とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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吸血殺し編 幻想兄妹

吸血殺し編 幻想兄妹

 

 

 

道中

 

 

 

(さっきの奴ら一体何者だ?)

 

 

昼過ぎ、昼食を終え店を出た上条当麻が先ほどの出来事を思い返していると、隣にいたインデックスが何かに気づき立ち止まった。

 

 

(あん?)

 

 

当麻がインデックスの視線の先を追いかけると、そこには段ボール箱に入った1匹の子猫が寂しそうに泣いていた。

 

 

「とうま、この――――」

 

 

「駄目」

 

 

当麻はインデックスが言う事を察したか、言いきる前に却下する。

 

 

「……とうま、私はまだ何も言ってないんだよ」

 

 

「飼うのは駄目だ」

 

 

インデックスは子猫を当麻から庇うように抱きしめる。

 

 

「何で何でどうしてどうしてスフィンクスを飼っちゃいけないの!?」

 

 

インデックスは当麻を非難し、目でじーっと訴える。

 

 

「ウチ学生寮だからペット禁止だし、金はあるけど詩歌の許しがなきゃ使えないし……っていうか、もう名前付けてんじゃねーよ! しかも何だそのスフィンクスって名前はッ!?」

 

 

「やだ、飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼うかーうーっ!!」

 

 

インデックスは子供のように駄々をこね、子猫を抱きしめる力をより一層強めた。

 

 

(はー、こんな時、記憶を失う前の俺と詩歌の奴ならどう対処したんだろうな?)

 

 

インデックスが向けている笑顔は全て記憶を失う前の自分に向けられているものだ。

 

当麻は以前の自分はこんな時に記憶を失う前に救った少女、インデックスにどう対処したらいいかわからない。

 

そんな対処法は詩歌の作ったリストには載ってないだろう。

 

インデックスとの関係は、当麻自身が考えなければならない問題である。

 

 

(とりあえず、ここは……)

 

 

当麻は頭を掻きながらインデックスに悟りかける。

 

 

「なあ、インデックス。兄としては情けないようだが、詩歌が俺達の財布のひもを握っている。あいつが、俺達のために色々とやり繰りをしているんだ。インデックスも、毎日あれだけの量の食事ができるのは詩歌のおかげだといってもいい」

 

 

記憶を失う以前の事だが、過去に当麻は銀行のカードを紛失した事があるため、それ以来詩歌が生活費の管理をしていた。

 

一応、生活費は兄妹合わせて結構な額があるが、詩歌は今後のためにと節制を心がけ、インデックスが毎日満足できるような食事ができるよう初春たちから情報を集め、少しでも安い店で買い物をしている。

 

まあ、裏帳簿に当麻との駆け落ち資金というのがあるが……

 

 

「だからな、毎日俺達のために頑張ってくれている詩歌にこれ以上の負担は掛けるのはやめておいた方がいいんじゃないか?」

 

 

当麻はインデックスの矛槍を詩歌へ向けようとする。

 

そうすれば、普段お世話になっているインデックスは素直に言う事を聞いてくれると思った……のだが、

 

 

「しいかだって、スフィンクスを飼うのに賛成してくれるに違いないんだよ」

 

 

インデックスも詩歌が上条家のヒエラルキーの頂点であることを認識しているが、それでも当麻に反論する。

 

 

「だって、この前、私が猫のきぐるみに着せられた時に『はぁー、猫を飼いたいですね』って言ってたんだよ」

 

 

インデックスは先日、ご褒美として、詩歌に猫のきぐるみを着せられた時のことを思い出す。

 

詩歌はきぐるみを着たインデックスを見た瞬間、当麻に目潰しを喰らわせ、一応、主であるはずなのに部屋から閉め出した。

 

そして、『鳴かぬなら鳴かせて見せようホトトギス』という感じで、最初は嫌がっていたインデックスを食べ物で釣り、ニャーと鳴かせて甘えさせ、頭を撫でさせることに成功し、ビデオのメモリーが一杯になるまで鑑賞した。

 

夜中になってようやく部屋に入れた当麻が見たのは、インデックスの満腹して眠そうな顔と詩歌のとても満足した幸せそうな笑顔だった。

 

 

「まあ、確かに詩歌は動物好きだ。でもなー、インデックス、それとこれとは話が別だろ? これ以上の負担はかけられないし、詩歌だって寮で猫を飼うのは反対すると思うぞ」

 

 

当麻が幼い子に言い聞かせるように懇懇と言い聞かせようとするが、インデックスはそれでも首を横に何度も振る。

 

 

「ああっ!?」

 

 

そのとき、インデックスの拘束から逃れようともがいていた子猫が腕の中から飛び出し、逃げてしまった。

 

 

「もう、とうまのせいだよ―――ん!?」

 

 

文句を言おうと頬を膨らませた時、インデックスは急に何かを感じ取ったみたいに立ち止まった。

 

 

「どうした?」

 

 

「……何だろう? とうま、近くで魔術が使われてる。属性は土。色彩は緑。……地を媒介にした魔法陣―――ルーン?」

 

 

インデックスはそう呟くと目を細め、何かを読み取ると、路地裏の方へ駆ける。

 

 

「ちょ、おいインデックス!」

 

 

「誰かが魔法陣を形成してるっぽい。調べてくるから当麻は先に帰ってて!」

 

 

当麻の制止を聞かず、インデックスは路地裏へ行ってしまった。

 

 

「先に言ってか……ああ、もうしゃあねえなぁ!」

 

 

当麻が溜息をつき、インデックスの後を追いかけようとした時、背後に人の気配がした。

 

 

「久しぶりだね、上条当麻」

 

 

振り向くと、そこにいたのは長身、赤髪で目元にバーコードがあり、修道服を着た男だった。

 

ただし、咥え煙草をしており、その目に当麻への敵意を隠そうとしてなかった。

 

その姿は、とても神父とは思えず、背信者という言葉がぴったりだ。

 

 

「ス、テイル?」

 

 

当麻はその奇抜な恰好をした男が詩歌から渡されたリストに一人いることを思い出す。

 

インデックスの所属する<必要悪の教会>の魔術師。

 

そして、インデックスを襲った男。

 

 

「ふん。久しぶりだというのに挨拶もなしか。それに、この惚けた顔を見ると、どうやら僕の事を忘れかけているらしい。随分と舐められたものだね。たった1度だけ勝った程度でいい気になったものだ」

 

 

ステイルは手で顔を覆い隠し、苦笑する。

 

 

「それとも、共闘したから日和ったわけではないよね?」

 

 

しかし、その目から放たれる殺気は強くなっている。

 

 

(こいつが魔術師……詩歌から聞いた話では外部の人間だが能力みたいな力を使うことができるらしい)

 

 

当麻がインデックスが向かった路地裏へ視線を走らせる。

 

 

「ああ、禁書目録なら気にするな。そこらに人払いのルーンを刻んだからね、魔力の流れを見つけて調べに行ったのだろう。それよりも自分の心配をするべきだと思うけど」

 

 

視線を戻した瞬間、目の前に手元のカードから炎を奔らせたステイルがいた。

 

 

「ッ!?」

 

 

「舐めるな、ぶっ殺すぞ」

 

 

骨すら残さない熱量をもった炎を何の躊躇いもなく当麻へぶつける。

 

地獄の炎ともいえる一撃は爆発を起こし、火の粉と共に二人の周囲を粉塵で覆い隠す。

 

 

「ちっ、忌々しい右手め」

 

 

粉塵が消え、ステイルの視界に入ったのは、炎に焼き殺された当麻の姿はなく、寸止めされた当麻の右手、<幻想殺し>だった。

 

例え記憶を失っても、今まで鍛え上げた力と身体に染みついた経験は失っていなかった。

 

無意識とも言える反射で<幻想殺し>がステイルの異能の炎を喰い殺したのである。

 

 

(ふぅ~、あぶねぇ。身体が反応しなければ焼け死ぬところだったぜ。……にしても、当然のように炎に右手を突っ込むとは、俺の常識は一体どうなっていやがる)

 

 

当麻は内心がパニックになっているのを隠し、ステイルを睨みつける。

 

 

「何のつもりだが知らねぇが、次やったら承知しねぇぞ」

 

 

「くっ」

 

 

当麻の気迫にステイルは鼻を抑えながら後ずさる。

 

 

「そ、そうだよ。その顔。上条当麻とステイル=マグネスの関係はこういうものだろう?そのことを二度と忘れるな」

 

 

「何の用だ。どうやらインデックスではなく、俺に用があるみたいだが……喧嘩するなら、人がいない場所に――――ん?」

 

 

当麻はそこでようやく、周囲に人がいないことに気づいた。

 

 

「だから、言っただろう。ルーンを刻み、<人払い>は済ませておいたと。これから、内緒話をするからね」

 

 

ステイルは懐から書類の入った封筒を取り出すと、フリスビーのように当麻へ投げ渡した。

 

 

「受け取るんだ」

 

 

ステイルが呟いた瞬間、封が切られ、中から書類が飛び出してきた。

 

飛び出してきた書類は当麻の目の前でふわふわと浮かんでいる。

 

どうやら、書類にはルーンが刻まれているらしい。

 

 

「『三沢塾』って進学予備校の名前は知ってるかな? 一応、この国ではシェア1位を誇る進学予備校らしいけど」

 

 

「『三沢塾』? 確か、今日から詩歌が夏期講習に参加するところだが、そこがどうかしたのか?」

 

 

当麻は昨夜、詩歌から今日、『三沢塾』に用事があることを知らされている。

 

 

「詩歌? ああ君の妹さんね。まあ、あんなか弱そうな女の子が戦力になるとは思えないし、いなくても構わないか」

 

 

ステイルの嘲りに、当麻は掴みかかりそうになるがその場に踏み止まる。

 

 

「詩歌をあまり舐めるな。あいつは、お前よりも強い」

 

 

当麻の言葉にステイルは機嫌を悪くするが、説明を続ける。

 

 

「まあ、僕は紳士であるから、必要がない限り君の妹に危害を加える気はないよ。でも、もしかしたら妹さんは危ないかもね。今、そこはある魔術師によって要塞化されてるか―――」

 

 

当麻はステイルの説明を聞き終わる前に飛び出した。

 

反射的に身体が動いていた。

 

詩歌がいる『三沢塾』へ。

 

兄として、妹を危険な場所から救い出すために。

 

しかし、

 

 

「待て。単独行動は許さないよ。君は<禁書目録>の<足枷>として僕に従わなければならない」

 

 

ステイルの制止に当麻は立ち止まった。

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

兄として、今すぐにでも詩歌を助けだしたい気持ちを抑え、ステイルに問いかける。

 

 

「<必要悪の教会>が君に下した役割は<首輪>の外れた<禁書目録>の裏切りを防ぐための<足枷>さ。だから、教会の意に従わないなら不要だ。君の妹もその役目だが、僕はあんな少女一人に<禁書目録>を任せることなんてできないから、強引にでも回収するつもりだ」

 

 

ステイルの返答は脅迫。

 

従わなければ、詩歌とインデックスに危害を加えるという脅迫だった。

 

 

「……テメェ、本気で言ってやがんのか、それ?」

 

 

当麻はインデックスと知り合った時の記憶はない。

 

しかし、インデックスの幸せを自分がどんなに苦しみ、罪を背負うことになろうと守るものだと感じていた。

 

それと、詩歌と過ごしてきた思い出もない。

 

しかし、たとえ頭が覚えていなくても、詩歌は自身の命よりも大切な妹だと感じていた。

 

だから、二人を守るためならどんな相手だろうと倒すと決めている。

 

 

「……ふん。それでは説明を続けるよ。今回の仕事は、その魔術師によって『三沢塾』に監禁されている女の子の救出だ」

 

 

ステイルは当麻から目を逸らし、説明を再開した。

 

その目からはどこか自身の役割を盗られて悔しいと感じ取れた。

 

 

「くそッ!!」

 

 

当麻は溢れる激情を拳に乗せ、道に植えられた木へぶつけた。

 

そうする事で、気を静め、ステイルの説明を一言一句聞き洩らさないよう努めた。

 

 

 

 

 

三沢塾

 

 

 

「能力…ううん…能力とは少し異質…学園都市の能力とは違い、外部の力を利用する……。そして、この建物全体を覆うこの力は、侵入者への内部の干渉を妨げる結界……干渉できない侵入者は出ることすらできない。まさに牢獄ですね……」

 

 

詩歌は目覚めると<幻想投影>で解析したことを整理していく。

 

 

「そしてどうやら、周囲の生徒が私に気づかない様子を見ると、侵入者側の世界に入り込んでしまったようですね。全く、『鏡の国のアリス』のような心境です」

 

 

詩歌の言うとおり、誰も倒れた詩歌を介抱するどころか、見向きもされていなかった。

 

 

「『三沢塾』は本当にカルト集団のようですね。でも、一体何のために侵入者を――――ッ!!?」

 

 

濃厚な嗅ぎ慣れることのない、空間を汚染する匂い。

 

詩歌が考え込もうとした時、視界に血塗れの鎧騎士の姿が入った。

 

その現実離れした光景に詩歌は呆けてしまうが、すぐに頭を切り替え、騎士の傍に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

騎士に意識があるか呼びかけるがすでに虫の息である騎士には呻く事でしか返答することができなかった。

 

 

「ここは結界の中、周囲の人に助けを求めることができない。それに、まだ慣れていないこの力に干渉する事ができないので、すぐに外へ運び出す事すらもできない。……どうやら、私がやるしかないようですね」

 

 

詩歌は騎士の鎧を外し、容態を診るとすぐに鞄から冥土返し謹製の応急処置道具一式を取り出し、治療に取り掛かる。

 

詩歌は自身の服が血塗れになるのも構わず、迅速に治療を進めていく。

 

かつて、当麻のために冥土帰しから教えてもらった経験が生きているようだ。

 

 

「これで、しばらくは大丈夫でしょう。早くここから脱出しな――――え?」

 

 

無事に応急処置を終えた詩歌はようやく周囲の状況に気がついた。

 

 

 

―――そう、血の海は広く、それはまだ浅瀬にしか過ぎなかった。

 

 

 

より濃い、鼻孔に突きつけられる匂いは粘つく朱色。

 

その向こう――何人もの騎士が無残な姿で散らばり、何も知らない学生達に虫けらのように轢かれていく。

 

彼らのほとんどが絶命しており、手足は壊れた人形のようにバラバラにされている。

 

もう人間ではなく、今は血を撒き散らすだけの壊れたスプリンクラーのように気付きもしない無知な子供達に蹴られて回っている。

 

騎士たちが虐殺されたあまりに悲惨な光景に、精神が耐えきれず、

 

 

「――――ッ!!?」

 

 

詩歌は嘔吐を我慢する事ができなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

当麻は急いでいた。

 

あれからステイルからの説明を聞いたあと、急いでインデックスを部屋で留守番させ、『三沢塾』へ全速力で駆けていた。

 

当麻は移動しながら、詩歌に連絡しようとしたが電話にでなかった。

 

そのことが当麻の不安をより駆り立てる。

 

嫌な予感がする。

 

そう、妹が泣いているような気がする。

 

根拠はない。

 

だが、妹の泣き声を聞こえた気がした。

 

 

(そういえば、あいつが姫神だったのか……)

 

 

ステイルから捕らわれた少女が先ほどハンバーガーショップで出会った姫神秋沙であるという事が告げられ、当麻は驚いた。

 

そして、沸々とした怒りを覚えた。

 

 

(あいつはあと100円さえあれば『三沢塾』から逃げ切ることができた。その100円を貸さなかった馬鹿はどこのどいつでもねぇ、俺自身だ)

 

 

当麻は先ほど姫神の事を見逃した自分に怒りを覚えていた。

 

 

(だが、誰よりも腹が立つのは姫神だ。あいつは俺を巻き込まないように、助けすら求めなかった。……ふざけんな! 勝手に俺の不幸を背負いやがってッ!)

 

 

あの時の姫神の姿が一人の少女と重なった気がした。

 

当麻は記憶を失っているため、それが誰かとはわからない。

 

しかし、自身の心がかつて他人のために傷つき、それでも笑っていた少女と出会ったことを覚えていた。

 

 

「くそったれが……ッ!!」

 

 

当麻は、記憶を失っている自分にもどかしさを覚えイライラが募り、姫神に対しても怒りを覚えた。

 

 

(なんだかわからねーが、今度会ったら一発ぶん殴ってやる)

 

 

今の当麻の頭の中は詩歌への心配と姫神への怒りで大部分を占められている。

 

そうこう考え事をしているうちにようやく目的地である三沢塾へと辿り着いた。

 

 

「ここが『三沢塾』か……」

 

 

当麻が『三沢塾』へ入ろうとした時、後ろから息を切らしたステイルが現れた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……先ほども言ったが単独行動は慎め! こちらはまだ充分にルーンを張り終えていなかったんだぞ!」

 

 

ニコチンで汚れた肺では、当麻を見失わないようにするのが精一杯だったらしい。

 

息を整えながら、ステイルは当麻に今回の任務を確認する。

 

 

「いいか、我々の主たる目的は、<吸血殺し(ディープブラッド)>の保護及び錬金術師アウレオルス=イザードの討伐だ」

 

 

「そういえば、なんで姫神を監禁しているんだ?」

 

 

「<吸血殺し>は吸血鬼を呼び寄せる。吸血鬼は未だ確認されていない存在だが、永遠の命を持つと考えられている。錬金術師は呪文の詠唱に時間がかかるからね、永遠の命はさぞ魅力的なんだろうさ」

 

 

ようやく落ち着いたステイルは周囲の建物と比べて、『三沢塾』に流れる魔力が見えなさすぎることに気づいた。

 

 

「どうやら、魔力が隠蔽されている。何が隠されているかは、この中に入らなければわからない。それに気配を隠蔽する術式を使っても、この中では魔術を使った形跡ですぐに居場所がばれてしまう。目的を果たす為には正々堂々と正面から行くしかないようだね」

 

 

「それなら、さっさと行こうぜ」

 

 

当麻は専門家であるステイルが見抜けないことに不安を覚えたが、連絡が着かない詩歌への不安が上回っていた。

 

 

「ふん。今回の目的は君の妹さんの救出ではない――――ちっ、聞いてないか……」

 

 

当麻はすでにステイルの話を聞いておらず、『三沢塾』へと入ってしまい、ステイルもすぐに後を追った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

三沢塾に入ってすぐに詩歌は見つかった。

 

目立った外傷はない。

 

そう肉体的には……

 

 

「し、いか……」

 

 

ただし、詩歌にいつもの微笑みはなく、池のような血溜まりの中で淡々と生き残りの騎士たちの治療をしていた。

 

詩歌は今まで数々の修羅場を潜り抜けてきたが、目の前で人が死んだという経験はない。

 

そのため、初めて死に触れた詩歌の精神は破綻しかけていた。

 

しかし、詩歌は冥土帰しという人間を知っている。

 

だから、そんな状態でも詩歌は蜘蛛の糸のように僅かでも救える可能性があるなら諦めず治療を続けた。

 

そんな詩歌の精神バランスは希望と絶望の間をぐらつき、危ういもの。

 

 

「詩歌……」

 

 

吐きそうになる。

 

昼食べたハンバーガーも、胃液も、できうる事ならこの記憶ごと、嘔吐してしまいたい。

 

それにそんなものはただの気休めにしかならない幻想だ。

 

圧倒的な血の量は、その香りだけでも濃厚過ぎて脳髄を泥酔させ、当麻も騎士たちの無残な死体を見た時は頭が揺さぶられたような感覚に陥ったが―――目の前の詩歌の今にも壊れそうな姿を見て気を引き締めた。

 

ここでいつまでも立ち止まっている訳にはいかない。

 

 

「詩歌ッ!」

 

 

当麻は詩歌の名前を呼びながら駆け寄った。

 

この深紅の地獄の中で、決して勝てない不幸()に抗う彼女を止める為に、これ以上1人にしないために。

 

 

「お…兄ちゃ…ん」

 

 

詩歌は冥土帰しから手解きを受けたことがあるが、それでも彼女自身の力量で救えると判断したのは片手にも満たなかった。

 

さらに、応急処置をしても一刻も早く病院で治療をしなければ助からない。

 

そして、当麻から見ても今詩歌が治療している騎士の命は絶望的だという事がわかる。

 

神だって殺せるのに、神だってなれるのに、人一人救う事もできない。

 

 

「もういい。詩歌は十分に頑張ったよ。だから、もう休め」

 

 

当麻は血がついた詩歌の顔を拭いながら、血で汚れるのも構わず壊れないように優しく抱きしめる。

 

 

「お兄ちゃん……ありがとう……」

 

 

ようやく詩歌は治療する手を止め、当麻の胸の中で泣いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

あれから、もう助からないと判断した者はステイルにより火葬され、詩歌の治療により一命をとりとめた者は学生達に轢かれない場所へ移動させた。

 

詩歌も当麻のおかげで落ち着くと、二人に今回の事情を聞いた。

 

 

「そうですか……『三沢塾』はアウレオルス=イザードに乗っ取られ、<吸血殺し>という力をもった子が監禁されている。当麻さん達は彼女を助けに来たということですか」

 

 

「ああ、そうだ。だが、君のような弱者は必要ない。ここから先は今以上の惨劇が待ち構えている。この程度で破綻してしまうなら、足手まといだ。騎士たちと共にそこで待ってろ」

 

 

ステイルは先ほどの詩歌の様子を見て、戦力外と判断した。

 

当麻も詩歌にこれ以上関わってほしくないと思っている。

 

 

「ステイルの言うとおりだ。詩歌はそこで待っててくれ。すぐにここから出させてやるから、な」

 

 

だが、当麻の一言で詩歌の心に火がついた。

 

 

(私は当麻さんのために強くなると決めたんです。いつまでも当麻さんに頼っている訳にはいかない)

 

 

ここから先は地獄のような戦場。

 

一歩間違えば、1階の騎士たちのように無残な死を遂げてしまう。

 

 

(それがどうした。誰かを守ろうとする当麻さんを守れるくらいに強くなろうと……上条詩歌は決意したのではないのか! あの時みたいにただ見ているだけなんてできない)

 

 

純白の羽が舞う中、倒れ行く当麻を見ていることしかできなかった弱かった自分を粉砕し、誰よりも強い自分へと作り直す。

 

ここから先は未知なる魔術の世界。

 

 

(魔術は<幻想殺し>で打ち消せる。……私の<幻想投影>も解析する事ができた。魔術だからなんて関係ない。異能の力なら神であっても自分のものにしてみせる)

 

 

<自分だけの現実>を塗り替える。

 

自身をとり囲む枠を押し広げる。

 

 

「当麻さん。この前も言いましたが、私はあなたを支えるために力をつけてきたんですよ。だから、当麻さん……私を信じてください」

 

 

詩歌は当麻をじっと見つめ、訴える。

 

『もう置いてかないで下さい』と訴える。

 

 

「……わかった。…でも危なくなったら逃げろ。それだけは約束してくれ」

 

 

当麻は詩歌を戦場へとは行かせたくない。

 

しかし、今の詩歌を1人にしておきたくはなかった。

 

それに彼女の気持ちを断ることができなかった。

 

 

「はい、わかりました、当麻さん。ありがとうございます」

 

 

初めて当麻に力を貸せることに詩歌は歓喜に震えた。

 

自身が鍛え上げた力を当麻のために使えることに喜びを感じた。

 

 

「魔術に関して素人の君が役に立つだと……笑わせるね。あまりこの世界を舐めない方がいいよ」

 

 

ステイルの水を差すような忠告に先ほどまでの状態から持ち直した詩歌はいつもの微笑みを浮かべ、ステイルを挑発するかのように睨みつける。

 

 

「ふふふ、それでは魔術に関して専門家のステイルさんは対侵入者用の結界が張られている『三沢塾』の中でこれからどうするおつもりですか?」

 

 

ステイルは周囲をくまなく観察し、考察する。

 

 

「ふん。この結界はコインの裏表のようなものでね。そこらにいる学生などの『コインの表』の住人には『コインの裏』にいる魔術師の姿に気づくことができず、一切の干渉を受けない。だから、僕達には人をどかすことも、そこにあるエレベータのボタンすら押すこともできない。つまり、内側からではどうする事も出来ない。まいった、まいった」

 

 

ステイルはこの結界の攻略法を思いつくことができず、おどけたように降参してしまう。

 

 

「あらあら、専門家のステイルさんはどうやら戦力外のようですね。私と当麻さんがいれば、この程度の結界なんて簡単に攻略できますよ」

 

 

詩歌の挑発にステイルの表情から余裕の笑みが消え、頭に血管が浮かび上がる。

 

 

「ほお、そこまで言うなら、見せてもらおうか。言っとくが、そこにいる馬鹿の右手で破壊したとしても、核を破壊しない限りすぐに修復する」

 

 

「そんなことすでにわかりきっていますよ、専門家のステイルさん」

 

 

詩歌は余裕を見せつけるかのように微笑みながら懐からメガネケースを取り出した。

 

 

「おっと、その前にインデックスさんに連絡しとかないといけませんね」

 

 

 

 

 

とある学生寮 当麻の部屋

 

 

 

「むぅ~、とうま、私の話も聞かずに、慌ててどこかに行っちゃって! こうなったら、とうまにはもう頼らない! しいかと二人でスフィンクスを育てるんだよ」

 

 

強引に部屋へ連れてこられたインデックスは当麻からスフィンクスを飼ってもいいと確約ができなかったので、ベットの上で不貞腐れていた。

 

 

「しいかならきっと飼ってもいい――――ん!?」

 

 

インデックスはいきなりの振動に驚き、振動の源である携帯を懐からベットへ放り出す。

 

 

「なかなか止まらない。……あ、これって確かしいかが渡してくれた『けーたいでんわ』という道具だよね? 震えたら、このボタンを押すんだっけ」

 

 

機械音痴、それに1年前に記憶を失ったインデックスにとって、携帯は未知の道具だ。

 

なので、しばらく震えが収まるまで警戒していたが、詩歌に渡された時のことを思い出し、意を決して通話ボタンを押した。

 

 

「ひゃっ、ひゃい! こちあのこちらIndex―Librior―じゃないっ、違うです、こちらカミジョーです、あのはい! もひもひっ!」

 

 

『ふふふ、詩歌です。インデックスさんは電話に出るのが初めてだったんですね。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ』

 

 

インデックスは携帯から詩歌の声が聞こえてきたことに驚く。

 

 

『前にも言いましたが、これは携帯電話という相手との遠距離での会話を目的とした道具でしてね。まあ今は、この道具が上条詩歌の耳と口と繋がっていると考えてください』

 

 

「うん、わかったんだよ。ということは、私は今、しいかとお話してるんだね」

 

 

とりあえず、詩歌の説明で携帯についておおよそのことは理解できたみたいだ。

 

 

『はい、その通りです。流石、インデックスさん呑み込みが早いですね』

 

 

「それでしいか、わざわざ電話なんて使ってどうしたの? 何かよっぽど困っている事でもあったの?」

 

 

『はい、とても困っています』

 

 

瞬間、インデックスは自身を追ってきた魔術師に詩歌が襲われている様子をイメージする。

 

 

「え、もしかして魔術師に襲われてるの!?」

 

 

詩歌の返答を待つインデックスの手に汗が流れる。

 

 

『いいえ、違います。今当麻さんと買い物に行ってましてね。今日の夕飯は何がいいかとインデックスさんに相談したくて電話したんですよ』

 

 

しかし、詩歌の返答は他愛のないものでインデックスの緊張の糸は一瞬で緩んでしまう。

 

 

(う~ん。今日の朝と昼はパンだったから…―――あっ)

 

 

そのとき、テレビにカレーのCMが流れる。

 

具だくさんの美味しそうなカレーの映像を見て、インデックスの腹の虫が鳴く。

 

 

「カレー……カレーなんだよ! 夏野菜がたっぷり入ったカレーがいいんだよ! しいか、私の胃袋はカレーを求めてるんだよ!」

 

 

『ふふふ、インデックスさんのご要望通り今日の夕飯は具だくさんの夏野菜カレーです。それでは、インデックスさんは外も暑いですし留守番しといてくださいね』

 

 

インデックスはもう頭の中で5人分程の山盛りの具だくさんのカレーを想像し、口の中は涎で一杯である。

 

 

「わかったんだよ。留守番はばっちり私に任せておくんだよ」

 

 

『はい、まかせました。あ、そういえば今日のおやつはフルーツ盛りだくさんのバケツゼリーです。冷蔵庫にありますので是非食べてくださいね。当麻さんはいらないそうなので全部食べても構いませんよ』

 

 

インデックスはおやつまで用意していた詩歌に感激する。

 

 

「流石、しいか、とうまとは大違いなんだよ」

 

 

当麻が電話の向こうで文句を言ったが、インデックスの頭の中は食べ物の事で一杯で聞こえなかった。

 

そして、電話を切るとインデックスは冷蔵庫にあるバケツほどの大きさのゼリーに一人で突貫し、30分もしないうちに全て平らげてしまった。

 

 

 

 

 

三沢塾

 

 

 

ステイルは目の前の光景が理解できなかった。

 

 

「当麻さん、次はそこの掲示板の左から2番目のポスターをお願いします」

 

 

「おう、ここか?」

 

 

詩歌が指摘した場所に、当麻が右手で触れる。

 

たったそれだけで建物を覆う魔力の流れに揺らぎが出てくる。

 

 

(さっきから結界の核を正確に破壊している。……核の場所をあそこまで正確に特定するなんて、<禁書目録>クラスでもない限りできるはずがない。それを魔術について何も知らない素人ができるとは……)

 

 

詩歌と当麻が行っているのは、『三沢塾』に張られている結界の破壊。

 

詩歌が<幻想投影>により術式を解析し、<異能察知>により核の場所を特定する。

 

そして、当麻が<幻想殺し>により、核を破壊する。

 

パソコンにウィルスが侵入したように、『三沢塾』という強大な魔道具を内側から破壊していく。

 

ステイルも魔力を見ることができるが、詩歌のように容易に隠されている核を探しだすことはできない。

 

 

「次は前に3m進み、そこから右側の壁、専門家のステイルさんの頭の位置くらいの高さをお願いします」

 

 

「ちっ、僕を目安代わりに使うな!」

 

 

「あらあら、ごめんなさい。丁度、その高さでしたのでつい」

 

 

「くっ……次回からは気をつけろ」

 

 

厄介だ。

 

ステイルには詩歌の微笑みが、自身が惚れたインデックスの微笑みと重なって見える。

 

そのため、あまり目を合わすことができず、からかわれても、あまり強く怒ることができず、調子が崩されてしまう。

 

 

(この前会った時から感じていたが、コイツはあの子によく似ている。……だから、僕はコイツが苦手だ)

 

 

ステイルは初めて詩歌を見た時から、詩歌とインデックスが似通っていることに気づいていた。

 

そして、ステイルは先ほど詩歌がルーンを使い、炎剣を造り出したことを思い出す。

 

 

(……にしても、<幻想投影>、か……異能であるならば、魔術すらも使うことができる。……しかも、僕のルーンですらあっさり使いこなせるとは……あの馬鹿と同じ化物か? この幻想兄妹、例外中の例外にもほどがあるぞ)

 

 

当麻の<幻想殺し>が異能に対して最強の盾と矛であるならば、詩歌の<幻想投影>は異能の万能の使い手ともいえる力である。

 

今の詩歌は、『三沢塾』という魔道具のもう1人の持ち主といってもいい。

 

 

(魔術も本質的には能力と似通っています。AIM拡散力場が“波紋”だとするならば、魔術は“渦”みたいなもの。だからその“渦”さえ破壊すれば、魔力という力が術式へ流れなくなり、やがて発動できるだけの力が無くなるはず)

 

 

詩歌の予想通り、多重にかけられた術式がバランスを崩し、場の崩壊が起こるのは時間の問題と思われた。

 

そのとき、詩歌の<異能察知>が背後に大量の魔術が流れ込まれるのを感じた。

 

 

「皆さん、後ろ!」

 

 

3人が後ろを振り向くと、廊下にいる学生達全員がこちらに視線を集中させていた。

 

『コインの表』側の人間が『コインの裏』側の人間を見ることはできないはずなのに、間違いなく3人を見つめていた。

 

 

「ま、ずいかな……第一チェックポイント通過って感じ?」

 

 

学生達の瞳に生気はなく、レンズのような無機質な輝きを放っていた。

 

そして、一斉に口を開ける。

 

 

「当麻さん! 先頭の子の右隣にいる眼鏡をかけた女の子に触れてください!」

 

 

何か行動を起こす前に、詩歌が迎撃術式の核となる人物を見抜いた。

 

 

「おう!」

 

 

当麻は詩歌の指示を聞くと何の躊躇もなく、学生達に突っ込む。

 

そして、核となる人物が呪文を紡ぐ前に<幻想殺し>で触れて、彼女を操る術式とのリンクを断ち切った。

 

 

「――――ッ」

 

 

核となる学生が糸の切れた人形のように倒れ、当麻に抱きとめられる。

 

それにつられるように同時に他の生徒達も同じように一斉に倒れた。

 

 

「当麻さん、ご苦労様です」

 

 

詩歌は指示を出した後も一歩も動かず、逃げるそぶりすら見せなかった。

 

なぜなら、当麻が必ず術式が完成する前に破壊してくれると信じていたから。

 

 

「詩歌もよくやった」

 

 

当麻も詩歌の指示に少しも迷わず従った。

 

なぜなら、詩歌の指示に従えば、必ず術式が破壊できると信じていたから。

 

当麻と詩歌との間にはどんなものでも壊すことができない強固な絆があった。

 

 

「ふん」

 

 

ステイルはどこかインデックスと似ている詩歌の全幅の信頼を寄せる当麻を羨ましそうに見つめる。

 

 

「ふふふ、ありが――――」

 

 

突然、当麻の所へ駆け寄る詩歌が固まった。

 

そして、今までの優しい聖母のような微笑みから、冷酷な処刑人のような微笑みへと変化していく。

 

服が血塗れなので、本当に処刑人のように見える。

 

 

「し、詩歌」

 

 

詩歌の急変した雰囲気に当麻の不幸センサーはシグナルレッドを示し、今すぐここから退避せよと命じている。

 

だが、メデューサのような詩歌の微笑みに足が凍てつき逃げられない。

 

 

「あらあら、当麻さんはこんな時でもセクハラを怠らないんですね。本当にすごい余裕です。尊敬しますよ」

 

 

詩歌はただ一点、当麻の右手を見つめていた。

 

抱き止めている少女の胸を鷲掴みしている右手を。

 

 

「あ、ああ! し、詩歌、これはわざとじゃないんだ。わざとじゃないです。わざとではありません。ただ抱きとめたら、右手がこの位置に」

 

 

詩歌の視線でようやく当麻は少女の胸を掴んでいることに気づき、慌てて手を離し、必死に弁明をする。

 

 

「ふふふ、そうですか。当麻さんの右手は無意識に女性にセクハラするんですか。そういうことなら、右手を切り離さなければなりませんねぇ、ふふふ、フフフフフ」

 

 

詩歌はこの刀夜から遺伝したかと思われる体質は拷問のようなお仕置きをしなければ治らないのかと考え込んだが、ここであのプランを思い出した。

 

 

「まあ……今回は見逃しますが…今度その右手がセクハラするようなことがあれば、左手で箸を持つことになりますからね、当麻さん」

 

 

急に物々しい雰囲気を潜めると、菩薩のような微笑みを作る。

 

後ろには後光がさしているように見える。

 

 

「は、はい、二度とこのようなことが起きないよう気をつけます、詩歌様」

 

 

当麻は、詩歌の前で深く土下座をする。

 

本当にこの兄は妹に対してプライドの一欠片もない。

 

その様子を見ていた先ほど妬んでいたステイルは当麻に憐みの視線を送っている。

 

 

(ふふふ、これでプラン『仏のように寛大な心』完了ですね)

 

 

詩歌は二人には見えない角度で黒い笑みを浮かべ『計画通り』と密かに呟いた。

 

<新当麻教育計画>は着々と進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

「……一体これはどんな状況なの?」

 

 

こっそり隠し部屋から様子を見ていた少女は、お百姓のように土下座をしている当麻、黒い笑みを浮かべる詩歌、妬みつつも当麻に憐みの視線を送るステイル、この3人の混沌に目を奪われ、この後しばらく家政婦のように隠れて様子を窺い続けた。

 

 

 

つづく


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