神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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「……!?光圀ぃ……!?」
音を頼りに門に近づいてきた紫村と丑三は、ボロボロになって倒れている光圀を発見した。
紫村は光圀に駆け寄り、彼を抱きかかえた。丑三は光圀の横を通って少し奥に向かっていった。
「光圀!!何があったの?光圀……!?死んじゃダメだ!!光圀……「しむ……ら……」!!」

「へへ……生きてた……信じて……みるもんだな……」
光圀は意識を取り戻す。うっすらと眼を開け、弱々しい眼光で紫村の顔を見た。
「俺のライムは……?届いているか……?」
光圀はそう告げる。
「猿に……届いているか?」
紫村は丑三の方を見る。丑三の前には、巨大な猿が横たわっていた。桃太郎のメンバーの1体だった、あの大猿だ。
その胸に、ヒビ割れた大きなつららが突き刺さっている。それを見て紫村は叫ぶ。

「!す……すごい!!やったよ!!キミの『戯』が猿を倒した!!届いてるよ、光圀!!」
その言葉を聞いて光圀は笑顔を作り……そして、カクンと意識を失った。
「光圀……?……光圀!?」
光圀は全身から力を抜いた様に、ダランと手を下げた。紫村はその手首を掴む。そこから脈動は感じられなかった。紫村は恐る恐る光圀の胸に耳を当てる。
そこからは、何の音もしなかった。ただただ、静かだった。
「みつ……くに……光圀ぃ!『あれ……?』!?」

紫村が亡骸を抱きしめようとしたその時、鬼ヶ島の方から声が低い声が聞こえてくる。現れたのは侍風の男、桃太郎だ。
『うーわ……マジかよ、猿死んだ?お供は常に3体にしときたいのに、また猿も補充しなきゃじゃねーか、ダァホが。
せっかく、新しい犬、見つけたところなのによぉ』
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、空から電子音の様な鳴き声が聞こえる。
現れたのは、ロボの様な見た目の雉、そして、それに掴まれて連れてこられた、全身タイツにイヌミミをつけたナツメグだった--



第51話---すきすきだいすき

〜金太郎チーム〜

 

「では、私の『戯』から披露しよう……来い、エクス・デュランダル!」

先程の爆発は一旦忘れ、発現した『戯』を見せてもらう明石達。まずはゼノヴィアだ。

「そして、エクス・デュランダルから、エクスカリバーを外す!」

エクス・デュランダルが2つに分離する。ゼノヴィアはそのうちの片方……金の柄に青い刀身の剣を携えた。

「私の大事なものは、この伝説の聖剣、デュランダル。『戯』の効果は……しっ!」

ゼノヴィアは近くにあった木の根元の方をデュランダルで叩き切る。すると……

 

「なっ!?切り株が無い!?」

切られた木の上部は吹き飛ばされ、下部は……消滅した。

「これが私の『戯』の能力さ。この剣で分断した物のうち、面積が小さい方を消滅させる能力。名前は……安直だが、『デュランダジャラ』、とでもしておこうか」

 

次は涙ちゃん。

「私の大事なものは、この楽譜。私、ベートーヴェンの交響曲を弾くのが好きだったんだ。弾いてみるね」

そう言うと涙ちゃんは空中で指を動かし始める。すると、何もなかった涙ちゃんの指先に、鍵盤が現れる。

「この曲は第3番、『英雄』の第1楽章。軽快なリズムが素敵でしょ?」

その言葉に明石達は頷く。

「私、ピアノが大好きなの。生まれた時から、そう決まってたんだ。例え、両親が弾けなくなった私を見捨てても、私はピアノを嫌いになれなかった……私の、人生みたいなものだから……」

涙ちゃんの目に水が溢れる。しかし、涙ちゃんはそれも気にせず、ピアノを弾き続ける。

「私の『戯』は、ピアノの音楽に沿った力を任意の人に付加させる能力。この曲は『素早さ』、そして『力強さ』を付加(エンチャント)するの!」

言われて明石は気づく。今の自分の身体が、今までに無いくらいに力に満ち満ちていることを。

明石はクラウチングスタートの体制をとると、そこから走る。すると、いつもの自分の速さだと10秒ほどかかりそうな距離を、今は7秒そこらで走りきることができた。

「……すげぇ。さすが涙ちゃん!いいサポーターだよ!」

その明石の褒め言葉に、涙ちゃんもピアノを止めてはにかむ。

「えへへ、これが私の『戯』、『ピアニスタジャラ』だよ」

その演奏と『戯』に、明石達は拍手を送ったのだった。

 

「よし、じゃあ熊退治に行くぞ!」『おう!』

というわけで、6人は見晴らしの良い場所に陣取る。

戦闘慣れしたゼノヴィアは、他の人に指示を出す。

「相手はあのデカい熊1体、やえの『ジャンパジャラ』を使って戦うには、広い場所がやりやすい」「熊の攻撃は全部避けたるで。動きの速さなら負けへん!!」

「芽衣」「任せて!!攻撃力は無いけど、人の盾としてならいくらでも出せる!!……準備OKだよ!」

芽衣ちゃんは『モシャジャラ』で3人の偽・明石を召喚する!

「涙」「『戯』で他の人の強化、だね。任せて!」

「よし、準備は整ったな……?明石、それは何だ!?」

 

急に話を振られた明石は、ゼノヴィアが指差す方……自分の右肩を見る。そこには、1体の人形の様な生き物が乗っていた。

「う、うぁああ!!」「敵!?敵や!!」「叩き切ってやる!」

 

「あ、待って!!違う違う!!」

新たな生き物の登場に驚き、肩から叩き落として攻撃しようとする明石達を止めたのは、芽衣ちゃんだった。

「この子は、私が考えたキャラクター!!

私の描いた絵本の主人公の女の子。ノートに描いてたのが出てきちゃったみたい」

芽衣ちゃんが主人公、といった頭くらいの大きさの女の子は、『すきすき』と喋る。

「絵本……?」「芽衣ちゃん、絵本描いてるの?」

その言葉に芽衣ちゃんは、少し恥ずかしそうにスケッチブックを見せる。

「あ……まぁ、ちょっとね。ずっと描きかけのおはなしがあったの。それが実は……昨日はじめて完成したんだけど……」

「えー、めっちゃ読みたい!」「読ませて読ませて!」「俺も俺も!」

金太郎チームは皆競う様に芽衣ちゃんの絵本を読む。しばらくして、皆が笑顔で本を読み終わった。

「……おもしろいよ、これ!」「うん!芽衣ちゃんらしくて良いじゃん!」「才能あるんちゃう!?」「この『すきすきだいすき』ってタイトルも、シンプルで良いな」

芽衣ちゃんの絵本は、金太郎チームにかなり好評だった。芽衣ちゃんの口も自然と綻ぶ。

「このキャラとかかわいーよね」

そう言って明石が指差すキャラを見て、芽衣ちゃんは言う。

「あ……そのキャラは……アカッシーがモデルなの」

「へ?」

 

芽衣ちゃんは明石の方を向いて、告げる。

「このお話は、実体験を元に作ったものだから、アカッシーや涙ちゃん、やえちゃん、福満、ゼノヴィアちゃん、それに……皆に会えたから完成したんだよ。『好き』って事が何なのかわからなくなって……動けなかった昔の自分への……今の私からのメッセージなの」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、

 

『ヴォ……』

 

奥の森から、低く重い、大きな声が聞こえてきた。

 




次回、熊とのラストバトル。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!

※少し変えました。

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