神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
一人称は3話連続で匙くん!
アウト!!セーフ!!
よーーーよいの……よい!!!
「ぐ、ぐああ、負けたー!」
「脱ーげ、脱ーげ!」「ははは、また負けてやがるぜ!」
「美味しい!おかわり!」「絶品だわ、これ。いくらでも食べられる……」「(もぐもぐ)」
うらしまたろうの試練が始まって、2時間ほど経った。いや、これは試練とは言えないかもしれない。
あの後も俺達はいろいろなゲームをやった。
王様ゲームをした。命令された人も選ばれた王様も死にはしなかった。
モノマネ大会もやった。モノマネ芸人みたいに上手いやつも、まるっきり真似できていないど下手なやつもいたが、誰も死ぬ事はなかった。
その後もゲームは続いた。最初は緊張と恐怖に埋め尽くされていた顔はだんだんと和らいでいった。食べて、遊んで、笑った。みんなの顔には笑みが見える。この試練中、ほとんど見られなかった表情だ。
「サジ、楽しんでるか!」
もはやシトリー眷属も残っているのは、生徒会メンバーでは俺と翼紗だけ。そんな事は翼紗も分かっているだろう。姫島先輩だって、小猫ちゃんや木場だって自分の仲間の死を気にしていない訳じゃない。他の建物の人達だって、それは同じだろう。眼の前でクラスメート、先輩後輩、他の学校の生徒の死を見ている。それでも、今この時だけは忘れていたいんだろう。今、全てが終わったこの時くらいは。
「……」
俺の視界の端には、憂いた顔がずっと映っている。俺はその顔に声を掛けた。
「会長」
「……サジ、私はこうしてここで怠惰に過ごしていて良いのでしょうか?これまでに、たくさんの人が亡くなりました。椿姫も、桃も、巴柄も、憐耶も、留流子も……クラスメートやリアス達も。その人達に申し訳ないです……」
「お気持ち、お察しします。会長」
俺の胸にも彼女達の姿が残っている。俺がボタンを押したことで死んでしまった、桃や巴柄、憐耶。だるまの試練で生き残れなかった、椿姫副会長。誰も死なせない、そう決意していながら病院でこけしになっているうちに死んでしまっていた留流子。
「……会長。俺はこの事件の犯人が許せません。俺達の生活も、何の罪もない駒王の生徒達の生活も奪っていった、首謀者だけは許せない。だから会長、もしこの死の試練がちゃんと終わったら、一緒に犯人をぶっ飛ばしに行きましょう!その為にも、今はいっぱい食べて、遊んで、力を溜めるんです!」
「元気付けてくれているのですか?サジ……ありがとう」
会長は俯いた顔を上げると、その顔に少し無理したような微笑みを浮かべた。
「お礼なんて……いえ、どういたしまして。俺はただ、思っていたことを口にしただけですが、会長が元気になってくれたのなら、良かったです」
自分の恩人で初恋の主の役に立てたのなら、良かった。そう思う。
『はいはいみんな〜〜〜〜、じゃあ次これ引いて〜〜』
うらしまたろうが箱を持ってきた。中にはたくさんの棒。これはくじか?
「よっと……ん、何だこれ?」「マーク?マルが付いてる?」
俺と会長の所にもうらしまたろうはやってきた。俺達にも引け、というらしい。とりあえず適当にくじを引く。
全員がくじを引き終わった。
「次は何やるんだ〜〜?」
1人が聞くと、うらしまたろうはこう答えた。
『次はないよーー。これで「おわり」--』
ガコン、と音がしたかと思うとエレベーターに乗ったような感覚に襲われた。これは……竜宮城が上がってる?
「おお、終わりか!?」「外に出られる?」「やった!やったー!!」
「……お、おおお!やりました、会長!終わりの様です!やった--」
俺がそう言い終わるか終わらないかのうちに、会長が俺を抱きしめた。
「--か、かかかかかか会長!?いっ、いったたたたたたたいどどどどどどうしたんですか!?」
彼女はゆっくりと口を開いて、言った。
「ありがとう、サジ。ここまで私を支えてくれて。あなたには感謝してもしきれません。本当に、ありがとう」
彼女の唇が俺の頬に触れた。その数秒が俺には無限にも夢幻にも感じられた。
『「知力」……「体力」……「判断力」、「想像力」……それらを活用して君たちはここまでよく乗り越えてきた……』
うらしまたろうが喋り始めた。会長は俺から唇を離すと、自身も俺から距離を取った。その眼の淵にある水が光を反射して、キラリと輝いた。
『で、重要なのがあとひとつ。「だるま」……「まねきねこ」……「こけし」……「しょんべんこぞう」……「うらしまたろう」…………』
うらしまたろうは、からくりの口をゆっくりと開く。
『最後は「うん」』
は?うん?
俺は手元にあるくじを見る。マルのマークの中に、文字が浮かび上がった。
そこに書かれていたのは、たった3文字。
『生きる』の文字が、そこにあった。
「『運』……?」
『うん』
うらしまたろうと女中カラクリの首が伸びた。一瞬、その首から光が見える。その光が消えると同時に、俺の顔に生暖かい液体が飛んだ。
『
『何を言っているのです、サジ。私にとっては、彼女達もあなたも大切な眷属で仲間です。あなたが生き残ってくれて、私は本当に嬉しいわ』
『サジ、プロモーションを許可します!』
『あ、いいえ、サジ。何でもありませんよ』
『ありがとう、サジ。貴方には助けられてばかりですね』
『サジ……ありがとう』
そして、光が見える一瞬前に、会長はこう言った。
『これまでありがとう、サジ。私がいなくても一生懸命、生きてくださいね。サジ……大好きでしたよ』
会長の身体が崩れ落ちる。首から上が無くなった彼女の声はもう聴こえない。
「……」
俺の顔に、涙が伝う。声を抑える事が出来ない。
「……あ、ぁぁああ!?ああああああ……うあああああああああ?!」
天井が開き、久しく目にしなかった青空が見えた。ヘリコプターの羽音が近くで鳴っている。
建物の下からも何かが聞こえる。歓声のような声だ。
暖かい陽射しが慰めるように俺を包んだ。俺はそこに飛び込むように、意識を遠のかせていった--
……今回、久しぶりの死人が出ました。
今回の話はこのSSを書くに当たって、1番最初に思いついた話です。ついにここまで来たのか、と感慨深く思います。
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
次回もよろしくお願いします!