神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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ああ……この人は……本当にバカだ……

あの時もそうだし……!あの時も……!あの時も!
この人はいつも、死ぬ気で戦おうとする!

止めようとしても絶対止まんなくて、
こっちがいつも死にそうなくらいドキドキする!

ほらまた……私ばっかり苦しいじゃん……

何で……何で、こんな人好きになっちゃったのかな……私……


あ、違うか……

こんな人だから好きなのかな?


だとしたら私も……バカだな……


第44話ーーーああ神さま

リリィから再びカードを引く天谷。その顔がまた笑みになる。

「おいおいリリィ。お前が余裕そうにしてたのは、さっきのJOKERとこのカードがあったからか?どっちにしろ、これで両方取ってやったぜ!」

リリィから天谷が引いたのは、ダイヤの8。そのカードの効果は、「引いたら死」でもある『7』のカードがどこにあるのか見えること。天谷はそのカードで残る『7』の場所を見る。

(えっと……『引いたら死』があるのは……丑三っちゃんと、隣か……いいねいいね!燃えてくんじゃん生死の分かれ目ってのは!)

 

木場は天谷からカードをもらう。5が揃ったので2枚捨てた。これで木場の残りカードは3枚になった。しかし、彼が秋元に渡せるカードも少なくなってしまった。

 

「秋元さん、これを」

久方ぶりにしゃくれていない真顔になった秋元は、出されたカードを受け取る。そして、彼女の表情が固まった。

(?どうしたんだ?今渡したのは、ただのスペードの8だったはずだけど……)

木場の疑問はすぐに解けた。彼女は震える手で、手持ちのカードを2枚捨てた。スペードとクローバーの8だ。これで彼女の残り手札は、1枚となった。

つまり秋元いちかは、高畑にカードを引いてもらって『神』になるのが決まったようなものだ。

(生き残れた事への歓喜か……)

そう考えて納得した木場。彼に背中を向け、秋元は高畑と対峙する。

「……瞬。私、これで離れちゃうけど…………」

 

そこで1回、彼女の口が止まった。深呼吸し、大きな声で告げる。

「私!アンタが好きだった!これまでずっと一緒だったけど、この想いは変わんなかった!

だから……だから、瞬。アンタは……

 

選んでよ、瞬。あなたの『生きる』を」

 

秋元の頬を涙が伝う。

高畑は残る1枚のカードを受け取り、目を見張った。

「秋元……お前」

 

「最後まで、ドキドキさせてよね」

秋元の笑みが高畑の眼前に広がり、

 

 

 

 

 

秋元いちかの身体は、血塊となり地に堕ちた。

高畑瞬の手に残ったのは、ダイヤとスペードの4。秋元いちかが最後まで持っていたのは、『引かれたら死』であるダイヤの4だったのだ。

「秋元……」

床に広がる血だまりを見て、嗚咽をこぼす高畑。

涙が溢れる彼を見て、かみまろはつまらなさそうに言う。

「……なるほどなるほど。ラス1が『引かれたら死』だったってのは、運がねぇよなぁ。

対して高畑瞬。お前は運が良い。よかったじゃん!これで上がれるなぁ。どうだ?

もらった生命(いのち)で神になる気分は?

 

つまんねぇ人間(ヤツ)

 

侮蔑するようなかみまろの言葉に、視線に、睨み返そうとする高畑。しかしその目は涙で覆われ、迫力は露ほども感じない。

天谷武はそれを、無言で見つめる。

 

「やめろかみまろ!瞬!!こんな奴の言う事聞くな!!」

ここで2人の間に割って入る声をかけたのは、明石靖人。彼は椅子から立ち上がり、高畑に向かって思いの丈をぶつける。

「お前にはわかるだろ、瞬!あの子がお前に何を伝えたかったか!!

お前がかみまろと一緒に死ぬのを見るよりも、お前に自分の分まで生きて欲しかったんじゃないのかよ!?」

言われて高畑は、秋元にかけられた言葉を思い出した。

 

『瞬のいない世界なんて、つまんなくて生きてらんない』

『私!アンタが好きだった!』

(そうだ……俺は秋元のために、生きなきゃいけない……!!わかるよ秋元……ありがとう。でもーー

 

 

ーー神になって俺は、何をすればいい……?

『世界を救う』?『死んだ人達を生き返らせる』?

わかってるだろ、秋元……

 

俺はそんな事のために、戦ってきたワケじゃ「さっさと神になっちゃえよ」

 

現実に戻された高畑に、声をかけた主……かみまろは、つまらなさそうに続ける。

「どうせ手札のペア捨てるしかないんだからさぁ。ピーピー泣いてないで、早く上がりんしゃい。

そしてつまんねー神さまになって、お前が退屈って思ってた世界を、また創ればいい。

お前はその程度の、『人』だったって事だ」

「……」

 

「黙れかみまろ!」

バン、と机を叩き、明石が反論する。

「好きな人の為に、あの子はあんな言葉をかけたんだ!それに応えることができるのは瞬!お前だけなんだぞ!?」

「俺と地獄まで遊んでくれるって言ってたのに……あーあ……やっぱ友達できないや……」

 

「生きるんだ、瞬!」「死んだように生きろ、高畑瞬」

 

(俺は、この生命(いのち)を、どうすればいい……?)

 

そこでふと、高畑瞬の脳裏に、秋元の言葉が浮かんだ。

 

『最後まで、ドキドキさせてよね』

 

『選んでよ、瞬。あなたの「生きる」を』

 

 

「……そうか、秋元……そう言うことか……」

 

高畑瞬は呟く。

 

「ありがとう、秋元……いいんだな……選んでも……」

 

涙が高畑の頬を溢れ、溢れ、溢れ……そして全て流れきった。高畑瞬の目には、力強さと狂気が戻った。

その目がかみまろを捉える。

 

「俺は……ずっと……この瞬間の為に生きてきたのかもしれない」

 

そのオーラに、迫力に、皆が……リリィやオスメス、さらにはかみまろでさえも圧倒される。

「見ろ、皆……心に刻め……これが俺のーー」

 

 

 

生命(いのち)が燃える瞬間だーー

 

 

高畑瞬は右手で2枚のカードを持つと、

 

 

 

神小路(かみのこうじ)かみまろの前に突き出した!

 

 

「これが、高畑瞬の『生きる』だ。

 

俺は、上がらない。さぁ引けよかみまろ。

 

一緒に逝こうぜ」

 

 

 

 




愉しそうに……いや、心底楽しそうに笑うかみまろ。
それを見て明石が『持っているカードを捨てろ!まだ間に合う!』と声をかけたが、叫び続けるのを丑三が止める。
「やめろ明石……あれがアイツの選んだ、生命の使い方なんだ。

輝く星の決意は、見届けるのが生ける者のマナーだ。

散るぞ。この眼に焼き付けよう」


皆が固唾を呑む中、かみまろだけが嬉しそうに笑っている。無邪気な笑みが止まらない。
「引けば終わるなぁ。俺もお前も……どうした?怖いか?死ぬのが?」
震えている高畑に言葉をかけるが、高畑は予想とは違う答えを言う。

「違ぇよ。俺の全細胞が喜んでんだ……」

「……ヒャハハハハ♪最高だ、お前!!それでこそ高畑瞬!!やっぱりお前は、面白い人間!!
『人』を越えて『神』になれる人間ーー

「そんなんじゃねぇって……もういいんだよ……『人』とか『神』とか……」あ?」

狂気と嬉しさを顔面で表現しながら、高畑はかみまろに言った。

「俺の神さまは、お前なんだよ。かみまろ。


何もなかった俺に、喜びと悲しみをくれた。お前を殺すのが、いつしか俺の目標になった。
お前が俺の生きる全てなんだよ」

「……」
それを聞きかみまろは初めて、表情を失った。ただ呆気にとられたような顔で、小さな声になりながらも高畑に届くようにかみまろは言う。
「……もしかしたら俺は……お前にこうやって殺される為に……今まで生きてきたのかもしれないな……

嬉しいよ、高畑瞬……友達になってくれて……」
「ああ、かみまろ……」



「死ね」「ありがとう」









ああ、神さま。僕の『退屈』が終わります









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