とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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閑話 ラブ・プリンセス・ファンタジー 黄巾の乱

閑話 ラブ・プリンセス・ファンタジー 黄巾の乱

 

 

 

荒野

 

 

 

学園都市はついに、本格的な仮想大規模ロールプレイングゲームの開発に成功した。

 

そのゲームの名は、『ラブ・プリンセス・ファンタジー』。

 

しかし、このゲーム、なんとゲームをクリアするまで脱出できない。

 

そして、この世界で死亡した場合、現実世界でのプレイヤーは死を迎える。

 

そんな過酷なデスゲームに巻き込まれた3人の少女(と1人の少年)の前に武器を持った男達が部隊を組んでいた。

 

暴虐を尽くしてきた賊達は下卑た笑いを浮かべながら迫りくる。

 

しかし、彼女達に恐れの色はなかった。

 

その内の1人、インデックスが己の身体とは不釣り合いなほど長い『蛇矛』を振りかぶり、賊達に向けて一気に叩きつけた。

 

 

 

「エクス……カリバー!」

 

 

 

解き放たれた光の束は、賊達を縦断し、薙ぎ払う。

 

そして、さらに、インデックスが撃ち漏らした賊に対し、もう1人、美琴が、人差し指を向け、

 

 

 

「ガント!」

 

 

 

破滅の光。

 

一瞬で、次々と賊達を薙ぎ払っていく。

 

ほんの数秒だけ世界を眩い光が照らす。

 

そして、その閃光が消え去ると、そこに賊達の姿はなかった………

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……なあ、詩歌」

 

 

「はい、ご主人様。なんでしょうか?」

 

 

インデックスと美琴の活躍を後方で2人の兄妹が見守っていた。

 

その内の兄が、遠い目をしながら隣にいる妹に問い掛ける。

 

 

「お兄ちゃんは言いたい事が山ほどある」

 

 

なんだか全く負ける気がしないほど頼りになる仲間達だが、それとは別次元の見逃せない問題が冒頭部分で凄くある。

 

 

「はぁ~、全く相変わらずご主人様は質問が多いですね。少しくらいは自分で考えてみたらどうです?」

 

 

「頼むよ。じゃないと、俺、この世界でやっていけそうにない」

 

 

今の彼は、いきなり異国に連れて来られたと思ったら、実は異星で、しかも、一緒に連れて来られた仲間達も異星人だったという、何だかとんでもない展開に巻き込まれたような顔をしていた。

 

先程まで何度か地面や建造物に向かって、イマジン☆ブレイクしていたくらいだ。

 

 

「まずさ、何でこのゲーム。生と死を賭けるほど物騒なモノになってんだ?」

 

 

「さあ? でも、リアルな夢の中で負った怪我は現実の怪我として体に現れる事もあるそうですし、なくはないんでしょうかね」

 

 

そんなお気楽に俺の精神を追い詰めてんじゃねー!?

 

嘘でも良いから、そんなことありえないって言ってくれよ!?

 

つーか、開始早々、お前にぶった切られたんだけど、起きたらヤバくないか!?

 

と、ツッコミたい所だが、まだ聞きたい事はまだまだあるので今はとりあえず堪えておく。

 

 

「でさ、インデックスと御坂の奴。何だかキャラが違くないか? ほら、これって三国志の世界なんだろ。武器を叩きつけただけで衝撃波が出てくるとか、指先から光線が発射される事なんて、ありえないと思うんだが」

 

 

「まだこのゲームは試作段階ですから、色々とバグがあるんじゃないんでしょうか? まあ、これはやり過ぎだと思いますし、すぐに修正されて次は使えなくなるかと」

 

 

そうか……

 

でも、何だかガリガリと精神が摩耗していくような気がする。

 

 

「しいかーっ」 「詩歌さーん」

 

 

「インデックスさんに美琴さん」

 

 

と、その時、戦闘の終えた2人がこちらに駆け寄ってきて、それを詩歌が労うように抱き止める。

 

こちらは全く戦闘に参加しなかったが、あれほどやれば十分過ぎるほどオーバーキルだ。

 

仮想空間なのだからそうなのだろうけど、賊達は骨の一欠片も残さなかった。

 

とりあえず、当麻は色々と泣きたい気持ちを抑え、ゲームクリアに向けて、3義姉妹の後を追った。

 

 

 

 

 

ミサワジュク

 

 

 

ここは、アイサという少女が領主として治める街――ミサワジュク。

 

ごく普通の平穏な街並み。

 

そこで、4人は、新たな仲間達と出会う。

 

 

「あはは、皆さん、よろしくお願いしますねー」

 

 

各国をさすらう風雲の槍使い――ルイコ。

 

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 

ジャッジメント第177支部からやって来た神算鬼謀の軍師――カザリ。

 

 

「……ご主人様、殺す」

 

 

カザリと同郷の軍師――クロコ。

 

……あれ? 何だか1人だけ、今にも寝首をかきそうな危険人物がいる気がするんだが……

 

とりあえず、当麻が毒殺されかけたり、刺殺されかけたりと何だかんだイベントをこなし、仲間を加え、義勇兵50人を得て戦力を増強した詩歌達は世を騒がす黄巾党――『シスター部隊』の討伐へ雄々しく進軍する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ。私の。出番は……?」

 

 

以上。

 

 

 

 

 

荒野

 

 

 

「こっちの方が数は断然上。負けるはずがありません。一気に挽き肉にしちまいましょう」

 

 

シスター部隊のトップ――アニェーゼの号令に、居並ぶ200人ものシスター達は其々武器を掲げる。

 

自軍の4倍もの大軍勢を前に、たった1人で詩歌は対峙する。

 

彼女に戦闘タイプの『キャラ補正』はない。

 

しかし、たった一本の宝剣を携えて、微塵も狼狽を見せることなく、ただ泰然と、ただ堂々と立ちはだかる。

 

その姿は、その風格は、王者というよりも覇王に近かった。

 

それを当麻は遙か後方にとった陣から覗いていた。

 

 

ごくり。

 

 

何だか……また、とてつもなく嫌な予感がする。

 

先陣を切った詩歌に対してではない。

 

大地をどよもし、砂塵を巻き上げて迫りくるシスター部隊に対してだ。

 

そして、その嫌な予感は見事に的中した。

 

 

 

「くうくうお腹がなりました」

 

 

 

突如、可愛らしい台詞とは似ても似つかない歪な黒い影が浮かび上がる。

 

まるで奈落の底から浮かび上がってきたような真っ黒な汚泥。

 

 

「と、止まって!? 皆、止まってー!?」

 

 

「あれは危険です! 今すぐ体勢を整えて反転しなさい!」

 

 

危機を察した側近の2人はすぐさま安全圏へと避難するよう指示を飛ばすが、黒い影は地平から樹木を見下ろすほど大きな巨人へと延び上がり、周囲の土と共に津波のようにシスター部隊を呑みこんでいく。

 

 

「………」

 

 

絶える事のない阿鼻叫喚。

 

 

「キャーーッ!!?」

 

「な、なによこれ!!?」

 

「う、あれ、なんだか……」

 

 

前のインデックスと美琴のデタラメな必殺技と比べれれば、破壊力はなさそうなのだが、

 

 

「………(ニヤリ)」

 

 

何だかこう……生きたまま消化されているような、そんな感じ。

 

悍ましさと恐怖は、2人とは比べ物にならない。

 

そして……

 

 

「………(ニヤニヤ)」

 

 

「いやいやいやいや! 無言で愉悦に浸たりながら、もの凄いモン使ってんじゃねーよ! っつか、何だよ、それ! 絶対に違うだろ!」

 

 

義勇軍なのにこっちが悪者みたいだ。

 

というか、魔王だ。

 

この戦場の凄さは言葉では伝わり辛いが、仲間の美琴やインデックス、それにルイコ、カザリ、クロコはドン引きである。

 

ウチの総大将さんは、無表情で淡々と戦っていらっしゃる。

 

何だかその様子がちょっと病んでるようで怖い。

 

 

「ああ、すみません。何だか、こう黒い物を放出すると、色々と長年我慢してきたモノがすっきりしていくんで、つい夢中になっちゃいました」

 

 

「そ、そうか、色々と溜めこんでたんだな……」

 

 

「ええ、本当……ご主人様には毎度毎度……」

 

 

「あ、あれ、し、詩歌様!? こっちにも何か黒くてドロドロとしたものが近づいて来てるんですけど!?」

 

 

と、詩歌は無言で、己の足元から黒い影を量産していく。

 

もうシスター部隊はいない。

 

近づいてくる、圧倒的な暗闇。

 

魔王(ラスボス)と化した妹。

 

これは仮想空間だ。

 

さっき、詩歌が不安をかきたてるような事を言っていたようだが、俺は信じない。

 

幻想は幻想、現実は現実。

 

幻想で死んで現実でも死ぬなんて事、あってたまるか。

 

そうさ、こんな幻想、この右手で――――

 

 

「フフ、フフフフ。……こうなったら、もうご主人様も、食べちゃおう、かな」

 

 

やっぱり、怖いです!

 

やばい!

 

俺の妹はメチャクチャ怖い!

 

死なないよな!

 

俺、現実世界でも死んでたりなんてしないよな!

 

 

黒い影達は飢えた狼のように今度は当麻達の方へ―――――そして、その内の1つの巨人の口が、当麻を、捕らえた。

 

 

 

「ふ、不幸だあああああぁぁあああっ!!!―――――」

 

 

 

――――ムシャリ。

 

 

当麻は、存在を、喰われ―――――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ご主人様、ご主人様」

 

 

声が、聞こえる。

 

深い闇を潜り抜けて、当麻の意識は覚醒した。

 

 

「あ、れ……?」

 

 

スプラッター映画も真っ青な地獄絵図が展開されていたというのに、最初と見た時と変わらない荒野が広がっていた。

 

大地を覆っていた真っ黒な泥はどこにもなく、まるで最初からなかった事のように。

 

ただ、違う点と言えば、中央に、シスター部隊の主犯格であるアニェーゼ、ルチア、アンジェレネが美琴、インデックス、ルイコの3人の将兵により取り押さえられていた。

 

 

「一体、どうしたんですか? 急に魘されたりして」

 

 

「……なあ、詩歌。これはどういう状況なんだ?」

 

 

夢の内容は思い出せないが、何だか思い出しちゃいけないような気がするので、そのまま心の奥底で封印する事にする。

 

 

「全く、しっかりしてください。一応、ご主人様はこちらの総大将なのですから」

 

 

それから、呆れつつも詩歌から補足説明が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

『ぐはっ!?!?』

 

 

まず、当麻は戦場に辿り着く前に、喉が渇いたのか、たまたま近くにいたクロコから貰った水を飲んだ瞬間に気絶。

 

 

『ま、良いんじゃない。居てもいなくても変わらないし』

 

 

『うん。ただのお飾りなんだよ』

 

 

ただ眠っているだけなので命に別条はなさそうだし、ついでに戦力になりそうにないので、その後、か弱き少女達は全く役に立たない主人公を放置し、必死でシスター部隊と交戦。

 

 

『見つけました! シスター部隊の弱点はそこです!』

 

 

カザリとクロコが陣計の穴を探し、

 

 

『さあ、皆さん。勝利のために頑張りましょう!』

 

 

『『『『『『オオーーッ!!!』』』』』』

 

 

詩歌が義勇兵を率いて、シスター部隊の気を引き、

 

 

『突撃! 粉砕! 勝利なんだよ!』

 

 

その隙にインデックス、美琴、ルイコの3人の強襲部隊が相手本陣に突撃。

 

 

『ちぇいさーーっ!!』

 

 

『―――ぁ、うァァああああああああああああああああ!?』

 

 

そうして皆が(当麻を除く)力を合わせて得たこの好機に、主犯格の3人を将兵の3人が其々打ち果たしたのである。

 

 

「………という訳で、ご主人様は次回からは描写もされない雑兵と同じ扱いになります」

 

 

「え? まじ?」

 

 

「はい。心苦しいのですが、私達は実力主義が基本ですから、役立たずは下っ端行きですよ」

 

 

と、そこで詩歌以外の主要メンバーが戻ってきた。

 

そして、ある者は遠慮がちに、またある者は敵意をむき出しにし、されど、その内の誰もが戦前に倒れた当麻を白い目で『役立たず』と語っていた。

 

割とシビアな軍事社会であった。

 

こうして、軍の象徴であった当麻は、何者かの陰謀により雑兵にランクダウン。

 

次回、当麻は描写されるのか?

 

ツッコミ役を失った義勇軍の行方は?

 

夢のハーレムルートに行けるのか?

 

その答えは神のみぞ知る。

 

 

 

つづく


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