やはり三浦優美子の青春ラブコメは幕を開けたばかりだ。 作:Minormina
あと、2話終了後のあとがきで、今後の展開に関するご意見を募集するのでメールいただけたら幸いです。
朝のよくわからないやりとりが終わった後も、俺は三浦とそれ以上はなすことはなかった。…もし、何か面倒なものに巻き込まれていたとしても、そんなものは俺にはわからないし介入する問題ではない。それはあくまでも葉山たちの仕事だ。…ただ、一瞬垣間見たどこか救いを求めるような表情は頭のどこかに引っかかった。
「…まん…ちまん。八幡ってば!」
国語が終わった休憩時間。なんとなく机に突っ伏していたらやさしく背中を揺さぶられた。…なんだ?俺は夢でも見てるのか?
「…戸塚が迎えに来てくれたのか?」
少しずつブラックアウトした視界が明るくなっていくと、なんともいえない微妙な表情をした戸塚が目の前に立っていた。
「…何のことかはよくわからないけど…とりあえずおはよう、八幡」
「おう、おはよ戸塚。今年も同じクラスだな」
そう言うと戸塚がぱぁっと明るくなり「今年もよろしくね、八幡」なんて言う。…なぜ戸塚は男なのだろう、なんていまさら思う俺。…そんなこと考えても仕方ないだろうが。
「ところでさ八幡。次のオーラルコミュニケーションの授業にはALTがくるらしいよ?」
「ALT?……ああ、そういえばなんか外国人を招いた実践的な授業をするって話だったな」
高3になって分かれた理系クラスと文系クラス。県内有数の進学校である総武高校ではよりグローバルで即戦力の人材育成を目指してALTのシステムを積極的に導入している。
…まぁボッチの俺にはあまり関係のない話だが。ちなみにたまたま父親にALTのことを言ったらなぜか目を背けられた。…意味がわからん。
「そうなんだよ~。八幡、楽しみだね」
そういって楽しそうに笑う戸塚。ホント天使だよ戸塚。
「おう、そうだな」
新学期早々イベントに巻き込まれて若干ブルーになっていた俺の心が戸塚の笑顔で幾分か癒され、いつのまにか俺も少し顔が緩んでいた。
___________
"Thank you very much for welcoming me. I'm Jhon Smith from Florida, for last two years, I'd studied Japanese culture and literature at Tokyo University. Now, I have this English class,it will be grately appriciated to improvement of your English."(お招きいただきありがとうございます。私はジョン・スミス、フロリダ出身です。2年間日本文化と文学を東大で学びました。さて、私がこの授業を持つに当たって、あなた方の英語力の上達に寄与できれば幸いです)
……教卓の前にたったALTの先生がこんなことを行っているが流暢過ぎてはっきり言ってなに言ってるのかさっぱりわからなかった。ていうか東大に2年間留学ってどんだけ頭良いんだよ。しかもフロリダ出身って典型的なリア充じゃねぇか。…知らんけど。
(まぁだるいしこの授業はぼぅーとするか)
この授業のすごし方が決まり、ぼちぼち省エネモードへと入ろうとしたときに、例のALTの先生によってその作戦が早くも打ち崩された。…侮れんな、このリア充。なんて考えつつ、とりあえず指名したので立つと、なぜか隣には三浦も立っていた。三浦がどんな顔してるかはあずかり知らぬことだが、面倒なことになるのは間違いない。そう俺の直感が告げていた。
"Now,I have two script.You talk to each other."(いまここに2本の台本があります。これでふたりで会話してみてください)
そういって先生から受け取ると、なんか普通の文章らしくはない英文がずらっと並んでいる。…なんだこれ?しかも日本語が書かれていないため、なに書いてるのかさっぱりわからんのだ。それに先生の目が「早くしろ」って言ってるようにも見える。…この眼力、雪ノ下といい勝負になるんじゃないか?まぁ仕方ないか。
"Hi,Yumiko.You look nice today,and do you have some time? "
(やあ優美子、きょうもかわいいじゃん。…それでちょっと時間いいかな?)
あの…いきなり展開が読めないのですが先生?どういう状況か説明してくれません?
"Hey,HIKIO,...but I have no time to stay and talk to ya."
(ヒキオじゃない。悪いけどここでじっとあんたと話してるひまなんてないんだけど)
俺はどう転がってもヒキオなのかよ。いや、そもそも転がってないけど。…あとしょっぱなから罵倒されてる気がしてならないんですがどういうことですか?しかも相手のせりふがここには書かれていないために自分で聞き取るほかに意思疎通の手段はない。
"Guess what?"
(どうしてさ?)
"I'm going playing with them after school, so I dont wanna ruin my day with such shit."
(今日さ、ダチと一緒に遊びに行く予定なんだけど?……だからあんたと話してる間なんかないんだけど?)
三浦さん?…半ばリアルな感じでやってるような気がするのは俺だけなのだろうか。…まぁ三浦の場合、素がそのまま英語にも現れているだけなのだろうが。
"Indded but,I want you to answer a simple question."
(じゃあさ、簡単な質問に答えてくれないか?)
台本通りに読み進めていくが、結末がよくわからない。ていうかこの話、オチはあるのか?…落語じゃないけど。
"So what?"
(なによ?)
"Who on the earth catch your heart? "
(…じゃあ一体誰が好きなんだよ?)
その瞬間、周辺の雰囲気が一気に凍りついた。周辺、というよりも俺と三浦のあたりだけ。隣の席なのであいつの表情を読み取ることはできないが、なんだか様子がおかしい、というのはひしひしと伝わってくる。あまり考えたくはないが、朝のことってもしかしてこいつが関係してるんじゃないか。こいつと葉山グループの間に何か軋轢かなにかが生じたのではないか。…考えたくもないことが一瞬にして頭の中に流れ込んでくる。
「…だったらさ、ヒキオはなんとかしてくれるの?…」
「…え……?」
消え入りそうな声だった。千葉村のとき、雪ノ下と口論したときに流したという慟哭でもなく、テニスのときに俺たちに見せた正面から相手を見下す侮蔑でもなく、ただ純粋に相手に縋ろうとする三浦優美子の「本心」なんだろう。
いつの間にか、オーラルコミュニケーションの授業は終わっていた。その後、授業はつつがなく進んだのだろうか、教室は朝感じた新学期特有の喧騒に包まれていた。
第2話でした。英語で他人を罵倒する、と言うのは案外難しいものですね。…なに?英語と訳の日本語で字数稼ぎしてる?そんなこと言われても…仕方ないですよね笑。
さて、今回はコミカル回にしようと思ってたのに…がっつりアリアス回になっちゃいました泣。次は日常編。今回まで出でてこなかった、今作ではサブヒロインの方たちに登場してもらいましょう(予定)。
PS:八幡の父親が目を背けたのはALTというのは肝機能の数値の指標だからです。(念のため)