神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
あの時もそうだし……!あの時も……!あの時も!
この人はいつも、死ぬ気で戦おうとする!
止めようとしても絶対止まんなくて、
こっちがいつも死にそうなくらいドキドキする!
ほらまた……私ばっかり苦しいじゃん……
何で……何で、こんな人好きになっちゃったのかな……私……
あ、違うか……
こんな人だから好きなのかな?
だとしたら私も……バカだな……
リリィから再びカードを引く天谷。その顔がまた笑みになる。
「おいおいリリィ。お前が余裕そうにしてたのは、さっきのJOKERとこのカードがあったからか?どっちにしろ、これで両方取ってやったぜ!」
リリィから天谷が引いたのは、ダイヤの8。そのカードの効果は、「引いたら死」でもある『7』のカードがどこにあるのか見えること。天谷はそのカードで残る『7』の場所を見る。
(えっと……『引いたら死』があるのは……丑三っちゃんと、隣か……いいねいいね!燃えてくんじゃん生死の分かれ目ってのは!)
木場は天谷からカードをもらう。5が揃ったので2枚捨てた。これで木場の残りカードは3枚になった。しかし、彼が秋元に渡せるカードも少なくなってしまった。
「秋元さん、これを」
久方ぶりにしゃくれていない真顔になった秋元は、出されたカードを受け取る。そして、彼女の表情が固まった。
(?どうしたんだ?今渡したのは、ただのスペードの8だったはずだけど……)
木場の疑問はすぐに解けた。彼女は震える手で、手持ちのカードを2枚捨てた。スペードとクローバーの8だ。これで彼女の残り手札は、1枚となった。
つまり秋元いちかは、高畑にカードを引いてもらって『神』になるのが決まったようなものだ。
(生き残れた事への歓喜か……)
そう考えて納得した木場。彼に背中を向け、秋元は高畑と対峙する。
「……瞬。私、これで離れちゃうけど…………」
そこで1回、彼女の口が止まった。深呼吸し、大きな声で告げる。
「私!アンタが好きだった!これまでずっと一緒だったけど、この想いは変わんなかった!
だから……だから、瞬。アンタは……
選んでよ、瞬。あなたの『生きる』を」
秋元の頬を涙が伝う。
高畑は残る1枚のカードを受け取り、目を見張った。
「秋元……お前」
「最後まで、ドキドキさせてよね」
秋元の笑みが高畑の眼前に広がり、
秋元いちかの身体は、血塊となり地に堕ちた。
高畑瞬の手に残ったのは、ダイヤとスペードの4。秋元いちかが最後まで持っていたのは、『引かれたら死』であるダイヤの4だったのだ。
「秋元……」
床に広がる血だまりを見て、嗚咽をこぼす高畑。
涙が溢れる彼を見て、かみまろはつまらなさそうに言う。
「……なるほどなるほど。ラス1が『引かれたら死』だったってのは、運がねぇよなぁ。
対して高畑瞬。お前は運が良い。よかったじゃん!これで上がれるなぁ。どうだ?
もらった
つまんねぇ
侮蔑するようなかみまろの言葉に、視線に、睨み返そうとする高畑。しかしその目は涙で覆われ、迫力は露ほども感じない。
天谷武はそれを、無言で見つめる。
「やめろかみまろ!瞬!!こんな奴の言う事聞くな!!」
ここで2人の間に割って入る声をかけたのは、明石靖人。彼は椅子から立ち上がり、高畑に向かって思いの丈をぶつける。
「お前にはわかるだろ、瞬!あの子がお前に何を伝えたかったか!!
お前がかみまろと一緒に死ぬのを見るよりも、お前に自分の分まで生きて欲しかったんじゃないのかよ!?」
言われて高畑は、秋元にかけられた言葉を思い出した。
『瞬のいない世界なんて、つまんなくて生きてらんない』
『私!アンタが好きだった!』
(そうだ……俺は秋元のために、生きなきゃいけない……!!わかるよ秋元……ありがとう。でもーー
ーー神になって俺は、何をすればいい……?
『世界を救う』?『死んだ人達を生き返らせる』?
わかってるだろ、秋元……
俺はそんな事のために、戦ってきたワケじゃ「さっさと神になっちゃえよ」
現実に戻された高畑に、声をかけた主……かみまろは、つまらなさそうに続ける。
「どうせ手札のペア捨てるしかないんだからさぁ。ピーピー泣いてないで、早く上がりんしゃい。
そしてつまんねー神さまになって、お前が退屈って思ってた世界を、また創ればいい。
お前はその程度の、『人』だったって事だ」
「……」
「黙れかみまろ!」
バン、と机を叩き、明石が反論する。
「好きな人の為に、あの子はあんな言葉をかけたんだ!それに応えることができるのは瞬!お前だけなんだぞ!?」
「俺と地獄まで遊んでくれるって言ってたのに……あーあ……やっぱ友達できないや……」
「生きるんだ、瞬!」「死んだように生きろ、高畑瞬」
(俺は、この
そこでふと、高畑瞬の脳裏に、秋元の言葉が浮かんだ。
『最後まで、ドキドキさせてよね』
『選んでよ、瞬。あなたの「生きる」を』
「……そうか、秋元……そう言うことか……」
高畑瞬は呟く。
「ありがとう、秋元……いいんだな……選んでも……」
涙が高畑の頬を溢れ、溢れ、溢れ……そして全て流れきった。高畑瞬の目には、力強さと狂気が戻った。
その目がかみまろを捉える。
「俺は……ずっと……この瞬間の為に生きてきたのかもしれない」
そのオーラに、迫力に、皆が……リリィやオスメス、さらにはかみまろでさえも圧倒される。
「見ろ、皆……心に刻め……これが俺のーー」
高畑瞬は右手で2枚のカードを持つと、
「これが、高畑瞬の『生きる』だ。
俺は、上がらない。さぁ引けよかみまろ。
一緒に逝こうぜ」
愉しそうに……いや、心底楽しそうに笑うかみまろ。
それを見て明石が『持っているカードを捨てろ!まだ間に合う!』と声をかけたが、叫び続けるのを丑三が止める。
「やめろ明石……あれがアイツの選んだ、生命の使い方なんだ。
輝く星の決意は、見届けるのが生ける者のマナーだ。
散るぞ。この眼に焼き付けよう」
皆が固唾を呑む中、かみまろだけが嬉しそうに笑っている。無邪気な笑みが止まらない。
「引けば終わるなぁ。俺もお前も……どうした?怖いか?死ぬのが?」
震えている高畑に言葉をかけるが、高畑は予想とは違う答えを言う。
「違ぇよ。俺の全細胞が喜んでんだ……」
「……ヒャハハハハ♪最高だ、お前!!それでこそ高畑瞬!!やっぱりお前は、面白い人間!!
『人』を越えて『神』になれる人間ーー
「そんなんじゃねぇって……もういいんだよ……『人』とか『神』とか……」あ?」
狂気と嬉しさを顔面で表現しながら、高畑はかみまろに言った。
「俺の神さまは、お前なんだよ。かみまろ。
何もなかった俺に、喜びと悲しみをくれた。お前を殺すのが、いつしか俺の目標になった。
お前が俺の生きる全てなんだよ」
「……」
それを聞きかみまろは初めて、表情を失った。ただ呆気にとられたような顔で、小さな声になりながらも高畑に届くようにかみまろは言う。
「……もしかしたら俺は……お前にこうやって殺される為に……今まで生きてきたのかもしれないな……
嬉しいよ、高畑瞬……友達になってくれて……」
「ああ、かみまろ……」
「死ね」「ありがとう」
ああ、神さま。僕の『退屈』が終わります