神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
「つ、遂に動くのか!?」
「ああ、今が最大のチャンスなんだ」
男は胸の前で両手を広げ、顔の前でクロスさせる。一瞬、腕が光ったあと。
「全てを、無に還そう」
アザゼルの視界全てが真っ白に染まった--
「おんだおろぢでろうだだ!!」
舌が残るマナの上半身が、舌足らずな声を上げる。そこから少し上に離れたマナの頭が、木場の顔を睨む。
「まだ生きてるのか、化け物め!」
木場は剣を前に構える。そこに、マナの目から飛び出したビームが直撃した!
「ぢね--
--あ?だれら、ろろぢあら
刹那、木場の全身を何かが覆う。それはシャボン玉のような、薄い球体だった。
「な、何だこれは……!?」
木場は全身を覆う膜よりも、その直後に起きた外の世界の変化を凝視した。それは、1度だけ見たことのある景色だった。
視界全てが白に染まる。光が眼前を支配する。
先ほど、『あちらの世界』をマナが破壊したのと同じ光景。つまりは。
ビックバン。宇宙を、世界全てを呑み込む巨大な爆発が再び起きた。
「……マナは完全に倒せていなかったのか!?僕らの世界が、消えてしまうのか!?」
足下から身体が冷たくなる感覚がする。力が入らず、膜の中にへたり込む木場。彼はせめて、同じく神になった4人の生存を願う。
1分経ち、2分経ち……気が遠くなるくらい長い時間が過ぎた気がした。真っ白な世界がだんだんと薄れ、代わりに黒が全てを塗り潰す。
その中に色がついたものが数個。全て自分と同じ『神』だ。
明石靖人、丑三清志郎、紫村影丸、オスメス。
そして、もう2人。
1人は黒髪に金が少し混ざった頭、アゴヒゲの生えたダンディな男。木場達と同じ膜に包まれている。木場は、いや他の4人もその姿に見覚えがあった。アザゼル先生だ、と木場はシャボンの中で呟く。
そしてもう1人、青光りする黒髪に筋骨隆々な上半身、スラッとした下半身を持った男。彼だけはこの空間で何も包まれていなかった。彼は右手に持っている女の子……マナの頭を掴むと、力を込めてそれを粉々に砕いた。
「おめでとう、偉大なる『神の子』達」
その男は一仕事やり遂げた、と息を吐いた後、生き残った木場達5人を参照する。動きたくても膜のせいで動けない5人は、ただその男の話を聞く。
「私はシヴァ。この世界を守っていた者だ」
木場は思わぬ高名に傅く。
「君達はこの世界を侵略してきた異世界の神、アシッド・マナの動きを止め、私の攻撃の十分な隙を造ってくれた。感謝する」
「それでは……自分達の攻撃では」
シヴァの代わりにもう1人の男……アザゼルが答える。
「ああ、完全にマナを倒すには至っていなかった」
5人はその言葉に驚愕する。身体を分断し、顔面を叩き斬ってもまだ死なないマナの異常な生命力を、改めて恐ろしいと思った。
「しかし、私の1撃を無事当てる事ができたおかげで、何とかやつを倒す事ができた。
君達に、そして……この世界に、礼を言う」
その言葉を聞き、木場は改めて周りを見回す。そこには太陽も月も、自分達が暮らしていた地球すら存在していなかった。
「今まで生き残った人々は……いや、僕達が生きてきたこの世界は、どうなったのですか!?」
その言葉にシヴァはひと呼吸開けて言う。
「私が破壊した。マナを破壊するには世界ごと破壊するほどの威力が必要だったのでな」
「な……!?」
木場はその言葉に絶望する。まさか、自分達の神が自らの世界を破壊するとは思わなかった。
(何故だ……?僕達が命をかけてでも守りたかったのは、この世界だったはずなのに……)
「木場、それに他の神。早とちりすんなよ」
木場の心を見透かしたように、アザゼルが先回りして釘を刺す。
「私はこの世界を、ただの贄としたわけではない……この世界を創り直すためにあえて破壊したのだよ」
シヴァは宙にいくつものスクリーンを出現させる。そこに映るのは天使や悪魔など、各勢力の長達だ。
「ミカエル様、サーゼクス様!」
画面の中の彼らは、四肢のうちいくつかを欠損している。
その眼前に巨大ダルマが出現し、彼らにビームを放つ!
ミカエルは頭を、サーゼクスは胸をビームで貫かれ、その場に倒れた。ピクリとも動く気配はない。
「……これは過去の映像だ。このように、この世界は各勢力が甚大なる被害を被っており、今のままでは立て直せなくなっている。人類もその人口を5/6ほど減らした。動植物はそのほとんどが絶滅の憂き目にあった。
これでは文明世界が終わるのも時間の問題だ。それを防ぐため--
--私は1からこの世界、いや、2つの世界を創り直すのだ」
その言葉に、5人は目を見開いた。
「シヴァは破壊と創造の神だからよ。2つの世界を創る、なんてのはラクショーなわけだ」
アザゼルが補足する。シヴァとはそれほどの力を持つ存在らしい……上半身と下半身、さらに頭部の上と下が離れていたとはいえマナを倒せるほどだ。ものすごい力には違いない。が、世界を破壊し、そして創造するなどというスケールの大きすぎる話には、木場はついていけない。
神の子達の関心が自分に戻るまで少し待って、シヴァは話を再開する。
「昔々、宇宙の誕生から地球の誕生、そして生命の誕生、人間の誕生、そして現在……そこにたどり着くまでの数兆年の間、君達には長い眠りについてもらう。次に君達が目覚めた時は、あの日になっているはずだ」
「あの日、とは?」
「試練が始まった、あの日さ」
言われて木場は数ヶ月前、ダルマが突然現れたあの日を思い出す。クラスメイトが吐き出す血潮を脳裏に浮かべ、気分が悪くなる。
「君達はこれから、私の力で身体の時を止める。君達の代わりは同じ遺伝子のダミーが務め、あの日の0時0分になった時に入れ替える。記憶は今のまま保持する形の方がいいだろう。君達はそれだけ進化している。そこからは、君達の真の人生を歩めばいい。今の君達なら、立派な人生を歩む事ができるさ。
さて、準備をしよう」
シヴァはそう言うと、指をパチンと鳴らした。すると5人の身体を覆う膜が破れる。5人は、シヴァに引き寄せられた。
「君達から私は、ある物を奪わねばならない。人が生きるためには全く必要のないものだ」
「『神の力』……か?」
丑三の言葉にシヴァは頷く。アザゼルがシヴァの気持ちを代弁するように口を開く。いや、あるいはアザゼルも強くそう思っているのかもしれない。
「その力は大きな災いを持つ可能性がある。マナがその例だ。この力は、人に与えるには強大すぎる。それだけはお前らから抜き取らねばならない」
その言葉に、膜の中で震えながらも声を上げる者がいた。明石だ。
「……神の力を奪うのは構わない。俺達が長い眠りにつこうと構わない。
だけど、絶対に世界を元に戻してくれ!……ください!お願いします!」
「僕からもお願いします!お母さんやお父さんにもう一度会うためなら、僕なんでもしますから!」
シヴァは明石と、追随した紫村の言葉を聞いてニッコリと笑う。
「心配しなくとも大丈夫だ。さぁ、手を」
シヴァの大きな手が前に出される。5人は、その指を1本ずつ掴む。
途端、体力が大きく削られた感じがして、木場はシヴァの手を離した。他の4人も同様だ。
彼らの身体を掴み、シヴァは言う。
「ここまで生き残った褒美と、そして神の力をくれたお礼に、君達の望む願いを叶えてあげよう。
普通なら1つだけ、なんて言うところだが私はある程度寛大だ。100個ほどなら叶えてあげられる。
なんでも言ってみるがいい」
その言葉を聞き、神の子は神に願いを告げる。神はそれらを全て聞き入れると、5人の頭に指を置いた。
「それでは今から、君達を長き眠りに誘う。次に起きた時には、君達が元の生活に戻っているはずだ。これからの人生を、楽しみたまえ」
「「「「「神さまの言うとおりに」」」」」
そして、5人の神の子の意識は暗闇に堕ちた--
もうちっとだけ続くんじゃ。
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!