神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
「丑三!引け!!」
その指示に丑三は驚きながらも、明石の言う事だ、と従う。と、そこで脇あたりから鈍い痛みを感じた。
「おーおー、マジかよリリィ。そんなもん隠し持ってたとは……勝つ為に手段選ばない系筋肉かよ!?」
明石の変わりに突撃していった天谷の言葉を聞いて、丑三はリリィの手の中に目をやる。
そこにあったのは、短い刃が付いた小型ナイフ。服の中に隠しておけるくらい小さな、それでいて人を突き刺して殺せそうなくらい刃先の尖った折りたたみ式の刃物だった。
明石が、丑三の近くに寄ってきて少し動揺した風に言う。
「丑三!大丈夫か!?心臓とかには当たってなさそうだけど!!」
言われて丑三は気づく。脇腹あたりから血が滲んでいる事を。どうやら、先ほどの殴打の際に隙を突かれて刺されていたらしい。
「ファトマの予知絵は、その通りに行動した奴を殺す『死の予知絵』なんだ!そう教わった!多分俺があそこで天谷に吹っ飛ばされずに突撃してたら、俺もお前も死んでたんだ!」
その言葉に、丑三は天谷への怒りを少し和らげた。本来なら天谷は明石の顔面を傷つけた罪で万死に値するレベルだったが、明石の命を結果的とはいえ助けた、と言うのは国民栄誉賞並みの勲功である。結局、彼の頭の中では天谷は功罪が相殺してイーブン、と言うことになったのだがそれは関係ない。
明石は周りに指令を出しながら、丑三に手を貸す。
「丑三はもう戦えない!だから『死』の予知絵はもう完成しない!!皆、俺を援護してくれ!リリィは俺が倒す!!」
その言葉に沸く星月勢。その一方、明石の手を取り立ち上がった丑三は、しかし困惑顔で明石に話しかける。
「明石?明石?俺はまだ戦えるよ?こんな傷、全然痛くない。むしろ、放って置かれた方が俺には辛い。一緒じゃないなら、俺が明石を守ってリリィを倒すから。だから俺に、明石を守らせてくれ」
「無理して死んだらどうする?丑三。俺はまだお前が必要なんだ!!」
丑三清志郎は、その言葉が最初現実の物とは思えなかった。
「…もう一度、明石」
「俺にはまだ、お前が必要だ!」
「ワンモア明石」
「俺にはお前が必要だ!」
「Once More Please AKASHI!!」
「何回だって言ってやる!
俺にはお前が必要なんだ、丑三清志郎!!」
丑三は思った。もう死んでもいいと。
(ああ、でもまだ死ねないな。明石が俺に生きろって言うんだもの)
幸せに浸っている丑三の目の前に、明石から1枚の紙が突き出された。丑三はその紙を反射で受け取る。
「??明石、これは?」
「丑三、お願いがある!これを、池袋の太陽の本拠地にいるナツメグに届けてくれ!!一生のお願いだ!頼む!!」
「イエッサー、この命に代えても!!」
丑三は歓喜に包まれたまま走り出す。もう、その身体に痛みは感じていなかった。
明石はその背中を見ながら、再び手首のスイッチを回転させて、グローブを光らせる。
「これで死の予知絵は果たされない。リリィ!お前は俺が倒す!!」
その、太陽の国の本拠地、池袋では3人の悪魔がお互いの武器を手にぶつかり合っていた。
「くそ、その右手はエクスカリバー・ミミックの変身かよ!!」
数時間前に奪い取ったはずのゼノヴィアの右手の先がレイピアの様に鋭く長くなったのを見て、イッセーは警戒する。
その背後から、木場が聖魔剣を片手に突撃を仕掛けるが、イッセーはヒラリと最小限の動きで避け、木場の背中に掌底を当てる。
「木場!無駄な行動はしない方が良いぞ!!お前のカウントは残り2だ!」
そう言われて木場は、今の攻撃がただの足止めだけではないと気づいた。
三国ドロケイのルール。兵士である木場は今の攻撃で背中のマークをタッチされた。あと2回背中のマークをタッチされたら、強制的に太陽の国の牢屋へと転送されてしまうのだ!
「お前ら2人を戦闘不能にするのは俺には厳しい。だけど、背中をタッチするくらいならできるぜ!」
イッセーの全身が一瞬光る。恐らく、女王に
イッセーは、木場の方向を見ていた隙にエクスカリバーによる刺突を脳天に当てるべく背後に回って繰り出したゼノヴィアの1撃を首を振って避ける。が、全ては避けきれず、右耳を持っていかれた。しかし、その取られたはずの耳は、すぐに炎とともに修復される。
イッセーの裏拳がゼノヴィアの脇腹にクリーンヒットし、ゼノヴィアは校舎の壁まで吹き飛ばされた。彼女は舌打ちし、デュランダルを空中から召喚する。
「やはり『戯』じゃないとダメみたいだね。できるだけさっきみたいな人体欠損は見たくなかったんだが……仕方がない」
デュランダルによる右腕の損傷を思い出し注意をそちらに向けたイッセーの身体に、木場と
「……僕じゃあイッセー君の身体に傷1つ与えられないみたいだね」
木場は再生したイッセーの身体を見て少し顔をしかめたが、すぐに元の爽やかフェイスへと戻る。
「なら、それ相応の戦い方をさせてもらうよ!
ゼノヴィアさん!」「ああ!!」
木場とゼノヴィアが同時にイッセーに飛びかかる!騎士のスピードでイッセーを翻弄し、その間にゼノヴィアのデュランダルで腕か足あたりを切りとばす作戦!
それに対しイッセーは腕を伸びをする様に大きく上へと伸ばすと、
「どりゃあ!!」
一気にコンクリートに叩きつけ、その反動で飛び上がる!!
今まで彼自身がいた所に標準を合わせ、籠手を水色へと変化させて魔力の散弾を一気に放出する!イッセーの元位置に相当近づいていた2人の騎士は、慌てて後ろへと引いた。
そして、それはイッセーも読んでいた。
「サンダードラゴン!!」
その声を聞き、2匹のドラゴンが地中から現れる。出現場所は、ちょうど木場とゼノヴィアの真下!先ほど地面を叩きつけた時に、イッセーは地中に2匹のドラゴンを創り出し、待機させていたのだ!彼らはドラゴンに体当たりされ、そのまま10mほど上空へと連れ去られる!
「今だ!ドラゴン波!!」
イッセーの左腕から撃たれた魔力が、自身が召喚した1匹のドラゴンを貫く。魔力砲は勢いを殺さずその先にいる悪魔へと突き進み、
その先にいるゼノヴィアの胸を貫通した。
ゼノヴィアの口の先から血が流れ、ビクビクっ!!と2回ほど大きく痙攣すると、空中で動きを制止する。
「…っ!!」
その光景に、攻撃したイッセー自身が息を呑み、目を見開く。
「隙ありだよ、イッセー」
その言葉が耳元で呟かれる。と、同時に。
兵藤一誠の両足の、膝より下が全て持っていかれた。
「やはりイッセーはイッセーだ。敵として戦っていながら、まだ私を味方として見てくれているみたいだね」
イッセーの背後にいたのは、先ほど仕留めたと思っていたゼノヴィア。彼女は右腕のエクスカリバーをイッセーに見せながら言う。
「私はあまりこれまで使って来なかったが、エクスカリバーの能力は
イッセーは思い出す。エクスカリバーは本来7つの能力を持つ事を。
『聖剣事件』の時にゼノヴィアが使っていた、破壊力抜群の『
同じくイリナが使っていた、何にでも形を変化させられる『
ヴァーリ・チームがフェンリルを捕まえる時に使っていた、獣なんかを支配し、従える『
サイラオーグ戦で使っていた、身を透明にできる『
『聖剣事件』でしつこい神父、フリードが好んで使っていた、光の如く動く事ができる様になる『
『聖剣事件』で天使側が唯一手元に残していた、聖水や十字架の効果を増幅させる『
そして、『
その特徴は、相手に幻覚を見せられる事。
「う、あああああああああああ!?!?」
分断されたイッセーの両足が消えていく!ゼノヴィアの『戯』、『デュランダジャラ』の効果だ。そして、その力は不死鳥の能力でも回復できない!!
動きが取れなくなったイッセーの首を、空から降ってきた木場が掴み、
「だああああああああああ!!」
木場祐斗には珍しい雄叫びとともに、降ってきたスピードを殺す事なく。
彼の頭を勢いよく、太陽の国の校舎に衝突させた!
「が……ほ……」
兵藤一誠は、両脚切断の痛みと頭部への衝撃を受け、意識を失う。その身体を、木場が魔力を吸い取るロープの様な剣を創って縛り上げた。
「この戦い、私達の勝ちだ」「リベンジはさせてもらったよ、イッセー君」
そう呟く彼らの心には、しかし勝利の感動など1つもなく。
ただ、虚しさが残るばかりだったーー
悪魔の戦い、決着!!
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!