とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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大覇星祭編 起動開始

大覇星祭編 起動開始

 

 

 

病院

 

 

 

『その……それで、犬のロボットを操る男二人組と鬼塚先輩が……』

 

 

病院に運び込まれた少女は、熱中症で倒れたのではない、とその顔を見れば分かるほどに手酷く痛めつけられていた。

 

 

 

―――私のせいだ。

 

 

 

甘かった。

 

所詮はいつもの派閥争いの延長だろうと、気に入らない私にちょっかいをかけてきているだけだと。

 

あんな奴でも、同じ学び舎で学ぶ学友で、他人を傷つけるような真似はしないと。

 

もう、自分のせいで、自分の為に、誰かが傷ついたなどと、『実験』で懲りたはずなのに。

 

 

バチッ、と堪え切れぬ後悔が電流となる。

 

 

最高位の発電系能力者として、微弱な電磁波を放つ自身の周囲にある電子機器が小型の物であれど探知できる。

 

今の、この建物を破壊せんばかりに発散する感情を、只管に深く練り込んだ彼女ならなおさら。

 

その揺らぎを覚えた場所――婚后光子の黒髪に、蚊が、蚊の形を模した機械。

 

おそらく盗聴器や盗撮器の類だと推察し、電磁波を統べるものとして、そこにパスが見えた。

 

婚后光子をこのような目に遭わせた犯人への繋がり。

 

 

「準備ができました。ご友人の方はこちらでお待ちください」

 

 

「あっ、はい……―――アレ?」

 

 

湾内絹保と泡浮万彬らと一緒に婚后光子を病院まで運んだ佐天涙子が気づかぬほど静かに、御坂美琴は、その小さな手掛かりを手にして、病院の外へと向かっていた。

 

そこへ通路を塞ぐように、控えていた2人の常盤台生が前に立ちはだかり、制止を試みる。

 

 

「あの、何か事情がおありのようですが……」

 

 

「どいて」

 

 

「ここは他の派閥メンバーの到着を待って……」

 

 

「どいて」

 

 

彼女達は、『六花』や『常盤台の騎士』のような上位の高位能力者ではないが、それでも常盤台中学最大の『派閥』に名を列ねるもの。

 

だが、止められなかった。

 

その場から立ち去るまで、指先一つも動かせなかった。

 

表向き、先生からのお願いで、裏から、女王に誘導されて、例え格上でも皆で力を合わせれば姫君を留める鳥籠になれると自分達の実力に自信を持ち―――けれども、自分達では小さ過ぎた。

 

その時まで、知らなかった。

 

それまで一度たりともぶつけられなかった。

 

彼女の視線から、

 

その実力が己にとってどれほど未知であると、

 

その進行の前に立つ己がどれほど無知であると、

 

その感情に気付けなかった己はどれほど不知であると、

 

その頭に直接叩きつけられるほどの、義務も、命令も、驕りも吹き飛ばす衝撃。

 

『派閥』の長と同じ『双璧』のLevel5の、確固たる自己を持つものの加減なしの本気を。

 

 

 

「私を殺してでも止める覚悟がないならどいて」

 

 

 

そして、女王の鳥籠を姫君は抜け出した。

 

 

 

 

 

ホテル

 

 

 

―――一方的、と言わざるを得ない。

 

 

 

肉を切らせて骨を断つ、いや、肉を切る、いやいや、皮を削くことすらも敵わない。

 

強い。

 

異能なしにここまで強い人間とやり合ったのは初めてだ。

 

今もこの<幻想殺し>を警戒してもらわなかったら、5回はやられている。

 

なるほど、俺の妹の師匠で、加減を極めている―――完全に己の身体を支配下においている。

 

老練な洞察力をもつ真眼か、寮監は上条当麻が突き出す右拳を受け止めることなく、動きを先読みして躱し続けている。

 

神様だろうと触れるだけで殺せる対異能の力を持つ右手――<幻想殺し>。

 

これならきっと洗脳が解ける―――けれど、それも触らなければ話にならない。

 

上条当麻とて、決して動きが劣っているわけではない。

 

むしろ、寮監よりも速く動いているだろう。

 

だがしかし、対異能の技を持つ寮監は並の達人ではない。

 

高位能力者を相手に、最小限の動きで、最小限の被害で抑えてきたその実力。

 

賢妹には負けたとはいえ、俊敏さには自信のある愚兄は、動きの多さで思い切りかき回そうとしたが、後れを取っているのは他ならぬ愚兄の方だ。

 

牽制で出した左手を弾いて攻撃するという最大の防御。

 

今や間合いや呼吸といったリズムを把握され、攻めを許さぬ苛烈な攻めの応酬で、必死の思いで防御しなければ間に合わない。

 

そう、これは上条詩歌との組み手と同じ流れ―――このままだと確実に負ける。

 

 

「仕方ねぇ……本気でダメだったら、“上条当麻を殺す”しかねーな」

 

 

 

 

 

 

 

(にしても、面白い少年だ)

 

 

対峙しただけでもその気配から様々な情報が読み取れる。

 

才能は平凡だが少年の支えとなるその、毎日鍛錬を怠らなかった、苦しい修羅場も乗り越えてきた、それらを積み重ねてきた背骨(バックボーン)は重厚で、高純度。

 

単純なパワーやスピードなら自分をも凌ぐ。

 

だが、武術というのはそういったものを相手にするものだ。

 

その右手を警戒し、触れぬよう、触れさせぬように細心の注意を払うも、この短時間にこの少年を投げ、殴り、蹴り、と一方的に攻め立てた。

 

一度もその体に掠らせもせず、けれども、一度も仕留めきれずに。

 

攻めこそ単調だったが、守りは中々で、とにかく打たれ強い。

 

どんな攻撃にも耐える肉体と慣れた精神に、技術も護身に関しては基礎がしっかりとしている。

 

元々の体の強さに加え、常に歯を食い縛り膝のバネを柔らかくし、上で耐えて下から逃がすという受ける事を前提にしている。

 

それほど器用でもないのに例え喰らっても、考える前に無意識に急所からズラす、芯を外すなどと受けの極みともいえる芸当はその体にどれほどの恐怖や苦痛を記憶させてきたのだろうか。

 

もしそれを仕込んだものがいるとなれば、相当スパルタで、過保護だろう―――が、より深く読めばそれだけではないと分かる。

 

まだ技に関してはようやく付け焼刃がとれたようなレベルだが、その程度ならハンデがあろうと自分が倒し切れないはずがない。

 

経験値が高い。

 

単純に多くの人間と戦えば――そんな不幸に遭えば、当然、学習能力が低くとも、本能が彼を育成し、幾多の戦闘がその心を研ぎ澄まし、理論では辿り着けない極限の境地を修めている。

 

戦って、戦って、一の為に全をかなぐり捨てた滅私献身で、己の手には届かない、己の足では辿り着けない才能限界という難関な壁を独力で乗り越えた者にこそものにでき、そのもの以外に適合しない“何か”。

 

あらゆるものを模倣できる、柔応な技と形無な思考をもつ愛弟子、

 

あらゆるものを粉砕できる、剛快の業と強暴な野生をもつ問題児、

 

そういった天賦の才を持つもの達ではなく、地底から這い上がってきたものが頭ではなく体にまで刻みこんだ術理だ。

 

それが、本来なら消え去るはずのない経験値が、どういうわけか頭の中から抜け落ちており、時々本人も驚いているようだが―――そのズレを短期間に何者かに修正され、補強されていようとしている。

 

そう、初めて見た瞬間に思った。

 

決して折れず、愚直に曲がらず、全てを斬るの三要素を非常に高い次元で取り込むと言う究極の矛盾を完全実現した名刀、となれるかもしれない玉鋼のような少年だと。

 

一体どれほどのものを造ろうとしているんだ、というような。

 

ただひたすらに錬鉄を繰り返し繰り返し繰り返し、源流の利も発展の理も混ぜ、分解し、再構成して活用している。

 

工芸品としての飾りを付ける美的要素を削ぎ落して、武器に徹して実用的要素のみを引き出すことを主眼とした長大な刀剣鍛冶がその少年の中で行われている。

 

刀剣の経験と刀匠の技術を叩きこんで、記憶という名の刃が欠けた状態から元に甦らせようと研ぎ直すのではなく、その前段階から、

 

壊れた元よりも、その天下の業物たちよりも、強く設定して何度も熱しては冷まして創意工夫を凝らしては打ち直されている。

 

今は真の輝きを放つにはまだまだ粗く、その途中――ようやく刀身の形が完成し、丁寧に研ぎ磨こうか――の段階のようだが、

 

 

(しかし、本当にタフネスだな。特に心が。無論、そのような相手を倒せない訳ではない。心が折れぬと言うなら意識を断ち切ればいい。脳と体を繋ぐ線を切断する)

 

 

そう、この極死を加減した活人の極支(サブミッション)なら、この玉鋼を折れる。

 

一つ間違えば死に至る危険な技で、実際にこれで何人も沈めてきた。

 

しかし、対能力の達人の洞察力と経験からなる真眼が、その少年の中心としている右手を受けてはならないと戒めている。

 

たとえ掠るように触れるだけでも、真眼がそれを許さない。

 

結果、攻撃を躱す動きが僅かに大きくなり、カウンター攻撃に上手く繋げれない。

 

攻めが雑になるほどではないが、甘くなっているのは事実で、最も得意な『首狩り』の極め技を封じている。

 

いっそ真眼を無視して、右手に触れるリスクを承知で、一瞬で極めるか―――?

 

あの右手は彼の能力の基点だ。

 

能力である以上、どれほど威力が低くとも警戒せねばならない。

 

触れたものを行動を不能にする、動きを鈍らせる、そういったものであれば能力者ではない自分には致命的だ。

 

しかし、自分は今までそういった能力者を発動させる前に最小限に仕留めてきた。

 

そうして、珍しく、迷い、躊躇っている、と少年の方が動き出す。

 

 

「むっ……」

 

 

それは未完全だが、鞘からその飾り気無しの直刃の刀身を抜いたような圧迫感。

 

少年の体が一回り大きくなっている。

 

視界だけでなく皮膚に伝わる微細な空気の振動や身体を動かす時の静かで微かな信号でも分かる。

 

間違いなく筋肉が隆起している。

 

小さく当てにいく速度重視ではなく、力で強引に突破するパワー型にシフトした。

 

 

「ふぅ~~~……」

 

 

―――と、思いきや膨らんだ風船が萎むように普段以上に脱力した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……!?」

 

 

面喰らったように大きく目を見開く寮監。

 

相対していた上条当麻が、ついさっきまで目に見えるほど溢れていた闘気が、跡形もなく霧散してしまったからだ。

 

加減がなっていないとは言ったが、今度は力を入れ過ぎているのではなく、抜き過ぎている。

 

しかも、その構えは前倒の体捨必倒と―――これでは自殺を志願しているようなものではないか。

 

諦めてしまったのか、それとも、降参するのか。

 

 

「―――」

 

 

と、寮監が訝しんだ時、心を凪にしたまま、上条当麻はその横をすり抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

ふわり、と。

 

 

雲が風に身を任せるように、清流を流れる水のように。

 

全ての感情を心の深層に隠す、行雲流水の領域。

 

闘志を込める動とは真逆の闘志を秘める静。

 

受ける事を前提にしているなら、単に隙だらけとなるだけだが、その行動を悟らせない、躱す事には適正だ。

 

ただ、無我夢中、無心無想に。

 

己を殺して、他を投影した。

 

まるで別人のように、リズムを変えた。

 

上条当麻から、上条詩歌のやり方にシフトした。

 

賢妹の動作は、焦がれるくらいに頭に焼き付いている。

 

だから、この静の心を真似する荒技ができた。

 

完全には物にできていない、立ち上がるのがやっとな赤子のような技術だが、ギャップ差もあったのだろう。

 

低い体勢から滑るように達人の脇を通り抜けた―――だが、これは失敗する。

 

 

(私ではなく、扉の方へ―――!)

 

 

元々、この少年の目的は自分を倒すのではなく、この部屋に入ることだ。

 

こちらを無視して、その視線は自分が守らなければならない扉に、そして右手はそのドアノブに―――だが、遅い。

 

既に狙いはバレバレなのだ。

 

例え動作から読めなくても、その目的から先読みができる。

 

予測ができていれば、一瞬虚を突かれても即座に反応し、そのドアノブを捻るよりも速く、少年の首を捻れる。

 

甘いフェイントへの代償とばかりに無防備に晒す少年の背中を捉え、背後から、

 

 

「ぶち殺す!!」

 

 

寮監がその頭に手をかけた――――瞬間、居合抜きの如く、上条当麻は爆発的に全身の筋肉を引き締めた。

 

妹から師匠の得意技は、極支と聞いており、実体験したこともあることから心構えはできていた。

 

だから、例えどのような攻撃をしかけても、ただ玉鋼の如く身体を締めて、弾き飛ばす。

 

しかも、その一瞬まで身体を緩めていたから、まさに筋肉の爆発。

 

賢妹の動きは焦がれるくらいに焼き付いている。

 

柔の静から剛の動への変化は、夏休み最後の捨て身の覚悟で臨んだ組み手で一本取られたものだから良く覚えている。

 

 

「硬い―――っ!?」

 

 

寮監は、驚愕する。

 

首狩りが、失敗。

 

考えるよりも早く完了する、何千回も何万回も繰り返した動作が。

 

しかし、そこで彼女は瞬時に己の失敗、力配分を誤った事に気づく。

 

寮監は“女子中学生を相手に最小限に仕留めるに十分な力加減を基準”にしており、それが癖となっている。

 

危険であるからこそ、決してやり過ぎないように、反射的にも制限をかけるほど強く己を律してきたのだ。

 

だから、この『愛弟子と同じリズム』を魅せられて、首狩りの加減を間違えてしまった。

 

いくつもの要因が重なってこの達人の必殺技を、まさしく玉鋼の愚兄の丈夫さは受け切った、耐え切った、防ぎ切った。

 

そして、そのチャンスを愚兄は逃さない。

 

上条当麻は背後から伸びた腕を両手で掴み、

 

 

 

パキンッ―――! と何かが砕けた音。

 

 

 

愚兄の右手が、その洗脳を解いた。

 

寮監は一瞬、何故自分はここでこの少年を相手しているのだろうか、と戸惑い、拘束が緩んで、ぐるん、と視界が回った。

 

 

「おい、君、これは―――「っだああああぁぁっ!!!」」

 

 

我武者羅だったのだろう。

 

洗脳解除したとはいえ、まだ背後を取られている危機的状況に変わりない。

 

無心に繰り出した、その背負い投げは、緊急回避と並ぶ反射的動作で、父から受け継いだ土下座のように鮮やかに無駄ないお手並みで、相手の身体を巻き込みながら上体が沈み、見事に寮監から一本を取った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

―――やってしまったああああぁぁ!!

 

 

 

思わず土下座背負い投げで、洗脳が解除したかもしれない寮監さんを、勢いよく大理石の床に叩きつけてしまった。

 

洗脳が解けたばかりの彼女からすれば、目覚めたらいきなりジェットコースター急降下したような衝撃だったのだろう。

 

いかに妹の師匠をやっている達人とはいえど、無防備で無意識の所を攻められたらどうしようもない。

 

寮監は大の字に倒れたまま動こうとしない。

 

何故首を刈ろうとしているという疑問の空白に、筋肉の力を抜いたせいで受け身が間に合わず、軽い脳震盪を起こして、気絶してしまっている。

 

 

(マズい! マズいです! マズいでございます! 会心の一撃のラッキーパンチがこんな時に出るなんて最悪じゃねーか! 能力を解いてから説得する当麻さんの計画が予想外の斜め上方向にぶち殺しちまった!)

 

 

こうなったら、急ごう、とにかく急ぐ、何でもいいからとっとと急ぎましょう!

 

早く部屋に入って詩歌を起こして、どうにか上手い具合に後始末してもらって、夕刊の一面を『何者かが寮の管理人を暴行! その犯行目的はお嬢様の部屋に侵入するために!?』なんて飾る前にすぐに退散する!

 

不幸だーーーっ! なんてお馴染みのフレーズを叫んでいる時間すら惜しい。

 

当麻は気を失っている寮監に、今度こそ本物の父刀夜直伝の、まるで謝るために生まれてきたかのような見事な土下座(お願いだからこの記憶を忘れてくださいましー! と念じながら)をすると、こそこそと――もし、監視カメラがあれば変質者間違いなしの不審さMAX――詩歌の部屋に向かう。

 

不思議な事に、変態シスコンじゃないのに、第三者的に事実だけを突かれるとまるで否定できない!

 

 

 

 

 

路地裏

 

 

 

『T:MQ』のナノデバイスを婚后光子が運ばれた病院へと届けると、<風紀委員>に届ける前に色々と話を聞きたいので、人気のない所に捕まえた査楽を連れてきた鬼塚陽菜。

 

 

(美琴っちといい、詩歌っちといい、食蜂っちといい。なぁんとなく、勘的にこの流れに乗らないとマズい気がするんだよねぇ。しゃあない、ちっと競技をサボらせてもらおうとしようか)

 

 

「―――ほい。とっとと起きな。鶏骨(トリガラ)

 

 

先程出汁を出すために丁寧に粉砕処理(フルボッコ)させてもらった鶏骨をそこらの給水所からパクってきた水をぶっかける。

 

暗く人気のない場所で、ニヤニヤと嗜虐心に満ち満ちた笑顔を浮かべるその様は、もう言い訳のしようがないほどの悪人。

 

とても良く似合っている。

 

目覚めてまず最初にそれが視界に入った査楽さんが、震えるのも無理がないくらいに。

 

しかもその体はドラム缶の中に突っ込まれており、そのままコンクリを流し込めば、東京湾に出荷できてしまうくらいに準備が整っている。

 

燃やせぬものなしの学園都市最強の発火系能力者であるなら、そこらの建物から現地調達でコンクリを手に入れてしまえそうだから、さらに怖い。

 

 

「これは<死角移動>対策。私しか見えない状況なら私の背後しか飛べす、逃げられっこないだろ。だから、気にしなくていい。“ちゃんと答えてくれれば”やらないから、そんなに怖がんなくて良いよ」

 

 

いや、無理だ。

 

この状況で恐怖を感じない奴なんて、暗部でもそうそういない。

 

コイツ、本当は暗部側の人間じゃないのか。

 

こんな過酷な旅路を進むなら、目覚めない方が幸せだったかもしれない。

 

対象が目覚めなければ尋問も拷問も始まらない。

 

しかし、目覚めなかったら、コンクリを流し込まれそうだから、やはり最悪の事態を回避するためにも起きた方がよかった。

 

 

「それじゃあ、早速吐いてもらおうか」

 

 

「な、何を! 言っておきますけど、私はあの少女には手を出してません! アレを痛めつけたのは馬場がやったんですけどね!」

 

 

逃げ場のない状況で凶眼に晒されているという混乱。

 

こうなれば、役立たずな同じ<メンバー>の一員を売ってでも助かりたい一心で叫ぶ査楽に、やれやれと陽菜は嘆息し、

 

 

「ほれほれ早くしないと、“下は大火事になってんだから”五右衛門釜の温度が上がるよー」

 

 

ジュ―――と、ジャケットから音。

 

見れば接着している部分が、ドラム缶が少しずつ赤く、赤熱している。

 

もしドラム缶になみなみと水が満たされていれば、それで本気で出汁が取れてしまいそうな火力。

 

しかし残念なことに緩衝材となる水はなく、ジャケット越しからその熱が伝わってくる。

 

 

「私は加減が苦手でねぇ。もたもたしてると、ボッ、としちまうかもしれないねぇ」

 

 

「悪かった! もう御坂美琴には、常盤台には手を出しません! ただ、今回のには私は疑問を持っていたんだけど、それでも仕事だから仕方なく! ただやったのは全部あのデブのせいですけどね!」

 

 

言い訳の要領の悪い新入社員のように悲鳴を叫び続ける査楽。

 

あの馬場というなんちゃって策士が、オモチャを持っていても、婚后光子に敵わない。

 

きっとこの男が不意打ちでもしたんだろうと言うのは、聞かなくても予想がつく。

 

しかし、このまま言い訳を聞くのは可哀そうというか、面倒なので、ちゃっちゃっと話を進める。

 

 

 

「じゃあ、そのアンタらを雇った人間を教えてもらおうか?」

 

 

 

そして、こんがりとグリルされる前に査楽の口から飛び出した人名は、鬼塚陽菜、いや<鬼塚>にとって因縁深い相手のものだった。

 

 

 

 

 

操車場

 

 

 

「くぅ~っ! よくもッ! よくもッ! この僕に―――!」

 

 

こうなったのは全部、あの時、あの小娘が大人しく自分に従わなかったからだ。

 

絶対に、許さない。

 

ブレザーが焼け焦げてボロボロの服装で、馬場芳郎はひたすら逃げて逃げて逃げて―――組織の移動基地へと転がり込む。

 

 

「いけ! 『T:MT』!」

 

 

そこにはあまりに巨大で目立つ外見だから街へと連れてくるのを控えていた蟷螂型戦闘用『T:MT』。

 

これならきっとあの生意気にも僕に逆らい、情報を渡さなかった小娘を、ズタボロにしてやれる。

 

今の馬場芳郎の頭には、<赤鬼>への恐怖と、婚后光子への怒りしかなく、一応同じ<メンバー>である査楽の救出は考えない――少しでも<赤鬼>に関わることは考えたくない。

 

しかし。

 

常盤台中学には、その<赤鬼>クラスの怪物が複数いる。

 

『T:MT』の遠隔操縦室でもあるトレーラーの中で、馬場はふと探知機からその迫り来る脅威の前兆に気づく。

 

 

「婚后光子に取りつけておいた『T:MQ』のGPS通信の反応が近い。……いや、近づいている。このままいくと『T:MT』と接触……」

 

 

おかしい。

 

婚后光子は確かにこのナノデバイスを打ち込まれて身動きが取れないはずだ。

 

いくら鬼塚陽菜にサンプルになるもう一機の『T:MQ』を取られたが、それでもこんなに早く回復するとは、考えられない―――と、その疑問を解消する答えを『T:MQ』と繋がったカメラ映像が映しだした。

 

 

「!? なっ、なんで……」

 

 

常盤台中学の体操服に、肩まで伸ばした茶髪―――先日の依頼で見せられた情報の娘と一致。

 

そう、

 

 

「―――何故ココに御坂美琴がいるんだあぁッッ!?」

 

 

瞬間、『T:MQ』の反応が消えた。

 

 

「バカなっ! たしかにナノデバイスを撃ち込んだはずッ! 身動きが取れるはずが……ッ!」

 

 

だが、馬場は気付かない。

 

小型の機械を察知し捕まえられる存在が、本物か偽物かなどと。

 

 

「!! そうか! 御坂美琴と同じ外見ッ! あれが<妹達>!! クククッ、ツいてるぞ! 奴さえ捕らえれば汚名返上……!! 小娘どもへの仕置きは後回しだッ! 『T:MT』! コイツを捕獲しろッ!!」

 

 

『T:MT』

 

『博士』が製作した高位能力者とも対等に渡り合えるほどのパワーを持つ、大型の戦闘機械。

 

その鋏鎌は金属だって寸断し―――

 

 

 

ガシャッ、と。

 

 

 

片方の鋏鎌が、能力者の攻撃に耐えられるはずの装甲なのに、一瞬で腕を断ち切られていた。

 

これほどまでの性能。

 

武器で低能な能力をカバーしているはずの<妹達>にはありえない。

 

それだったら、武器なんて必要ないはず。

 

つまり、

 

だから、

 

したがって、

 

よって、

 

すなわち、

 

 

 

「ほ、本物?」

 

 

 

思わず尋ねてしまった。

 

その返答は、もう片方の腕を滅する高圧の電撃―――Level5の名に冠するに相応しい圧倒的な出力。

 

少女よりも大きな身体を持つ『T:MT』だが、その少女の前ではまるで本物の蟷螂と同じくらいに矮小であり、力のない者が、自分の実力もかえりみずに強者に立ち向かう『蟷螂の斧』の例えの如く、相手にならない。

 

蟷螂が他の虫を喰らう捕食者だろうと所詮は、虫に過ぎない。

 

逃げても、磁力を掌握する少女からは逃げられず、足を一本一本ずつ解体し引き千切られる。

 

 

『聞こえてるわよね? 通信機能は避けて破壊したから』

 

 

そして、触覚――音声を拾うマイクから、怪物からの宣告。

 

 

『通信電波からそっちの位置は特定したわ……』

 

 

馬場は少女の声にみっともなく腰を抜かして、答えることなく慌てて悲鳴を上げながら出口に向かうも、開かない。

 

相手は学園都市最高の発電系能力者。

 

こちらの電機システムは全て掌握された。

 

 

『すぐにそこに行ってコイツと同じ姿にしてやるわ』

 

 

画面に映るのは、手足もない、胴体も半分の、馬場芳郎の最後の砦だった戦闘用ロボット。

 

電気系統がショートしたトレーラーの中に電流がのたうちまわっている。

 

 

「ひィイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

 

もう、第3位は、こっちの命さえも掌握している。

 

その声は馬場の悲鳴に何の慈悲を見せないほど、静かで冷え切っている。

 

 

『……と言いたいところだけど、あの女に操られていることを考慮して今回だけは見逃してあげる』

 

 

ただし、

 

 

『もし今後、私の視界で―――

 

 私の友達のまわりで―――

 

 一瞬でも機械獣(ロボ)を見かけたら―――

 

 アンタがどこにいようと必ず見つけ出して―――

 

 

 

――――潰すわよ』

 

 

 

今後、どんな仕事が入ってきても常盤台中学とは関わらない、そう頭に焼き付けた後、<メンバー>馬場芳郎は白目を剥き、あぶくを吹いて失神した。

 

 

 

 

 

???

 

 

 

(どうやら白旗は上げなくても良いようねぇ)

 

 

少し、だけ安心する。

 

ようやく安眠にはいったこの少女に打ち込まれたのは身体の動きを封じる軍用ナノデバイス。

 

電機系の能力が干渉している恐れがあり、現場で見つけた時はワクチンソフトだけで完治するかは分からなかったが、どうやら通じたみたいだ。

 

しかし、他がどうやら失敗した。

 

姫君は鳥籠から出て行ってしまったし、

 

聖母は門番との糸が切れてしまったし、

 

暴君は試合をも放り出してしまったし、

 

奴らからかなり警戒されている人物達が自由に動きだした。

 

まあ、こちらは失敗しても命に別条がないから良いし、この程度なら今一番先手力を取っている私の修正力でどうとでもできる。

 

 

(にしても……)

 

 

 

『ウミっていうのみてみたいなぁ……』

 

 

 

学園都市は内陸にあり、海とはつながっていない。

 

学生も能力開発の技術をその毛髪一つからも秘められていることからチェックも厳しくそう簡単には街からは出られない。

 

そして――――だから、彼女はその夢を叶えられなかった。

 

 

(うふふっ。けどぉ、これはこれで私の誘導力で利用できるかもしれないし、最終手段的に呉越同舟もありかもねぇ)

 

 

敵の敵は味方なのか、と。

 

女王はお城の中でしばし盤上を眺め気を窺う。

 

 

 

 

 

ホテル 上条詩歌の部屋

 

 

 

「失礼しますよー、お兄ちゃんが入りますよー」

 

 

そっとノックしたけど、反応がない。

 

もう一度ノックして確かめてから部屋に入った上条当麻は、

 

 

「詩歌さん。今日はお寝坊さんでござ―――」

 

 

そこで台詞を止める。

 

下手をすれば、当麻の学生寮の部屋よりも大きいかもしれないワンルーム。

 

豪華絢爛で、それでいて飾りは控えめにした、薄暗い一室で。

 

 

 

カーテンの隙間から差し込む陽の光に眠り姫の姿が、幻想の如く浮かび上がっていた。

 

 

 

一人で使うにはやや大きなサイズの、そして綿雲のようにフカフカなベットに包まれるように、華奢な身体が横たわっている。

 

暖色のパジャマに、その右手は美琴の言う通りに寝相が悪いわけでもないのに無理にお守りの髪飾りのリボンへと伸ばされ、そして、広がる艶やかな黒髪と、陽光を浴びて纏う雪よりも白く輝く(かんばせ)

 

長い睫毛は密やかに伏せられて、静かに寝息を立てている。

 

 

「……もうすぐ寒くなんだから風邪引かないように寝る時はちゃんと布団に入れって、口酸っぱくして言い聞かすべきか?」

 

 

溜息と共に苦笑する。

 

起こす立場と起こされる立場が逆転している初めての機会に、少し兄らしく苦言を呈すも、まあ今回は仕方ないか。

 

そう思いながら、音を立てぬように、ゆっくり、ゆっくり眠り姫のベットに近づく。

 

ああ、ちくしょう。

 

昨夜、御坂達の異端尋問は正しい。

 

彼女達が指摘し、危惧した事は、全く以てズバリと正しかった。

 

本当に、全くその通りだ。

 

悔しいが、仕方がない。

 

今なら進んで自首してしまえる。

 

 

 

だって、記憶を失くして初めて、妹と知らず兄の色眼鏡なしに見た時、一目で惚れちまったんだから。

 

 

 

全く、妹馬鹿(シスコン)もここに極まれりだ。

 

もしあのまま知らなかったら、泣かなかったら、きっと自分は自分の理性を御し切れたか自信がない。

 

本当に、土御門のヤツを笑えない。

 

前の上条当麻はよくできたもんだ、と本気で感心する。

 

しかし、『妹の愚兄(ヒーロー)になる』という誓いを反故にしないためには、彼女にとって不幸になる要素は極力殺さなくちゃならない。

 

例えその対象が他ならぬ上条当麻であったとしても。

 

 

(……やれやれ。しかし我ながら、本当に不幸なポジションに立たされたもんだな。まあ、幸せだけど)

 

 

とにかく、愚兄の方針は変わらない。

 

兄としてしてやれる当然の事を、そして最善と信じる事を、詩歌に対してずっとやり続ける。

 

これから先も変わることなく。

 

 

―――そんな決意を改めて胸に刻みつつ、賢妹の頭を右手でそっと撫でようか、と。

 

 

 

 

 

 

 

さて。

 

すっかり忘れているようだが、つい先ほどまで上条当麻は、上条詩歌の師匠である寮監と激しいバトルをしていた。

 

当麻は、詩歌の特訓で、終われば毎回グロッキーに倒れ込んでいる。

 

今も、色々と――罪悪感などで――忘れてしまっているようだが、昨日の分やここまで全速力で走ってきた事も含めて、朝飯も屋台で食べるかもしれないから軽く済ませたし、身体は限界に―――

 

 

ガクッ、といきなり膝が砕け落ちた。

 

 

ありゃりゃ? と額を着地点としていた右手は燃料切れという急なマシントラブルでふらふら~、と泳いで不時着して、

 

 

 

ふにゅんっ……

 

 

 

「おお……これは」

 

 

不時着して倒れ込んだ上条当麻を衝撃ゼロで受け止めてくれたもの。

 

右手が、五本の指が食い込ませている膨らみは、押し込めばどこまでも沈みこむほど柔らかいけど柔らかすぎず、それでいて押し返すような適度に張りを保った弾力をもつ至高の質感。

 

そして、とても掌に収まりきれないサイズで、パジャマ越しから少しずつ体温が高まるのを感じる。

 

なるほど、いつもより大きく見えたのは、寝る時は息苦しいから外しているのか、納得だ。

 

うむ、きちんと成長しているようでなによりです―――って何も考えるな、今更だけど!

 

 

―――パキンッ、と何かを右手が壊した感触。

 

 

(うん。凄い多福感ですけど、不幸だと叫びたくなるから不思議だ)

 

 

とにかく、上条当麻の考えうる限りで、最低な眠り姫の起こし方というのは間違いない。

 

しかし、すでに上条当麻は生物と鉱物の中間と化し、考える事をやめている。

 

いや、嘘です。

 

けど、この状況でドジっ子お兄ちゃんです、てへっ♪ だなんてやっても絶対に許してもらえ―――

 

 

「えっ……? 当麻、さん……詩歌さんは、混乱しています」

 

 

―――目覚めてしまった。

 

その大人顔負けの身体とは裏腹に、まだ大人になりきれていないあどけない表情はある種魔的で頬を薄らと紅潮させる詩歌の顔を見て、当麻は心底ほっとした―――けど、心胆が急速冷凍されていく。

 

 

「そうか。奇遇だな、お兄ちゃんも絶賛混乱中だぞ」

 

 

是非そうあってほしい。

 

正気でこんな真似をするなら、確実にそいつは変態だ。

 

 

「はい。それで混乱中のところ悪いんですが、起きたら実の兄が妹に抱きついていて身の危険を感じるような事態に遭ったらどうすればいいのでしょう?」

 

 

「それは大変だ。そんな変態シスコン野郎は牢屋にぶち込むべきだ。今すぐ<警備員>を呼ぶべきだな」

 

 

「そうですか。では、当麻さん、携帯を貸してくれます?」

 

 

「うん、けどやっぱり最初は当事者同士で話し合って穏便な解決法を模索すべきだと思います」

 

 

「では、これは、一体何なんですか?」

 

 

寝起きドッキリ並みの突然のトラブルに詩歌の反応は鈍く、いまいち状況を把握できていない。

 

口調からはあまり感じ取れないが、動揺しているのが何となくわかる。

 

妹の事をちゃんと分かってやれる当麻さんは本当に出来たお兄ちゃんだ、と現実逃避ぎみに―――いくらなんでも起きたら実の兄が胸を鷲掴みにして抱きついていたなんて普通は戸惑うと誰だって分かる―――色々と脇に置いてから、

 

 

「詩歌、御坂が<妹達>について助けてほしいって―――」

 

 

「私はそういう事を聞いているんじゃないんですけど……」

 

 

「詩歌、お前が誰かに眠らされてるって聞いて当麻さんは心配したんだぞ、全く―――」

 

 

「詩歌さんは、この状況に当麻さんの事が本気で心配になるんですが。昨夜の異端尋問であれだけ弁護した苦労は水の泡だったのかと……」

 

 

「すみませんでした!!!!!」

 

 

飛びあがってからの頭両手両足同時五点着地土下座。

 

跳躍から着地までシンプルだが高難度の土下座だ。

 

今も美琴達がどこかで事件解決に戦っているかもしれないが、今、愚兄は心身ともに大ピンチなんだ!

 

 

「いやー、流石の当麻さんもハプニングにびっくりして、謝るタイミングを失くしたっていうか、ね……」

 

 

「散々誤魔化そうとして、やっと誤った後に今度は言い訳ですか? 往生際が悪いです当麻さん」

 

 

ダメだ……

 

ギュッと右手を掴まれ口調も普段通りでにこやかな微笑みを見せてはくれているけど、段々とお目覚めから頭の回転数を加速度的に上げていくスーパーコンピューターはかなり熱暴走しているせいか、顔は真っ赤だ。

 

 

「遺書的に感想とかあります?」

 

 

これはもう、お兄ちゃんは死刑台への十三階段を登り切っちゃったってことですか!?

 

法廷とか呼ぶ必要なく、有罪判決が決まっちゃっていることでしょうか!?

 

いや、分かってる。

 

確かに当麻も、寝ている詩歌に抱きつく奴がいれば、本気で殴ってやりたいくらいだ。

 

でも、状況判断で仕方ない場合は許してやるべきではないかとも思い始めてます。

 

しかし、感想。

 

求められたのなら答えなくてはならないのか。

 

本当に俺の妹は発育が大変優秀Level5、男としてここで死んでも一片の悔いなし―――じゃなくて、もっと兄として残せるもの……と、当麻はそこで閃いた。

 

 

「お兄ちゃん的に寝巻がネグリジュじゃなくてパジャマだったのは安心しましたでせう」

 

 

「~~~~~っ!?」

 

 

詩歌は結構大人びているというか、体つきは大人顔負けで発育◎だし、胸元とか膝下が薄絹で直に見えるよりも艶めかしいネグリジュでも似合いそうだけど、やはりこの年頃の女の子とすればパジャマだ。

 

当麻は兄として妹の警戒心がちゃんとしている事を素直に喜んだ。

 

 

(うぉっ! 照れてる詩歌も、ちょっと可愛いな)

 

 

さらに、いつもの泰然自若と余裕のある笑みを浮かべているのに、それを指摘されてほっぺたをさらに赤くして詩歌が照れてる顔は新鮮で、年相応の女の子らしさがあった。

 

しかし、この状況で死中に活を見出す刀夜と同じ境地に辿り着くとは流石は親子。

 

そして、それが妥当なものか、的外れなものか、今ここに判定を下せるジャッジはいないが―――最後の言葉として不適切なのは絶対だ。

 

 

「何だかそう言われたら当麻さんの事も安心してきました」

 

 

「そうかそうか」

 

 

「つまり当麻さんには悪気がなかった。ですので、今回は無罪という事でお開きに――――と、言うとでも思いましたか?」

 

 

「ですよねー」

 

 

「でも、安心したのは本当です。安心して―――当麻さんを全力で×せます」

 

 

その後、当麻は詩歌の『朝のラジオ体操』――という名の極支地獄――に付き合わされた。

 

 

 

 

 

???

 

 

 

「アリャリャ、馬場ちゃんリタイヤだってさ。手駒のメカ全滅。査楽ちゃんも赤鬼に喰われた。急いで身を隠すシェルターを探すって。イミフ。あと御坂美琴を押さえるの失敗したって。それにホテルに向かった奴らも、謎の女管理人に首を絞められて全滅」

 

 

こりゃ私も出る事になるかねー、とボヤくのはナース服、ドクロの首飾りに色も暗いヘビメタルな看護師のコスプレ少女。

 

 

「馬場君も査楽君も身の程を弁えていない三流ですが、頭は回る子です。けれど、赤鬼、ですか。<超電磁砲>だけでなくこれでは、相手が悪過ぎです。これは簡単にはいきませんね」

 

 

その近くに侍るのは、<メンバー>の一員で、馬場芳郎と査楽の上司役のような、リーダーの『博士』の助手役のような、そして、今回の依頼主の家族のような、白衣を着た赤髪の成人男性。

 

 

「ナニナニ? 知り合いなの?」

 

 

「ええ、あまり関わりたくないですが。この前、親族に預けている家出から戻ってきた『不良娘』が、<大覇星祭>の常盤台の試合を見たいとせがまれたと聞きましてね。あそこのLevel5などといった能力者を見ました」

 

 

「マーマー、私もあそこの噂は良く聞いてるよ。ウチの学校とは違って基本に忠実な王道タイプなんだってねー。この前も『先輩』が痛い目に遭ったし。けど、ぶっ倒さなきゃいけない訳じゃないし―――今日中に全部片付くならなんとかなるでしょ」

 

 

「ええ、それなら簡単ですね」

 

 

 

つづく


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