神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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カミは明石のグーパンを喰らい、吹っ飛ぶ!勢い強く朝礼台から落ち、地べたで這いつくばっている。醜い、実に醜いな。
「どういう……つもりです……YOU……!?」
カミは明石を睨みつけ、低い声で言う。カミ・ブリックは口から、これまで多くの者を血溜まりに変えた銃をスタンバッている。しかし、さすが明石は動じない。

「ジャンケンだろ?俺はグー、出しただけだぜ?

『ルール上の事故(ハプニング)』だ。まぁ、そうカッカすんなよ」

明石はさっきカミに言われたことをそっくりそのまま言い返す。屁理屈ともいえるが理屈は通ってる。わざとやったと証明出来ないなら、明石の言っていることに間違いはない。
「で?どっちの勝ちだよ?」
ここでカミは自分の手を見る。もともとカミが出したのはチョキ、明石はカミに叩きつけたグー。明石はジャンケンに勝ってる。ただ、これだけのことをして、生きていられるのか?
そう思って明石を見る。あいつの顔は本当に、感情を捨て覚悟を決めた漢の眼をしている。

「……ルールはルールですからね……」
その言葉に、カミ・ブリックも頷いた。

『明石靖人、生キル』

……やめられない……!!
明石への想い……!眩しすぎて直視出来ない……!
生と死を常に行き来するように、常に死の美に溢れている!
俺はそう思いながら、かつて彼と同じように壮大で儚い光を輝かせた星を思い出していた。

--高校一年の冬、
「ウージみっちゃーん♪こっちむーいて♪」

「ん?」

「キメーよばか!」「笑うなウジみつ!眼が腐る!」
「ウジみつ触っちまったー」「ヤダー」「キモーい」
俺は生まれてこの方、友達と呼べる他人がいた事は無かった。
永遠に続く孤独を、受け入れる覚悟はとっくに出来ていた

……つもりだった。

「おい皆、席につけ!今日は転校生を紹介する。えー……転校生の……!?」
次の瞬間、一人の小柄な男子?女子?中性的なやつがスケボーに乗って入ってきた。
「六手進一っス、半年後に転校します。六ちゃんって呼んでください!短い間だけどよろしくお願いしまっス!」
クラス中が騒然となった。俺は、半年後に転校、という言葉に疑問を抱いたのを憶えている。
不思議な男が転校してきたその日、俺は学校近くの駅の踏切で、クラスメイトから金をたかられていた。その頃俺はまだひ弱で、アイツらに一人で勝てる程の力は持っていなかった。
「……なんだコレ?爆弾?」
アイツらはカバンの中に持っていた大事な物を線路の端の茂みの中に放り投げ、俺を一発蹴飛ばすとどこかに行った。俺は大事な物を探す為、茂みを探した。それはまだ未完成で、できるだけ早く完成させたかったからだ。
それを見つけた時、後ろから「ひゃっほ♪」と声が聞こえた。俺が振り返った時、1人の男子が横から来た電車の目の前ギリギリをスケボーで飛び抜ける、という荒技をやってのけていた。
「……おわっ!?人!?危ねぇどけっ!!」
「転校生……!?」
反射神経の無かった当時の俺が彼から避けられる訳もなく、俺は彼と正面から衝突した。その一瞬後、電車が彼が飛んできた所を通りすぎた。
「……っぶね……ははは、わりーわりー……あれ?同じクラス?」
「死ぬとこだった……何故こんな危険な事を?」
その問いに彼……六ちゃんは「ドキドキしたいからに決まってんじゃん」と言った。

「あ、そーだ。友達になってよ」「え」
「俺がいなくなるまでの6ヶ月、傍にいてくれよ」
その言葉に俺は思考を停止させてしまったのを今でも覚えている。
「名前何てーの?」「あ……丑三……清志郎……」

「よろしく、清志郎」
六ちゃんは俺の人生で、最初の友達だ。
彼とはいろんな事をやった。プールに行った時、ヒョロイから鍛えろと言われ、そこから筋トレは俺の日課になった。そのお陰でここまで生きているんだから、感謝したい。
そんなある日、
「六ちゃん、また鼻血」「ん?あー大丈夫」「本当に大丈夫?なんか最近鼻血多くない?」
六ちゃんは鼻から出た血を拭きながら、俺に話しかける。
「なー、清志郎……」「ん?」

「俺さ、もうすぐ死ぬんだよね」「……ん?」
六ちゃんの話では、彼は病気で産まれた時からずっと病院で暮らしていたらしい。しかし半年前、医者にもう治らないと言われたそうだ。治らないとわかったから最期に普通に生活したかった、と六ちゃんは言っていた。

「だから清志郎……お前は俺の、最後の友達なんだぜ」

彼にそう言われてから、俺は大事な物の完成を急いだ。2日後、ついにそれは完成した。

六ちゃんの独白から3日後、俺は彼を夜の学校に招待した。
「何だよ、こんな夜中に教室に呼び出して……」
軽く文句を言う六ちゃんと教室に入り、教室の電気を消した俺は、完成した機械の電源を入れた。

教室に、星空が広がった。

「うおぉ!すっげー!!プラネタリウム!!」
そう言って喜ぶ六ちゃん。そんな彼に俺は言葉を贈った。
「……聞いてくれ、六ちゃん。星は……人と同じく寂しがり屋だ。暗闇の中、独りでは生きていけないから、誰かに見つけてもらうために光り合う。……友達が欲しいと願い続けた俺の光は、六ちゃんが見つけてくれたんだ。ありがとう、俺を暗闇から救い出してくれて」
「……」
六ちゃんは俺の言葉を聞き、黒板に映る星に近寄った。
「……だったら俺は、この一番大きな星だな。誰よりも寂しいから、どれよりも『ここにいる』って光ってる……」
六ちゃんは振り返ると俺の身体に飛び込んできた。
「……?六ちゃん……?」

六ちゃんは、泣いていた。カッコ良さも頼もしさもなく、流れていく涙と鼻水を拭おうともせず、泣いていた。
「うぅ……死にたくねぇよぉ……う……」

俺は、こんな時「友達」はどうするべきなのかわからなかった。ただ、その時のお前の泣き顔が、あまりにも愛おしく輝いていたから……忘れないように、強く抱きしめた。

そしてさよならも言わずに、お前は突然独りで逝った。俺はまた暗闇に堕ちた。

「何か最初から余命半年だったらしーよ」「だからあんなムチャとかして、かまってちゃんだったのかよ」「何しに学校来たんだろーね?」
コイツらには……
「ま、どーでもいっか♪」
何故わからない?
「ぐぇっ!」「う、丑三テメェ!何しやがる!」
必死に生き急いだ、六ちゃんの輝きが、
何故、届かない……?

神よ!貴方がこの世界を創ったというならば、世界は完全に失敗作だ!
だってそうだろ。俺には奴らが輝いているようには見えない。歪んだ星空だ。

それから俺は、暗闇で星を待った。星を……あのドキドキを……俺を暗闇から救えるのは、ただ一つ。

生き急ぐ閃光。
散り際の一等星だ。

『「がっこう」いく?』『勿論(オフコース)

そして出逢った、新しい救世主。

聞いておくれ、六ちゃん。
今、俺の傍には--

あの時のように、愛しい星が輝いてるよ。




第40話---閃光

「勝てよ、丑三。(うえ)で待ってる」

そう言うと明石は、空へ昇っていく「待て」……途中で丑三に足を掴まれる。

 

「ここにいろ、明石……俺だけ一人なんて寂しい。いいだろカミ?観客(オーディエンス)が必要だ」

そう言われてカミは起き上がり、明石に殴られた衝撃で伸びた首を治しながら、「……別に構いませんが、もう殴るのはナシですよ」と釘をさす。

 

最終挑戦者(ラストチャレンジャー)、丑三清志郎』

 

地球誕生(ビックバン)(クラス)閃光(ヒカリ)だったよ明石。やっぱりお前は、とびきりの一等星(スター)だ。

もっとお前のそばにいたいよ、明石……!俺はまだ、死にたくないんだ。俺はまだ……明石のそばで閃光を観ていたい)

 

『セット』

 

(鼓動が速い……足が震える……)

 

『さーいしょーは、グー』

 

(数秒後には……死が訪れるかもしれない。怖い……)

 

『ジャン、ケン……』

 

(これが……生死の狭間……!!!)

この時丑三を、強烈な衝撃が襲った。それは物理的なものではなく、彼の心を大きく揺らす類のものだった。

じゅる……っと、溢れかけた涎を呑む。もはや丑三の意識はほとんどない。それでも手を前に出し、応じる。

 

『ポン』

 

この時、カミが出したのは握りこぶし。丑三が出したのは、それを抱きしめるように開いた手のひらだった。

『丑三清志郎、生キル』

「ちっ……」

カミが舌打ちし、丑三が膝をつく。

明石は丑三に駆け寄った。

「やった……!!すげーよお前!!勝った……!勝ったんだ!!生き残ったんだよ…!!……。……聞いてんのか?丑三……?」

その時の丑三は、どこか虚ろで、眼の焦点もあっていなかった。明石が、(今の勝負のストレスで精神がイカれちまったのか!?)と思い始めた頃、丑三は声を漏らした。

 

「……ワン、ワン……

 

カミ……ジャンケン……

 

ONCE MORE PLEASE(もう一回だ)

 

「は!?」「あ?」

 

「ルールはそのままでいい!!勝ったら生きる(セーフ)、負けたら(デス)でいい!だからワンスモア!」

 

丑三清志郎は、命の観測者だった。死を享受し、それでも戦おうとする命は、散り際に星の如く光る。その閃光を見る為だけに生きてきた。

生死の狭間は絶望よりも孤独で、深く寂しいものだと思っていた。

 

しかし、ジャンケンで観測する側ではなく、観測される側として生死の狭間の極限を体感した時、

 

その時の感情は、想像していたものとは大きく違った。何故だかはわからないが、寂しくもなく、怖くもなかった。

むしろその対極にある、幸福感。

丑三が出した答え……

 

『生死の狭間は、気持ちいい(キモチイイ)』!!!

 

丑三清志郎は、新しい喜びを手に入れた。

観測者ではなく、星となり光を放つ側の喜びを知ってしまった彼にとって、ジャンケンの結果などどうでもよかった。一番大事なのは、自らの命がたゆたう時間。

まるで自分が世界の中心にいるかのような、至福の刻!!

 

彼は、それを--

 

丑三つ時(ウシミツ・アワー)!!!」

と名付けた。

 

「ONCE MORE!!ONCE MORE!!

いいだろカミ!?もう一回だ、ジャンケン!!もう一度あの感覚に連れてってくれ!!」

そのセリフにカミもニヤリと悪そうに笑い、「いいですよ♪」と告げる。

「YOSHAAAAAA!!YESYESYESYES!!」

 

「やめろ丑三!」

そう言って明石は、丑三を羽交い締めにして止めようとするが、丑三は話も聞いておらず、動きも止まらない!!

「EHEHE♪」

(聞いてねぇコイツ……!!……こうなったら……)

 

「こっち向けオイッ!!」「OOPs……」

明石はそれなりに強い力で、丑三の股間を握った!

 

その衝撃で丑三も正気に戻る。それを好機と見て、明石は丑三を説得する。

「お前が死ぬのはここじゃない。これからも俺のそばにいてくれなきゃ困る」

「あう……明石……うん……わかったよ……AKASHI!!」

丑三も明石の股間を強く握る!

(六ちゃん……そっちへイクのはまだ先になりそうだよ……)

明石と戯れながら、丑三は心で謝罪を告げた。

 

「明石……これからは相互鑑賞だ。

フタリデセイシヲカケアオウ」

「え……!?あ……おう……」

 

不意に、二人の身体が浮き出す。二人は一緒に空へと昇っていった。

最終試練(ラストオーディション)『拳』のジャンケン、全員終了。「カミーズJr.」メンバー決定ダ』

カミ・ブリックの言葉を聞き、カミも独り言を漏らす。

「予定よりも多く残っちゃった……ま、いっか。

 

それより……痛ビックリしたなぁ……カミに拳を振るうなんて……あの少年(ボーイ)……

 

カミーズJr.のセンター候補だ……新しい生活でも生き残れたらね♪」--

 

 

--「……良かった!明石も丑三も生き残ったか!」

俺は空の上の家から、家についているモニターで下のことを見ていた。明石と丑三のジャンケンが終わり、俺も元気を出す……空元気と言われればそうだが、それでも元気を頑張って出した。

「生き残ったのは……私達を含めて11人(・・)か。くっ……イリナ、アーシア……!」

「泣くなゼノヴィア!まだ泣いちゃダメだ!……全てが終わってから、それからだ……」

俺はゼノヴィアを慰める。慰めながらも、自分の涙を止めることができなかった。




……まさかの事態、前書きで書いた文が本文より長い!

これで『こぶし』の試練は終了!次回からは『カミーズJr.』編!『こぶし』が原作の写しのようだった分、次からはオリジナル多めに頑張ります!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!

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