生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。





#14

「青いなぁ......」

 ダンジョン入り口前の広場、そこでベルは空を見上げながら、腰を下ろしていた。

 空が青く見えるのは太陽光の反射で青色が一番反射されるというのが、大雑把な理由ではあるが、今はそんなことはどうでも良いことだろう。

「一週間、ね......」

 ベルが呟いたその言葉の意味は、先日のヘファイストス・ファミリアの店でのやり取りの中にあった。

 

 

『俺を旦那の専属鍛冶師として契約して欲しい』

 

 

 ヴェルフから真剣な表情でそう言われ、ベルは酷く戸惑った。

 いきなり過ぎて意味がよく分からなかったのだ。

 現にベルは固まってしまっていたし、他の面子も同じくであった。

 その沈黙の中で最初に起動したのはヘファイストスで、すぐにヴェルフへ、その理由を尋ねていた。

 ヴェルフの言ったことを簡単に説明すると、どうやら"あの時から"ベルのことをずっと見ていたらしい。

 確かに、変な視線(・・・・)は感じていたが、流石にストーカー行為はいけないとベルはしっかり釘を刺しておいた。

 そして、そんなストーカー気味のヴェルフ曰く。

 

 

『旦那(の力)に惚れた』

 

『旦那の力になりたい』

 

『旦那の歩む道を一緒に歩ませて欲しい』

 

『だから、俺を旦那の専属(鍛冶師)にして欲しい』

 

 

 等々、少し意味深にも聞こえなくもないフレーズをベルに語りかけてきたのだ。

 流石にベルもどうしたら良いのか分からずに、エイナや事を知っていそうなヘファイストスに助けを求めようとしたが、エイナは顔を赤くしていた。

 ベルにしてみれば、何故顔を赤くしているかなど分からなかったが、特に言及することもなかった。

 取り敢えず、フリーズしているエイナを起動させ、現状どうすれば良いのかを尋ねた。

 すごい目が泳いでいたエイナをベルは不審には思ったが、これも特に言及することはなく、返ってくる言葉を待った。

 すると、返ってきた言葉は酷く短いものであった。

 

 

『良いと思うよ』

 

 

 それが、彼女の返答であった。

 《赤色の剣造者(ウルカヌス)》、それがヴェルフ・クロッゾの二つ名である。

 オラリオ内で、神を除けば中で最高峰の鍛冶師らしい。

 しかし、彼は武器を作ろうとしないことでも有名であった。

 理由は定かではないが、そういうことらしい。

 しかし、そんな彼がベルに武器を作らせて欲しいと言ったのだ。

 事情を良く知っているであろうヘファイストスや椿からしてみれば、驚くに決まっていた。

 そして、ベルはそんなヴェルフの申し出に、少し考えるとこう返答した。

 

 

『でも、僕はそんな器じゃありませんし。それに僕は貴方の本気(・・)武器(もの)を知らないですしね』

 

 

 そう、いくら有名な鍛冶師とは言え、その現物を見なければ何も判断することは出来ない。

 故にベルはそう返したのだ。

 その返答に、ヴェルフは一瞬だけ固まると、いきなり笑い出して、周りを引かせていた。

 しかし、ヴェルフはそんな視線を一切無視して、ベルの瞳をジッと見詰め、ニカッと笑ったのだ。

 

 

『一週間待ってくれ。旦那にとって、最高の得物(・・・・・)を作ってくる』

 

 

 そう言って、ヴェルフは早々にその場から立ち去ってしまった。

 恐らく自身の工房に向かったと思われるのだが。

 まあ、これが先日のヴェルフとのやり取りであるが、それから今日で二日目。

 期限は後、五日であった。

「まあ、僕にとって何のデメリットも無いし......」

 これで、どんな武器(もの)が出来たとしても、特にベルにダメージはない。

 金を掛けているわけでもないので、ベルは特に期待しているわけでもなかった。

 未だにベルは、ヴェルフという男を信用出来ずにいたのだ。

 故に今回、ヴェルフから近付いてきたのも、実は何かあるのではないかと、常に考えていた。

 普通、こんなに美味しい話はないはずだからだ。

 そんなことを考えながら青い空の下、ベルはただ浮かぶ白い雲を眺めていた。

「お兄さんお兄さん。そこの空を見上げているお兄さん」

 多種多様、変幻自在というべき雲の動きに、あれはドラゴンに見えるなと思っていたときだ。

 横から少女の声がした。

「えっと、君は......?」

 そこに居たのはボロのコートに身を包み、体躯の倍以上の大きさのリュックサックを背負った少女であった。

 表情はフードに隠れてよく見えなかったが。

「もしかして、忘れちゃいましたか? リリルカ・アーデですよ。ほら、あの時ぶつかった」

 少女、リリルカはフードを外してそう言った。

 すぐさまベルは脳内に検索をかけて、リリルカのこと思い出そうとする。

「あぁ、あの時のサポーターさんか......」

 思い出せたのは割りとラッキーだったのかもしれない。

 脳内検索に一件ヒットしたベルは内心でホッとしていた。

「はい、そうです。思い出して頂いて幸いです」

 リリルカはそう言って笑みを浮かべた。

 ベルの彼女に対する第一印象は、栗鼠のような雰囲気を持っているというものである。

 まあ、見た目の印象だけのようなものではあったが。

「それで、お兄さん。もしかして冒険者になられましたか?」

「うん、十日くらい前にね」

 まだまだ冒険初心者だよと、笑うベル。

 現に、知識量の少なさをエイナにかなり怒られてしまっているので、間違いではなかった(・・・・・・・・・)

「それなら丁度良かったです! お兄さん、今サポーターを探していませんか?」

「......サポーター、ねぇ。でも、僕みたいな新米に着いていくより、もっとベテランの冒険者に着いていった方が良いと思うんだけど」

 名前の通りサポーターは冒険者の補助をして、その働きに応じて、稼ぎの一部を貰っているのだ。

 新米冒険者では、行けるところ限られてしまうので、稼ぎは少なくなるだろう。

 逆にベテランの冒険者に着いていけば、更に深い階層まで行けるので、稼ぎも大きくなる。

 その分、危険度はかなり上がってしまうのだが。

「リリ程度のサポーターですと、ベテラン冒険者様の足を引っ張ってしまいますので......ですから、お兄さんのような成り立ての冒険者様にお声を掛けてるんです」

 へぇと、ベルは納得すると顎に手をあて、考える素振りを見せる。

「うーん。そうだなぁ......」

 実際のところ、ベルはダンジョン探索で、サポーターが必要だなとは考えてもいなかった。

 一人でダンジョンに潜っても何も問題は無く、更に言えば一人の方がやりやすい(・・・・・)のだ。

 ここでサポーターを雇えば費用もかかり、ダンジョン探索もしづらくなってしまうだろう。

 しかし、ベルには目の前の少女の提案を即座に突っぱねることなどは出来なかった。

「絶対に一人よりも二人の方が探索はしやすいですよ。それにアイテム収集はリリに任せていただければ、お兄さんは戦いに集中して臨むことが出来ますし」

 どうですかと、少しドヤ顔で言われて、ベルは苦笑してしまうものの、戦いに集中出来るというのは悪くないと思っていた。

 アイテム集めは割りと面倒なことではあるので、それは有難いことだ。

 それに、誰かを守りながら戦うというのも良い経験になるなと、ベルは思考してリリルカの方を見た。

「うん、そういうことなら君を雇わせてもらうよ」

「ありがとうございます! リリはとっても感激しています!」

 そんなに喜ばれてしまうと、それはそれで困ってしまうベル。

 しかし、これくらいでこの少女が喜んでくれるのなら、嬉しいことはないだろう。

 可愛い少女の笑顔は、男(一部女性も)を幸せに出来るのだ。

 これはベルの持論ではあるが、概ねその通りだろう。

 どの世界にも美少女が嫌いな人間はいないのである。

「あ、そうだ。まだ、僕が自己紹介してなかったね。僕はベル・クラネル。これから宜しくね、えーと......リリルカさんで良いかな?」

「はい、こちらこそ宜しくお願いいたします。"ベル様"」

 飛びっ切りの笑顔を浮かべるリリルカ。

 明らかに営業スマイル然としていたが、そんなことよりも、こんな少女に様付けで呼ばれることになるとはと、少しだけ胸を高鳴らせていた。

 背徳感などは気にしない。

 可愛いは大正義なのだ。

「じゃあ、ダンジョン行こうか」

「はい。足を引っ張らないよう、精一杯頑張らせていただきます!」

 リリルカの元気の良い返事に、ベルは気持ちよさを覚え、つい微笑んでしまった。

 妹がいたらこんな感じなのだろうかと想像するベル。

 この子がちょこちょこと後ろを、「お兄ちゃん」と言いながら着いてきたら滅茶苦茶可愛いなと、内心でにやけてしまう。

「何処のファミリア所属なの?」

「リリはソーマファミリアに所属しています」

 その後、ベルとリリルカは、ダンジョン入り口まで談笑しながら、割りとゆっくりめに足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。ちなみにリリルカさんって、何歳なの?」

 

「15歳ですよ」

 

「......!?」

 

 

 まさかの歳上であったことに驚きを隠せないベルであった。




投稿が遅くなったのは、Fate/Grand Orderを始めたからです。
無課金で、ギル様と青セイバーと師匠を早々に当ててしまったので、多分作者は今年死にます。

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