに強烈な衝撃が走る。
横腹部への蹴りがリリルカに炸裂したのだった。
リリルカは地面へ転がると、その蹴った主であろう人物が近付いてくる。
「よおぉ......お勤めご苦労だった。いやぁ、本当によくやった!」
汚い笑みを浮かべながら、近付いてきたのは顔以外を鎧に包まれた同じファミリアのヒューマンだった。
その背後を見れば、二人程居るのがリリルカには確認出来た。
「あの糞餓鬼を嵌めてやったのは褒めてやるよ。今頃、モンスターの群れに嬲り殺されてると思うと、最高に気分が良いぜ......!」
男の大笑いが、ダンジョン内に響き渡った。
それに釣られたのか、後ろにいる男達も笑い出した。
「ど、どういう、こと、ですか......?」
「あ? わかんねえのかよ?
もう一発、リリルカの腹部へ蹴りが炸裂する。
「......くはっ!」
肺から空気が一気に排出され、リリルカは呼吸困難に陥る。
「......お前も馬鹿だよなぁ。良い金づるを逃すわけねぇだろうが! 忘れたのかよ? あの花屋をぶち壊してやったことをよぉ!」
三度目の蹴りを喰らい、リリルカは吹き飛んでいく。
転がった先で、リリルカはその痛みにもがき苦しむ。
「良い様じゃねえかよ! はっははははははっ!!」
男はリリルカの腹部に足を置くと、ぐりぐりと体重を掛けてきた。
「ぐっ......!」
「俺は! 只あの糞餓鬼をブチ殺せれば良かったんだよ! あそこのあの地形なら、強いモンスターを大量に誘き寄せられるからなぁ!
更に腹部へ圧が加わり、リリルカは呻き声をあげる。
「おい! お前ら!」
「......へいへい」
「分かってますよ」
男がそう言うと、後方の二人が下卑た笑みを浮かべながら近付いてくると、リリルカのローブを剥ぎ取り、装備品を奪い取る。
リリルカは既に腹部へ数度の打撃を喰らい、抵抗らしい抵抗も出来ないでいた。
「おいおい、こいつ、
「魔石に金時計、それにドロップアイテムもこんなに!」
男達の目には"金"のことしか映っていない。
酷く醜い姿と言えるだろう、その光景は間違いなくそこらの畜生の部類だろう。
「おい、出すもん他にあんだろう?」
リリルカの見下ろしているヒューマンの男は血走った目でそう言った。
出すもの。
装備品を取られたリリルカに出すものはあるのだろうか。
いや、一つだけあった。
「金庫の鍵、それを寄越せ。なぁ、糞
「わかってんだよ。お前が金を大量に溜め込んでるのはよぉ」
「そうそう、最初からそれが目的ぃ」
「そんな......!」
リリルカは声をあげようとするも、腹部へ力を込められすぐに黙らされる。
「いいから、早く鍵を寄越せ......さっさと寄越せ!!! 糞
男は声を張り上げてそう言った。
リリルカはその声に縮こまり、一瞬、身体が震えた。
自身より格上の存在に、凄まれれば誰だってこうなってしまうだろう。
しかし、この時、リリルカはこうとも思っていた。
_______ベル様程ではない。
あの恐ろしいまでの殺気を浴びせられたのだ。
これくらいの怒気、最早恐怖はなかった。
だからといって、今のリリルカに何か抵抗らしい抵抗が出来るというわけでもなかった。
しかし、リリルカはここより先へ進むことにしたのだった。
「......です」
「あ? 聞こえねぇよ」
「嫌です!!」
リリルカの叫びがダンジョンに響き渡った。
男達も、このようなリリルカを見たのは初めてなのか、驚いた表情をしていた。
「もう、お前達に良いようにされるのは、絶対に嫌なんです!!」
リリルカのそれは正しく魂からの叫びだった。
己が人生を滅茶苦茶にされたリリルカにとっての。
そして、この叫びは、リリルカが人生で初めて
「糞小人が......調子に乗ってんじゃ______」
その瞬間、声をあげ、リリルカを踏み潰そうとした男の足に、隠し
「ぎゃあああああ!!!」
足にナイフを刺された男は転倒し、患部を抑えながら地面に踞る。
「てめぇ!!」
激情に駈られた
「くっ......!」
本来なら防ぐことすら出来ないそれを、奇跡的にナイフで防ぐリリルカ。
しかし、その衝撃はリリルカにとっては重く、更に遠くへ吹き飛ばされた。
「お前、俺らにこんなことやって、只で済むと思うなよ!」
「ぶっ殺してやる......!」
既に二人の男は武器を構えており、はっきり言ってリリルカには勝ち目はなかった。
この時、リリルカは、遂に
_______結局、何をしようとリリはこうなる運命なんですね。
《神酒》に妄信的な、この男達には何を言っても通じない。
いや、そんなことは最初からわかっている。
この世界は強いものが幸せになり、弱いものが不幸になる。
そんなこと
何故、そんな理不尽が許されてしまうのだろうか。
何故、もっとこの世界は優しくないのだろうか。
(私が、何をしたっていうんですか......)
彼女は生まれたときから、ずっと、必死に必死に生きてきた。
何も知らないリリルカにとって、この世界は酷く残酷で、敵しかいなかった。
汚いことにも手を出したし、間接的に人だって殺したこともある。
それは間違いなく犯罪行為で、決して許されることではない。
しかし、そんなことはリリルカが一番分かっている。
自分がどれだけ最低で屑で、愚かな行為をしてきたか。
(でも、リリは......!)
今まで歩んできたリリルカの人生を何も知らないものが、幾ら自身を罵ろうとも関係ない。
結局、このリリルカの気持ちを分かってくれるものなど、存在はしないのだ。
逆に言えばこの気持ちはリリルカだけのものだ。
誰が生まれたときから、地獄のような生活を送ってきたリリルカの人生を分かってくれるというのだろうか。
いや、分かってくれなくていい。
どうせ、この命はもうじきに終わるのだから。
(リリはきっと、地獄に落ちてしまうのでしょう......)
自分が此れまで行ってきたことを省みれば、間違いなく地獄へ落ちると、リリルカはそう思っていた。
天国なんかへ行けるなどと最初から思ってはいない。
もっと小さい頃からずっとずっと、そう思っていたのだ。
(でも、もし、生まれ変わることが出来るのだとしたら_______)
最高の幸せとはいかなくてもいいから、もっとまともな人生を送りたいと。
リリルカはそう願い、迫り来る凶刃を前に目を瞑った。
「リリルカ、ナイスガッツだよ」
キィンという甲高い音______剣とナイフがぶつかる音______が響いた。
「てめえは......!」
割って入ってきた人物は白髪紅眼の眼鏡をかけた少年で、背中には大剣が納刀されており、右手にあるナイフで、男の攻撃を軽く受け止めていた。
「喋るなよ」
少年は酷く冷たい声色でそう言うと、犬人の男を蹴り飛ばした。
「死ねや!!」
もう一人の男が斬り掛かってくる。
しかし、今度はそれをさせる前に、男の腹部へ掌底を打ち込むと、男は吐瀉物を吐き出しながら気絶した。
「お、お前は、糞餓鬼っ!! 何でここに居やがる!! モンスターの群れに殺されたんじゃ......!」
リリルカに足を刺された男は、持っていた外傷系の
しかし、その顔は青ざめている。
あのオークの大群をLv:1の冒険者がどうにか出来るわけがないと、そう言いたげな表情だ。
先日、男からこの少年がLv:1ということをリリルカから教えて貰っていた。
それならと、最大の苦痛でもって殺してやろうと、そう意気込んだわけなのだが。
何故、生きているのか。
男は現状を理解出来ないでいた。
「誰も殺されたなんて言ってないだろう? なあ、
あの時とは、比べ物にならない程の濃密な殺気が少年から男_____塵芥へ放たれる。
「ひ、ひぃ......!」
塵芥は自身と少年との間にある隔絶された実力差を前に何も出来ないでいた。
ガタガタと身体が震えるその姿は、リリルカを罵っていた時の姿と比べると酷く滑稽で不様だった。
「お、おい! こいつがどうなっても良いのかよ!?」
犬人の塵芥は、リリルカの首元に剣を当ててそう言った。
リリルカは刃物を当てられているという恐怖よりもどうして、彼がここに居るのかというのこの状況の方が気になって仕方なかった。
もしかしたら、リリルカは刃物を当てられているという事実に気付いていないのかもしれない。
それほどまでに驚いていたのだ。
「......とことん、下衆だなぁ」
少年は溜め息を吐くと、ナイフを持っていた右腕を下ろす。
「へっ......そうだ。大人しく言うことを聞けば______」
少年は徐に、左腕を向けると、
瞬間、犬人の塵芥は目を見開き、涎を流し、苦しみながら、
「......ご、はっ......かっ......」
もがき苦しみながら、犬人の塵芥は喉元を抑えていた。
まるで、何かに
「......な、何が起きてるんですか」
既に当てられていた剣は地面へ落ち、リリルカは拘束から解放されている。
そんなリリルカが最初に放った言葉は現在の状況を尋ねるというものであった。
「取り敢えず、飛んでおいて」
少年は、掴んでいた何かをそのまま思い切り左方へ投げ飛ばした。
「ぐはっ!?」
犬人の塵芥はその動きにシンクロするように、外壁へ叩きつけられていた。
衝突の衝撃で、壁には多数の皹が入っており、どれ程の威力かを物語っていた。
現に犬人の塵芥は、壁にめり込み、鼻血と吐血を同時にしながら失神している。
まあ、これでもかなり加減はしているのだが。
「......さあて、次はお前の番だね」
少年は絶対零度の眼差しを向けながら、ヒューマンの塵芥を見ると、歩き近付いていく。
「ま、まままま待ってくれ!! か、金なら幾らだってやる! そ、そうだ何なら《神酒》だって......!!」
ヒューマンの塵芥は腰が抜けたのか、尻餅をつくようにして、後ろへ下がっていた。
滑稽の極みとしか言えないその光景に少年は鼻で笑う。
「どうしようかなぁ。生温い方法じゃ、僕も納得出来ないし」
少年はうーんと考えながら、塵芥へゆっくりと距離を縮めていく。
「わ、分かった! そこの
次の瞬間、塵芥の両足は膝下から切断されていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
凄まじいまでの絶叫がダンジョン内に木霊する。
塵芥がのたうち回ることによって、大量の血がまるで独楽のように回転しながら流れていく。
「あ、ごめん。思わず手が出ちゃったよ。煩い雑音が聞こえたものだからね」
少年は仕方ないよねと笑顔を浮かべながらうんうんと頷いている。
「まあ、ここで死ぬんだし、足なんていらないよね?」
まるで冗談を言うようなノリで少年は言った。
しかし、その顔は本気であると告げている。
流血しながらのたうち回る塵芥の元へ少年はゆっくりと近付いていく。
「じゃあ、まずは。はい」
少年はかけていた眼鏡を外すと、瞳が青へと変化する。
すると、少年はのたうち回っていた塵芥の背中を撫でるようにナイフで
「あ"っ、な、な......で......?」
のたうち回っていた塵芥の動きは突如、止まった。
いや、止まらざるを得なかった。
「動けないのは当然だよ。お前の着てる防具は
そう、塵芥は今付けている装備の重さで動けなくなっているのだ。
塵芥の冒険者としてのレベルは腐っても"2"だ。
装着もレベルに合ったものを装着している。
つまり、レベルに合わない重量の装備を纏えばどうなるかは、明白であった。
「______お前の"ステイタス"を
この少年が何を言っているのか、ここにいる全員が理解出来ていないだろう。
「あ、そうだ」
気付いたように、少年は左腕を外壁へ向けると、めり込んでいた犬人の塵芥を
「......ぐはっ!? ど、どうなっ、て......ひっ!」
犬人の塵芥は、仲間の変わり果てた姿を見て、パニックを起こしていた。
まあ、目が覚めたら隣で仲間が両足を切断されて血塗れになっていたら、誰だってそうなってしまうだろう。
「あとは、そこのお前も」
吐瀉物を吐き出していた塵芥を再度、左腕を伸ばし掴むと同じように近くへ投げる。
「さてと......」
少年は先程と同じように、塵芥達の背中を斬った。
瞬間、塵芥達の表情は苦悶に変わる。
理由は全く同じであった。
「......あとはこれ。見覚えあるよね?」
少年が懐から取り出したのは一つの小瓶だった。
中にはピンク色の液体が微量だが入っている。
「そ、れは......」
リリルカが口を開いた。
少年の手にあったのは、リリルカが使ったあの薬と同じものだったからだ。
「あの後、気化したあれを
少年はそう言うと、塵芥達に直接、小瓶の中身をぶちまけた。
「効果はモンスターを誘き寄せる。勿論、知ってるよね?」
まあ、量が少ないから多分効果もあまり出ないんだろうけどと、少年は呟いた。
「あ、お出でなすったみたいだね」
少年が眼鏡をかけ直しながらそう言って、横を見た。
そこには大量のキラーアントがうじゃうじゃと集まっていた。
「多分、お前達を脇目も振らずに狙ってくると思うから頑張って対処してね」
少年、ベル・クラネルは凍りつくような笑顔でそう告げた。
『シャアアアアアアアア!!!』
『うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ。
多数の蟲達が、塵芥という肉塊に群がり、それを咀嚼する音だけが響いていた。
「うわぁ。キモいなぁ。やっぱり」
ベルはその光景を見て、一言そう言うと、先程のオーク戦を思い出してしまっていた。
「......ふふ」
「うん?」
ふと、ペタリと座り込んでいるリリルカを見ると、俯いているのが分かった。
しかし、その口角は上へ上がっており、小さく声が聞こえた。
「......ふふ、ふふふふふ。......あははは、ははは。......あははははははははははっ!!!」
突如、リリルカは声をあげて笑い出した。
流石にベルも少し驚いてしまう。
「あははははははははははっ!! もっと、もっと、喰ってください! そいつらを!! ははははは......良い様です、リリをこんな風にした罰です! あははははははははははっ!!!」
音の出る壊れた人形のように笑いが止まらないリリルカ。
そうだろう、憎しみの対象が苦しみながら惨たらしく死んでいるのだ。
「......ああ、そろそろ食べ終わっちゃうなぁ」
見てみればキラーアントの群れが、塵芥達を捕食し終えそうになっていた。
終わってしまえば、次に狙われるのは間違いなくベルとリリルカであった。
「......ほら、取り敢えず行くよ。君の処遇はそれからだ」
「あはははははっ!」
これは駄目だなと、ベルは溜め息を吐くと、壊れているリリルカの首裏に当て身を入れ、意識を奪った。
「......ずっと、握ってるな」
ベルはリリルカの手にしっかりと握られているナイフを優しく抜き取ると、
「よいしょっと......軽いなぁ。ちゃんと食べてるのかなぁ」
ベルは近くに落ちていたリリルカの装備品を拾うと、そのまま彼女を抱き上げ、今とは検討違いのことを心配していた。
「さて、帰りますか......」
穏やかにそう言うと、ベルはてくてくと、通路を歩いていく。
『キシャアアアアアア!!!』
どうやら、塵芥を食べ終えてしまったらしい。
キラーアントの大群はベルとリリルカへ向けて猛スピードで迫って来た。
「......今日はよく大量の敵を相手にするなぁ」
また溜め息を吐くと、ベルはリリルカを肩で担ぎ上げ、左腕をその大群へ向けた。
「全く、面倒だなぁ!」
そう言った瞬間、ベルの左腕から顕現したのは、
「______
その巨大な左腕は、蟲の大群を覆いつくす程に大きく、次の瞬間には全ての蟲が握り込まれていた。
「......潰れて消えろ」
グシャリという音ともに、蟲の大群はいとも簡単に全滅した。
五秒もかからずに、だ
文字通りの秒殺劇だった。
「あ、そういえばキラーアントの体液って、仲間を呼び寄せるんだよね......」
巨大な左腕が消えると、ベルは蟲だったものを見る。
握り潰した蟲の大群の下には大量の体液が流れ出ていた。
「......走るかぁ」
ベルはリリルカをしっかりと抱え直すと、走り出した。
背中には大剣、腰にはナイフやウェストポーチ、リリルカの装備品も含め、かなりの重量になっているはずだ。
しかし、それを感じさせないほどに軽やかに、ベルはダンジョンを駆け抜け、地上へと向かっていった。
というわけで、ベルの鬼畜回でした。
まあ、こんだけ容赦の無いベルがいても良いでしょう。
今作のベルは「目指せ、裏ボス系主人公」ですからね!
あと、作者的に言えばリリは、彼女の立場になれば仕方がないのかなとは思っています。
彼女の気持ちは彼女にしか分からないのでしょうけど。
かと言ってその行為が許されることではないのでしょうが。
ですが、リリは好きなキャラクターではあります、はい。
能力について詳しくは後程。
取り敢えず、それではまた次回!
次回で恐らく第二章は最終回です。