とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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大覇星祭編 玉入れ合戦

大覇星祭編 玉入れ合戦

 

 

 

バスターミナル

 

 

 

ステイル=マグヌスはようやく自力で身体を起こせる所まで回復した。

 

先程から定期的にメンテ機械をメンテする技師達が行き来しているが、現在、彼のいる位置は、ちょうど死角になるらしく誰も気づいている様子はない。

 

いつもなら『人払い(Opila)』のルーンを使うのだが、今のステイルは魔力を封じられてしまっている。

 

 

(少し切り札を失った程度でこのザマか。僕も成長してないな……)

 

 

ステイルは浅い息を吐く。

 

自分の切り札である<魔女狩りの王>は300人もの魔術師を圧倒できるほど強力な超法王級の魔術(そこまで強化するには彼女の助けが必要だが)。

 

だが、その切り札を奪われると極端に弱くなってしまう。

 

もちろん、文字の意味が壊されないようにカードにラミネート加工を施したり、蜃気楼による回避術式を考案したりと対策もとって来たが、それらは基本的に『切り札を奪われないようにする』為の方策だ。

 

だから、今こうして奪われた後では何の役にも立たない。

 

 

(これだけの醜態を晒して、僕はあの子を守れるのか……? もしも今回の敵の狙いがあの子だったら、どうするつもりだったんだ。この三下が……)

 

 

苛立ちをぶつけるように地面を蹴る。

 

 

―――カツン。

 

 

その時、足に何かが当たった。

 

ステイルは足に当たった物を拾い上げる。

 

それは先程の施術鎧の破片。

 

『パルツィバル』と刻まれ、そして、その上に――――ローマ13騎士団の紋章。

 

 

「これは……しかし、一体どうやって……」

 

 

おかしい。

 

ローマ13騎士団は先頭に特化した集団であって、隠密が得意と言う訳ではない。

 

少なくても、ステイルが覚えている限りでは、あの三沢塾以来、学園都市には――――

 

 

「まさか――――」

 

 

 

 

 

競技場

 

 

 

『玉入れ』。

 

基本的に<大覇星祭>は、『外』の学校での体育祭でやるような一般的でメジャーな競技を元にしている。

 

なので、この『玉入れ』も勝敗を決めるのは単純で、多く玉を籠の中へ入れた方が勝ち。

 

だが、学園都市の『玉入れ』は『中学校対抗で行う』という大規模な競技。

 

さらに、『玉入れ』の籠は高さ3mを10本。

 

そして、今回、この『玉入れ』に出場する選手の総数はおよそ2200人。

 

しかし、紅白分けると、白が2000で紅が200と、しかも、紅は全員、華奢を通り越して可憐にすら映るお嬢様。

 

観客席にカメラが多いのもその可憐な花が咲き乱れる百花繚乱な様子を映すためだろう。

 

が、これはあくまで学園都市の『外』の見解。

 

学園都市の『中』の見解は全くの逆。

 

紅は、常盤台中学。

 

現時点で全競技負けなし。

 

トップを長点上機学園と争っている超名門校。

 

その総戦力は、たとえ200人弱でも笑顔でイージス艦を撃沈させられるほど。

 

そう、数や体格に差があろうと、たかが2000人程度で勝てるわけがない。

 

 

『大敵と見て恐れず、小敵と見て侮らず』

 

 

さらに、常盤台中学の臨時総大将が喝を入れたおかげで、真剣な雰囲気を漂わせている。

 

おそらく、この前の『バルーンハンター』で勝てたものの、格下の相手に良いようにやられ、醜態を晒してしまった事が火をつけてしまったのだろう。

 

おかげで、実力と気迫の揃った真の王者、最強の無双集団になりつつある。

 

これはもう白が可哀そうでならない。

 

事実、彼らは、常盤台中学を一目見ただけで、過酷な戦場に赴くような悲壮な覚悟を決め、さらに、ごく一部では、白の鉢巻きを集めて白旗でも作ろうか、と相談している。

 

始まる前から負け戦である。

 

と、そんな中、御坂美琴は両手を腰に当てて、前髪から全身からバチバチと青白い花火を散らしていた。

 

これは、エースとして相手を威嚇しているのではない。

 

 

(……一体何なのよ)

 

 

軽く100mは離れた対戦相手の陣営。

 

2000人を超す中学生達の中に、何か居てはいけない人間が混じっている。

 

ご丁寧にも、どこかから学校指定の体操着まで用意して。

 

一度も勝負に勝てた事のない人物が。

 

泣き顔を見られた事のある人物が。

 

今、非常に会いたくない人物が。

 

 

(ア・ン・タ・は、そこで何やってんのよ。ねぇ……ッ!?)

 

 

対戦校どころか、美琴の周囲にいる常盤台生も恐れ戦いているが、俯いたまま暗い笑みを浮かべてパッチンパッチン空気を鳴らしている彼女は気付いていない。

 

その様子に美琴とは。遠く、真逆の反対方向にいる1人の少女がやれやれと溜息をつき、そして、真正面のコーコーセー2人はと言うと…………

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「(か、覚悟はしておけ土御門! あそこのお嬢様は怒ると東京タワーでもへし折れそうな雷撃の槍を飛ばしてくるぞ!!)」

 

 

「(……にゃー。連中の能力干渉レベルを総合すると、生身でホワイトハウスを攻略できると噂されてるからな。それに彼女達は多かれ少なかれ詩歌ちゃんの手解きを受けている。大怪我をする事はないんだろうけど、怪我の1つや2つは避けられないぜい、カミやん)」

 

 

あれからうまく白に紛れ込む事に成功した上条当麻と土御門元春。

 

だが、学園都市で最も可憐で、最も強い無双乙女集団の重圧に少々ビビり気味。

 

2人は若干腰が引けつつも土壇場の作戦会議を行う。

 

 

「(<速記原典>ってのは、あくまで方式の名前であって、実際に分厚い本がそのまま仕掛けてあるとは思えないにゃー。怪しいモンは見当たらないし、パッと見じゃ分からないと思うぜい)」

 

 

土御門の言葉通り、校庭には『魔術っぽいもの』など見当たらない。

 

凸凹とした地面の校庭に、玉入れに使う金属ポール状の籠が10本。

 

その周囲を埋め尽くすように散らばっているのは、赤と白の玉。

 

 

「(でも、<占術円陣>の反応は確かに校庭を指してたし、詩歌ちゃんもここに何かあるって感じてんだろ?)」

 

 

だが、ここに仕掛けてあるのは確かだ。

 

 

「(ああ、魔力の“匂い”を感じたっつってたぞ……でも、ここじゃ力の波動が多くて、どこにあるかも分からないって……くそっ、最初っから古びた本の形をしてりゃ良いのにな)」

 

 

それがオリアナの狙い。

 

落書きや引っ掻き傷、染みや汚れに偽装を施す事で追手の目を欺き、時間を稼ぐ。

 

 

「(それなら心配はいらないぜい、カミやん。オレが修めた陰陽には、景色や建物に細工を施す風水技術も含まれてんだ。この手の魔術的記号の『読み取り』はオレの十八番(フィールド)なんだよ)」

 

 

土御門は己の自信を示すように小さく笑みを作る。

 

事実、彼には上条家に入っただけで、そこに<御使堕し>の儀式場だと見抜き、その建物全体が大規模な多重複合魔法陣だと看破した実績がある。

 

 

「(それに反対側には詩歌ちゃんもいる。彼女の目は、そうそう簡単には誤魔化せない)」

 

 

さらに、その土御門が調べる逆側から、詩歌が<速記原典>の探索を行う。

 

<幻想投影>の解析技術もさることながら、彼女の目は、異能のあらゆる構造を全て暴く。

 

過去に三沢塾の術的構造を見抜き、すぐに復元されたものの建物ごと世界最高の錬金術師の儀式場を破壊した事もある。

 

しかし、当麻は少し眉根を寄せ、

 

 

「(なぁ土御門。ここのどこかにオリアナの<速記原典>があるんだよな。それって、魔導書……しかも<原典>ってヤツなんだろ? 読んだら人の心が壊れるって話だけど、それって玉入れに参加した人間が皆倒れちまうって事にはなんねーんだろうな?)」

 

 

「(いや、それは多分ない。<速記原典>ってのは、読み手に理解させようって努力ゼロの魔導書だ。元々内容の読めない殴り書きの魔導書なら、汚れた知識が伝わる事もない。だから、その点は心配ないぜい)」

 

 

「(だが、詩歌はどうなっちまうんだ! アイツは何でも触れただけで理解しちまうんだぞ! 殴り書きだっつっても、関係ねーだろ!)」

 

 

当麻は自分達のいる左端から、遠く離れた反対側の右端へ心配の眼差しを送る。

 

あそこに、妹――詩歌がいる。

 

やはり、強引にでも大人しくさせるべきだったか、と。

 

 

「(カミやん、落ち着け。さっきはああ言ったが、詩歌ちゃんなら大丈夫だ。<幻想投影>は全てを投影する。たとえ、魔導書の<原典>であろうとな。<原典>は正しく理解してくれる者には危害を加える事はない)」

 

 

如何に強力な魔導書であろうと読まれないのでは意味がない。

 

そう――本は誰かに読まれる事でその効果を発揮する。

 

だから、己を、その存在理由を理解してくれる者を見限るという事はない。

 

今はまだ一度も読ませた事はない(土御門が知る限りでは)が、『<幻想投影>――上条詩歌は<原典>に愛される『読み手』になり得る力を秘めている』、と土御門はそう睨んでいる。

 

 

「だがな――――」

 

 

当麻が土御門の両肩を掴む。

 

愚兄も賢妹の事は認めている、誰よりも認めている。

 

しかし、それでも、万が一でも、危険な事はさせたくない……そう望むのだ。

 

だが、その一方で……彼女の気持ちを知っている。

 

 

「……くそっ……俺は、どうすればいい……どうすれば良かったんだ」

 

 

愚兄の苦悩に土御門は何も答えない。

 

その答えは、己自身で見つけろというかのように……

 

だが、これだけは言う。

 

 

「カミやん、オレとステイルがオリアナ達にやられたのを悔やんでんなら、それは御門違いだ。オレはカミやんに決めろと言った。だから、オレ達を言い訳に使うな。今度そんな事を言ったらぶん殴るぞ」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

(<速記原典>ですか……)

 

 

あの後、当麻と土御門と擦れ違った際に交換した情報を整理する。

 

 

・今、逃走者――オリアナの<速記原典>という使い捨ての魔導書の迎撃術式で妨害を受けている。

 

・それは、設置型のものらしく、不幸にもこの校庭のどこかにある。

 

 

それだけ、だ。

 

どんな妨害を受けているか、

 

ステイル=マグヌスがどうしていないのか、

 

何故、土御門が拒絶反応を押してまでも魔術を使ったのか、

 

オリアナ=トムソンとは3人の手では余るほどの強敵だったのか、それとも他に協力者がいたのか、

 

時間的な問題もあったが、向こうはそれ以上教える気がなかった。

 

詩歌にはいくつかの現状予測ができているし、向こうが自分の事を全て上条当麻に一任しており、それに土御門が口を挟む事はない、というのも分かった。

 

今回は非常事態と言う訳で最低限の協力をする事になっているが、おそらく、当麻が答えを出すまで、詩歌が前線に出る事に彼らは良い顔をしないだろう。

 

でも、今の当麻は迷っている。

 

迷い、己の潜在能力が発揮できなくなっている。

 

あれでは駄目だ。

 

だから、後で絶対に当麻と話し合う。

 

話し合って、決着をつける。

 

でも、今は迎撃術式の破壊が優先だ。

 

 

(インデックスさんから魔導書の<原典>の危険性は良く教えてもらっています)

 

 

魔導書――特に<原典>級になると、その『毒』はプロの魔術師でさえも発狂させる。

 

そして、それは文字が刻め、意味を成せるものなら『本』という形にこだわらなくても良く、石板サイズか、それよりも大きな物が<原典>となる事も可能で、大きければ大きいほど接触機会が増えてしまう。

 

だから、一刻も早く見つけなければならない。

 

そこで、目をつけたのは、横一列に並ぶ玉入れ用の10本のポール。

 

これは土御門の考察。

 

妨害受けた際、即座に逆探知をしたらしいのだが、その反応が出てきたのはここのグラウンド。

 

もし、ポールではなく玉だとするなら、倉庫の方角を示さなければならない。

 

何故ならここにある玉の全てはつい先ほどばら撒かれたもので、時間的に玉に細工できる余裕がない。

 

詩歌も玉が用意される前からいるが、魔力の気配を感じたのはポールが設置された校庭のグラウンドに入ってからだ。

 

それに、詩歌はわざわざ校庭に出て、直接ポールに細工するような不審人物は目撃していない。

 

それに、あれほど厳重な競技場のセキュリティを逃げてる最中に破ってくるとは思えない。

 

だから、きっと搬入前か、搬入中に<速記原典>でポールに細工をしたのだろう。

 

術者のオリアナなら発動と停止のタイミングを計れるだろうし、競技に関する情報は、大画面、電光掲示板、来客者用に配布されているパンフレット、と簡単に得る事ができる。

 

そこから、運営委員のタイムスケジュールを事前に予測し、迎撃術式を設置したのだろう。

 

と、そこまで考えた時、校内放送のスピーカーのスイッチが入る。

 

 

『位置について』

 

 

スピーカーから運営委員であり、先輩である吹寄制理の声が聞こえる。

 

 

『用意』

 

 

これから、この場にいない敵との戦いの火蓋が、切って落とされる。

 

 

『始め!!』

 

 

だが、詩歌は笑っていた。

 

 

(こんなときに不謹慎ですが、まさか当麻さんと一緒の競技に参加できるなんて、少しだけ嬉しいです)

 

 

<幻想投影>で取り込んだ火炎系最強の<鬼火>を目覚めさせる。

 

 

「―――行きますっ!!」

 

 

そして、上条詩歌は足元を爆発させて、誰よりも早く、戦場のド真ん中へと突っ切って行った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ピーッ!! と笛の音と同時に『玉入れ』開始。

 

校内放送のスピーカーが、運動会で良く使われるような行進曲を流し始める。

 

テンポの軽い音楽を完全に無視する形で、2つの学校の学生達が左右から一斉に中央へ向かう。

 

 

「すみません。ここから先はしばらくの間立ち入り禁止です」

 

 

そんな中、常盤台中学の中でも一線を引く輝きを持つ少女――上条詩歌が誰よりも早く、ポールの下へとたどり着き、両手を前方に――――

 

 

――――ドゴオオオンッ!!

 

 

という轟音と共に、相手選手が簡単に薙ぎ飛ばされた。

 

これは爆発ではなく、爆発した際に生じる爆風を利用した衝撃波。

 

爆破の威力と配置を調節し、ベクトルの方向を操り、凄まじいの熱流破を狙い通りの位置へ炸裂させる。

 

おかげで右端に陣取っていた2000人の一部がごっそり減らされ、その最前線にいた血気盛んな学生達も沈黙。

 

詩歌はそのまま念のため周囲の玉に異常がないかを拾いながら確かめ、それからポールの周囲を探りながら、(全く上を見ずに)籠へ玉を入れていく。

 

 

 

と、その一方、反対側の当麻達はと言うと、

 

 

 

「うおおっ! カミやん、なんかいきなり伏せろおおおっ!!」

 

 

土御門が叫び、当麻が横っ跳びに地面を転がった瞬間、ポール籠を挟んで数十m先にいた常盤台の絶対可憐無双集団から、赤や青や黄色の色とりどりの閃光が襲いかかって来た。

 

それは地面に着弾すると同時に衝撃波を撒き散らし、1発1発が砂埃と共に数十人の男子生徒を薙ぎ払っていく。

 

 

「ちょ、なんか連中10mぐらい後ろに転がってますがーっ!?」

 

 

人混みの一部がごっそりとなくなっている。

 

当麻が参加した『棒倒し』でも能力による攻撃はあったが、質も量も比べ物にならない。

 

土の地面に巨大なクレーターを作り、舞い上がった砂塵も衝撃波で一掃されている。

 

さらには、爆破と同時に、別の能力者が<空気風船(エアバック)>や<衝撃拡散(ショックアブソーバー)>など防護系の能力をかけているため吹き飛ばされた選手に大した怪我はなかった。

 

だが、その攻撃が苛烈であるには変わりない。

 

あまりにも凄過ぎる周囲の地形さえも変える殲滅戦。

 

その攻撃範囲が広大過ぎて、詩歌に強化された前兆の感知さえも役に立てない。

 

 

『王者は兎を狩るにも全力を尽くす』

 

 

そう臨時総大将から喝を入れられたお嬢様達はかなり本気である。

 

だから、

 

 

「行くぞ、土御門! 俺が盾になるから、後ろについて来てくれ!」

 

 

あらゆる異能を消滅させる右手を持たない限りは、ポールの下に辿り着く事はできないであろう。

 

もしものための保険となっている防護能力さえも失ってしまうが、ここで前へ進まない訳にはいかない。

 

当麻は、襲い掛かってくる赤や青や黄などカラフルな閃光を回避するルートを選択し、追い討ちとして飛来してくる火炎放射や雷撃の槍や真空の刃や土塊の砲弾に対し、右手の<幻想殺し>、左手の<梅花空木>と両手を上げた構えを取る。

 

上条当麻には上条詩歌ほどの場を支配するような回避スキルや絶対の判断力はないが、その代わりにどんな場であろうと支配されない防御スキルと不屈の闘志を持ち合わせている。

 

賢妹ほど天分の才に恵まれた訳でもない。

 

だが、愚兄は気が遠くなるほど積み重ねてきた。

 

才能のない事に絶望せず、記憶を失っても変わらず、その愚かしいほど真っ直ぐな意思は誰よりも強い輝きを放つ。

 

そして、不幸――実戦の中で磨かれた技術は、その天才達の領域へ手を伸ばし掛けていた。

 

 

「こっちだ!」

 

 

大地を焦がす火炎放射の射程距離を見抜き、

 

視認するのも困難な速度で同時に迫りくる雷撃の槍と真空の刃を右手――<幻想殺し>で払い除け、

 

そして、斜め上から噴射点からの気流で飛んでくる土塊の砲弾を左手――<梅花空木>を盾にして受け止め、そのまま腕だけではなく身体全体を使って強引に後方へいなす。

 

不幸中の幸いと言うべきか、土塊には防護能力が掛けられていたので大した衝撃はこなかった。

 

そのまま当麻達は熾烈を極める戦場を駆け抜け、校庭の中央、横一列に置いてあるポールの下へとたどり着く。

 

ポールは人が支えるのではなく、金属製のスタンドで地面に固定されたものだ。

 

 

「……(よーしカミやん。オレはこれからポール籠を反対側から調べてくる。カミやんはそのまま<速記原典>見つかるまで待機しながら、お嬢様達の相手を頼む)」

 

 

「……(分かった)」

 

 

こうして、序盤早々、其々逆側のポールの元へ辿り着いた2組は全長3mのポールを上から下まで丹念に調べ始めた。

 

 

 

 

 

???

 

 

 

黒騎士――『パルツィバル』は遠くに繰り広げられる壮絶なその光景を、紫色に染まった両目で隈なく観賞していた。

 

 

(いた……)

 

 

そして、その強化された差しは吹きすさぶ暴風と舞い上がる砂煙に紛れる2人のターゲットを捉えた。

 

自分に任された任務は、追っ手の妨害。

 

あらゆる手段を使ってでも、この計画の邪魔となる敵を動けなくさせる事。

 

そう、殺しても構わない。

 

運び屋の罠により、ここへ来た者たちは自分への警戒が薄れている。

 

そこが、狙い目だ。

 

彼らはこの衆人環視の中では派手な事はできないと思っているだろうが、むしろ逆だ。

 

ここまで派手な嵐のような戦場の中なら、外から流れ矢が飛んできても誰も気づかない。

 

そして、その『矢』が誰かに命中し、不幸にあっても不思議な事ではない。

 

それでも、一発だけしか機会はない。

 

一発で仕留められねば、警戒されて、このような機会は二度とない。

 

だが、自分ならその一発で十分だ。

 

この<聖人>でさえも射殺す<量産聖槍(ロンギヌスレプリカ)>と、視界で捉えた物に100発100中の精度で当ててきたこの隊随一の腕。

 

近接戦闘も得意だが、投槍による遠距離での攻撃の方が戦果を挙げている。

 

だから、己は『パルツィバル』――円卓の騎士の1人で、投槍が得意な槍の名手の称号を得る事が出来たのだ。

 

数多の敵を屠って来た必殺の槍に手を掛け、これからまたこの右腕でローマ正教に貢献できると考えると、淀んだ喜びを脳幹から染みだされる。

 

乱れそうな呼吸を、そして、体内で暴れ狂う<原典>を抑えながら、構えを取る。

 

 

あれから一度も槍を取った事はなかった。

 

 

だが、その程度で腕が鈍る事はない。

 

 

突風が横殴りに吹き、再びターゲットが砂塵の中へ隠れてしまう。

 

 

だが、この程度で精度に影響が出るわけがない。

 

 

奴らは、施術鎧で強化された自分を一度退けさせた。

 

 

だが、あの程度でこの槍を防げるわけがない。

 

 

それほど、この槍に、この腕に生涯を掛けてきたのだ。

 

だから、目の前にある選択肢は2人の内、どちらを狙うか。

 

そして、殺すか………殺さないか、だ。

 

そのまま一分の狂いもないまま、<量産聖槍>を掲げる。

 

強化された五感で風向と風速を読み取り、ターゲットへ狙いを定める。

 

およそ1kmも離れており、鎧の加護もないが、研ぎ澄まされた歴戦の技量に、この<原典>により強化された身体なら、この神武の領域にも踏み込める。

 

最後に、軽く槍を回す。

 

空を切り裂き、常人の目には映らない、されども、時計の針のように狂いのない正確な演武。

 

くるくる、と回すたびに冷たい実感を反芻し、血が凍りつく。

 

しかし、それとは裏腹に鼓動は速まる。

 

 

「……決めた」

 

 

ピタリ、と槍が止まる。

 

同時に体内の空気をゆっくりと吐き出す。

 

全てを吐き出し、肺を空にした瞬間――――

 

 

――――ヒュッ。

 

 

空気を吸い込み、前へ一歩踏み込む。

 

呼気を爆発させ、力を解放し、槍を投擲する。

 

 

「ガアアアァァアアァッ!!」

 

 

街を走るは、このビルの屋上から強化された視界をなぞる一条の漆黒。

 

『パルツィバル』の語源は、『貫く』と『谷』、すなわち『谷を駆け抜ける』。

 

ビルが作り上げた人工的な谷。

 

その谷の天辺から底へと<量産聖槍>が駆け抜ける。

 

その地形効果が『パルツィバル』の意味を高め、黒騎士の投槍を強化する。

 

ターゲットを呑み込む爆発的な勢いの能力の嵐。

 

その嵐さえも抉る投槍が重力で僅かに落ちながら音の壁を貫いていく。

 

そして、その先にいるのはツンツン頭の愚兄であった。

 

 

 

 

 

競技場

 

 

 

「(……違います)」

 

 

――1本。

 

 

「(……土御門っ)」

 

 

――2本。

 

 

「(……外れだカミやん)」

 

 

――3本。

 

 

「(……これでは、ないようです)」

 

 

――4本。

 

 

オリアナが使っていた単語帳の有無はもちろん、ポールの支柱に文字が刻まれてないか、地面の金属スタンド部分に妙なマークが描かれてないかまで、事細かく調べる。

 

しかし、それぞれ2本ずつ計4本目になるが、結果は芳しくない。

 

戦局も、初期の殲滅戦から、乱戦へと移行している。

 

ただ土御門の盾になることしかできない当麻には、時間だけがジリジリと過ぎているような錯覚を感じる。

 

焦る。

 

このままでは<原典>に『触れて』しまう人間が出てきてしまうかもしれない。

 

 

「……(カミやん、次行くぞ)」

 

 

遠目で詩歌が3本目のポールへ移動しているのが見えた。

 

そして、土御門と当麻達も、3本目のポールへ移動する。

 

と、目の前で人の壁が揺らいだ。

 

常盤台中学の猛威にも負けず、強行軍で進んでいた一団の1人が倒れ、そこから連鎖して将棋倒しを起こしたのだ。

 

彼らはそのまま1つの塊となって3本目のポールへ激突。

 

ゴン! という金属音と共に、震動。

 

もしも、オリアナが3本目のポールに迎撃術式を仕掛けていたとするなら――――間違いなく、大惨事だ。

 

プロの魔術師であるステイルも重度の日射病のような症状を引き起こすなら、魔術に耐性のない人間なら死に至る危険性もある。

 

 

「クソッ!!」

 

 

土御門と当麻は慌てて集団に向かって走る。

 

詩歌も数瞬遅れてから事態に気付き、即座に移動を開始する。

 

が、

 

 

(まずい!)

 

 

ぐらり、と3本目のポール籠が大きく揺れる。

 

さらに雲霞の如く白の集団に邪魔されてしまう。

 

その間に、3本目のポールは横に倒れ、隣にあった4本目のポールに激突。

 

そして、さらにドミノ倒しは続き、4本目は、5本目にぶつかる。

 

金属製のポールが倒れていく先に、紅白其々の選手が立っていた。

 

少年と少女は、突然の災難(アクシデント)に頭が追い付いてないのか、目の前に迫りくる重さ30kgの鈍器を、ポカンとしたまま眺めていた。

 

 

「―――失礼っ」

 

 

ふわ、と詩歌は進行を邪魔している男子生徒の肩に飛び乗ると、男子生徒を足場にして、身軽に跳躍。

 

 

「へ!? なんだあの子は!」

 

「空を歩いてる、だと……!?」

 

「きゃー、詩歌様!!」

 

 

そのまま空中で、空を蹴る足元を爆発させ、牛若丸のような八艘飛びを披露。

 

徐々に推進力を得て加速。

 

強引に最短ルートを走破する。

 

 

「土御門ッ!!」

 

 

それを見た当麻は叫ぶと、同じように土御門の背中を踏んで、将棋倒しを起こした男子生徒達の壁を飛び越える。

 

詩歌とは違い、単純に高く跳んだ当麻は、空中でバランスを崩すが、そのまま女の子のランニング状の体操服の首の後ろを掴み、その勢いで倒れてくるポールの軌道から逸らし、抱き抱える。

 

碌に受け身も取らずに地面に激突したものの、当麻がクッションになったおかげで女の子に怪我はない。

 

詩歌の方も男の子の身体を突き飛ばして、回避に成功。

 

 

と、思いきや、

 

 

「なっ!?」

 

 

少し離れた所で能力による炎弾が倒れていた4本目のポールに着弾し、爆発。

 

そのまま、避けた筈だった4本目ポールはその真逆――当麻の方へと進路を変える。

 

金属バットの数十倍もの重量が当麻に勢い良く襲いかかる。

 

さらに、5本目のポールが地面に激突した衝撃で砂塵が舞い上がる。

 

 

(当麻さんっ!!)

 

 

衝撃波で体勢が崩され、視界が瞬断され、詩歌は迂闊に狙いが付けられない。

 

 

(くそ、避けた先に軌道修正してんじゃねぇよ!!)

 

 

地面に倒れ込んだ直後の不安定な姿勢では、続けて跳ぶ事など不可能だ。

 

当麻は落下の衝撃で痺れる身体を動かして、今だ頭が追い付いていない女の子だけでも突き飛ばす。

 

吃驚した顔の女の子は、最後まで自分の身に何が起きているか分かっていないように見えた。

 

 

(………ったく!!)

 

 

30kg超の金属ポールに対し、当麻は歯を食い縛った――――瞬間、

 

 

ゴォン!!

 

 

教会の鐘を鳴らすような轟音。

 

何かによって4本目のポールが真横に弾き飛ばされた。

 

それはオレンジ色の光線。

 

その破壊力はポールを真っ二つに引き千切り、残骸へと変える。

 

超電磁砲。

 

音速の3倍もの速度で撃ち出す、Level5第3位の代名詞。

 

ふらふらと振り返った上条当麻が見たのは、

 

 

「ったく……アンタってヤツは、そーこーまーでーしーてー私に罰ゲームを喰らわせたいって言うのかしらーん!?」

 

 

全身からバチバチと火花を散らしている常盤台中学のエース――御坂美琴の姿だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

(良かった……)

 

 

砂塵の幕が晴れ、遠目で当麻の無事を確認した詩歌はホッと安堵の息を吐く。

 

そして、何やら妹分の美琴とトラブルに巻き込まれそうだが、それを無視して探索を開始。

 

今、こうしてポールが倒れたというトラブルが起きてしまった事により、競技が中断される確率が高い。

 

そうすれば、競技を再開させるにしても、中止にするにしても、教員や運営委員などの<大覇星祭>スタッフが必ずポールに『触れる』。

 

だから、この混乱中に迎撃術式の<速記原典>を見つけなければならない。

 

 

(ん? この感覚は……)

 

 

周囲に気を張り巡らせたその時、能力とは違う“匂い”を感じた。

 

これは、近い。

 

すぐ近くに魔力の塊――<原典>がある。

 

 

(え!? これは――――)

 

 

だが、それと同時に、

 

 

(――――殺気!?)

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「お、落ち着け! 御坂!!」

 

 

「うっさい! 人様の競技に潜って、ナニやってんのよ!」

 

当麻に無数の雷撃の槍が襲いかかる。

 

それをやたら滅多に右手を振り回し、弾き飛ばして防いだが、それでも向こうの電撃姫の怒りは収まらない。

 

……怒りだけではなく、当麻に対する羞恥と女の子に対する嫉妬も半々ずつ加わっているのだが……

 

とにかく、当麻は助けた女の子を逃がすと、静かな声で平静を努めるよう呼びかける。

 

 

「ん?」

 

 

と、ふわり、と美琴の目の前を通って、足元に1枚の――そう単語帳のような長方形の厚紙が舞い落ちる。

 

飛んできた方向からして、おそらく、ポールから飛んできたのだろう。

 

美琴は、何となくその厚紙を拾おうとして――――

 

 

「ストップ! 待て御坂!!」

 

 

「な、何よ?」

 

 

びくっ、と美琴は動きを止める。

 

当麻は美琴の顔を見ていない。

 

見ているのは、その足元にある例の厚紙だ。

 

ここでは読めないが、何か細かい文字が書いてあるような気がする。

 

 

(単語張のページ!? まさか<速記原典>の正体ってこれの事だったのか!!)

 

 

当麻の背筋に冷気が突き抜ける。

 

悪寒が一気に身体全体を支配し、硬直させる。

 

 

(そういう事か……土御門は迎撃術式に特別な<速記原典>を使ったって言ってたけど、そうじゃねぇ。オリアナの単語帳のページ、あれが1枚1枚全部<速記原典>なんじゃねーのか!?)

 

 

だとするなら、まずい。

 

当麻と美琴の距離は約1.5mほど。

 

近いと言えば近いが、手を伸ばして届く範囲ではない。

 

地面に落ちている厚紙は、競技場全体で起きている異能とのぶつかり合いで生み出される烈風でひらひらと煽られている。

 

あと少し強ければ、御坂美琴に当たって――『触れて』しまいそうだ。

 

当麻は、突然ステイルが倒れた様子を思い出して、息を呑む。

 

今の美琴は、開いたワニの口の中に手を突っ込んでいるようなもの。

 

もう誰もあんな目にはあって欲しくはない。

 

もし、あえば自分は………

 

慎重に言葉を選び、ゆっくりとした声で、危険が迫っている

 

 

「良いか、御坂。訳は後でちゃんと話す。だから、そこを離れるんだ。大事な話だから」

 

 

「はぁ??? アンタいきなり何言ってんの?」

 

 

案の定とでも言うべきか、美琴は訝しげに眉を顰めた。

 

そして、今にもこちらとの距離を詰め寄ってきそうな気配がある。

 

そうなれば、目の前に落ちている『厚紙』を『踏んで』しまうかもしれない。

 

手ではなく、足だが、だからと言って、大丈夫だとは思えない。

 

 

「あのね。今のあんたが人に何か命令できる立場な訳? アンタ、なんでこんなトコにいんの? なんかポールも倒しちゃってまともに競技が進むかも分からない状況になっちゃってるし、ちゃんと説明して欲しいんだけど―――」

 

 

その時、ヒュン、と風切り音が聞こえた。

 

音は背後から。

 

常盤台中学の対戦校である白の男子学生、美琴に向かって真っ直ぐ土の槍を放ったのだ。

 

能力による加速が加わっているのか、土の槍は金属矢のような速度で空気を引き裂く。

 

直撃すれば、軽く骨折はするだろう。

 

だが、美琴は咄嗟の事に驚くも、その攻撃は一瞬で電磁レーダーによって捉えて――――

 

 

「邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

 

それよりも早く当麻の右拳が土の槍を一瞬で粉々に打ち砕く。

 

砂埃が舞い、当麻の頬も汚れるが、彼は拭いもせず、首だけ背後で、今の出来事に唖然としている男子学生に、

 

 

「引っ込んでろっ! 次やったらぶっ飛ばすぞ!」

 

 

視線だけでも気絶してしまいそうな濃密な覇気。

 

それを真正面から受けた彼は、悲鳴を上げる余裕すらもなく逃げ去って行く。

 

 

「ばっ―――」

 

 

美琴は、砕かれた土の槍の残骸と、目の前の当麻の顔を交互に見て、

 

 

「馬鹿じゃないの。味方の攻撃なんか防いじゃって。べ、別に、アンタに助けてもらわなくても、私の力ならどうとでもなったわよ。そもそも、大事な話って何なのよ。競技が終わってからじゃ駄目なの? わざわざこんなトコまで潜り込まなくちゃいけないような話なのかしら」

 

 

「だから後で話すって、御坂。今はとにかくそこから離れろ!!」

 

 

「あーもう! だから何でアンタはいっつも人の話を聞かないのよ! 大体ここから離れるのはアンタの方でしょ!!」

 

 

怒った美琴は、こちらへ一歩近づく。

 

もう爪先が触れるか触れないかの距離だ。

 

焦る当麻は思わず、

 

 

「待て御坂! そこは危険なんだ! お前に怪我なんてして欲しくないんだよ! 俺が来るまでそこを動かないでくれ!」

 

 

うっ、と美琴の動きが止まる。

 

 

「様子が変ね。―――ッ!?!? あ、アンタ、まさかウチの母に変な事でも吹きこまれたの」

 

 

そして、ほっぺたをみるみる赤くしていく。

 

 

「あれは向こうが勝手に言ってるだけで、わ、わわわわ私は認めてないんだから! 勘違いしないでよね!!」

 

 

美琴は首を動かさず、しかし視線だけは当麻から逃げるようにあちこちに巡らせて、

 

 

「そ、それにこれぐらいの競技で、そこまで心配してくれなくても。私の能力があれば、どんなヤツが攻撃してきたって、どうにでも、できるんだから……」

 

 

(ん? さっきから何言ってんだ、コイツは? ってか、なんで顔赤くしてんだろ?)

 

 

何やら様子がおかしいが、当麻はそれどころではない。

 

美琴に警戒されないよう、臆病な小動物を相手にするように、ゆっくりと音を立てずに距離を詰めていく。

 

いざとなったらすぐに飛び込めるよう、美琴の動き1つ1つに注意を払う。

 

一方、何やら追い詰められている美琴は、ううっ、と足をもじもじとしながら背筋をピンと伸ばすと、両手を自分の胸元の方へと寄せていく。

 

髪は整っているのか、服装は乱れてないかとか、どうでもいい事が頭を掠める。

 

そして、勝手に自爆したのかブンブンブンブンブン!! といきなり首を振る。

 

が、当麻の真剣な眼差しと合わせたら、そのパニックすらもが委縮する。

 

口が一瞬だけ悲鳴の形に開いたが呑み込んで、そうしたら息が詰まって、顔が赤くなり―――耐え切れず、視線を逸らす。

 

得体の知れない感覚が、胸の奥から飛び出そうとするのを必死に堪えながらも、彼は近づいてくる。

 

さっきのように、いつものように、雷撃の槍を放ったり、砂鉄の剣などと抵抗のしようはあるだろう。

 

でも、彼は今まで一度も勝てなかった相手。

 

もし強引に迫られれば、きっとなすすべもなく押し倒される。

 

 

(……でも、きっと乱暴にはされないわよね)

 

 

だが、酷く曖昧だけれども、それでいて無闇に強い確信が、手足から抵抗の力を奪い、ただ震える唇を持て余しながら――――

 

 

「―――って、何考えてんのよ! ったく、急に変な事口走って驚かせないでよね」

 

 

美琴はもう一度、頭をブンブンブンブンと振り、顔を上げると、

 

 

「―――ふぇ!?」

 

 

いきなり、上条当麻が眼前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

遠く、高層ビルの真上から死の流星が降り注ぐ。

 

寸分違わず愚兄の元へと。

 

 

「伏せてください! 当麻さん!」

 

 

叫んでいた。

 

それは危機の感覚だった。

 

だが、肝心の当人は周囲の喧騒に邪魔されているのか、それとも何か別の事に気を取られているのか、気付いていない。

 

この刹那の世界の中、詩歌の思考が加速する。

 

声は届かない。

 

なら、アレを破壊するか?

 

いや無理だ。

 

感じただけだが、アレの破壊力は急場凌ぎの防御では止められない。

 

なら、当麻を爆風の衝撃波で吹き飛ばすか?

 

いや駄目だ。

 

もし、当麻に<幻想殺し>を使わせてしまったら逆にピンチを招く。

 

なら、異能ではない何か別のもので――――

 

 

(お願い! 間に合って!!)

 

 

足元を爆発。

 

手加減なしの全力。

 

足首に灼熱の痛みが走るが構わない。

 

あの時、光の羽が舞い落ちる中で、上条当麻を一度『見殺し』にしてしまった。

 

だから、今度こそは絶対に助ける。

 

己を砲弾とし、当麻を――――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

いきなり背骨が折れるかもしれない衝撃が襲いかかり、数瞬だけ意識を失ってしまった。

 

で、再起動すると。

 

左頬に湿った柔らかな感触。

 

背中には何か大きくて柔らかな感触。

 

上と下から甘い香りが鼻腔を擽る。

 

デジャブ?

 

なんかこれと同じようなのが、ちょっと前にもあったような……

 

でも、あの時とは上下逆だし、左じゃなくて右だったような……

 

と、そんな事を考えながら、上条当麻は身体を持ち上げる。

 

下、当麻の腕の中にちょうどすっぽり収まるように御坂美琴がいた。

 

倒れたまま、自分に覆い被さっている当麻を見上げている美琴は。両手を胸の前に寄せた状態のままカチコチに凍りつき、

 

 

「ふぇ!? ふふふふにゃ、にゃ!?」

 

 

プシュ~~、と顔が爆発したように真っ赤になって、思考回路がショートしている。

 

言語も日本語から猫語にランクダウンしている。

 

その様子に当麻の顔に真剣味が増す。

 

 

「黙ってろ。ちょっと動くな」

 

 

「ふにゃ!?!?」

 

 

そう言って、当麻は美琴を押し倒したまま、彼女の顔を間近から覗き込んだ。

 

魔術についてはほとんど素人の当麻の目で観察したところ、美琴の顔は蒸気が噴き出すほど真っ赤。

 

まるで、日射病のように熱に魘されている。

 

……確か、素人が<原典>に触れれば、重度の日射病のような症状を引き起こすんだっけ?

 

当麻はもっと間近で、観察しようとした時――――

 

 

「―――当麻さん」

 

 

不意に後ろからとても聞き慣れた極寒の北極大陸のように冷たい声音が耳朶を打った。

 

後ろから、ではなく、背中からと言うべきか。

 

 

「し、詩歌さん、でしょうか!?」

 

 

すっ―――と背後から白魚のような両手が頭を挟むように伸びてきた。

 

そのまま首の周りに絡みつくと――――

 

 

――――ゴキッ。

 

 

「~~~~っ!?!?」

 

 

首締め。

 

完璧で正確に締められた当麻は、そのまま上体を持ち上げられる。

 

息もできず、声も出せない。

 

 

「本当にこちらは決死の覚悟で飛び込んだというのに、なんかもう……全くもう……」

 

 

耳元をブツブツとした呟きと、黒いオーラがぞわりと撫でる。

 

ヤバい。

 

さっきとは別の意味でヤバい。

 

必死にタップするが解放してもらえず、そのまま走馬灯が見えた所で―――

 

 

「―――ぷはっ!?」

 

 

解放された。

 

大きく息を吸い込み、危うく酸欠になりかけた脳へと酸素を送り込む。

 

そして、慌てて、

 

 

「し、詩歌いきなり何を―――って、それどころじゃねぇ! 詩歌! 御坂の様子がおかしいんだ! 体温が上昇して、顔も真っ赤になってんだよ!!」

 

 

当麻の叫びに美琴ははっとして起き上がり、さらに、詩歌の顔を確認すると、またまた真っ赤に染め上がって、

 

 

「じ、事故よ! 今のは事故! ノーカン! なし! 絶対になしなんだから、アンタもとっとと忘れなさい!!」

 

 

と、そのまま美琴は逃げるようにこの場を立ち去った。

 

おや、と当麻は首を傾げる。

 

あれほど元気に走り回っている。

 

一般人はステイルよりも重い症状が出るらしい事を考えると、どうも美琴は<速記原典>には触れていないようだ。

 

そして、詩歌は『?』を浮かべる愚兄を見て、憐れな妹分を想い、深く重い溜息を長く吐き続け、

 

 

「まあ……美琴さんは大丈夫です。今はそっとしておいてください。それに、ほら、これを見てください」

 

 

と、地面に落ちていた厚紙を拾う。

 

そこには『野義中学校備品』と書いてあった。

 

 

「勘違いですよ、当麻さん。これは<速記原典>ではありません」

 

 

その一言で、当麻も安堵の息を吐く。

 

そうして、余裕ができ、周囲を見渡すと、

 

 

「なっ―――!?」

 

 

後ろに大きなクレーターが。

 

しかもその中央には物騒な槍が突き刺さっている。

 

 

「おーい、カミやん、詩歌ちゃん。無事か!」

 

 

土御門が駆け寄る。

 

そして、忌々しくその槍にサングラス越しで目を細めると、

 

 

「<量産聖槍>。さっきの黒騎士の仕業か。すまない。まさか、こんな大胆な真似をしてくるとは……警戒を怠ってしまった」

 

 

「土御門さん。その槍はあそこから……」

 

 

詩歌が高層ビルの屋上を指し示す。

 

しかし、そこにはもう何の人影もなかった。

 

 

「チッ。オレはあの槍を回収する。このまま競技場にあんな物騒なモンがあったら大騒ぎになっちまう」

 

 

と、土御門が姿を消したその時、ピッ! と笛の音が響き渡る。

 

 

校内放送のスピーカーから、それまで流れていた競技用のBGMがピタリと止まる。

 

直後。

 

 

「全く」

 

 

ガシッ、と。

 

6本目のポールを、横合いから掴んだ。

 

 

「上条当麻、貴様はここで何をしているの?」

 

 

問い掛ける声。

 

 

「訳は後で聞くとして、今はもう大人しく向こうへ行ってなさい。競技は一度仕切り直しになるみたい。これだけ多くの籠が倒れたら公平に進めるのは不可能だし」

 

 

運営委員の吹寄制理が、怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 

 

「聞こえていない? これ以上あたしにカルシウムを食べさせる気?」

 

 

しかし、当麻は、そして、詩歌も彼女の姿を見ていない。

 

その声も聞いていない。

 

その手元を見ていた。

 

正確には、その手元とポールの金属の支柱の隙間に挟まれている1枚の厚紙を。

 

セロハンテープで留められた厚紙。

 

2人は、先ほどと同じく単なる名札のようなものだと信じたかった――――が。

 

 

「吹寄先輩! 今すぐポールから手を放してください!」

 

 

そこには青い文字で、何かの英文が走り書きされていた。

 

 

バギン!! という異音が炸裂する。

 

 

ぐらり、と吹寄の身体が斜めに揺らいだ。

 

 

「ふ……」

 

 

彼女の手が力なく支柱から離れていく。

 

握り込んでいた位置には、青い筆記体で『Wind Symbol』とだけ記されていた。

 

 

「吹寄ェえええええええええええッ!!」

 

 

当麻は思わず叫ぶが、返ってくる言葉はない。

 

吹寄は、そのまま支柱から遠ざかる形で、地面に倒れる直前で、駆け寄った詩歌に抱き止められる。

 

詩歌の腕の中で、全身の力が抜けたように、だらりと手足が投げ出され、動かない。

 

まるで、ぐにゃりとした革袋のようだ。

 

バキバキミシミシと、周囲で空気の軋む音が聞こえる。

 

選手達はその光景に恐怖を感じるが、不思議とは思ってない。

 

何故なら、魔術を知らなくてもこの科学で支配された街では幾らでも不可思議な事は起こり得るのだから。

 

と、そんな事はどうでもいい。

 

 

「当麻さん! 今すぐ! 私が抑えている間に、吹寄さんに触れてください!」

 

 

妹のいつになく切羽詰まった声に、当麻はようやく我に帰る。

 

当麻も倒れた吹寄制理の元へ駆け寄り、彼女の身体をそっと叩く。

 

 

バシュッ、と。

 

空気が抜けるような音が響く。

 

それでも。

 

それでも、吹寄制理の身体に力が戻らない。

 

 

「くそっ……」

 

 

理屈では分かる。

 

ステイル=マグヌスと吹寄制理とでは、魔術による耐性が違う。

 

プロの魔術師であるステイルでさえも、あれだけの威力を受けたのだ。

 

ただの素人である吹寄が、何の準備もなく攻撃を受ければ一体どういう結果を招くのか、誰にだって想像はできる。

 

しかし、それでも当麻は、

 

 

「詩歌!!」

 

 

「分かってます」

 

 

詩歌はそのまま吹寄の身体を抱きしめながら瞑目する。

 

解析・投影・同調。

 

打ち止めの時と同じように、中の異能――精神の透析を始める。

 

 

「大丈夫です。生命力(マナ)が暴走して身体に過負荷がかかっているだけです。“この程度なら私にも治療は可能です”」

 

 

詩歌は断定する。

 

必ず助けると。

 

こんな楽観視できない状況だと分かっている筈なのに、上条詩歌は断言する。

 

 

「ここは私に任せてください。だから、当麻さん達は早く!」

 

 

校庭の端に建てられたテントから、バタバタと何人もの運営委員が駆け寄ってくる。

 

トラブルの匂いを嗅ぎつけたのか、教員の姿もちらほらと見える。

 

だが、彼らの誰もが突然倒れた女子生徒をどう解放していいか迷っている。

 

そこへ、

 

 

「―――そこのあなた。今すぐ私の言う病院へ連絡してください」

 

「―――それからそこのあなた達は担架をここへもって来て下さい」

 

「―――先生方。申し訳ありませんが、学生達への状況説明をお願いします」

 

 

詩歌の指示が素早く飛ぶ。

 

その間にも、詩歌は常備している冥土帰し謹製の簡易医療セットを手にし、状態を詳しく調べながら、<幻想投影>による吹寄制理の治療を行う。

 

その的確な処置と、有無を言わさない指示に運営委員も教員も詩歌の手足のように動き始める。

 

 

「カミやん。ここは詩歌ちゃんに任せていくにゃー」

 

 

槍の処理を終えた土御門が当麻の肩を叩く。

 

先程まで生気のなかった吹寄の顔が徐々に甦っていく。

 

大丈夫だ。

 

詩歌に任せれば、きっと助かる。

 

だが、

 

 

――――ゴォン!!

 

 

恐るべき速度で、真横、ポールの支柱に貼り付けてあった<速記原典>へ、そのポールが変形するくらいに手加減なしに右拳を突き出した。

 

そして、その一撃を受けた単語張の1ページから、浮かび上がっていた文字が溶けるように消え去る。

 

 

「上等だ。オリアナ=トムソン、黒騎士……」

 

 

震える唇を、ゆっくりと動かし、

 

 

「これがテメェらのやり方だって言うなら、無関係な人間を巻き込んだ挙句に、それを投げめて何も感じないって言うなら―――」

 

 

伏せていた顔を上げ、正面を見据えて、

 

 

「―――テメェらのふざけた幻想は、俺がこの手で跡形もなくぶち殺してやる」

 

 

一言で、断言した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

苦しかった。

 

何でだろう。

 

日射病にかかるのは今日が初めてじゃないし、その対策は万全にしたつもりだったのに、それを無視していきなり来た、という感じだ。

 

もしかして、気付かない内に緊張が積み重なって重圧となったのだろうか?

 

折角、この<大覇星祭>を成功させようと準備期間に、他の運営委員の生徒達と一緒に笑って努力したり、審判の手順を一生懸命暗記したのも、帰り道に喫茶店で皆と一緒に競技スケジュールの確認を行ったのも、その全てが『失敗だった』の一言で塗り潰されてしまう。

 

ああ、だから、緊張が積み重なったのか。

 

でも、何故か自分は安心していた。

 

 

「大丈夫です。吹寄さんの努力は無駄にはしません。今、この『玉入れ』はいったん中止の体を取っています。念のため他にも日射病患者がいないかの確認を取る為の休憩も入れてますので、タイムスケジュールは少しずらさなければなりませんが、『失敗にはしません』」

 

 

不思議だ。

 

彼女に抱かれたら、こう淀んだモノをゆっくりと洗い流してくれるように徐々に楽になっていく。

 

母親のような安心感だ。

 

一体何をしているのかは分からないけど。きっと彼女が助けてくれているのは分かる。

 

未だに力は入らないけど、少しずつ、内側から力が湧き上がってくる。

 

初めて会った時から不思議だったけど、何故彼女があの愚兄の妹なのか思えるくらいに優秀な子。

 

周囲の期待を全て背負い、それに応えていく。

 

それがまたより多くの人間の期待を集め、それもまた期待以上に応えていく。

 

だから、最初は、重圧なんてものともしない超人なんだと思っていた。

 

でも、しばらく彼女に付き合ってみればそれは大きな間違いだと知る。

 

確かに彼女は、他の群を抜く正真正銘の天才だと思う。

 

でも、どんなに優秀でも中身は普通の女の子だった。

 

あれは夏休みのまだ始まったばかりの頃。

 

ふと公園へ足を向けると、彼女が珍しく1人で、どこか寂しそうに佇んでいた。

 

そう、何か今にも“おもい”重圧に押し潰されそうな、そんな弱弱しい顔だった

 

その時、思った。

 

超人なんかじゃない、本当に普通な女の子。

 

だから、重圧を感じてないなんてなかった、と思う。

 

常に周りの人の期待を絶する働きをしてきたけれど、それが出来てしまう事に苦しんでいたのではないだろうか?

 

いつ致命的な失敗をして迷惑を掛けて、失望させる事になるかと怯えていたのではないのか?

 

高い場所に行けるからこそ、そこから落ちて大怪我を負う恐怖が付きまとう。

 

だから、彼女はその落とし穴の性質と深さは誰よりも知っていたのではないのだろうか。

 

そう感じた瞬間、あたしは彼女に対する接し方が変わったんだと思う。

 

それに、その彼女を“妹”として扱い、“兄”として接している馬鹿を見て、少しだけだけど見直し、彼らが兄妹である事に納得した。

 

そして、あれこそが、彼女が高みへ上り詰める原動力なのだろう、と思ったりもした。

 

 

「それから、先程は嘘をついてすみませんでした。事情は話せませんが、当麻さんはただ理由もなく馬鹿をやる人ではないんです。本当は、皆と<大覇星祭>を楽しみにしてたんですよ……」

 

 

でも、何でそれだけで彼女はこう自分の分の重みまで背負ってしまうのだろうか?

 

そして、どうして、あの愚兄はあんなボロボロの顔で叫び声を放ったのだろうか?

 

何故あの兄妹は、あそこまで他人の傷に敏感なのだろうか?

 

 

「だから、許して下さいとは言いませんが、今だけは見逃して下さい。お願いします」

 

 

ただの日射病に対する反応ではなかった、と思う。

 

愚兄の方は、何か予想外の事が起きた、という表情だったし、

 

彼女の方は、何か『失敗』してしまった、という表情だった。

 

彼らは何を知っているのだろう。

 

彼らは何を後悔しているのだろう。

 

知りたい、と思うが、彼女のために、こういう不器用な所だけが似ている後輩のために、見逃しておこう。

 

けれども、

 

 

(嫌、だな……)

 

 

吹寄制理は僅かに唇を動かす。

 

彼女は<大覇星祭>運営委員。

 

たとえ、気に入らない愚兄だろうが、可愛い後輩だろうが、吹寄制理個人の好き嫌いは関係なく誰1人俯くことなく全員が楽しんでもらいたい。

 

その為に、自分はこのイベントに関わり、今日の今日まで、一生懸命頑張って来たのだから。

 

このままじゃ、いくら競技が滞りなく進行したとしても、この兄妹が、このままだとしたら吹寄にとったら『失敗』だ。

 

我儘だと思うけど。

 

やっぱり誰にとっても大成功であってほしい。

 

そうして、彼女は自分が救急車で病院に運ばれるまで付き添って、病院のスタッフと2,3会話を交わしたら、こちらに少し申し訳なさそうな顔で、

 

 

「すみません。私、もう、行きます。もう、これ以上待つなんてできませんので」

 

 

ああ、やっぱりこの子は普通の女の子だ。

 

とても優しい、馬鹿みたいに優しい子。

 

本当、あの愚兄にはもったいないくらい。

 

 

「私は…大、丈夫、よ」

 

 

少しだけ回復した体力で声帯を震わす。

 

そのときのあたしはちゃんと彼女に対して笑えたのだろうか。

 

笑って送る事が出来たのだろうか。

 

鏡がないから分からない。

 

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

ただ、彼女――上条詩歌は本当に“強い”笑みを見せてくれた。

 

でも、悔しいけど、あれは本当の満開の笑みじゃない。

 

その、花のような笑みを満開に咲かす事が出来るのはきっとあの愚兄だけだろう。

 

と、彼女の後姿を見送っていると、横合いから病院スタッフの1人――カエル顔の医者が現れた。

 

それを見た吹寄は、もう一度だけ、声帯を震わす。

 

 

「……あたしを…助けて、ください…あの子を、泣かせ、たくないんです……」

 

 

本当に声が出ているのか、唇が動いているかも自信のない声。

 

対して、カエル顔の医者は、

 

 

「奇遇だね? 僕も彼女にはもう2度と泣いて欲しくはないんだよ」

 

 

ただ笑みを深めた。

 

 

「……お願い、します」

 

 

祈るように最後の声を絞り出す。

 

それに彼は一言だけ、吹寄にこう告げた。

 

絶対の信頼を与える、完璧な笑みと共に。

 

 

 

「―――僕を誰だと思っている?」

 

 

 

つづく


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