生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
仕事と学校は辛いけど、今年も書くのを頑張ります。
「ところでベル様?」
「ん? どうしたの、リリルカさん」
現在、ダンジョン内第7階層。
ベルとリリルカは、危なげなくダンジョン探索を進めていた。
「ベル様は本当にLv:1の冒険者様なのでしょうか?」
「さっきからそう言ってるんだけどなぁ......」
都合五度目のやりとりである。
ゴブリンやコボルトなどの雑魚モンスターや、ダンジョンリザードのようなほんの少し強い程度のモンスターをベルが瞬殺しながら、リリルカが魔石やドロップアイテムを回収するというのを続けていた結果、目測で既に10000ヴァリス以上は稼いでいた。
ベルにとってみれば、造作の無い当たり前のことではあったが、リリルカからしてみればかなり衝撃的なことであり、目を見開いて驚いていたのはベルの記憶に新しい。
というより、今の今までではあるが。
「......ベル様のそのナイフ、もしかしてかなりの業物だったりするんですか?」
「いいや、適当な店で買った安物だよ」
でも手によく馴染むから使いやすくてと、ベルは付け足した。
そんなベルに対し、リリルカは「またまたご冗談を」と笑っていた。
どうやらベルの言ったことは冗談だと思われているらしい。
「......本当のことなんだけどなぁ」
ベルはそう呟くが、別に良いかと、この件を有耶無耶のままにしておくことにした。
これを本当だと伝えても、それを相手が信じなければ意味がないし、何より面倒くさかったのだ。
リリルカとは会って間もない上に、またパーティを組むかも分からない。
もしかしたら、もう二度と会うことは無いかもしれない。
故にこのままでも問題は無いのである。
「あ、リリルカさん。モンスターが来るから、僕の後ろに下がってて」
「え? 一体どこから......」
瞬間、壁からグチャグチャと耳に嫌悪感を抱かせる音が響き渡る。
モンスターの孵化、であった。
ダンジョン内のモンスターは、親となるモンスターから生まれるのではない。
「ウォーシャドー!? それにキラーアントまで!?」
現れたのは"黒い人"と"赤い虫"であった。
身長160C程、全身黒い影の人型モンスターで、6階層では、純粋な戦闘力では随一と言われるモンスター、ウォーシャドー。
四本の足に二本の細い腕、全身は赤く染まっており、身体を覆う外皮は鎧の如き強度を誇るモンスター、キラーアント。
どちらも新米冒険者にとっては、かなりの障害となりうるモンスターである。
しかし、それらのモンスターも一体ずつであれば強敵には違いはないが、対処は可能だ。
問題なのはその数であった。
「うじゃうじゃ出てきたなぁ......」
ベルは嫌そうな顔でそう呟いた。
ウォーシャドーとキラーアント、どちらも合わせれば数は20体以上はいたのだ。
「ベル様!? 囲まれてますよ!!」
リリルカの言う通り、ベル達は包囲されていた。
モンスター達は殺気立っており、完全にその狙いはベル達の方へと向かっている。
「リリルカさん、落ち着いて。これくらいなら問題ないから。それよりも、リリルカさんはアイテム回収に専念しておいて」
「これくらいって、そんなの無理に決まって_______」
リリルカの言葉は続かなかった。
モンスター達が一斉にベル達へ飛び掛かってきたのである。
「_______"死兎・旋廻牙"」
瞬間、リリルカの目には何が起こったか理解出来ないでいた。
突然、ベルが消えたと同時に、迫っていたモンスター達の頭部と胴体が別れたのだ。
「......
ベルの呟きの意味をリリルカは理解出来ないでいたが、ただ分かったのは目の前の冒険者が、モンスターを圧倒したということだけであった。
「ほら、リリルカさん。早く集めちゃおう。これを回収すれば大分額は行くはずだから」
「......」
「リリルカさん?」
「......は、はい! 只今やります!」
いきなり固まってしまっていたリリルカにクエスチョンを浮かべたベルであったが、すぐに了承したので、回収作業にまわることが出来た。
リリルカが理解出来なかったベルの戦闘の流れ、いや戦闘というものでも無かったが、説明すればこうなる。
_______リリルカを軸に走りながら、襲い来るモンスター達の首を狙って斬り落とした。
そう、それだけなのである。
生物の弱点は基本的には頭部である。
それを落とせば大体は死ぬ、それと同じようにベルからしてみれば当たり前のことであるのだ。
「......ベル様、とてもお強いんですね!」
「ははは、そんなことないよ。まだまだだよ」
リリルカの純粋な目にタジタジになるベル。
流石に本意かどうかまでは見抜けはしないが、そうだとしてもベルにとってその視線は恥ずかしいものであった。
「いえいえ、そんなことありませんよ。ベル様はリリが今まで見てきた冒険者様の中でも一番だと思います」
「それは言い過ぎじゃないかなぁ......」
べた褒めされ、後頭部を掻きながら照れるベル。
可愛い少女に褒められるのは悪い気がしなかった。
「でも、
しかし、いきなり方向性がベルからナイフへと移り、内心少しだけムッとしてしまうベル。
その言い方だとベルがモンスターを倒せたのはこのナイフのお陰と言われているようなものであった。
まあ、Lv:1の冒険者では到底出来ない芸当ではあるので、リリルカが勘違いするのは仕方の無いことではあったが。
「あ、申し訳ありません。失礼な物言いになってしまいまして......」
「あぁ、そんな謝らなくていいよ。リリルカさんの言ってることは
確かにこのナイフはとても手に馴染み、ベルにとってはかなり使いやすいものであった。
そう、強ち間違いではないのかもしれない。
「やっぱり業物だったんですねぇ。ベル様ったら安物だなんて言って」
「......いやぁ、それは本当なんだけど。うん、まあそういうことにしておいて」
やはり疑われているなと、ベルは自身の異常さを恨みつつもナイフを腰に差し納刀した。
「ところで、ベル様。今日はもうこの辺りにしておきましょうか」
「え、どうして? まだ全然余裕だと思うんだけど」
そう提案してきたリリルカにベルはそう問い掛けた。
「はい、実は今日ベル様がたくさん倒されたパープル・モスというモンスターは、毒の鱗粉を撒き散らしているのです。速効性はないですが、蓄積すれば後から毒の症状が発生してしまいます」
「......つまり、僕は今もしかしたら危ないってこと?」
「はい、すぐに帰還して解毒薬を処方するのをお勧めいたします」
生憎、解毒薬を切らしておりましてとリリルカは申し訳無さそうにそう言った。
「そっか......まぁ、それなら戻るか」
これは帰ったらエイナに聞くことが増えたなと思いつつ、ベルはリリルカの提案を承諾する。
まぁ、どうにかしようと思えばどうとでもなるのだが、不足の事態には陥りたくはないというのが理由であった。
このダンジョンでは何が起きるかは分からないのだから。
「あ、ベル様すいません。あそこのキラーアントの魔石なんですけど、高いところにいてリリじゃ届かないので、お手数ですが回収して頂けませんか?」
そう言ってリリルカが指差した方を見ると、壁に埋もれているキラーアントの死骸があり、その下には首も落ちていた。
恐らく斬った衝撃で吹き飛んでいったのであろう。
大分軽かったから仕方の無いことではあったが。
「あの胴体の首元の所にあると思うので、こちらをお使い下さい」
そう言って、リリルカは手元から剥ぎ取り用のナイフを取り出して、ベルへ渡した。
まあ、持っているナイフを使っても良かったのだが、厚意は無駄には出来ない。
「うん、分かった。リリルカさんは下に落ちてるのをお願いね」
「はい、残さず集めさせて頂きます」
そう笑顔で言うとリリルカは回収作業へ移った。
その小柄な身体でせっせと集めているのを見るとなんとも微笑ましくも見えたので、顔が緩んでしまう。
「......よし、さっさと回収しちゃおう」
緩んだ方を片手で叩き、ベルは壁に埋もれているキラーアントの元へ向かう。
「えっと、何処だろう? ここかな......」
死骸をナイフで弄っているので、グチャグチャとまた嫌な音がベルを襲ったが、もう慣れているので特に反応はしなかったが。
その後、リリルカの案内する絶対にモンスターに遭遇しないという最短安全ルートを教えてもらった。
曰く、安全なルートとは他の冒険者が通った道のことで、そこを逆戻りすればモンスターに遭遇しづらいということらしい。
冒険者はダンジョンに魔石やドロップアイテムを目当てに来ている。
故に、その道は冒険者がモンスターを倒すことにより必然的にいないということになる。
そして、例え居たとしてもそのモンスターを他の冒険者に押し付けてしまえば、これもまた戦わなくて済むということらしい。
極めて効率的な方法と言える。
更に言えば今いる階層は上層。
モンスターもかなり弱く、例え他の冒険者に押し付けても危険性は少ないのであった。
自身の力量を省みらない冒険者でなければの話ではあるのだが。
まあ、とにかく。
ベル達は特にアクシデントもモンスターと戦闘をすることもなく、安全にダンジョンから帰還したのであった。
「今日はお疲れさまでした」
ダンジョンから出て直ぐの入り口前広場で、リリルカはそう言ってベルに労いの言葉をかけた。
「いいや、そっちこそお疲れさま。リリルカさんのお蔭で、今日は大分楽だったよ」
今日は本当に助かったとベルは思っていた。
モンスターを倒すことなら楽なのだが、魔石やドロップアイテムの回収ははっきり言って面倒であったので、リリルカには感謝の念しかない。
流石、ベルよりも冒険慣れをしているというか、アイテムの効率的な回収方法や魔石は何処にあるのかなどをリリルカは熟知していた。
一朝一夕では絶対に身に付かないものである。
エイナにみっちりと叩き込まれているとはいえ、ベルはまだ日もかなり浅いので、そこら辺の所はまだまだであった。
「あ、そうだ。今日の報酬なんだけど......」
「ベル様その事なんですけれど......」
リリルカはそう言うと、今日回収した魔石の入った袋と、アイテムの入った袋の二つを渡してきた。
「今日回収した分は、全てベル様がお納めください」
「え、何で? 普通山分けするんじゃないの?」
「いえ、今日はベル様から信用を頂くためのものですので。しがないサポーターとしては、こうやって信用を勝ち取っていかないと、やっていけないんですよ」
リリルカは苦笑しながらそう言った。
なるほど、サポーターも色々大変なんだなと、素直に思うベル。
サポーターは確か、力の弱い者がなると、ベルはエイナから聞いたことがある。
他の冒険者に頼らなければ、満足に金を稼ぐことは出来ないのだ。
それ故に、冒険者からは少し疎まれている部分があるともベルは聞いていた。
「でも、別に僕はそんなことは______」
「ベル様、これは所謂通過儀礼というもので、他の冒険者様の方達も、皆さんやっています」
何もおかしくはないのです、そうリリルカは続けた。
「そっか......なら、分かったよ。今回は全て僕が貰うね」
「はい、分かってくれたようで何よりです。......まぁ、もう会うことはないのでしょうからね」
ぼそぼそっと、リリルカは最後に言った気がするが、ベルには聞き取ることは出来なかった。
「それでは、ベル様。今日はありがとうございました。よろしければ今後ともリリのことをご贔屓にして頂ければ」
「こちらこそありがとう。ちゃんと考えておくよ」
ありがとうございます、そう礼を言って、リリルカは走り出した。
「......さて、早速これを見てもらうか」
リリルカが見えなくなるまで見送ってから、ベルはそう言って、リリルカとは逆の方向、つまりギルドの換金所の方へと歩き出した。
「うん、今日はまあまあ良い経験になったな」
誰か護りながら戦うというのは一人では絶対に経験出来ないので、そこは有り難かったのだ。
「エイナさん。只今戻りました」
「あ、ベル君。お帰りなさい。怪我とかしてないよね」
ギルドに入るとまず、最初にエイナへ声をかけるベル。
それに対して、エイナが怪我をしてないかしっかり確認するのはお決まりの流れであった。
「今日は結構稼げましたよ。15000は多分いってると思います」
「へぇ、どうしたの? まさか、また深くまで潜ったんじゃ......」
「違いますよ。今日は色々あったんです」
エイナの機嫌が悪くなる前に否定するベル。
怒ったエイナは本気で怖いのである。
「色々って、何があったの?」
「えっとですね、サポーターを雇ってみたんですよ」
そう言うと、エイナは少しだけ驚いた表情をした後に嬉しそうな顔をした。
「ベル君も漸く誰かと一緒にダンジョンに潜るようになったんだ。うん、偉い偉い」
「エイナさん、頭を撫でないでくれませんかね? 恥ずかしいんですけど」
エイナはベルの頭をよしよしとまるで弟のような、息子のような、そんな表情で撫でていた。
男としては止めて貰いたいところがあるのだが、エイナはそれを無視して撫で続けていた。
「って、あれ? ベル君。ナイフはどうしたの?」
撫でる手がストップし、助かったと思ったベルだったが、はい? とエイナへ首を傾げた。
「いや、ナイフ。ベル君持ってなかったから」
エイナにそう言われ、ベルは自身の腰を確認すると、あぁと言って少し笑った。
「ちょっと、知り合いに今預けてるんですよ」
「預けてるって......あぁ、手入れして貰ってるんだね」
エイナはベルの返答の意味を理解し、納得していた。
「はい、そういうことなんです。だから、
「......?」
エイナはベルの含んだような言い方にクエスチョンマークを浮かべたが、ベルは曖昧に笑っているだけで、何も言うことはなかった。
ギル様は最強のはずだろ!
それがなんであんなことに......
俺のアーチャーは最強なんだ!
あ、絵本幼女が召喚に応じてくれました。
とても嬉しかったです。