神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
紫村は、先程よりもいっそう震えを大きくした。
(僕のせいで……僕がハートの10を引けなかったせいで、誰かが死ぬ)
そう思うと、吐き気が出てきた。呼吸が荒くなってくる。
「紫村、落ち着け。俺にカードを回せ」
隣にいる丑三が紫村に指示を出すと、紫村は青い顔でそれに応じた。オスメスはそれを見て、チッと舌打ちをする。
「……明石。これ以外ならどれでもいい。引け」
紫村と丑三の態度で明石は感じた。ハートの10は巡ってこなかったのだ。
明石が引いたのはスペードのJ。これでは、『時限爆弾』カードを捨てることはできない。
「ハンナ……どれでもいい。引いてくれ」「ん」
ハンナは1枚、今丑三から受け取ったスペードのJを取る。それを見て、ハンナの表情が曇った。
「……」
下を向くハンナ。彼女に対し、声をかける者がいた。
「おい!『時限爆弾』くれよ!」
隣の男、匙元士郎。彼はハンナに向かって言う。
「俺は『時限爆弾』を使って、かみまろとどっちが生き残るか勝負する!かみまろが『時限爆弾』を引けば俺の勝ち、引かなければ俺が死ぬだけのルールだ!俺はそれで死んでも悔いはねぇ!だから!『時限爆弾』をこっちに渡すんだ!」
その言葉は荒々しかったが、匙の眼はハンナを写していた。今の彼は、かみまろを全く見ていない。
「……わかったわ、はい」
ハンナは匙に対し、1枚のカードを強調させる。匙は血走った目でそれを引く。
そのカードは、クローバーのK。『時限爆弾』ではなかった。
「……あ?な、なんで?」
匙の問いに、ハンナはクスリと笑う。
「アンタは良くても、それで死んじゃったら私が責任感じちゃうからね。
……お気遣い、ありがとう。最後に私を助けてくれようとしてくれたこと、感謝するわ。だから……だからこそ、このカードは、目標があるあなたじゃなくて、私が持っておくべきなんだと思うの」
ハンナはゆっくりと立ち上がる。匙は彼女に背中を向けた。その肩が震えているのを、明石は見た。
「命を賭けての復讐でもいいけど、賭け事っていうのは成功しないものよ。やるなら確実に倒せる機会を狙うことね。まぁ、でも。やり方……生き方ってのは人それぞれか。
皆、生きたいように生きればいいのよね」
ハンナはニッコリと笑う。その目尻に涙が浮かんだ。
「そーそー、皆が好き勝手生きればいいのさ。俺自身もそんな感じだし」
言いながら、かみまろが匙から1枚引いた。
ーーここで、天馬の死から30ターンが経過した。
『
地蔵の言葉とともに、血塊に変わるハンナ。それを見て紫村は、謝ることしかできなかった。匙はその血を背に受けながら、しばらく動かなかった。
『ハンナ・フェリックス、時限爆弾により死亡。
これにより、カード再配分だぁ』
地蔵がそう言うとともに、ハンナの手札が公開される。
スペードのJ、そしてダイヤの10である『時限爆弾』カードが、ハンナの手札がであったらしい。そのうち1枚が匙へ、1枚がかみまろへと分配された。
「……さて、高畑瞬。お前にはこいつがオススメだぜ」
かみまろが高畑に向かって、1枚のカードを強調させる。
「……面白い、乗ってやるよ」
対し高畑は、そのカードを引く!手にしたのはハートの9。特に神罰もない。高畑はチッ、と舌打ちしながら、秋元の前にカードを持っていく。秋元は高畑からクローバーの8を引いた。
そして、秋元から木場、木場から天谷、天谷からリリィ、リリィからオスメス、とスムーズに進む。その間、紫村影丸は泣いていた。
「紫村、お前のターンだ。早く引け」
丑三に言われ、しゃっくりをしながら、紫村はオスメスの手札から1枚を手に取る。
彼は目を大きく見開くと、10数秒もの間、固まった。彼は震える手で自分の手札を押さえると。
スペードとダイヤのQを捨てた。
「え?」
紫村のカード、残り1枚。
「なんで……僕は……ハンナさんを救えなかったのに……僕が……また自分ばっかり……」
丑三は残った1枚のカードを、混乱している紫村から取り、スペードのK、デコピンの神罰を紫村に与えた。
指に全力を込め、紫村に思いっきりデコピンをする丑三。そのおかげで、紫村も混乱から正気へと戻ったようだ。その紫村に、丑三は諭すように言う。
「紫村、お前には義務がある。ハンナの命の分以上の人を救う義務が。行ってこい。お前なら、皆を救える」
「……」
紫村は無言で涙を拭う。
『
「丑三君、そして皆さん。僕はずっと、待ってますから。
待ってますからぁ!!」
紫村影丸は、その言葉を最後に、天へと昇っていったーー