やはり三浦優美子の青春ラブコメは幕を開けたばかりだ。 作:Minormina
比企谷八幡はいつも通りの新学年を迎える
春眠暁を覚えず、と古人は言ったそうだが、まさにその通りであると思う。とてつもなく眠いなか、いつものインスタントコーヒーを入れる。ソファの近くで丸まっているカマクラは絶賛夢の中なのだろうが。こいつ…たたき起こしてやろうか?
そう思いつつキッチンからリビングへと戻ると、相変わらず目の前では小町が着替えている。…っていうかここで脱ぐなって。
「ねぇお兄ちゃん、今日からわたしは高校生なんだよ?どう?似合ってる?」
小町が新しく袖を通した制服でその場でくるっと回る。
「似合ってるぞ小町」
小町がぱあっと顔を綻ばせてうれしそうに微笑む。
「そう?今の小町的にポイント高い!」
「ていうかそろそろ父ちゃんと母ちゃんを起こしてやったらどうだ?入学式間に合わなくなるぞ?」
「あ、そうだね…それじゃわたしは起こしてくるね」
パタパタと目新しい制服に身を包んだ小町が両親を起こしにかけていく。
(それじゃおれもそろそろ出ますか)
そう思って、机の上に置かれた昼食代500円を持ってかばんを手にして家を出た。
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いつも通り、自転車を自転車置き場に止め、下駄箱へと向かう。普段はそこまで人が群がらない下駄箱が今日に関しては異常なほど生徒でごった返していた。それは、「クラス替え」という一大イベントのためである。クラス替えによって編成された新クラスで自然とその年のスクールカーストが決まる。それで生徒たちは一喜一憂するのだ。しかし、俺はクラス替えなどに左右されない。…なぜなら、俺のスクールカーストはいつだって最底辺だから。…以上、自己考察完了。
そんなことを考えながら、3年の教室へと向かう。教室の扉をがらっと開けて教室をざっと見渡してみる。どうやら俺の席はあそこのようだ。まだホームルームまでは30分ほどあるらしく、俺は新学期特有の喧騒とした空気から逃れるため、イヤホンをはめて机に突っ伏そうとしたとき---ふっと見知った顔が目に飛び込んできた。
「…三浦……?」
かつて2年F組の最上位カーストにして統べる者。三浦優美子がなぜここにいるんだ?
「…ヒキオ?…おはよ…」
少しうつむきながらも俺だとわかったらしい三浦。お前やっぱ半端ねぇですよ。なんといったらいいかわからないけど。
「おう…」
右手を力なく上げて挨拶する三浦と俺。ていうかなにこの挨拶。「ひゃはろー」みたいに流行るのかこれ?…由比ヶ浜じゃないけどな。ていうかこのあとどう言葉を返せばいいんだ?仲いいやつだと昨日見たテレビの話とかするのだろうけど、ひきこもりにとっては女子との会話というのは非常にレベル、いやハードルの高いものなのだ。
そうこうしているうちに時間は経ち、結局それっきり会話が続かなかった。しかし、ちょっと引っかかったのがあの三浦の様子。何かにうちしがれたというか、絶望というか、どう表現したら良いのかわからない表情をしていた…気がする。少なくとも俺が見たことある三浦じゃなかった。
(まぁそんなこと考えても仕方ないか…)
そうどこかで一人ごちて、平塚先生の国語をいつも通り受けるのだった。