やはり三浦優美子の青春ラブコメは幕を開けたばかりだ。   作:Minormina

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……お久しぶりです。……かなり迷いました。葉山さんはさすが強敵ですね……。……細かいことはさておき、とりあえず第8話をどうぞ。


比企谷八幡は葉山隼人と対峙する。

 だいたいの推測は簡単だった。おそらく三浦は葉山に振られたのだろう。三浦の言動やそれに対する葉山グループの対応から予想がつく。……ただおかしいとすれば、その葉山グループの長たる葉山がなにも意思表示していないということである。他人との調和をモットーとする葉山がどうして全く行動を起こさないのか。そこが疑問で俺は時間をもらった、という訳だ。

 

(ただ、あいつと連絡とろうと思ったら陽乃さんを通さないといけないわけか)

 

 あの人が絡むとはっきりと言ってややこしくなるのは間違いない。……絡んでこないことを祈るか。ケータイを取り出し陽乃さんの番号を呼び出すとすぐにつながった。

 

「もしもし陽乃さんですか?」

 

『やっほー、って比企谷くん?君から電話なんてかかってくるって珍しいけどどうしたの?』

 

やはりそう思うのが自然だろう。……ただうまくここを避ける策がないものだろうか、と考えながら淡々と用件を述べる。

 

「……あの、単刀直入に言いますが、葉山の連絡先を教えて欲しいんです」

 

 電話の向こうからの返事は予想に反してシンプルなもので少し拍子抜けしそうになった。

 

『・・・それは構わないけどわたしから聞いたっていうのは秘密にしてね。・・・隼人、わたしを警戒してるとこがあるから』

 

 深く追求されなかったのがある意味奇跡的かもしれない。あの人ならとにかくそういった話題には必ず何かしら反応するのが常だったしな・・・。……もっとも、今回は雪ノ下が絡んでないからかもしれないが。

 

(これで舞台装置は整った・・・が、あとはどうまとめるか、だな・・・)

 

 虚空を見つめながらそんなことを考えちまう。

 

『……バカ……』

 

 胸の辺りがきゅっと締め付けられるような衝動に襲われ、少しめまいのするところだった。・・・あの職場見学のときに由比ヶ浜に言われたあのひとことが鮮明に俺にいまさらながら刃をむけるのか?

 

(・・・馬鹿らしい、って前の俺なら一蹴してたところなんだろうが)

 

 一人で飯を食い、一人で授業を受け、一人で登下校する生活が身についちまってた。……でも、いつの間にか俺の周りには雪ノ下や由比ヶ浜、戸塚に認めたくはないが材木座とかを始め、他人じゃ済まされない間柄になっちまった……といえばいくらなんでも自分勝手、だろうか。

 

(でも……どうしてあの場面で俺に頼ろうとしたんだ……?)

 

 一番わからないのはそこだ。……そんなことは後でもわかることか。どこから出てきたかもわからないため息をつきながら俺は虚空を見つめるのだった。

 

_______

 

「……どうしたのかな、比企谷くん?」

 

こいつはこんな時でも俺に笑顔を振りまいてくる。……まるで赤の他人かそれとも親友に見せてる笑顔かわからないほどの精巧な笑顔。

 

「……ちょっと聞いてほしいことがあってな」

 

 俺がそういったとき、屋上に風が俺たちの間をすっと駆け抜けていく。…………葉山はまるで風がそうさせたように一変して真剣な顔つきになり、

 

「……優美子のことか」

 

 悲痛な声、といえば聞こえがいいだろうが、どこかこの男から発せられた声は様々な感情が絞り出されたような深いものものだった。

 

「……ああ、さすがご明察、っといったところか」

 

 俺はあえておどけてこいつにいってやる。……こいつがどこかで夢見ている「幻想」を打ち砕くために。

 

「……ふざけるなよ……お前……」

 

 葉山は両手を握りしめて攻撃的な視線を容赦なく俺に向けてくる。……それは単なる怒りだけだろうか?おそらくそうじゃない。こいつのことだ。……もう気づいてるんじゃないのか?

 

「……ふざけるな?それはこっちの台詞だ葉山。……お前は最低だぞ?俺以上にな」

 

「……俺が一体何をしたっていうんだよ……」

 

「……シラを切るのか?……お前が一番望んだものを自分で砕いたことぐらいお前が一番知っているだろ?」

 

「…………っつ……‼︎……」

 

 途端に葉山は俺の胸ぐらを左手で掴んで握った右手を大きく構える。……でも、こいつはここで俺を殴ることはできない……。

 

「……だったら、どうしたらよかったんだよ……」

 

 右手を下ろしてうつむきながら声を絞り出す葉山に俺はこう問いかける。

 

「……お前はどうしたかったんだよ……?」

 

「……わからない……」

 

「……そうか」

 

「……俺は確かに今までいろんな人に告白されてきたけれども、みんな断ってきたんだ。……でも、まさか優美子に言われるなんて……」

 

「……それは嘘だな。……お前は気づいていたはずだ……三浦の気持ちに」

 

再び俺たちの間をまとまった風が吹き抜ける。

 

「……どうしてそれを君が知ってるんだ……?」

 

「……馬鹿野郎。……俺を誰だと思ってんだ。……ぼっちの洞察力をナメるな」

 

「・・・・・・ときどき君を羨ましく思うときがあるよ」

 

 ふっと落ち着いたのか若干ではあるが表情が和らいだ葉山。どこか皮肉がこめられている気もするが、この際はどうでもいい。

 

「それで・・・お前はどうこの件にケジメをつけるんだ?」

 

 ・・・なんだかやーさんみたいな言い回しになっているが気にしないでおこう。

 

「・・・優美子には・・・許して貰えないかもしれないけど、ちゃんと断るよ」

 

「・・・そうか。・・・・・・それがお前の出した答えなら、俺はそれ以上は何も言わない」

 

「・・・ほんとに君は卑怯だよ・・・・・・・・・」

 

 ぼそり、と葉山は何かを言った気がするのだが、その声はふっときまぐれに吹いた風に流されて俺には聞き取れなかった。・・・そして俺は葉山がいなくなり静まり返った屋上に、

 

「・・・これでいいんだろ・・・?」

 

 そう、どこかで過去の自分を納得させていた。……まさか、この場所にあいつがいたことなんてこのときは知る由もなかった。

 

 

 

 




……とりあえず第1章としての締め括りはここまでと考えてます。三浦さんが再び本格的に出てくる第2章……はまだ考案中ですが、アドバイスなどあれば是非とも。……それでは、また。

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