神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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ーー神小路かみまろこと、天神橋マサルが生まれたのは、雨の日のクリスマスイブ
静かで穏やかで、泣かない子だったそうです
両親はマサルが4歳の時




保育園に向かう途中、事故で亡くなりました
その日、マサルにお迎えは来ませんでした

マサルはその時から、叔父の元で暮らす事になりました

叔父はマサルを、いろんな所へ連れて行ってくれました

『見ろ、マサル!海だぞ!でっけーぞー』

その景色を見て、世界を想像するのが、マサルの日課でした
そのおかげで、マサルはちっとも寂しくありませんでした

でも時々ーー怖い想像に押し潰される夜もありました


小学校へ入学したけど、友達はできませんでした
想像を絵にするのが好きだと、この頃に自覚します

学校に馴染もうとしないマサルを心配して、叔父はいろいろな事をしてくれました
当時芸能活動をしていた叔父は、マサルをレコーディングに連れ出してくれました
マサルの叔父は『甥』というCDを出しました


『ありがとうおいたん


でも、もういいよ
僕一人でも寂しくないから』
『え?』
『何もいらないんだ』

感謝はあった
でも、必要じゃなかった

叔父とはそれきり逢っていません


それからマサルは一人暮らしを始めます
叔父からの月5万の仕送りは、途絶えることはありませんでした
中学では、いろんな出会いがありました


でも、嬉しくも悲しくもありませんでした

『生命あるもの全てに意味があり』

『夢や希望に向かって生きなきゃいけない』なんて

そんなの、人間の驕りだ

生きたくないいのちがあってもいいじゃないか

マサルは16歳で、『生きる』という螺旋から抜ける事を決めました

高校へ入学したが1回も行かず、ただ死んだように過ごして
たまに漫画も描きました
自分の作品を同人誌にして売った事もあったそうです





この世界の景色をただ眺めて、想像して、死ぬ

自分がこの世界に何の価値もない事が心地よくて
何者でもない事が救いで

マサルが1人になって7年が経とうとしていました


「この地球で1番いらない人間!」「見ーっけ!」

そこに、姉弟がやってきたのです


急に現れた姉弟に対し、マサルは『え?何?』と薄い反応を返しました

『スゲェな姉ちゃん、コイツ全然びっくりしてねぇや!こっちに何なのか聞いてきてるくせに、全くこっちの事に興味がねーでやんの!
さすが、人間失格人間!』
弟らしい男が言うと、姉らしい女がふふんと鼻で笑いながらマサルに指をさして言いました

『そんなキミに、パワーを与えに来た!私達は天使!

アンタ、毎日つまんないでしょ?それも今日でおわり!

天神橋マサル!今からキミは神となり、この世界を好きに創り変えなさい!!『やだ』』


『…………は?』

『メンドくさいからやりたくない』


『……………………』『姉ちゃん、コイツやる気ねーよ』

『他の人がいいと思うよ
もっとちゃんと生きてる人……生きる事に熱い人間……『じゃあ、アンタが決めてよ!』ん?』

『アンタの変わりに神になる人、アンタが決めるの!』

かみまろは数秒黙ると、姉弟に背中を向け、押入れを漁り始めました
そして、1冊の本を手に取ると、2人の前に持って来ました

『……?』『何それ?』
『俺の想像を描いたマンガ
これで、神を選ぶ方法を考えるよ』



こうして、天神橋マサルは

『神小路かみまろ』となったのです



〜fin〜


第36話ーーー生きたくない生命

「……というワケで、俺の想像は現実になった。

だから、俺の夢はもう叶ってる。

 

しかも最後にこうやって、生きる事に熱い皆と一緒に遊べてる。

 

 

(しゃー)せだなぁ」

かみまろは、ただそう言う。それは誰かを馬鹿にしているような口調でも、嫌味ったらしい口調でもなく、本当に感動しているような、歓喜しているような口調だった。かみまろは、目尻に涙すら浮かべて笑っている。

 

「お前にとっては誰かの命も感情も……じぇんぶ想像の遊びなんだなかみまろ……

 

 

やっぱりお前は人間じゃねぇよ!!」「うん、知ってる」

 

「かわいそうなヤツだなー。生きる喜びを知らないなんてな」「やめろ、天谷。もう何を言っても意味はない。こいつには人の『生きる輝き』が見えないんだから」

 

「そういうコト!ザッツオール!!」

 

目尻の涙を拭い、再びおちゃらけて言うかみまろ。そんな彼に、明石靖人が尋ねる。

 

「なぁ、かみまろ……俺、ずっと考えてた事があるんだ……

 

俺はもし神になれたら、お前が殺した人達を、皆生き返らせようと思ってる。

 

その世界に、お前は生きたいか!!?」

 

「生きたくないね」

 

かみまろは、即答した。何の迷いもなく、そう言った。

 

「俺は、生きる世界を間違えた。俺の存在を消してくれ」

 

それを聞いて明石は一瞬俯く。しかし、再び顔を上げると、かみまろに向かって勢いよく言う。

「……わかった。

 

俺はお前を生き返らせる!だから、次の命は。

 

熱く生きろ!それが、お前が奪った生命達への償いだ!!」

 

木場祐斗はそれを黙って聞いていた。脳裏に、1人の少年を思い浮かべながら。

 

それに対し、かみまろは静かに言う。

 

「お前らはさ……種を植えてない植木鉢があったとして、水をあげ続けられるの?

咲くハズのない花を信じて、『熱く生きる』なんて虚しい事、俺にはできなかった。

 

夢や希望が花だとして、それを咲かすのが人生だとするでしょ?俺のだけなんにも咲かないんだ」

「何でそう言い切れる?」「咲かせたいものなんてないから」

 

明石は一瞬口を止める。そして大きく息を吸うと、かみまろに向かって声を届ける!

「だからって、皆を殺していい理由にはなんねぇだろ!?死んで逃げるな!生きて償え!!」

 

「……明石靖人ぉ。お前は、こんな俺にも、水をあげようとしてくれるのなぁ」

対してかみまろは、濁った目をキラキラと、子供のように光らせて、言う。

「でも、いいよ。もう。

 

俺がこの世界で1番、俺の事諦めてるから」

明石靖人は、その顔を見て何も言えなかった。木場祐斗も、匙元士郎も、高橋瞬も、丑三も天谷も紫村も、何も言う事ができなかった。

 

「さぁ!俺のターンは終わりだ!ほら引けよ!俺を殺してみせろ!!」

「……いいぜ!俺がお前を永遠に消してやる!」

匙がかみまろからカードを引く!しかし何も起こらない。匙は手札からダイヤとハートの6を捨てた。

明石は思う。かみまろには、自分達の言葉が何も届かないのか?と。このままかみまろを倒して、それで終わりでいいのか?と。

 

そんな事を考えているうちに、明石が天馬から引く番になった。

「……明石さん」

天馬は明石に話しかける。その声は、そしてその身体は、なぜか震えていた。

「さっき言った事、本当ですか?もし、明石さんが神になったら、私も生き返らせてくれますか?」

「……?何言ってんだよ!?当たり前じゃん!」

「……で、ですよね。何でもないです……じゃあ、引いてください」

明石は天馬からカードをもらう。ハートの9。神罰はない。

次のターン。明石から丑三。スペードの3を引かれた。

次のターン。丑三から紫村。

「え……あ、これやるんですか?」

紫村は丑三のおでこの前に指を持っていくと、彼にデコピンを打った。そういう罰らしい。

紫村からオスメス。紫村は震えながら目を瞑っているため、オスメスにも彼のカードは読めないようだ。彼は何も言わず、紫村からカードを1枚奪い取った。

 

「私、最後に神になるのは、やっぱり明石さんがいいなぁ…」

天馬が、呟くように言う。明石はそれを耳に捉えた。

「え?何急に?天馬ちゃん?」

 

オスメスからリリィ。オスメスは再び、リリィに1枚のカードを献上する。

「私を含めて……あれだけ皆が倒したいと思ってたかみまろにでさえ、明石さんは手を差し伸べられる人だから」

天馬は明石の方を向いてニコリと笑う。リリィが天谷からカードを引いた。

「私……学校ではいじめられっ子なんですよ。『気持ち悪い』とか『女々しい』とかバカにされて。私にとっては、これが『普通』なんですけどね。

 

でも、明石さんはずっと『普通』に接してくれた。それが何より、優しくて、嬉しかったんです」

 

リリィから天谷。天谷は1枚のカードをリリィから抜き取り……

「お、何これ?」

『引いたらリバース』のカードを天谷が引いた。順番が逆になり、次は天谷からリリィが引く番になった。

 

「あーあ。次生き返ったら、もっと可愛い服、いっぱい着たいなぁ。もっとプリクラとか撮ってー、もっと友達作ってー、パジャマパーティーとかしたりして!」

リリィが1枚引く。しかし何も起きない。

「何言ってんの!?さっきから……まるで……」

その次の言葉を天馬は遮るように、言った。

 

「あ……今度は女の子のカラダにしてくれてもいいんですよ?」

リリィからオスメスが1枚受け取る。

 

「そしたら、私。

 

 

明石さんに告っちゃいますから」

 

 

天馬遊の身体の輪郭がぼやける。

 

それは一瞬だった。

 

明石の耳に、『パン!』という破裂音が響き、血飛沫が彼の顔に飛んだ。

 

「天馬ちゃん!!?」




『ねーねー姉ちゃん、なんか他の世界のヤツが、こっちと通信しようともがいてるよ?』
『……ん?何アイツ?中途半端に年取ってる……人間のカタチをしてるけど、人間じゃない?』

『あいつもある意味人間失格人間?』『あっちの世界も面白いかも?』

『『じゃあ、巻き込んじゃおっか!!』』

別世界を繋ぐ事、世界が生まれる前から生きる姉弟にとってそれは容易い事でした

こうして、1人の身勝手な悪魔のせいで、もう1つの世界も、選別に巻き込まれるようになったのです
『天使』も『堕天使』も『妖怪』も、もちろん『人間』も

そして、『悪魔』も

2つの世界の、人間のカタチをした全ての生き物が、こうして神の戯れに付き合い、踊らされるようになったのです



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