神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
マナは地球の表面から、太陽の方向に腕を振った。すると、振った軌道上に刃が出現した!
マナはそれを片手で持つと、大きく振りかぶり投げた!
刃は次世代の神達に対しては外してしまったが、最初の勢いのまま太陽にぶつかり、星を2つに分断したのだった。
「次は当ててやる……恐怖を感じながら死んでけ!」
マナはそう言うとともに、地面を踏みこみ飛ぶ!大気圏を突き抜け、地球の外へ出ていった!
「な……に……!?」
半分に分かれた太陽。木場はそれを肉眼で凝視する。チリチリと焼かれる網膜を神の力で覆いながら見る視界の先、2つに分かれた太陽の間に、巨大な歪みがあった。木場にはそれがなにかが理解できた。
「次元の裂け目!?そうか、ここを通じてマナは世界を繋げていたのか!」
巨大な口を開けた空間の歪み。次元と次元とを繋ぐ穴が、そこにあった。
いや、次元の裂け目があるだけではない。それはだんだんと範囲を広げ、ついには太陽の直径をはみ出し宇宙空間まで広がってきた!
「まさかあれが、俺達の世界と木場の世界の境界か!?」
明石が叫ぶ。その言葉を木場は心の中で肯定した。間違いない。あの太陽を中心に、マナは2つの世界を繋げていたのだ。
とするなら、木場達が今取るべき行動は。
「皆、あっちの方に移るんだ!」
木場の言葉に4人は『あっち』……綺麗な地球がある方へと移動する。最後に紫村が渡りきったとき、次元の裂け目は完全に世界を2つに分けた。
直後、誰もいなくなった世界から光が一筋走る。思わず木場と明石は目を背け、丑三と紫村、オスメスは逆に凝視した。
光が、眼前を支配した。
5人は神の力で眼球を守り眼を潰すのは避けられたものの、白いまま回復しない視界に慌てる。
視界は白いまま時間がだんだんと過ぎる。そして、10分ほど経っただろうか?ようやく視界が色を取り戻した。
木場は薄眼を開け、驚愕する。
次元の裂け目のその先、先ほどまでもう1つの宇宙があった場所。
そこにはすでに何もなく、ただ永遠と黒が続いていた。
「
不意に、5人の真ん中辺りの位置に時空の歪みが生じる。5人は一斉にその方向を向いた。
「ふぅ、世界を1個壊したら、ちょっとスッキリしたー♪」
現れたのは笑顔のアシッド・マナ。彼女は大きく伸びをすると、首の関節を大きく鳴らす。宇宙空間であるはずなのに、その音は嫌に大きく響いた。
「後は、アンタらを潰してこの世界をもらうだけだね」
「……ガッ……フッ……」
声を聞き、木場は隣を横目で見る。隣では紫村が宇宙空間に浮いている。
その胸と腹を、3本の太い鉛筆が貫いていた。
「紫村!」
叫ぶ丑三。その頭を、不意に背後に現れたマナが狙う。明石がサッカーボールを蹴り飛ばしてそこを攻撃すると、マナは虚空に消えた。
困惑し、周囲を見渡す明石。今度はその頭上にマナが迫り--
「……っ!?チッ!!」
マナは突如回避行動を取る。コンマ数秒後、本来は明石を攻撃したマナが滞在していたであろう位置に、オスメスの刃が光っていた。
そのわずかな隙の間に、木場は紫村に向かって剣を振りかぶる。
鉛筆に刀身を触れさせる。すると鉛筆は一瞬で消滅した。リアス・グレモリーの『滅びの力』だ。
剣を押し当てて全ての鉛筆を除いた木場は、次に紫村にその剣を突き刺す。大きく痙攣する紫村。しかし数秒後には、鉛筆によって肉体に開けられた穴が塞がり、紫村は意識を取り戻した。
「あれ……これは?」
「説明は後だ!もう油断できない!隙を見せれば殺される!」
「!……わかった、もう油断しない!」
紫村の目つきが変わった。それを見て木場も前を向く。
「メンドくせえ……大体なんでマナが5人も相手しなきゃなんね……あっ、そっか!」
マナはニヤァ、といやらしく嗤うと両手を胸の前で伸ばす。そして肘を曲げ、手のひらを口まで持っていき……
「出てこい!!」
叫んだ後、フゥッ!!と強く強く息を吐く。その風はマナの手のひらを撫で、虚空に消える。
そこで木場は驚愕する。
風を浴びた手のひら、それが急に動いた、否、膨らんだのだ!
膨らんでいく肌はやがて1つの形を取る。クセの強い金髪にそばかすのついた欧米風の顔立ち。背はそんなに高くなく、全体的にあどけなさや幼さが残る。チェックの上着を羽織った、1人の男の子だった。
木場とオスメスはその顔を見ても何とも思わなかった。
残りの3人、明石・丑三・紫村は、思わぬ再登場に眼を剥いた。
「な、何でここで、カミが!?」
叫ぶ明石、それに向かってマナはハッ、とバカにしたように嗤う。
「カミはマナが造ったんだよ?1回壊しちゃったから、新しいの造ったの。それだけ」
マナの手のひらはさらに蠢く。それは再び膨らむと、今度は3人の形を造る。
1人は強面に尖った耳、ギョロリと大きく開かれた赤い眼、そして真っ黒な背中の羽が特徴の大男。
もう1人はローブを被った骸骨の男。
最後の1人は銀の髪と同色の顎髭を蓄え、下卑た嗤いを顔に貼りつけた男。
「コカビエルにハーデス様、それにリリン!?」
木場は困惑する。全員が自分達の世界で生きていた者達だったからだ。マナはすでに自分達の世界の者まで掌握したのか、と身震いする。
身震いしているその隙に。
グチャッ!とコカビエルの顔面が飛び膝蹴りに潰される。リリンの首が刃に跳ねられる。
『フォッフォッ、なるほどなかなか……「吹っ飛べ!」!?』
骸骨の髑髏頭が明石に蹴り飛ばされていく。それは分かれた太陽まで向かい、炎の一部となる。
「うりゃー!」『NOおぼっ!?』
迫力のない掛け声と共に、髑髏頭の後をカミと呼ばれた少年が追う。彼は髑髏頭と違い、燃える身体から意識を逸らすように狂い叫びながらその身体を消滅させていった。
「木場君、止まってる場合じゃないですよ!!」
カミを吹き飛ばした紫村が、意趣返しのように言う。木場は1本取られたと頰を掻き、そしてピシャリと叩いた。
「ああ、そうだったよ!申し訳ない!」
紫村へ謝罪を述べながら、木場は明石に近づく。剣を振りかぶり、明石の背後をひと薙ぎする。
すると、明石の背中に今まさに触れようとしていた巨大な鎌が消滅する。明石はそこで振り返り、頭がなくなった動く骸骨を見てギョッとした。
「加われ仙道、轟け雷光!」
木場の剣が光る。その剣で斬られた右手の骨がグニャグニャと数ヶ所折れ曲がり、さらに消し炭となって宇宙にばらまかれた。
その剣に開かれた肋骨が迫る。だが明石が脊髄部分に踵を落とし折ることで骨格が崩れ、肋骨も剣の右下へと逸れて割れた。
「……つっかえねぇ〜〜〜!!3分持たねぇのかよ!!」
マナは再び激昂する。その額に青筋が浮かんでいるのに紫村は気づいた。
「こうなったら……デカイの召喚してやる!!」
マナが手に再び息を吹きかける。すると今度は手のひらだけでなく、肘より上の腕までもボコボコと膨らんでいく!
「出てこい、ナンタラビースト!
トライヘキサ!!」
マナの腕が爆ぜ、一瞬の閃光が木場達を襲う。網膜をコーティングして失明の危機はないとわかっていながらも、反射的に目を庇う5人。彼らは一瞬目を離し、そしてその間に現れたモノを見て驚愕した。
その生き物は、7つの首に10の角を持つ、あまりに強大すぎる『獣』--その巨体はゆうに数100メートルを超えている。
首の1つ1つがすべて異なる生物を形作っていて、獅子のようなもの、豹のようなもの、熊のようなもの、龍のようなものと、統一感はない。体の作りもあらゆる生物の特徴を有していて、異物感を放っている。
そんな異形の化け物が、宇宙の真っ只中、自分達人類5人のど真ん中に出現していた。
「やっちゃえトライヘキサ!」
7つの首が雄叫びを上げ、5人の身体目がけて飛びかかろうとする!!
『explosion!!』
そこで、この場にいる誰のものでもない声が響く。
次の瞬間にはトライヘキサの7つの首は、全て落とされていた。身体が消滅していくのに対し、7つの首は未だ生きているようにそれぞれが蠢いている。
その首も数秒のうちに細切れにされ、動きを止める。それを見てマナは、呆れたように顔に手を当てた。
「僕の至高の剣×神の力×『
その通りだ、リアス・グレモリーの剣士。
不意に、左腕から--『赤龍帝の籠手』から声が響く。
『俺だ、赤龍帝・ドライグだ。相棒が死んでしまったために無念ながらも次の宿主を探していたんだが、このタイミングで産まれてくる人間なんぞ1人もいない。そこに新しい住処ができたから、お邪魔させてもらった次第だ』
「……そうか。やりたい事は?」『把握してる』
そんな茶番を尻目に、マナは思考する。どうやったら彼らを倒せるか……というよりも、どうやったら彼らを
「そーだ!いいこと思いつーいた!」
マナは3度手に息を吹きかける。それも今度は1回や2回ではない。数十回も息を腕に吹きかけた。
「出てこい!!」
その言葉に5人は警戒を強くする。剣を握る木場の手の力が強くなった。
マナの腕からまたもや5つの膨らみができる。他の人よりも早く出てきたのは、先ほどの者達……リリンやコカビエル、トライヘキサなどよりも小さな、1人の少女。
「あ、あれは!あの人は……!」
紫村が全身を仰け反らせて驚く。
「あれは誰なんだい、紫村君」
紫村は問いに対し、ゆっくりと返す。
「あ、あれは……明石君の知り合いっていうか、恋人?ですかね……少し前の試練で殺されちゃった人です。名前は、
言われて明石の方を見る。彼はその少女の姿を見ていた。その視界に彼女がはっきり写っているかはともかくとして。
確かめている間にも、マナの腕が膨らんでいく。今度は2つの肉片が落ち、人を象った。
1人は筋肉質な大男。1人は長髪のクール美人。どちらも木場は見たことがある。
「リリィ!!それに……太陽の牢に捕まっていた人!」「あれは夏川めぐ……ナツメグさんです」
リリィとナツメグ、2人はこちらを少し見ると振り返る。その延長戦上にいたオスメスと丑三、彼らは復活した2人を凝視する。
そして、残りの2つの膨らみもマナの腕から離れ宇宙に浮かぶ。それはだんだんと人型になっていく。
1つは特徴的な……龍の頭のような髪型をした、少し腕や足に筋肉をつけた中肉中背の男の子へ変わる。もう1つは、長い髪に超巨乳、スラッと長い脚をした威厳のある姿に変貌した。
「……なるほど、そういうことなのか」
木場は新しく生まれた者達を見て、思う。
「大事な人を象った人形を造り上げ、攻撃をさせずに一方的にこちらを仕留めようという腹か……死んだ彼らを侮辱したのは、そういうことか!!」
マナはニヤニヤと笑う。それを人を殺せるような視線で睨む木場。彼に、声がかけられた。
「祐斗。無理をしないで……!私はあなたに死んで欲しくないの……!」
人形からの、言葉だった。
「こいつは人を生き返らせる力も持ってる。同じくらい人を殺せる力も持ってるわ。それに立ち向かうなんて自殺行為、もうやめてほしいの!私は『あの事件』のように、あなたが無茶をするのが心配なの!」
木場の剣を握る力が少し弱まる。代わりに、唇を噛む力が強まり、健康そうなピンク色に真紅が混ざった。
「そうだ木場、紫村!俺達の仇を取るって考えはすげー嬉しいし、できるならそうしてほしい!でも、無茶だ!!こんな圧倒的戦力の前に太刀打ちなんてできねぇよ!!
今なら許してくれるかもしんねぇ。早く降伏するんだ!」
木場はその言葉を聞き、剣を--
今回も読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
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