神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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「……くっ……ゼノヴィアさん……」
木場祐斗の眼から1滴、2滴と雫が溢れる。やがてそれは雨になり、地面を濡らす。
兵藤一誠も同じ様に泣きながら、写真に手を伸ばす。そして、残っている左手を写真の前に持っていって、

写真の中に指を突っ込んだ。

『あっ!』

驚いた様な声と同時に、写真から何かが飛び出す。


それは、今しがた爆発したばかりの、ゼノヴィアだった。

「えっ」『えっ』
2人は兵藤一誠を見る。急な展開について行けていない。しかし、一誠はゼノヴィアに抱きついて静々と泣き始める。
「ごめんな、ゼノヴィア。俺の力が無いせいで、お前を守れなかった……」
『いや、これはルールだから仕方がないよ。イッセーが死ななかっただけ私にとっては満足だけど……え?なんで私はイッセーと話せているんだ!?』
一誠はゼノヴィアの目を見て、力強く言う。その目は、先ほどまで戦っていた時の目とは違っていた。いつも彼らが見てきた、兵藤一誠の目だった。

「でも俺にも譲れないものがあったんだ!お前らと敵対しても、支えてやりたい夢を見たんだ!こいつの夢を叶えられる様に、最後まで手伝ってやりたいって。馬鹿らしいかもしれないけど、そう思ったんだ!」

その言葉を聞いて、ゼノヴィアは真面目な顔になる。そしてその顔を優しく崩し、言った。
『わかってるさ。私はイッセーの仲間だからな』
一誠が手を差し出す。それをゼノヴィアが掴む。
『今から、私が2人に手を貸そう。微力ながら、その誰かの夢とやらを支える為に頑張るよ』
ゼノヴィアの身体が消えて……いや、一誠に吸い込まれていく。

やがてゼノヴィアはその身体の一片も残さず消えた。一誠は、左手で胸を撫でる。残されたデュランダルが、嬉しそうに輝いた。

「イッセー君、今のは……?」
木場が恐る恐る、ゆっくりと聞く。イッセーはその言葉に応える。

「ゼノヴィアが、助けに来てくれたんだ」



第30話---選別

東京フィールドの上空には現在、雲1つない青空が広がっている。比喩でもなんでもなく、空には雲は本当に1つもなく、鳥や飛行機などの姿、更には太陽すらも見受けられない。

 

と。

 

 

その上空に、大きな長方形のモニターが出現した!

画面にでかでかと映っているのは、やはりといえばやはり、アシッド・マナだった。

その周りには、トランプの4つのマークが飛んでいる。ダイヤ・スペード・クローバー・ハート。どれも生きているかの様に、飛び跳ね、回り、転がっている。

 

『2NDステージ終了だよ!アシッド・マナだよ!!』

相変わらず甲高い声で、分かりきった事を言うマナ。その手にはやはり、トランプが握られている。次の試練の内容だろうか、と推理するイッセーと木場。そんな彼らに、ステージ全体に、マナの声が響く。

 

『あのね!早速次の試練を始めたいんだけどぉ……

 

ぶっちゃけ必要なのはぁ、13人だけで良いの』

 

「「え?」」

13人?3600人で始まったこの試練……13人しか生き残っていない訳はない。木場は辺りを見回す。すぐ近くでは、太陽の国の男3人と、ライフジャケットを着ていない長髪の男子が校舎から出てきていた。

(ここだけで5人。更に、太陽の国の王・リリィと我らが月の王・明石。これで7人。他に生き残っているのは6人だけ?……そんな訳無い!!)

太陽の国の虐殺、並びに月星の反抗。それで数百人消えたとしても、もともとの分母は3600人。星が全滅したとしても2400人だ。その中から生き残ったのが13人……そんなはずは無い。その考えに丸をつける様に、マナは続けて言う。

 

『だから、マナの独断と偏見と活躍度と好みで決めたから、選ばれた人が最終進出者(ファイナリスト)ね。

題して、「1番○○だった人」!!イェーイ!!』

 

ニコニコと楽しそうに笑うと、マナは持っていたトランプから1枚取り出す。絵柄はキング。13のカードだ。

 

『まず1人目は、「もっともキングらしかった人」。癖のある幹部をまとめ上げ、優秀な作戦で何度も敵の裏をかくのに成功。また、個人の能力も素晴らしく、マナのルールを超えることまでしちゃった反則級。

最後の最後まで執念をみせたキングオブキング!

 

K(キング)・リリィ』

 

「!」

 

『2人目は、「もっとも活躍した人」……つまり、最終的に敵のキングを捕まえ、処刑した人。幾多の障害を潜り抜け、最後の最後、ギリギリでファトマを捕らえ、決着のトドメを刺したクイーン!

 

Q(クイーン)・オスメス』

 

「……」

 

『3人目。これは「もっとも攻めた人」捕まったら終わりのこのゲームで、もっとも広範囲を動き回り、塔の奪取に敵の足止めに敵陣への突撃にと努めた栄光あるジャック!

 

J(ジャック)・木場祐斗』

 

「!僕が……」

木場は、自分の名がここで呼ばれるとは思わず、狼狽えた。しかしそんな事は気にせず、マナは次に進む。

 

『4人目。これは逆に「もっとも攻めなかった人」良い意味では平和主義者、悪く言えばチキンだけど、その慎重さはある意味生き残る為に1番重要かも?

 

10・アルフ・E』

 

「え!?俺!?」「おいおい、1番のチキンだってよお前!」「……ところで俺達は?」

木場の近くで、太陽のライフジャケットを着た3人が盛り上がる。そのうちの1人が、今呼ばれたアルフ・Eらしい。

 

『5人目。塔を取ったり侵入者を味方につけたりと目立たない所での活躍が大きい、「もっとも裏方な人」!

 

9・秋元いちか』

「(あ……ここで呼ばれちゃうんだ。残念……)」

 

 

『6人目。最初はキングの隣にいたと思ったら、いつの間にやら塔を制覇したり、侵入者を仲間にしたりとちゃっかり活躍!「もっともちゃっかりしてる人」!

 

8・天馬遊』

 

「わ、私ですか!?私、そんな良いとこ取りみたいな事してませんよっ!?というか、侵入者って誰?」

「(俺です)」

隣で匙が頭を抱えた。どうやら、自分や高畑を仲間にするのもポイントのうち……つまり、ここに乗り込んだ事もバレている。

「(やっべー、このままじゃかみまろにたどり着く前に殺されちまうぞ……)」

匙は、頭をフルに回転させ、どうにか生き延びる術を模索する。

 

『7人目。ラッキーセブンにふさわしいのは、最初から最後まで、度々死にそうになったら捕まりそうになったりしながらも運良く捕まらずに生き延び続けた「もっとも悪運が強い人」!

 

7・紫村影丸』

 

「ぼ、僕ですかっ!?そんなに運の良かった事なんて無いんだけどな……」

紫村は首をひねる。自分での実感はない様だ。

 

『8人目。星と月を同盟させたり、檻の中の囚われのキングを救出したりと大活躍、場の流れを変え続けた「もっとも場を動かした人」!

 

6・ハンナ・フェリックス』

 

「選ばれた……」

ハンナはホッと胸をなで下ろす。その目に涙が浮かぶ。

「ありがとう……ジェイク。ナツメグ。ユキオ。私、あなた達のおかげで生き残れたよ……」

 

『9人目。地面の落下でクレーターを造り、ビルや地面をぶっ壊して暴れ回った怪物。「もっとも破壊した人」!

 

5・匙元士郎』

 

「……あ?選……ばれた?……俺が?」

匙は自分の耳を疑った。侵入者である自分が選ばれるなんて、と困惑する。マナは何がしたいんだろう、とその考えの読めなさを匙は恐れるが、一方で、これでまだ生き延びられるとホッとしもした。

 

『10人目。途中参加にも関わらずいきなり強敵を叩き潰し、そこからずっと死闘を演じた「もっとも闘った人」!

 

4・天谷武』

「…………」

「天谷、立ったまま気絶してる……いや、寝てる……?」

 

 

『11人目。同じく途中参加で、群がる人を初撃で一掃。一瞬で倒した敵の数は3605人の中でも1番の「もっとも無双した人」!

 

3・高畑瞬』

 

「瞬、選ばれたよ!生き残ったよ!!」

隣で喜ぶ秋元いちか。しかし、高畑の表情を見てそれをやめた。彼の顔にこびりついているのは、引き裂かれんとばかりに無理やりに口を開いた笑顔。彼の心にあるのは、純粋に1つの事のみ。

 

「待ってろ……かみまろ。俺はどこまででもしがみついて、絶対にお前を殺してやる……!!」

 

 

『12人目。またまた途中参加ながら全ての王と関わり、その全ての王の心を動かした遊説家。「もっとも働いた人」!

 

2・丑三清志郎』

 

「選ばれた……なるほど、これで俺と明石のワンツーフィニッシュで締めるわけか。さすがは神。空気が読めるな」

丑三は妙に納得した顔で頷く。

 

『そして最後!13人目!

 

何度もピンチに陥りながら時には助けられ時には自分で危機を脱し、何度でも返り咲く不死鳥のキング。

 

 

A(エース)・明石靖人!

 

合格者は以上13人!それ以外の人はつまんないから……おしまいだよ!』

 





「あ……え?」
木場は狼狽え、呻く。
最初は、聞き逃したかと思った。しかし、脳内で何回繰り返しても、13人の中に彼の名前が入っていない。

『兵藤一誠』

自分なんかよりも強く、熱く、優しく、凄い男だ。彼に言うと怒るだろうが、彼の前では自分なんて虫も同然だとさえ思えてしまう。それほどに、木場祐斗の中に兵藤一誠は大きい存在だった。

「……あーあ、残念。せっかく生き残ったのになぁ」
それに対し一誠は、残念そうに言う。
「なぁ、木場。お前に頼みたいことがあるんだ」
木場は一誠の方に目を向ける。視界がぼやけているのに気づき、慌てて目を拭う。
「お前と、匙。駒王学園の生徒はお前らだけだ。だからお前らに残りを全部託すよ。

リアスとアーシアと朱乃さんと子猫ちゃんと、ゼノヴィアとギャー助とロスヴァイセさんと、イリナとレイヴェルと、松田と元浜と生徒会メンバーと、それから……まぁ皆だ。死んでいった皆。全員の思いを託すから……


死ぬな。生き残れ」

「……うん、わかった」
声は掠れていた。それでも、どうにか兵藤一誠の耳に届いた様だった。
「あ、あと。できたら、俺がさっき言った太陽の奴らを、俺の代わりに支えてやってくれ。もし国同士で敵味方にならなければ、だけど」
「うん、それも引き受けるよ」
木場の即答に一誠はニコッと笑むと左腕を伸ばしてくる。そこには1枚の写真が。

「俺達はいつまでもお前を見守ってる。ガンバレ」

木場はその写真を、震える手をもう片方の手で抑えて、しっかりと受け取る。
直後。


『それじゃあ今から最後の最後……最終選別(ラストゲーム)!!』
そのマナの言葉と同時に。


兵藤一誠の身体は、この世から消えていった。

木場の身体が宙を浮く。どうやら次のステージに連れて行かれる様だ。木場は上を、前を向く。もう下は振り返らない。


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