とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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ここ最近、主人公の出番が少ないので、先の話ですが投稿します


閑話 メイド☆マギカ 前編

閑話 メイド☆マギカ 前編

 

 

 

???

 

 

 

ロンドンには、ある一部の愛好家から大変人気なメイド服を製作しているデザイナーが活躍している。

 

基本的に露出が高く装飾過多で、メイド服からかけ離れたコスプレのような趣味全開のデザイン。

 

しかし、その聖衣に選ばれし者が身に纏った時は、その人の魅力を何倍にも高め、見ただけで相手を昇天させるほど破壊力が抜群になる。

 

そんな彼がおよそ1ヶ月もの時間を費やし、心血を注ぎ、ある1つのメイド服を完成させた。

 

これは、宣伝のため学園都市に行った際、ある1人の覆面少女と出会った時の稲妻のようなインスピレーションを元にしたもので、彼が今まで作り上げた物の中でも最高傑作。

 

清楚な白を基調としたふわふわのフレンチメイド服だが、不自然なくらいに露出が多い。

 

セットになっているヘッドドレスがなければ、メイドではなく、黒いフリルがついた水着かレースクイーンに見えてしまうほど。

 

デザイナーのアレンジも入っているのか、その胸元のリボンの結び目を少しでも引っ張れば解けてしまう仕様で、その危うさが何とも言えない色気を醸し出している。

 

そして、そのミニスカートとニーソックスが生み出すであろう絶対領域は、計算し尽くされたように見えそうで見えない、チラリズムがそこにある。

 

しかも、彼の『もう1度あれが見たい』という執念が届いたのか、そのサイズは偶然にも覆面少女のモノとぴったり一致。

 

そして、もちろん覆面も再現してある。

 

だが、その最高傑作――超絶起動ピュアメイドが、このイギリスに大混乱を巻き起こす事になろうとは、彼はまだ知らなかった。

 

そう……

 

 

「マジカルCQC、パート22」

 

 

まさか……

 

 

「一刀両断! マジカルギガストラッシュ!」

 

 

まさか………

 

 

「くっ!」

 

 

女教皇(プリエステス)様っ!?」

 

 

まさか、メイド大戦争(ウォー)が始まるなんて……

 

 

 

 

 

イギリス清教の女子寮

 

 

 

ここはロンドンのランベス。

 

その一角にあるイギリス清教に所属する者達のための女子寮があった。

 

見た目で言うなら通りに面した石造りのあるアパートメントとそれほど差異はなく、骨董物のように古い建築物だ。

 

だが、綺麗に掃除され、丁寧に扱われているため見ただけでは一世紀単位の歴史があるとは誰も思うまい。

 

これは、ここに住む住民たちの努力の賜で、おかげで“何度か襲撃されたこともあったが”、それでも全壊された事は一度もない。

 

と。

 

そんな建物に、最近、ある少女がやってきた。

 

彼女は日本の学園都市から同盟の使者として送られてきた『学園都市統括学生代表』―――以後『学生代表』。

 

学園都市の運営のトップである統合理事会の1人、親方最中からの推薦で『学生代表』として立候補され、同じ理事会である貝積継敏らの後押しもあり、その地位に立っている。

 

おそらく、能力の高さ、その人柄や功績、それから、そのルックスが評価されたのだろう。

 

マスコットみたいなもので、権限なんてほとんどあってないようなものだが、それでも『学生代表』として、このような場所にいるべきではなく、英国側も王家御用達のロイヤルスイートホテルを用意した――――が、彼女はそれを辞退した。

 

理由を挙げれば色々とあったが、単純にその女子寮に知り合いが多いからである。

 

本来、学園都市にいる学生とこの女子寮に住まう人物が出会うことなんて、普通はありえない事なのだが、彼女は色々とあって、出会い、親交も深めていた。

 

その点も『学生代表』として選ばれた理由でもあり、結局、その寮の責任者がそれを許可したのである。

 

そして、その『学生代表』の名は――――上条詩歌。

 

とある愚兄の妹である。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

それでは今日の日記をつけたいと思います。

 

親方最中さんの後ろ盾で、まあ、色々とあった後『学生代表』になった私は、学園都市側の使者として、このイギリスへとやってきました。

 

幸い、もう常盤台の卒業課程を修了してますし、これも特別留学扱いとなっています。

 

今の世界の情勢を見れば、仕方ないです。

 

向こうにいる当麻さん達の事が“色んな意味”で心配ですが、ここではどうする事もできません。

 

ええ、本当に心配………くっ、ここは断腸の思いです。

 

当分はここでの生活を楽しむ事にしましょう。

 

さてさて、イギリス清教女子寮の皆さんは、とにかく個性的な方が多いですね。

 

火織さんは、真面目でお堅いイメージがあったのですけど、ここに来ていきなり、洗濯機の様子を見てくれ、と泣きながら懇願され、そして、直したら感動して洗濯機に抱きつく………

 

まあ、色々とあったんでしょう。

 

物を大事にする事は良い事ですし、うん、温かい目で見守ってあげました。

 

次は、オルソラさん。

 

相変わらず、彼女のボケは見習う点が多いです。

 

当麻さんの相方(ボケ)の私でさえも思わずツッコミを入れてしまうのですから。

 

それに、家事や料理スキルも高いですし、気が合います。

 

そして、あのシェリーさんとも仲が良いようです。

 

シェリーさんには、命を狙われたこともありましたが、オルソラさんの介添えもあって、挨拶をすれば返してくれる程度の間柄になる事が出来ました。

 

彼女はちょっと不器用なだけで、本当は面倒見の良い方ですし、私やオルソラさんの会話(ボケ)にも律義に反応してくれます|(その後、物凄く疲れたような重い溜息を吐きますが)

 

そして、お次は、アニェーゼさん、ルチアさん、アンジェレネさんら元ローマ正教のシスター部隊の皆様方。

 

法の書での事もあったせいか、最初は大変怖がれ、顔を見ただけで泣き叫ぶ者もいました|(結構、傷つきました)。

 

しかし、そこはアニェーゼさん達が、間に入ってくれたおかげで、今では笑顔で会話する事もできるようになりました。

 

そのお礼として、アニェーゼちゃんには、手作り(ハンドメイド)子羊ちゃんの着ぐるみを|(強制的に)プレゼント♪

 

おかげで良い目の保養が出来て、大満足。

 

アンジェレネちゃんにも作って上げようと思ったんですけど、美味しい食べ物がいい、って|(涙目で)お願いされちゃいましたしね、諦めました………今は、ですが。

 

でも、その後すぐにルチアさんから、敬虔なシスターはうんちゃらかんちゃら、と説教されました。

 

なので、彼女達2人には精進料理を御馳走してみました。

 

魚や肉を使わない精進料理は、ルチアさんに好評で、こっそり苦手なお野菜も混ぜたのですがアンジェレネさんは喜んで食べてくれて、おかわりまでしてくれました。

 

これは作り手としてとても嬉しい事です。

 

が、それを見ていたシスター部隊の皆さんや火織さん、オルソラさん、シェリーさんにも作って上げる事になって、大変な目に……

 

しかし、その事があって、このイギリス清教女子寮の方達と割と友好的な関係を築く事が出来ました。

 

本当に良かったです。

 

それから、女子寮にお住まいではありませんが、天草式の方達とも親しくさせてもらってます。

 

五和さんなんて、わざわざ街を案内してくれました。

 

本当にいい人ですね。

 

しかし、『お、おおおおね、おねえ――――おしぼりを、どうぞっ!!』、といきなりおしぼりを渡してくるのはなんでしょうか?

 

しかも、その後、何だかどんよりと落ち込んでしまいますし……

 

まあ、親切である事には変わりませんから、気にしないで置いてあげましょう。

 

っと、そういえば、先程、天草式の皆さんから何か箱を渡されました。

 

『是非、着て下さい!』、と言ってましたし、服ですかね?

 

女教皇(プリエステス)様とお揃いです!』とも言ってましたから、火織さんが良く着る浴衣かな?

 

ま、後で見てみましょう。

 

とりあえず、今は今日の英国女王と3人の王姫達との会談について―――――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふぅ、今日も疲れました」

 

 

イギリスの西洋人のではない、東洋人の顔つきで、その腰まで届く長い黒髪をポニーテイルにしている。

 

服装も下は片脚だけ露出するように切断したジーンズ、上はへそが見えるように絞ったTシャツと片腕だけを露出させたジャケット――――から、今は部屋着である質素な浴衣に身を包んでいる。

 

彼女の愛刀である<七天七刀>は部屋の壁に立てかけてある。

 

そして、彼女は疲れたように、少し笑いながら、ふっと息を吐いた。

 

神裂は、イギリス清教の<最大主教>から学園都市から送られてきた客人『学生代表』――詩歌の世話をするように命令されている。

 

初めて英国へやってきた神裂とは違い、常盤台中学でのエリート教育を受けてきた詩歌にとって英語はもちろん、マナーでさえも完璧。

 

さらにはVIP御用達のメイド養成所である繚乱家政婦女学院から『エリートメイド』の称号を贈られてさえもいる。

 

今日も、そつなく『王室派』である英国女王、3人の王姫、との会談をこなし、何事もなく終える事が出来た。

 

英国女王――エリザードには絶賛され、何があったかは知らないが|(後で聞いてみた所、会談前に街で会ったらしい)あの人嫌いで有名な第1王女――リメエアにさえも気に入られ、第3王女――ヴィリアンからは羨望の眼差しを向けられたりもした。

 

ただ、互いの思想に違いから第2王女――キャーリサとは若干対立したものの、そこが逆に気に入られたのか彼女専属のメイドにならないかとも勧誘されたりもした。

 

しかし、詩歌も愚兄と同様の事件体質(トラブルメーカー)で、特に初日、彼女の事を何も知らず、そのか弱そうな見た目に騙された『騎士派』の連中から舐められた時は大変だった。

 

実力を示すために、彼らと試合をする事になり、能力をほとんど使わずに倒してしまい、そして、それがさらに『騎士派』の尊厳を煽り………結局、その場にいた<騎士団長>を除く騎士達を全員、組手のみで倒してしまったのだ

 

そうして、以後舐められる事はなくなったが神裂はその後始末に追われる羽目になった。

 

まあ、<騎士団長>がこちらに責があった、と部下の大人げない非礼を謝罪してくれたので、それほど大きな問題にはならなかった|(その後、会うたびに勧誘される事になったが)。

 

それ以外にも、神裂の目を盗んで、ふらふら~っと街へいなくなったり、勝手にこちらの女子寮に住みついたりと……ちゃんと仕事もしているようだが、この自由気ままな奔放さはどこぞの上司を彷彿させる。

 

その実力から言って、1人でも大丈夫なのだろうけど、少しは自分の立場を考えて欲しい、と神裂は思う。

 

でも、

 

 

(……やはり、寂しいのでしょう)

 

 

あの少女は、確かに天才ではあるが、平穏な日常を望む女の子だ。

 

如何に本人が同意したとはいえ、周囲の人間の手により、学園都市を離れて、ここへ来た。

 

それなりに覚悟を持ってここへ来たのだろうけど、やはり1人で異郷の地は心細いものだ。

 

だからこそ、彼女はこの知り合いの多い女子寮を選んだのだろう。

 

 

(詩歌はきっと向こうでの生活が恋しい筈です)

 

 

神裂は今日までの出来事を思い返しながら……

 

 

『シェリーさん、シェリーさん。お部屋の掃除を手伝いに来ました』

 

 

『……そんなの頼んでないわよ。っつか、テメェ、私が何をしたか忘れた訳?』

 

 

『はい? 何でしたっけ、オルソラさん』

 

 

『さあ? それよりももうお昼ですし、軽いお食事などはいかがでございましょう?』

 

 

『おい』

 

 

『ふふふ、そう言うだろうと思って、ちゃんとお昼の準備をしてきました』

 

 

『おい!』

 

 

『まあ、それでは私はお茶を用意してきましょう』

 

 

『では、私は――――』

 

 

『おい、話を聞けよっ! つーか、片付けに来たんじゃねーのかよ、お前らっ! 何勝手に私の部屋で飯を食おうとしてんだっ!』

 

 

(……きっと)

 

 

詩歌の心境を慮り……

 

 

『フ、フフ、アニェーゼちゃん。メェ~、って。一度でいいからメェ~、って鳴いてもらいません?』

 

 

『いきなり着替えさせて何言ってんですか!?』

 

 

『ああもう! 鳴かぬなら鳴かせて見せようが譲れぬ私の信条っ! 我慢できませんっ!』

 

 

『な、何しやがるんですか!? 話を聞いて―――きゃ!? あ!? め、メェ~~~ッ!!』

 

 

(いえ、たぶん………そうだと思います)

 

 

あれ? 何だか十分に満喫してないか? と思う所もあるが、『アレはきっと寂しさを誤魔化す為の行動でしょう』、と神裂は|(若干都合の良い綺麗な解釈で)納得する。

 

 

(と、とにかく、彼女には多大な恩がありますし、それに、洗濯機(とも)の命の恩人でもあります)

 

 

神裂は気合を入れ直す。

 

どんなに力があろうと、1人では駄目なんだ、という事を学んだ神裂は、このイギリスにいる間だけでも、愚兄の代わりとして、そう姉として、支えて―――

 

 

(―――そういえば、土御門が妙な事を言ってましたね)

 

 

詩歌がイギリスに到着する前、学園都市から同僚でもありスパイの土御門元春が何か言っていた事を思い出す。

 

 

『将を射んとすれば、まずは馬を狙うんだにゃー。ここで詩歌ちゃんと仲良くすれば、おのずとカミやんの評価も上がるんだぜい』

 

 

 

 

 

ロンドン 日本人街 天草式拠点

 

 

 

「はぁ~~~~~~~~~~」

 

 

天草式の少女、五和は場の雰囲気さえも重くさせるほど色々と想いの籠った重い溜息を吐く。

 

何だかどんより、と落ち込んでいる。

 

そんな彼女の目の前にはノートパソコンが置いてあり、そこには、

 

 

 

『家族と折り合いの良い女性こそ本命! 気になる彼氏彼女を落としたいなら、まずは家族から!!』

 

 

 

五和は、彼と少しでも心の距離を埋めようと頑張っているのだが、日本とイギリスというどうしようもない本当の遠距離に頭を悩ませていた。

 

が、そんなある日に、彼ではないが、彼の妹がイギリスにやってきた。

 

彼と彼女は大変仲の良い兄妹。

 

これはチャンスだ。

 

ここで彼女と仲良くなって、『お姉ちゃん』って呼んでもらえれば……

 

 

(だっ、駄目です! そんな恐れ多い事私にはできませんっ!)

 

 

両手で頭を抱えながら机に突っ伏す五和。

 

自分のちょっと年上のお姉さんっぽさをアピール……したいのだが、身長や歳を除き、何に置いても彼女の方が上なのだ。

 

料理も、掃除も、洗濯も上。

 

戦闘にしても、<聖人>と渡り合うほどの強さで、五和も一度負けている。

 

そして、その性格と容姿も相俟って、天草式の仲間達、特に男衆からは『詩歌ちゃんは俺の嫁』と女教皇並に大人気状態である。

 

そんな彼女を妹に持った彼はきっと目が肥えている。

 

自分よりも小さいのにしっかり出ている彼女の母性的な塊と比べれば、自分のなんて、所詮はただの『隠れ巨乳』なんて、小さいと思われるに違いない。

 

 

(流石、天才? です……)

 

 

一体どこに天才と呼べるところがあったのかは理解できないが、恋する乙女は色々な部分が盲目なのだ。

 

五和は改めて、この壁の高さを再確認し、もう一度深い深い溜息をつく。

 

そして、『年下の女の子にお姉ちゃんと呼ばれる100の方法』を検索する五和。

 

ただでさえ、自分は心技体の揃った女教皇のおっぱい戦略――堕天使エロメイドで、差をつけられているのだ。

 

しかも、女教皇様は彼女の世話を正式に任されているため、接する機会も多い。

 

まずい。

 

だが、ここは何としてでも、絶対にお姉ちゃん、って呼ばせてみせる。

 

それしか自分に道はない。

 

テスト直前に単語を暗記していくかのような集中力で、五和は内容に目を通していく。

 

と、不意に彼女の目が留まる。

 

一般的な記事から切り離された、『今週のちっぽけニュース10』のコーナーにそれはあった。

 

 

 

『ウワサの新商品の名は大精霊チラメイド!! 相変わらず作っている人間の脳がZ区分になっているとしか思えない破壊力! 何か微妙に需要があるらしく今秋発売予定』

 

 

 

僅かに時間が止まる。

 

もしや、自分はあの天才達に追い着いてしまったのか。

 

いや、ここから先は自分の方こそがあの天才達の前を行く時がやってきたのか。

 

そう、やはり、家族よりもその本命を狙った方が……

 

これはまさに千載一遇のチャンス、と、思ったのだが、やはり、

 

 

(う、うう……。私にはこんなの着れないッッッ!!)

 

 

ぐしゃぐしゃぐしゃーっ!! と頭を掻き毟り、至極『真っ当な』答えを選択する五和。

 

おそらく、ここで踏みとどまるか踏み込むかが、壁を超える者と壁の前で立ち尽くす者との差なのだろう、と彼女はちょっと真剣にめそめそし、視線を元の『お姉ちゃんと呼ばれる100の方法』の記事へと戻した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

五和のいる休憩室の天井裏の一角に、

 

 

「ノーッ!! 五和、もう一押しなのよ、だーっ!! ノーッ!!」

 

 

「いっそ俺達が先に購入して五和の部屋の前に段ボールごと置いておきましょうよ!!」

 

 

「教皇代理……いや建宮さん! アンタはマッサージ大作戦で五和の体型や乳サイズなどを大まかに把握していたはずだ!!」

 

 

と、天草式の皆さんがお越しになっていた。

 

彼らは、奥手な五和のために、

 

 

「うむ。堕天使エロメイドと大精霊チラメイドが戦う様を拝むためには、俺達も相応の血と汗を流すべきだな!!」

 

 

と、彼らの理想郷のために。

 

 

「それはそうと建宮さん。彼女はアレを着てくれますかね?」

 

 

「わからん。だが、奇跡は起こそうと動いたものにしか起きない! 我らが動かねば、超絶起動ピュアメイドを拝む事は出来ないのよ!」

 

 

その為なら天草式男衆は命を張る。

 

賢妹が1人で来た事を好機だと思っていたのは、五和だけではない。

 

彼らは、絶対の障害となる愚兄がいない今でなければ叶えられそうにない夢があるのだ。

 

牛深や香焼といった若者だけでなく、既婚者の野母埼や初老の諫早までも、その夢のためなら、たとえどんなに低い可能性であろうとも、命を賭けて手を伸ばす。

 

 

「堕天使エロメイド、大精霊チラメイド、超絶起動ピュアメイド。これらが集う機会は今しかない! 絶対に叶えてみせるのよな!!」

 

 

「「「「おうっ!!」」」」

 

 

そんな様子を、この中で唯一の紅一点である対馬は、本当に冷めた視線で見つめていた。

 

 

 

 

 

イギリス清教の女子寮

 

 

 

「ふぅ~、これで今日の仕事はお終いです」

 

 

日記を書き終えると、詩歌は今日1日の疲れを吐き出すように深く長く息を吐く。

 

いくら詩歌といえど、今日の英国女王との会談は精神的な疲労が大きかった。

 

だが、これで、『騎士派』、『清教派』、『王室派』と個人的なパイプを繋げる事が出来た。

 

これから始まるであろう戦争は個人的な力では止めることはできない。

 

でも、止めたい。

 

それ故、彼らの力を、そして、『外』の世界を見たかった。

 

 

「にしても、疲れました。ちゃんと、休息は取っているつもりなんですが…」

 

 

枕が違うと眠れないなんて事はないし、適応力もそこそこあるつもりだったが、やはり、慣れない環境では回復の進みが遅い。

 

それに……

 

 

「皆と、会ってませんね」

 

 

学園都市にいる者達の顔が脳裏に浮かぶ。

 

やんちゃな後輩達は、変なトラブルに巻き込まれていないか?

 

暴れん坊の親友は、変なトラブルを起こしていないだろうか?

 

可愛い居候は、お腹を空かせたり、寂しがっていないだろうか?

 

世話のかかる友達は、ちゃんとあの子の面倒を見ているだろうか?

 

など、心配事が浮かぶ度に心がざわつく。

 

そして、言いようのない空虚感を覚える。

 

詩歌は何も1人ではない。

 

この女子寮には顔見知りが多いし、仲良くさせてもらっている。

 

生活に困った事はないし、毎日が充実している。

 

それでも、やはり、

 

 

「……寂しいなぁ」

 

 

愚兄が、いない。

 

上条当麻が、側にいない。

 

まだここに来て、たった数日だが、調子が崩れる。

 

もちろんこの事は、何重にもフィルターを掛けて外に漏らすようなことはしないし、弱音を吐くことなんてしない。

 

でも、自分は誤魔化せない。

 

上条詩歌が上条詩歌らしくするには、上条当麻が絶対に必要である、と。

 

そんなどうしようもない己の弱さを抑えようと、携帯電話を取り出す……が、

 

 

(やはり、時差がありますし、今電話を掛けるのは止めておいた方が良いですね)

 

 

止めておく。

 

迷惑をかけたくないし、それにいつもは鈍いけど、いざという時だけ鋭いあの愚兄は声だけでこちらの気持ちを察してしまうのかもしれない。

 

当麻は、詩歌がイギリスに行くことを許可したが、心の奥底では認めていないし、詩歌が『学生代表』になった事さえも不満に思っているだろう。

 

だから、こちらから迂闊に理由を与えたら、何に置いてもこっちへ飛んできそうだ。

 

 

「何かありませんかね」

 

 

この気分を紛らわせようとカバンの中を探ると、透明なガラス瓶が見つかる。

 

確かこれは、ルームメイトがイギリスへ旅立つ自分に餞別としてくれたものだ。

 

『鬼の涙』というヤツだっけ?

 

そう言えば、以前これを呑んだ事があったような……

 

詩歌はその時の事はほとんど記憶に残っておらず、でも、妙にすっきりしたのだけは覚えていた。

 

 

「ま、ちょうど喉も乾いてましたしね」

 

 

だから、詩歌はこれが大惨事――メイド大戦争への引き金になる事は全く知らなかった。

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

封印されし魔女が目覚め、さらにパワーアップして、超絶起動ピュアメイドとして復活。

 

イギリス清教女子寮を狂乱と混沌の渦へ。

 

この最強メイドの前に、百戦錬磨の堕天使もたじたじ。

 

だが、そこに新たなメイド達が現れる!?

 

この事態に夢とロマンを求め続ける男衆の反応は!!

 

そして、愚兄の出番はあるのか!?

 

 

 

後編へ続く。


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