神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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「…………」
クソッタレ。その1語が頭の中に瞬時に浮かんだ。

カスタム・ボーイは現在、独離腐寺から約300m離れたビルの屋上から、自分が放った一撃の行方を見守っていた。本来ならばC・Bのレーザーは星の国の王ファトマの顔面の右半分を腕ごと持って行くはずだった。

だがしかし、彼の必殺の一撃は周りの人間を葬りつつも最後の最後、ファトマにぶつかる直前に分散し、ファトマの前で消えてしまった。

「ここ……までか……残念……」
C・Bの機械の腕がボロボロと崩れていく。言葉を紡ぐのもだんだんとうまくいかなくなっていた。
C・Bのレーザービームは旧リキイシ自治区の人外の研究の成果だが、もともとはレーザービームではなかった。

かつてC・Bの腹に組み込まれていたのは、1つの巨大爆弾。C・Bの機械部が完全に停止した際に、残った生命エネルギーと爆薬を全て使い、大爆発を起こすというものだった。もしヤブキ共和国軍に捕まった場合、サイボーグ技術を盗まれないように、そして敵国の人間をできる限り巻き込んで死ぬ様に、と改造された時から詰め込まれていた物。彼はそれを仲間達と共に改造し、爆発による威力を1点に集中させ、更にその上に光線掃射装置を被せて別の兵器にしたのだった。

しかし。

その本質は変わらない。

レーザービームに使われるのは、爆弾と同じ量の爆薬。それにより撃った瞬間から機械の腕の崩壊が始まっていた。
そしてもう1つの爆破材は、C・B自身の生命エネルギー。改造した身体だからこそできた、筋肉や血液の移動を組み替えて熱エネルギーを1点に集中させるというシステム。それによりC・Bの身体はもはや使い物にならなかった。
唯一無事で感覚のある頭が地面にぶつかる。しかし、痛みは感じなかった。

何よりも、任務が達成しないまま死ぬのが悔しかった。
リリィ達の役に立てない事が、悔しかった。

「 」
声にならない声を最期に、彼も仲間の元へと誘われる--



第25話---光

明石靖人は、丑三の方を見ていなかった。明石は、丑三清志郎は自分の後をついてくる事が分かっていたからだ。

彼が近づいていくのは、独離腐寺内。もっと言えば、太陽の国のキング、リリィ。

 

明石は先ほどやった様に左手の付け根もグルッと動かす。すると、左腕に付いたグローブも光を放ち始めた。

 

「気づいたんだ。俺の手袋の秘密……キングのアイテムの事」

迫ってくる太陽の国の兵士達の、背中ではない場所を叩く明石。

しかし、触られた者達は背中をタッチされたのと同じ様に転送されていく!ハンナやメルトも、そのルールから外れた光景に驚く!

「キングの役割ってのは、ただ後ろでふんぞり返る事だけじゃない。ましてや、狙われ捕まり処刑されるのをただ待つだけの役割でもない。

キングってのは、先頭に立って皆を引っ張って行く奴の事だ!それはキングの能力にも反映されてる!!

 

どこでも誰でも、1タッチで捕まえられる能力。これが、キングの能力だ!!」

明石は数秒で10数人を捕まえる!それに他の人間も恐怖を抱いたのか、明石の周りから引いていく。明石はそれらを気にせず、ただリリィへと走る!!

「だああああああ、ガッ!?」

明石の首筋に衝撃が走る!

(う、撃たれた!?しまった!!)

太陽の狙撃手による攻撃。明石は動けなくなり地面に倒れ臥す。それを好機とばかりに再び太陽の兵士が群がり始めるが、

 

「なるほどね!確かにすごい能力だけど。私達がいるのも忘れないでよね!」

 

ハンナ・フェリックス。彼女は明石靖人を抱えながら、仲間の頼れるスナイパーに指示を出す。

「メルト!お寺の上にスナイパー2人!向かいのビルにもう1人!!」

「援護は任せろ。全部落とす」

メルトは指示通りに、言われた者全てを打ち抜く!

月の国のメンバーは一丸となり、太陽の国に攻め込んでいく!

 

 

 

その一方、

「……光……圀……?」

丑三清志郎は、背後の状況に驚愕し、動きを止める。ファトマ・カルカヴァンが身体から離れていくが、そんな事は関係なかった。

「……」

光圀は喋らない。その胸に穴が開いていた。中から血がドクドクと溢れている。桃太郎の時の様な全身火傷による見た目だけの傷ではない。確実に致命傷だ、というのが丑三には分かった。

「テメェ、さっきまで良くもやってくれたな!1人やられた今が好機ゃぶら!?」

ここぞとばかりに近づいてきた太陽の兵士を、真田ユキオがパンチで吹き飛ばす。

「空気読めよな、こういう時は」

「……ファトマ、ここは危険だ!逃げるよ!!」「……お兄!」「今はそんなの気にしてる暇無いって!!」

涙声の紫村はファトマを抱え、太陽の国の兵士達とは反対方向に向かって全速力で走る。それを横目で見てファトマの無事を確認してから、丑三は改めて現実に目をやった。

 

「……ちくしょう(ガッデム)、俺はまたお前に守られたのか?お前はまた、俺を、紫村を、他の奴を助けて逝ってしまうのか?」

光圀は喋らない。しかし、その表情が変わった。

 

 

 

笑顔。彼の顔が笑みを浮かべた。

 

 

 

「……!!」

 

丑三清志郎は、観測者だ。散り逝く星の最期の輝きを、ひたすらに眺める観測者。

今、彼の目の前には最高に美しい星が、宇宙誕生(ビックバン)級の光を放っていた。

 

「……」

光圀が口を動かしている。丑三は光圀の上半身を持ち上げて耳を彼の口の近くギリギリまで持っていく。

 

「……行け……明石……助け……倒せ……」

 

そう聞こえた。それを最期に、巴光圀からガクンと全身の力が抜けた。

 

「……わかった(イエッサー)

丑三は光圀を床に寝かせた。そして彼に背を向ける。丑三の視界の中にいるのは、生き続け光り続ける、満月の様に美しい最愛の人。

 

「丑三清志郎は、明石靖人を愛し、助け、守り抜く事をここに誓います」

 

 

 

 

 

 

 

 




「ひいぃぃい!!」
天馬遊は、未だ太陽の国に支配されていたもう1つの管制塔に1人、乗り込んでいた。100mに広がったレーダーが、太陽の国の兵士が塔の周辺50m付近で待ち構えているのを教えてくれたのは、残念ながら管制塔に入った後だった。
(最初に明石さんについて行ったのはいいけど1人だけはぐれるし、せっかく星の国の人達から逃げ切ったと思ったら、今度は太陽の人達と鉢合わせるし!何とか逃げ切って1晩隠れていた廃ビルはボロボロで汚いし!夜が明けてビルから出て行って、目立つ塔に入ったら敵に囲まれるし!運勢最悪です!!)
迷わず行けよ、行けばわかるさ、とは天馬の座右の銘だが、迷わず行った結果がこれではその言葉を恨みたくもなってしまう。

「おっ!アジア系のかわい子ちゃんじゃん!しかも1人だけとか!グローブがなかったら捕まえられないっぽいルールを逆に言えば、グローブがなきゃ転送されないって事だし?グローブ取って可愛がってやるぜ!」
唯一管制塔の内部にいた長身の金髪男は言った通りにグローブを外すと、天馬にジリジリと近づいていく。天馬は出口の方へと目を向けるが、そこにも大量の兵士が群がり始めていた。


と、そこで。彼の耳に巨大な音が響き渡る!

天馬は耳を抑えてうずくまる。金髪男も同様だった。天馬は出口の方に再び目を向ける。外に爆音の音源があるかと思ったからである。

それはすぐに現れた。

黒い龍。それが空から降ってきて、太陽の国の兵士を蹴散らしていく。

天馬と金髪男は、呆然として外を眺めていた。

やがて、太陽の国の兵士達が全員吹き飛ばされると(どうやら皆死んではいないし、手足が奇妙な方向に曲がったりもしていない様だった)、龍は全身から光を放ち始める。天馬は目がやられない様に慌てて顔に手をやった。

「……太陽の国とやら、撃破。それにしても、何だ?この変な塔?」
龍は人間に姿を変えた。天馬達は急展開に頭がついて行かなくなってしまっている。元龍だった男は頭をかきながら、天馬達のいる塔の中へと侵入してきた--



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