とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

213 / 322
閑話 目覚めた鬼神

閑話 目覚めた鬼神

 

 

 

グラウンド

 

 

 

一気に6点もの差をつけられたのに、『TKDバスターズ』の士気は低下していない。

 

抑え役がいなければまとまりのない集団だが、それぞれの秘めた能力は計り知れない。

 

大逆転できる可能性は十分にある。

 

輪になって円陣を組みつつ、作戦会議。

 

 

「先程もいいましたが点を引き離されています。けど、それはすぐに追い付けばいいんです」

 

「この婚后光子がマウンドに立つからには、相手には得点を許しません」

 

「となると、あとは点数を稼ぐだけですの。何だかあの怪人、ものすっごい球投げそうな気がしますけど……」

 

「ふふ~♪ ライトの守備が穴じゃないですかぁ? ねぇ、御坂さん?」

 

「アンタねぇ……」

 

「それよりも心配なのは、陽菜さんの容体なのですが」

 

「治療は終わったのですが、薬が効き過ぎて起きるまで、まだ時間がかかるとの事です、しぃ姉さん」

 

「鬼塚先輩、4番なの。1人でも出たらすぐに打席に立たなきゃいけないの」

 

「ええ、守備はとにかく、攻撃に関しては……陽菜さん、私が起こそうとしても自力じゃないと起きませんし」

 

「ふふっ、でしたらこういうのはどうですかぁ♪ ――――」

 

 

 

 

 

 

 

『1番サード短髪』

 

 

「私には御坂美琴って、名前があんのよ!!」

 

 

ウグイス嬢に噛みつきつつ、切り込み隊長のエースは打席に入る。

 

対峙するのは、こちらの出鼻を挫く先頭打者ホームランをやってのけ、マウンドに堂々と立つピッチャー『キャプテンファルコン』。

 

 

ギュ、とバットを持つ手に力が籠る。

 

 

同じトップバッターとして負けず嫌いの美琴は顔を引き締める。

 

 

(とにかくトップバッターだし球数を増やして情報を引き出す為にもまずは様子見。ホームランは無理でも、累には出たいわよね)

 

 

「ほう……中々気合の入った顔つき」

 

 

カッ、と歌舞伎で大見得を切るよう目を開いたピッチャー『キャプテンファルコン』が、大きく振りかぶった。

 

 

「いけーっ、御坂さーんっ!」

 

「まだ逆転できますよーっ!」

 

 

観客席から佐天と初春の大声が渦巻く中、さらにピッチャー『キャプテンファルコン』は大きく足をあげ―――

 

 

「なっ!」

 

「あれは!?」

 

 

次に控えていた黒子と詩歌は、目を見開く。

 

『キャプテンファルコン』の魅せた投球フォーム。

 

頭上よりなお高く足をあげたそれは―――

 

 

「マサカリ投法!」

 

 

ブォォンッ!

 

 

空気を震わせ、力強く大地に向かって下ろされる。

 

そう。

 

それはまさに斧が薪を、いや、岩を一直線に断ち割るが如く!

 

 

ズバァァンッ!

 

 

ミットに凄まじい勢いでボールが飛び込み、キャッチャー『バッファローマン』の巨体が揺れる程の威力。

 

打てるモノなら打ってみろ、と言わんばかりのド真ん中のストライク。

 

 

「……、」

 

 

美琴はピクリとも動かず、唖然と瞳を振るわせる。

 

キャッチャー『バッファローマン』はやれやれと言った調子で、

 

 

「こりゃやり過ぎですよ、大将。もうちょい手加減しないとお嬢さん方、ビビって手が出ませんよ」

 

 

カチン、と。

 

 

「……別に構いませんよ。打てない球じゃないですし」

 

 

「ほほーう、よう言ったぞ、小娘。この『鬼』を退治できるかやってみると言い」

 

 

マウンドの『キャプテンファルコン』が再び足を大きく上げる。

 

美琴も今度は怯まずにバットを勢い良く振った。

 

 

キィィンッ……!

 

 

打球は、大きく後ろに逸れる。

 

重い。

 

能力を使っていないのにこの球質とは、やはりこの怪人はただものではない。

 

手が未だに痺れる美琴に構わずリズム良く、大きく足をあげ、全体重を球に乗せる。

 

その投球の重みは、中途半端なヒッティングでは前に飛ぶ事すら叶わない。

 

 

(けど、打たなきゃ勝てない―――!)

 

 

薄い膜のように体表を紫電が迸る。

 

相手の行動を阻害するような直接的攻撃は禁じられているも、能力の使用は認められている。

 

御坂美琴の能力、<超電磁砲>は電気に関する事なら何でもできる。

 

全身を駆け巡る電流を掌握し、身体機能に反射神経を強化。

 

 

ブォンッ!

 

 

投げられた超重剛球に対抗するため、美琴も足を踏み込んで全体重をバットに乗せる。

 

そして、半ば火事場の馬鹿力的な掛け声で、

 

 

「ちぇいさーっ!」

 

 

重い!!

 

だが、今度は負けじと<超電磁砲>で強引にでも体を動かし、バットを振り抜いた。

 

 

バキィィィィッ! と鈍い音が響く。

 

 

でも、ボールは高々とセカンド『メイド仮面』の頭上を抜け――――て、

 

 

 

「はい、残念でしたー――っとおっととあぶな」

 

 

 

重い球質から考えて、前を守っていた『セクシー・ベル』がお手玉しつつもキャッチ。

 

結果、トップバッター美琴、ライトフライ。

 

 

「ドンマイです、御坂さん!」

 

「お姉様の仇は、黒子が撃ちますわ!」

 

「ぷ、くくっ……流石、御坂さん、ナイスな打撃力を持ってるわぁ☆」

 

 

良い当たりだったんだけどなぁ、と息を吐くも、仲間達は咎めもせずに、激励で出迎えてくれる|(約一名はこちらが腹立たしくなるくらいにとても愉快に笑っているが)。

 

そして、ボールを返さずに『セクシー・ベル』がこちらを向いてブンブンと手を振っている。

 

『美琴ちゃーん! 見て見て』と声をこそ聞こえないがそう言われているような錯覚に美琴のこめかみが痛む。

 

美琴は掛け値なしのイライラ(ビリビリ)を込めて睨みつけたが、向こうは無邪気な笑顔を返すのみ。

 

あの態度からして、もう『セクシー・ベル』、隠す気はなく、怒っても余計に調子が乗りそうで、次の次の3番詩歌に向かっても手を振り始めた。

 

 

「美琴さん。あの『セクシー・ベル』さんとお知り合いですか?」

 

 

こちらの顔色が悪いこと気付いたのだろう。

 

天然ボケ入ってる長年の幼馴染がきょとんと訊いてくる。

 

逆に何故気付かない!? と訊きたいが、美琴は正直に答えた。

 

 

「いえ、初対面の方です」

 

 

嘘を吐く程自分に正直な行為は、ない。

 

 

「いぇい! はい、そこの君にサービス!」

 

 

……うん、私にあんなアホ面で飛び跳ね回ってワンアウトを祝い、観客に向けて試合球のボールを勝手に投げ渡す母はいない。

 

あれは『セクシー・ベル』だ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「くっ、なんて厄介な球ですの!?」

 

 

2番黒子の小柄な体がよろめき、痺れる手からバットが地面に落ちる。

 

そして、ふらふらと真上に打ち上がったボールは、キャッチャー『バッファローマン』がその場で捕球した。

 

単純な力任せであるからこそ、攻略し難い。

 

王道は、小細工を労さずとも済む王道であるからこそ王道と呼ばれるのだ。

 

 

『3番キャッチャーしいか』

 

 

ネクストバッターサークルに控えていた詩歌が打席に向かう。

 

 

「大丈夫です、黒子さん」

 

 

「大お姉様……!」

 

 

バッターボックスを後にする黒子を励ますように肩を叩くと入れ替わるように右打席に入る。

 

無駄な力を脱したフォームでバットを構える。

 

 

「プレイ」

 

 

球審の手が挙がる。

 

すぐさま―――と、その前に、

 

 

「……鬼塚陽菜はどうした?」

 

 

『キャプテンファルコン』は3番詩歌の次の4番陽菜が控えているはずのネクストバッターサークルを見る。

 

 

「陽菜さんの事は心配なさらずに」

 

 

「……そうかい。ならば遠慮する必要はないようだな」

 

 

すぐに意識をこの場にはいない4番から今対峙している3番に移した。

 

1番美琴、2番黒子を打ち取ったように、『キャプテンファルコン』の足が上がり―――マサカリを振り下ろす。

 

ド真ん中ではなく、高めいっぱい絶妙なコースにボールが来る。

 

 

バシィィンッ! とミットが音を立てる。

 

 

「……」

 

 

詩歌は、ピクリともせずにボールを見送る。

 

その荒々しく噛みついてくるような野性的な球質は、記憶の中で―――親友のものと一致する。

 

 

「ストライク」

 

 

と球審が叫ぶ。

 

ストライクコースギリギリの球。

 

しかし、詩歌は、それに驚きもせず、意義も申し立てず、前に出したバットを見つめて言う。

 

 

「良く見えました。似てます、この球。回転こそ違いますが縫い目が見えづらい程の回転数に直前でバットの上っ面を叩かせるようなホップする伸びは、陽菜さんと同質です」

 

 

キャッチャー『バッファローマン』は、目だけで詩歌を見上げる。

 

マスクの向こうで、目を伏せて詩歌が微笑む。

 

ふっと息を吐くと、彼女は、柔らかに、そして短めにバットを構え直した。

 

 

(……良く見えた、これは安い挑発か? それとも純粋な感想か?)

 

 

いずれにしても関係ない。

 

これはそう簡単に打てるものではない。

 

マサカリ投法第2球。

 

今度は内角、詩歌の胸元にボールが走る。

 

詩歌のバットが、円を描くように滑らかに滑る。

 

目の前でスイングの音が響いて、鋭いライナーが一塁側に飛び―――白線の外へと切れた。

 

力んだ打球だ。

 

だが、詩歌のバットはマサカリ投法を強打で叩き潰すのではなく、捉えにいったスイングで、確実に芯に当ててきた。

 

これで、ツーストライクになったが、詩歌の構えは変わらない。

 

バットを持つ手も、スタンスもそのまま。

 

続けて第3球。

 

地を舐めるような低目の球は、ストライクゾーンの下を潜った。

 

詩歌は、僅かに肘を動かしたのみで、目で見送った。

 

ぞくり、とする。

 

身体の一部が反応して見逃したという事は、見えているのだ。

 

 

(お嬢、と同等……までは分かりませんが、素でこれとは……)

 

 

その後、きわどいコースを2球見逃し、6球もバットは捉え、惜しくもラインの外へ落ちるファール。

 

これで10球以上も粘られた。

 

 

「タイム」

 

 

と打席を外し、詩歌は素振りもせずに何かをチェックするようにバットの感触を確かめる。

 

その間に、キャッチャー『バッファローマン』はマウンドの『キャプテンファルコン』とアイコンタクトで、

 

 

(大将、そろそろストレート以外にも)

 

(丑寅よ。この儂に抜いた球を投げろと、でも?)

 

(そんな訳じゃないですがタイミングが合ってきてるんですよ)

 

(構わん。例え芯で捉えようと前に飛ばん限り意味がない)

 

 

普段は大将の危険を察知したら盾になれる位置に強引にでも割って入る『バッファローマン』だが、今感じているのはそのような危機感。

 

そして、こういう時でも対処は道を譲ろうとしないのだから困りものの大将だ。

 

それでもそれを軌道修正するのが守護者としての自分の役目だと。

 

 

(なら、『あの球』で行きましょう。どうあっても必ずこの身体で受け止めてみせまっせ)

 

(ほう、そうか……なら、仕方あるまい)

 

 

どうにか説得した―――ところで、

 

 

「ありがとうございます」

 

 

そして、詩歌が入る。

 

左打席へ。

 

 

「……小娘、打席間違えてるぞ」

 

 

「私、両利きなので」

 

 

と、言われてみれば構えは様になっている―――右打者として。

 

右打席の時と“全く”同じで、左手が下で右手が上。

 

つまり、右手が下の左が上の左打者の構えは逆なのだ。

 

 

(ほぉ……知ってか知らずか。どちらにしてもこの儂を挑発するとは、な)

 

 

マスク越しからでも分かるほど青筋が浮かぶ。

 

ああ、と『バッファローマン』。

 

向こうからサインが送られる。

 

内角高めにストレートが行くぞ、と。

 

 

 

そして、鬼のマサカリが振り落とされた。

 

 

 

「なっ、片手で―――!?」

 

 

思わず声をあげる『バッファローマン』。

 

 

(向こうがマサカリで来るなら、こちらはジャックナイフで―――)

 

 

『キャプテンファルコン』がマサカリ投法を放った瞬間、彼女は右手を離して片手打ちに!

 

 

「秘打、『エア・C』!」

 

 

まるでプロのテニスプレイヤーがジャンプしながらボレーするようにバットを振るう。

 

両手でもヒットにできなかった超重剛球を左手一本で―――打ち返した。

 

 

(流石、詩歌様、<空力使い>の絶妙な力加減)

 

 

本来の使い手である婚后光子でもこうはいかないだろう。

 

先程のタイムでバットに設置した<空力使い>の突風の『噴出点』。

 

性能(パワー)こそ劣るも、ここはバットを離してしまうほどの余計な勢いはいらない。

 

その制御力は繊細緻密で、美琴と黒子の打席と、およそ10球もの打撃の感触で、速度と球威を研究し、そこから補助する風量の配分を導き出した。

 

 

キィィンッ!

 

 

ドライブがかかっているライナー性の鋭い当たりがピッチャーのすぐ横を通り抜け―――と、

 

 

「イ・マジンガー~~~~―――」

 

 

ショート『イ・マジンガーX』が素早い反応で打球に回り込む。

 

ふざけた格好しているくせに、もう半ば予知じみた反射神経だ。

 

そのままグラブで捌いて、当てた反動を利用し、そのままの流れで送球姿勢に入る。

 

 

「―――エ~~ックス!!」

 

 

だが、右打席よりも1歩分近い、左打席。

 

そして、1歩分早いスタートを切った片手打ち。

 

その差分が勝負の明暗を分ける。

 

 

「セーフ!」

 

 

ファースト『タイガーマスク』が捕球する前に、詩歌は一塁を駆け抜けた。

 

そして、

 

 

 

『4番ライトひな』

 

 

 

 

 

???

 

 

 

『………で、まだ起きないのねぇ……』

 

『はい女王。時間は稼いでもらったんですけど……』

 

『詩歌お姉様でも起こしようがないという事は……やっぱり、あの『最終手段』を』

 

『うふっ♪ 仕方ないわぁー。ふふっ………―――ポチッ―――』

 

 

 

 

 

 

 

『鬼塚先輩、早く起きて下さいませ』 バイン!

 

 

『う、う……婚后っち……? 何で水着姿?』

 

 

『お寝坊さんですねぇ、先輩』 バインバイン!

 

 

『くっ、なんて生意気な後輩なんだよ、食蜂っち!』

 

 

『どうでも良いですけど、寝てたら出番がなくなりますよ』 バインバインッ!!

 

 

『絶望した! 世の中はなんて不平等なんだ! 詩歌っちの馬鹿!!』

 

 

『いい加減に起きなさい! 陽菜』 ブルンッ!!

 

 

『ぐぬぬ~、姉御の裏切者~ッ!!』

 

 

 

 

 

グラウンド

 

 

 

「月匈!!!!!」

 

 

ドンッ!! とベンチ裏から爆炎と共に真っ赤な人影が飛び出す。

 

 

「何なんだ何なんだ!? 活火山みたいなおっぱいの山脈に囲まれる悪夢!? 平面構造が基本の女子中学生において、アレはまさに不自然に盛り上がった失われし大陸ムー! 乳貴族の乳特権階級か! お嬢様なら慎ましく、おっぱいも海底で眠っていればいいんだ!」

 

 

どこかの女王様に『良い夢』を見させられたのか、何やら錯乱状態で、体調面の事などふっ飛ばすかのように元気いっぱい絶賛狂乱中。

 

 

「がるるるっ! ふーっ! ふーっ!」

 

 

最早、凶悪な肉食獣の動きで獲物認定されたら容赦なく襲いかかりそうな、飢えた目つきで低く暗く唸る。

 

と、視線は終生の宿敵―――の先にいる。

 

 

「うわ、なんか怖いわ!?」

 

 

『セクシー・ベル』は胸を抱きながら、じりじりと後ずさりながらも何か悟ったようで、

 

 

「あのね、大きいと結構肩が凝ったり、それに軽い方が動きが俊敏でシュバッとスポーツには有利よ~!」

 

 

「馬鹿野郎! 大変良く育った天然おっぱいだろうが! ちゃんと保護して手入れして最高の状態で大切にしろッ!! いらないんだったらリサイクル! 一滴も残さずおっぱいの脂肪を吸い取ってやる!!」

 

 

助けてぇ、美琴ちゃ~ん!? と『セクシー・ベル』が助けを求めるも、当人は無視。

 

何故か、セカンド『メイド仮面』も暴走番長に同意したように、うんうん頷いている。

 

 

(いざとなったら、<心理掌握>で起こしてもいいと許可しましたが、一体何を見せたのやら?)

 

 

一塁上からベンチで笑いを堪えている悪戯好きで手を焼かせられる後輩を御手、やれやれと詩歌は息を吐き、

 

 

「くそっ! こんな格差社会……やってられるか!」

 

 

ドンドン! と本気で世の中の不条理を嘆くように地面を叩くルームメイトに頭が痛くなったように、『あの時、やっぱり交代した方が……』と、

 

 

「かかか! 青い主張は結構だが、とっとと演説は止めて、バットを持って打席に立てい!」

 

 

グルン、とターゲットが大笑いしている『キャプテンファルコン』へ移行。

 

 

「どうでも良いとは何だ!? 私は持たざるものだからこそ、おっぱいの大切さを知っているんだ! バスト1mm差を笑うものは、おっぱいで泣くぞ!!」

 

 

言っている事は大変頭が悪いが無駄に格好良い。

 

 

「儂男だし。おっぱいねーし。ま、喧嘩の際に無駄な脂肪に揺れる脂肪が無いというのは、理想的だと思うぞ。うんうん、質素倹約。まるでプロレタリアな感じで可愛いぞ」

 

 

『だっ、ダメっすよ、大将! 可哀想なくらい貧しい胸ですが今すぐ撤回を!』ととばっちりで最も間近に燃えに燃え盛るプレッシャーを浴びている『バッファローマン』。

 

だが、この我が道をゆく男は止められず、

 

 

「儂は褒めとる」

 

 

「それ以上~~~……おちょくるとぉぉ~~~……キィィィレちゃぁぁぁうよぉぉぉぉおおおっ!!」

 

 

『バッファローマン』、『タイガーマスク』、『ミス・ドラゴン』、『鳩ぽっぽ』らは感動したのか|(もしくは哀しくなったのか)目頭を抑える。

 

もう、久々に会えて、からかうのは楽しいんだろうけど、この直情径行型過ぎて、簡単にプッツンして暴れてしまう――の扱いを何とかしないとウチも、常盤台の皆さんも評判が下がってしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

ぐわらごわぐわきぃぃん!!!

 

 

学園都市中の貧乳同盟の呪詛、この街の奥底に渦巻く負のオーラが爆裂!

 

白球は宙空を低空飛行で滑空し、ライト『セクシー・ベル』へ、

 

 

「きゃっ、危なっ!! って何で私を!?」

 

 

あわや直撃という所で、間一髪で回避。

 

球はその頭上を通過し、ホームランこそならなかったがフェンス直撃。

 

あの超重剛球を弾丸ライナーでぶっ飛ばすとは、伊達に『常盤台の暴君(キング)』と呼ばれていない。

 

 

「ちっ、外したか」

 

 

でも、そこで舌打ちするのはどうかと。

 

ピッチャー返しならぬライト返しの球はグラウンドを跳ね、そのまま転がっていく。

 

 

「おっと」

 

 

けれど、サポートにライト寄りで守っていたセンター『鳩ぽっぽ』が素早く動いて捕球。

 

それほど野球の経験はないはずだが、熟達した動作で身を翻して送球。

 

 

「ふっ」

 

 

かなりの速度で球はセカンド『メイド仮面』の中継を挟み―――その前に詩歌は三塁へ。

 

けど、

 

 

「詩歌っち! ホームだよホーム!」

 

 

「無理です」

 

 

「くそっ、打点を挙げて奴らをひんむいてやろうとしたのに……ッ! おっきいおっぱいを持ってるからって甘えるんじゃない!!」

 

 

「そろそろ目を覚まさないと交代だけでなく、場外退場させますよ」

 

 

復活した4番陽菜、ツーベースヒットでランナー二、三塁。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『5番レフトあおい』

 

 

ランナーが出てセットポジションになったものの、それでも『キャプテンファルコン』の屈強な上半身と剛健な下半身から繰り出される球は凄まじい。

 

それでもストレートだけで抑えられる程、この絶対可憐無双乙女軍団は甘くはない。

 

 

「ほい、もらった!」

 

 

九条葵のミラーグラスが煌めく。

 

幼少の頃の修行で鍛えた集中力、<基礎強化>の脅威的な動体視力と軸が一切ブレないボディバランスからの芸術的なスイングは、狙い違わず白球を真芯で捉える。

 

そして、2年生の中でトップクラスの腕力で振り切り―――

 

 

がきぃん!

 

 

甲高い音と共に軽々と球は左中間の宙を舞い、前進守備で守っていた外野の頭を超える。

 

その間に三塁ランナー詩歌はホームに、そして、

 

 

「さっきはよくも憐れなくらい貧困民とか言ってくれたねぇ!」

 

 

「え、そんな事俺は言ってませんぜ!?」

 

 

二塁ランナー陽菜、三塁を蹴って、暴走。

 

レフト『ミス・ドラゴン』から送球が返るも、瞬間、<赤鬼>の異名の通りにその身体が真っ赤に!?

 

 

「トラ○ジャム!! 爆破加速発動!!」

 

 

<鬼火>の爆熱ブーストで超加速し、ホームへ――より詳しくはそこを守るキャッチャー『バッファローマン』の股の隙間に脚を――さらに直前で膝を立てて―――

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

「ぐぬぅ――――」

 

 

 

『バッファローマン』と『常盤台の暴君』の壮絶なクロスプレー。

 

巌のように巨漢のキャッチャーの、その男にとって大事な所には鷹が空から勢いよく獲物を鷲掴みにするかのように膝が突き刺さっていた。

 

品行方正なお嬢様とは思えないラフプレーで、容赦ない鬼畜の所業。

 

どんなに鍛えようともそこだけは鍛えられない急所を……だが、『バッファローマン』は白目を剥こうが倒れない。

 

まさに弁慶の立ち往生。

 

でも………

 

 

 

ぽろり、とキャッチャーミットから白球が零れた。

 

 

 

「セーフ!」

 

 

審判の判定を聞き、陽菜はガッツポーズ。

 

クリーンナップの活躍で2得点。

 

その後、打点を挙げた九条が適当にくじを引いて、『イ・マジンガーX』と『鳩ぽっぽ』がそれぞれ一枚ずつユニフォームを奪取。

 

これで6-2。

 

さらにランナー二塁でまだまだチャンスが続く―――と思ったが………

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……クックククク! カカカカカカカ!!」

 

 

笑う

 

嗤う。

 

哂う。

 

 

「確かに、油断ならない相手のようだ。これが実戦だったら1人やられている―――だが、遊びはここまでだ、小娘共……ここからは全力で潰しに行こうじゃないか」

 

 

試合など児戯も同然と構えていたが――幾重にもかけていた心のセーブをここで解除する。

 

 

「死に物狂いでかかって来い」

 

 

打たれたからか、点を取られたからか、それとも仲間をやられたからか、『キャプテンファルコン』の雰囲気が凶々しく変質し、ボールの握りも、ここに来て初めて変わる。

 

そして………

 

 

 

 

 

 

 

「な……このわたくしが」

 

 

6番婚后光子のバットが空を切る。

 

詩歌と同様に<空力使い>を利用した神風の一振りが……

 

審判がアウトを告げる。

 

ただ一度も球を掠る事すらできなかった。

 

ここに来て初めて出した―――鬼神として目覚めた『キャプテンファルコン』の恐るべき分裂魔球に。

 

 

 

つづく


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。